「突然の出会い」
バン達がサンドシティに着いたときには、もう夕方になっていた。
リーゼとスペキュラー・フィーネは宿の手配、
バン・ジーク・レイヴン・シャドー・アーバイン・トーマは情報収集に行っていた。
「バン、そっちはどうだ?」
トーマがバンに呼びかける。
「ダメだ、誰も「知らない」、「見てない」ばっかり。本当にこの町に向かったのか?」
「キュイ。(さあね。)」
アーバインとレイヴンもバン達に合流した。
「こっちはダメだ。」
「ったく、どうなってんだよ。いったい。」
アーバインが口をこぼした。すると、バンが、
「もしかしたら・・・」
「何か分かったのか?」
アーバインが尋ねた。
「ほら、この町の近くに森があっただろ。
もしかしたら、そこにゾイドを隠しているのかも。」
「あり得るな。」
「だが、もう暗くなり過ぎている。森の捜索は明日にしよう。」
「グルルル。(そうだね。)」
レイヴンの一言に一同が頷いた。
その時、フィーネ達がこちらに向かって歩いてきた。
「バ〜ン!」
「あっ、フィー・・・。」
バンがそう言いかけたとき、
「フィーネさ〜ん!こっちです。」
トーマが会話に割り込んできた。バンは半分ふてくされながらフィーネに尋ねた。
「で、宿の方はどうだった?」
「それが・・・。」
リーゼがその先を続けた。
「今日は何処も満室なんだってさ。」
「グルル(どうする?)」
「ついてないな。」
レイヴンが言った。
もっとも、彼にとってガーディアンフォースに入ったこと自体不運なのだが。
みんなが考え込んでいると・・・。
「あっ、バンじゃないか!」
聞き慣れた声がしたので、バンは振り返ると、
「あっ、ムンベイじゃないか!」
バン達の前にムンベイが立っていた。
「いやぁ、偶然だね。」
「どうしてこの町に?」
フィーネが尋ねた。
「仕事でちょっとね。ところで・・・何か困り事かい?」
「実はなぁ・・・。」
アーバインが事情を説明した。
「なるほどね、宿がなくて困ってたんだ。
・・・そうだ。あたしこの先の森にキャンプを張ってるんだけど、良かったらどう?」
その言葉にバン達の表情が晴れた。
「ホントにいいのか?」
「構わないよ。ところで・・・そちらさん達は?」
ムンベイはそう言ってレイヴン達を指した。
「ああ、後で説明するよ。」
「それもそうね。」
ムンベイはお気楽にそう言った。
そしてムンベイの行った森に向かおうとした時だった。
「キャアーー!」
後ろから悲鳴が聞こえたので、みんなが振り返った。
そこには、男二人が果物屋の女の子の腕を掴んでいる光景が見えた。
「いいじゃねえか。俺達と遊ぼうぜ。」
「そうそう、きっと楽しいよ。」
「嫌です!放して!」
そんな会話がバン達にも聞こえてきた。
「あんな可愛い子を。許せん。」
「おいおい。トーマ、お前そんな理由で助けるのかよ。」
バンのつっこみに、
「もとい。俺達、ガーディアンフォースの前でこんな事をするとは。」
トーマはそう言い直した。
「まっ、とにかく止めさせないとな。」
バンとトーマは現場に向かおうとした。
その時突然、男の一人が倒れた。
そこには、アーバインよりも1、2歳年上に見える、
サングラスを掛けた黒髪の青年が立っていた。
胸のところに六亡星を象ったペンダントが光っている。
どうやらさっきの男はその青年に殴られたようである。
「ダメじゃないの。女の子相手にそんな乱暴なことをしちゃ。」
明るい声でそう言った。すると、もう一人の男が、
「何だ、てめえは?」
「うわぁ、酒臭ぇな。もうお酒飲んでるの?昼酒は体に悪いぜ。」
「うるせぇ!」
そう言って、男が青年に殴りかかってきた。
だが青年はパンチをかわし、男の腹をめがけて蹴りを入れた。
男は思いっきり吹っ飛び、向かいの店の壁にぶつかった。
「だから言ったろ。体に悪いって。」
その時、倒れていたもう一人の男が立ち上がった。
「てめぇ、よくもやりあがったな。」
青年に殴りかかろうとしたが、
「そこまでだ。」
突然トーマが割って入った。
「誰だ、てめえは!」
「ガーディアンフォースだ。」
トーマがそう言うと、男は青ざめて慌てて逃げようとしたが、
「おい、忘れ物だ。」
青年がそう言って、倒れているもう一人の男を指さした。
男は倒れている男を背負って、とっとと逃げていった。
「あの・・・ありがとうございました。」
女の子が青年とトーマに礼を言った。
トーマはデレデレしていたが、
青年は「気にするな。」と言って森の方に向かっていった。
「おいっ、トーマ。行くぞ!」
バンの一言にトーマは我に返り、森の方に向かっていったバン達の後を追った。
やがて日も落ち、みんなはゾイドをムンベイのグスタフの周りに集結させた。
そして、バンはレイブン達のことや謎の飛行ゾイドのことを説明した。
「ふぅ〜ん。謎のゾイドねぇ。」
「ねぇ、ムンベイは何か知らない?」
フィーネが尋ねたが、ムンベイは首を横に振った。
「ということは、やっぱりこの森に隠されているって考えた方がいいな。」
バンが森を見ながら言った。すると、レイヴンが口を開いた。
「まぁ、それは明日この森を調べれば分かる。それよりも、例の盗賊の事だ。」
「それなら、あたしは知ってるよ。」
ムンベイが声を上げた。
「そいつらはいつも決まった日に襲撃するらしいんだ。
たしか、次は明日の夜あたりじゃないかな。」
「どうしてそんなに知ってるんだ、お前?」
「そんぐらいの情報、運び屋やってればいくらでも入ってくるわよ。」
アーバインの質問にムンベイは答えた。
「とにかく、明日に備えて休もう。」
バンがそう言うと、みんなはそれぞれ、テントに戻っていった。
テントは2つあり女性と男性に別れて眠った。
オーガノイド達もグスタフのキャリアで丸くなって寝た。
「うわぁぁぁー!」
バンの叫び声にみんなが飛び起きた。
「一体どうしたんだ?」
アーバインが寝ぼけた声でバンに呼びかけた。
そのバンは何かを指さしながら絶句している。
そして、アーバインも何かを見て絶句した。やがてみんなが起きてきた。
「まったく、どうしたというんだ。」
「バン、何かあったの?」
「キュイ。(どうかしたの?)」
「騒がしいなぁ。」
「グルルル。(うるさいな。)」
「ふわぁ〜。何があったの?」
「グルル。(眠いよ。)」
「アーバイン?」
トーマ・フィーネ・ジーク・レイヴン・シャドー・リーゼ・スペキュラー・ムンベイが順に、
二人に話しかけた。
そして、二人の目線の先を見た。
「なにあれ!」
「もしかして・・・。」
フィーネ・リーゼが叫んだ。
『オーガノイド!!』
バンが見つけたのは紛れもないオーガノイドだった。
体の色は金とも黄ともいえる色で、背中にはシャドーと同じ羽が付いていた。
そのオーガノイドは丸まって、スヤスヤと寝ていた。
「どうする?こいつ。」
平常を取り戻したバンがみんなに尋ねた。
「オーガノイドがいるって事は、ちゃんとパートナーがいるはずよ。」
リーゼがそう言うと、全員が辺りを見回した。
その時、フィーネがある物を見つけた。
「バン、あれってテントじゃない。それにあの人って・・・。」
アーバインはフィーネの指さすところに、眼帯に付いてるカメラを向けた。
カメラをズームにすると、
「あいつは、あの時の奴じゃないか。」
あの時、果物屋の女の子を救った青年が、
何かを探しながらバン達の方に歩いてきた。
「ったく、あいつは何処に行ったんだ。ちょっと目を離すと・・・んっ?」
バン達に気付いたようだ。
「あっ!いたいた。」
青年は金のオーガノイドに近付くと、足で軽く蹴って起こした。
そのオーガノイドはムクッと起きあがり、バン達をチラリと見ると、
今度は青年の方を申し訳なさそうに見た。
「まったく、あれほどそばを離れるなって言っただろ!」
「キュイ。(ごめん。)」
「そいつはお前のオーガノイドか?」
レイヴンがその青年に向かって言った。
「ああ、「サンダー」って言うんだ。何か迷惑かけちまったみたいだけど・・・。」
「そんなことないよ。」
「そうか。そういえば自己紹介がまだだったな。
俺は「キース・クリエード」。一応、賞金稼ぎを生業にしている。」
「俺はバン。こいつはジーク。」
「キュイ。(よろしく。)」
「私はフィーネ。」
「俺はアーバインだ。
あんたと同じ賞金稼ぎをしてる。」
「あたしはムンベイ。
あたしは運び屋よ。」
「私はトーマ・リヒャルト・シュバルツ大尉だ。」
「レイブンだ。
こいつはシャドー。」
「グルルル(よろしく。)」
「私はリーゼ。
この子はスペキュラー。」
「グルル。(こんにちは。)」
みんなが一通り自己紹介した。
「よろしくな。」
「キュイ。(よろしく。)」
「ところで、このゾイドについて何か知らないか。」
トーマは例のゾイドの写真を見せた。すると、
「なんだ、こいつを捜しに来たのか。
ちょっと待ってな。」
キースはそう言って、自分のテントの方に戻っていった。
そして、テントの脇に行き、何かの機械を操作すると、突然森の一部が消え始めた。
「光学迷彩か。」
バンが呟いた。やがて例のゾイドが姿を現した。
「こいつは・・・一体・・・。」
アーバインが呟いた。そして、キースがゆっくり話し始めた。
「こいつは「サイクロンブレイダー」。
ストームソーダーがサンダーの力で進化したものだ。
翼のソードがブレードになり、マシンガンもパルスレーザーになって攻撃力がアップ。
スピードも背中のエンジンポッドの他に、
足に付いている補助ブースターでマッハ3.7まで出せる。
それに頭のソードがE.シールドジェネレーターになって、シールドもはれる。
まさに最高のゾイドさ。」
キースがふと見るとレイヴン以外、口を開けてじっとサイクロンブレイダーを見ていた。
そしてバンが、
「でもストームソーダーって野良ゾイドはいないはずだぜ。どうやって手に入れたんだ?」
「それは、これを見れば分かると思うぜ。」
キースはポケットから出した手帳を、バンに手渡した。
バンが見ると古い身分証明書が入っていた。
「なになに・・・共和国軍空軍第3編隊隊長キース・クリエード中佐・・・中佐だったのか。」
「まあな。
軍に14年いて一気に中佐まで上り詰めた。
周りはあまりにも早く出世するもんだから、かなり驚いていたがな。
でも中佐になったのが、戦争が終わってからしばらく後だった。
それでだんだんとつまんなくなってきてな、もう2年も前に止めたんだ。
今まで乗っていたストームソーダーをもらってな。
そして、偶然迷い込んだ遺跡でサンダーを見つけた。」
キースは話しながらサンダーの首をなでた。
「そうか。まっ、これで仕事が1つ片付いたな。」
「後は盗賊ね。」
「キュイ。(そうだね。)」
バン・フィーネ・ジークがそう言った。
「俺も盗賊の賞金目当てでここに来たんだけど。
・・・そうだ。なあ、盗賊退治に協力しくれないか?
俺のつかんだ情報だと、
奴らはヘルキャットが15体、ガイサックが10体にレドラーまで持っている。
そこで俺がレドラーを片づけてやるから、お前らが残りをやるってのはどうだ?」
「別にいいけど。」
バンがキースの申し出を受け入れた。
「で、俺との取り分は?」
アーバインが聞いた。
「分け前は山分けでいいだろ?」
「そうだな。」
その時、ムンベイが二人の会話に口を挟んだ。
「面白そうね、私も混ぜてよ。」
「ダメだ。お前じゃ足手まといになるだけだ。」
と、アーバイン。
「なによ、ケチ!」
「お前にだけは言われたくないな!この金の亡者!」
「何ですって!」
とうとう喧嘩を始めてしまった二人。
「俺達は飯にしよう。」
「そうだな。」
バンとレイヴンはとっとと、言ってしまった。
「おい、止めなくていいのかよ。」
「いいのよ、いつものことだから。すぐに収まるわ。」
フィーネはキースの問いに答えると、リーゼを連れてバン達の後を追った。
4匹のオーガノイドも一緒に。
「やれやれ。」
キースもそう言って、まだ言い合っている二人を横目に朝食を食べに行った。