「静かなる幕開け」

 

 ここは帝国軍の兵器開発工場。

「Dr.ディ。開発の方はどうです?」

「おお、シュバルツか。開発は順調に進んどる。
何も問題もないわい。」

この日、カール・リヒテン・シュバルツ大佐がゾイドの開発状況を視察に来ていた。
開発の責任者はDr.ディ。

「あ、そうだ。2体ほど出来上がっているが、どうだ?」

「そうですね、折角ですから見せてもらいましょう。」

シュバルツはディと共にゾイドの保管庫に向かった。

 

「これが・・・そうですか。」

シュバルツがゾイドを見上げながら言った。
その表情は驚きと感動が入り交じっている。
そこにはライトニングサイクスを改良した機体が2体並んでいた。

「そう、ライトニングサイクスSBC(スペシャルブースターカスタム)。
特殊ブースターを両足の脇に着け、スタピライザーを6つに増やし、
機動力が格段にアップした。
まさに、最高速ゾイドだ。」

「確かに。・・・で、テストは済んだのですか?」

「とりあえず済んだのだが・・・。」

ディはそこで言葉を止めた。

「何か問題でも?」

「実はテストはアーバインの奴に頼んで済んだのだが、
他に乗りこなせるものがおらんのだよ。」

「なるほど。このままじゃ宝の持ち腐れもいいところですね。」

シュバルツがきついことをサラッと言うので、
ディはいつもの調子をすっかり失ってしまった。

「おっと、忘れるところだった。
SSS(ストームソーダー・ステルスタイプ)は2体とも整備が終わっているから、
早いとこ引き取ってくれ。」

何とか調子を戻して話すディ。

「ええ、では明朝にでも。」

シュバルツはそう言うと、二人は休憩室へと歩き始めた。
だが、二人の会話を作業デッキで聞いているものがいた。

「さらに速度を上げたライトニングサイクスに、SSSか。
こいつは楽しみだ。」

作業員、いや作業員の格好をした男が、不気味な笑みをこぼしていた。

 

 その頃、バン達は、

「フィーネ、ここがそうか?」

「うん、ここがウィーグタウン。この町で今日は休むわ。」

「あ〜あっ、何か疲れちゃったな。」

「一人乗りのコックピットなのに、
二人座った状態で操縦している俺の方が疲れたぞ。」

かなり不機嫌なレイヴンをなんとか宥め、
町のはずれにゾイドを置いた4人と3匹はこの町のホテルに向かった。
その途中、

「よう、バンじゃねえか?」

自分の名前を呼ばれて、バンが振り向くと、

「アーバイン!」

「どうしたの?こんな所で。」

「な〜に、ディじいさんに呼ばれて、ちょいとそこの開発工場にな。」

フィーネの質問に簡単に答えるアーバイン。
そして結局、一緒に宿に泊まることになった。

「で、お前らは何でここに?
また仕事か?」

宿で飯を食べながらアーバインはバン達に質問を返す。

「俺達はシュバルツに呼ばれてな。
『何か見せたいものがあるから来い』だと。」

「一体何を見せるんだか。」

レイヴンがスープをすすりながら、アーバインに言った。
どうやら、機嫌は直ったらしい。

「まあ、だいたい見当はつくがな。」

「何か知ってるの?」

コーヒーを飲むアーバインにフィーネが聞くと、

「そいつは行ってみれば分かるさ。」

と軽く答える。

「いいじゃねえかよ、教えてくれたって。ケチ!」

バンが悪態ついても、アーバインは無視してスープをすすっている。
バンは食事を平らげ、機嫌悪そうに何処かへと向かった。
その様子は、さっきのレイヴン以上だったという。

「あ〜あっ、ふてくれちゃった。
どうすんのよ、機嫌直すの大変なんだから。」

「ったく、わかったよ。謝りゃいいんだろ、謝りゃ。」

フィーネに責められ、仕方無しにバンの後を追うアーバイン。
その後、レイヴンも席を立った。

「レイヴン、どうしたの?」

リーゼが訳を聞くと、

「ちょっとな。」

とだけ言って、何処かへ行ってしまった。

「どうしたのかな?」

「たぶんバン達のところじゃない。」

「そうかも。彼って案外優しいとこがあるから。」

微笑んでいるリーゼを見て、フィーネは、

「さてと、私は散歩にでも行こうかな。」

と言って席を立った。

「僕も行くよ。」

リーゼも後を追った。

 

 その頃バンは宿屋の屋上で一面の星空を見ていた。

「こんな所にいたのか。」

ふと、振り返るとそこにはアーバインとレイヴンがいた。

「何しに来たんだよ。」

バンは怒った口調でそう言う。

「とりあえず謝りにな。
フィーネが行けってうるさくって。」

「まだふてくされてるのか?」

アーバインとレイヴンはそれぞれバンの横に座った。

「別にふてくされてなんか・・・。」

「それが『ふてくされてる』っていうんだ。」

「そういうお前こそ、さっきまで機嫌悪かったじゃないか。」

バンの言葉にレイヴンは黙り込んでしまった。
するとそれに見かねてアーバインが口を開いた。

「やれやれ、どっちもまだ子供だな。
彼女たちに笑われるぞ。」

アーバインの「彼女」という言葉に、二人は顔を真っ赤にした。

「そういうお前は大切な人はいるのか。」

レイヴンが聞くとアーバインは静かに答えた。

「まあな。ただ、もうこの世にはいない。
『いた』って言った方が近いかな。」

アーバインの顔が曇る。
彼の頭の中にある人物の顔が思い浮かんでいた。
幼くして病気で死んだ自分の妹エレナ、
唯一心を許した女性キャロル。
その二人が彼にとっての『大切な人』であった。

「すまない、悪いことを聞いたな。」

「いいって、もう気にしちゃいない。
いつまでも気にしてても、何かが始まる訳じゃない。
ただ、いつまでも忘れずにいてやればいいのさ。
それに・・・。」

「それに?」

「いや、なんでもねえよ。」

少し微笑んで話すアーバイン。
するとバンが彼に言った。

「たまには格好いいこと言うんだな。」

「『たまには』って何だよ。
まあ、これはキースの奴が言ってた事だけどな。」

「キースに会ったのか?」

「ああ、昨日賞金を受け取りに行った時に。
墓参りにいった後だったから暗い顔をしてたんだ。
そしたら、そう言ってきた。」

「あいつもそんな思いをしたことがあったのかな。」

ふとレイブンが呟く。
そして彼が横を見ると、バンとアーバインがにやにやしながらこちらを見ていた。

「な、何笑ってるんだ。」

「いや何、お前が他人の心配だなんて。」

「べ、別に心配なんてしてない。
ただ、ふっと疑問に思っただけだ。」

「まあ、いいけど。
さてと、もう部屋に戻るか。」

「そうだな。」

二人はそう言って自分たちの部屋へと向かった。

「結構簡単に機嫌が直ったな。
やっぱり単純だな、あいつは。」

そう呟くと、アーバインも部屋へと向かった。

 

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