「闇夜の襲来」
兵器開発工場に着いた5人と3匹。
空爆があったらしく、所々に煙が上がっている。
「酷い有様だな。」
「ああ。」
ゾイドを停め、半壊状態の工場の中をバン達は進んだ。
「Dr.デイは大丈夫かしら。」
「あのじいさんがそう簡単にくたばる訳ねぇだろ。」
「それにシュバルツも一緒みたいだしな。」
「キュイ。(そうそう。)」
フィーネの不安を掻き消すかのようにアーバインとバン、ジークが話しかける。
すると、
「フィーネさ〜ん!」
後ろからそんな呼び声が聞こえた。
最初にフィーネを呼ぶのだから、この人しかいないだろう。
「なんだ、トーマか。」
笑い顔で駆け寄ったトーマだが、そのバンの一言で顔が豹変した。
「『なんだ』とはなんだ。俺だって任務で来てるんだ。」
「さっきのが任務で来た奴の顔かよ。」
バンがさっきのデレェ〜とした顔を思い浮かべながらそう反論する。
だが、それがかえってトーマに火を付けてしまった。
「え〜い、うるさい、うるさい。
だいたい貴様は・・・。」
そんなこと言ってる場合じゃないだろう、
みんながそんなことを思っているとは露知らず、
バンに向かって文句を言い続けるトーマ。
「まったく、付き合いきれん。行くぞ。」
「グルルル。(は〜い。)」
結局レイヴン達はバンとトーマをそこに残して、とっとと行ってしまった。
さらに奥に進むと、倉庫(正しくは倉庫だった所)に2人の人影か見えた。
Dr.ディとシュバルツ大佐だ。
「2人とも無事のようね。」
フィーネが2人の怪我を確認する。
「まあな、おかげでとんでもない目にあったわい。
ところで・・・バンはどうした?」
「あんたの弟の小言に付き合ってるよ。
まあ、そのうち来るだろう。」
「やれやれ。」
アーバインがさらりと言った事に、シュバルツはため息をつきながらそう言った。
毎度のことなので、みんなはもう気にならないようだ。
「で、一体何があったんだ?
ただゾイドを奪われたにしちゃあ、かなりこっぴどくやられているようだが。」
「それがのう・・・。」
ディが何かを言いかけた時だった。
「みんなお待たせ!」
「バン!」
バンが肩で息をしながら、やっと駆けつけてきた。
「おっ、もう済んだのか。」
「いや、『俺の方が年上なんだからもうちょっと尊敬しろ』とか、
色々うるさかったから撒いてきた。
今頃、外で調べ物でもしてると思うぜ。」
「まあバンも来た事だし、話の続きでもするかのう。」
ディが詳しく事情を話し始めた。
「実はつい2時間前、突然空襲を受けたんじゃ。
色々調べてみて、ブラックレドラーの爆撃弾と分かった。」
ディの言葉の後をシュバルツが続ける。
「私もすぐにセイバータイガーで出陣したのだが、
もう時すでに遅く、撤退した後だった。
その直後に、ここで爆発が起こったんだ。
駆けつけたら、ここに置いてあった・・・。」
「ライトニングサイクスとストームソーダーを盗まれていたという訳か。」
シュバルツの後をレイヴンがそのまま続けた。
彼の言葉にシュバルツとディは頷く。
「そして、SSSの空爆を受け、この様になったという訳ですか。」
後ろから声がしたので、バン達が振り向いてみると、
「あっ、トーマ。」
トーマが怒った表情で入り口に立っていた。
「バン、貴様!よくも俺を撒いてくれたな!」
「シュバルツ大尉。」
シュバルツ大佐のこの一言で、トーマはピタッと黙り込んだ。
さすがだなぁとみんな感心したとか。
そして、話は続けられた。
「何か似てるわね。レッドリバー基地の時と。」
「そうだな。」
バンとフィーネはヒルツと戦っていた時に起こった、
SSS強奪事件のことを思い出していた。
その時はバン達とアーラバローネの活躍により、事件は解決したが。
「違う点はSSSにコマンドオプションが付いているっていう事と、
ライトニングサイクスの改良型が一緒だという事だ。」
アーバインの言葉にそこにいる全員の表情が引き締まった。
「そして、・・・信じられないと思うが。」
シュバルツが重々しく口を開いた。
「レドラーで追撃に出た兵士の話によると、
・・・赤いオーガノイドを見たというのだ。」
「なんだって!!」
シュバルツのその言葉にリーゼが叫んだ。
「まさか・・・アンビエント!?」
「そんなバカな!
アンビエントはデススティンガーのゾイドコアに取り込まれたはずだ!」
フィーネとバンがそれぞれ言う。
流石にみんな、驚きを隠せない。
確かにアンビエントはその主、ヒルツと共にデススティンガーと一体になり、
ヒルツの野望でプロイツェンを犠牲にし、デスザウラーと同化した。
そのデスザウラーをバンが倒したのは1年以上前の話である。
そして、もしアンビエントが生きているのならば、
これ以上にもない驚異となることは明らかだ。
オーガノイドとしての能力は最上級なのだから。
「私も最初信じられなかったが、特徴を聞く限りでは・・・。」
沈黙が続いたが、口を開いたのはレイヴンだった。
「とにかくこの目で確かめるしかなさそうだな。」
「レイヴン・・・。」
心配そうな顔をして自分のことを見ているリーゼに、レイヴンが優しく声を掛ける。
「大丈夫だ、俺がいる。それだけで・・・いいだろ。」
「うん。」
いい雰囲気の2人に、
「何か暑くなってきたなぁ。」
「そうだな、何でだろうな。」
と、わざとらしく言うアーバインとシュバルツ。
すかさず冷やかしをいれるのがアーバインの性格で、
それに拍車を掛けるのがシュバルツの性格である。
「お前らなぁ〜。」
「まあまあ。」
「冗談だから怒るなって。」
3人がそんなやりとりをしている時だった。
「シュバルツ大佐!!」
突然兵士がバン達がいるところに駆けつけてきた。
そのおかげで和んでいた空気に一瞬にして緊張が走った。
「どうした!」
「それが、妙な通信が入ってきて・・・。」
「妙な通信?」
バンが不思議そうに聞く。
「はい、女の声で『ガーディアンフォースを出せ』と。」
フィーネとリーゼが何か思い当たったらしく、兵士に問い質した。
「その通信、今も繋がってるの?」
「ええ、メインルームで今もまだ・・・。」
彼女たちはそれを聞くと、突然走り出した。
「おいおい、フィーネ。一体どうしたんだ。」
「とにかく追いかけるぞ。」
レイヴンの一言でバン達も追いかけることに。
バン達が2人を見つけたのは、案の定、メインルームにいた。
そこで何やら機械を操作している。
「何やってんだ?」
バンが問いかけると、
「ちょっと待って。今モニターに出すから。」
少しの間、機械を操作していると、
今までノイズが映っていたモニターに女性の顔が映し出された。
「やっぱりあなたね、・・・リリス。」
そう、彼らに通信を送っていたのは、緑のオーガノイド使い、リリスだった。
『よく分かったわね、さすがはガーディアンフォースというところね。』
「それで、用件は一体・・・?」
モニターを睨み付けながらフィーネが尋ねる。
そんな彼女と対照的に、リリスはケラケラ笑いながら話し始めた。
『そんなに怖い顔をしないでよ。
・・・まあ、いいわ、用件を言いましょう。
今、何処から話していると思う?・・・ストームソーダーの中よ。』
「やっぱり、お前の仲間がこの工場を・・・。」
怒りを顕わにしているバン。
その証拠に肩が震えている。
「なぜ、こんな事を。」
『言ったはずよ、ガーディアンフォースには死んでもらうって。
私たちの計画の邪魔になりかねないから。』
先程とはうって変わって口調が冷酷になる。
そして、
『明日の晩にでもそちらの工場にお邪魔するわ。
せいぜい私たちを楽しませてちょうだい。』
そこで通信は終了した。
「バン、さっきの女は?」
バン達はさっきウィーグタウンで起きたことを一部始終シュバルツ達に説明した。
「緑のオーガノイドか・・・。」
「さっきはアーバインのおかげで何とか退けたけど・・・。」
フィーネが不安そうな顔をして言う。
「今度はライトニングサイクスにストームソーダーが2体ずつか。」
「かなり厄介だな。」
「なんにしても、少しはまともなゲームが出来そうだな。」
上からバン、トーマ、レイヴンの順。
「シュバルツ大尉、共和国のハーマン大佐に連絡を。
工場がこの状態だからな、少しでも応援が欲しい。」
「分かりました。」
こうして彼らはリリス達の襲撃に備える事となった。