やがて朝になり、ハーマン達の部隊を運んできたホエールキングが到着した。
だが、部隊といっても・・・、
「共和国の大佐とあろうお方が、何をやってんだか?」
アーバインが「情けない」と言わんばかりに、ハーマンに話しかける。
「仕方がないだろ。
共和国どころかエウロペ大陸全体が今だ復興中で、
ゾイドのほとんどが出払っているのだ。」
「それでも来てやったんだ。少しは感謝してもらいたいものだな。」
ハーマンとオコーネルがそれぞれ反論。
実はハーマンがよこしたゾイドは、
ガトリング砲付きプテラス3機、カノントータスが5体といった、本当に少ない数であった。
「ライトニングサイクスは俺達が何とかするとして、ストームソーダーはどうするんだよ。」
「またあの2人に頼む?」
バンの質問にあっさりと答えるフィーネ。
あの2人とはもちろんアーラバローネである。
もっとも、最近3人になったという噂が・・・。
「仕方あるまい。
私もセイバータイガーで出るから、
この際少しでも空の戦力を補いたい。」
シュバルツの一言であっさり可決(?)。
だが、一同の不安はまだ残る。
なんせオーガノイドが関わっているのだから。
すると、ハーマンが口を開いた。
「まあ、ストームソーダーを1機も持ってこれなかったのは俺のミスだ。
何とかしてみせるさ。」
「何とかするって、どうするんだよ?」
「俺に考えがある。任せておけ。」
「キュイ。(なんか不安。)」
バンの疑問に、ハーマンが自信満々に答える。
希望が見えたのか、ジークの言うとおり不安がさらにのしかかったのか、
いまいち分からずにいた一同だった。
「そういやディのじいさんは何処に行ったんだ?」
アーバインがふとした疑問を投げかける。
ディが先程からいないのだ。
すると、
「いやいや、待たせたな。」
噂の人がみんなのいる司令室へと入ってきた。
実はこの工場、軍の予算削減で基地と一体になっているのだ。
「じいさん、何処行ってたんだよ。」
「な〜に、ちょっと助っ人を呼びにな。」
『助っ人?』
ディの一言に一同は嫌な予感を感じた。
そして数分後、1人の人物が司令室へと入ってきた。
「み・ん・な、久しぶり〜!」
お気楽な声と共に入ってきたのは、
「やっぱりお前か、・・・ムンベイ。」
「何よ、アーバイン、文句ある。」
「いや、ただがめついのが来たなって・・・。」
「がめついってあんただけには言われたく無いわね!」
「なんだと!」
早速始まった夫婦漫才に、みんなは「いつも通りの光景だな」と少し呆れている。
『何が夫婦漫才だ〜!』
こっちの書いていることに、2人揃って口出ししないで下さい。
「じいさん、何でムンベイを呼んだんだ?」
「そんな深い意味はない。ただプテラスに乗る者が他にいなかったからのう。
それに、どうせだったら女の子の方がいいだろう。はっははははは。」
そう言ってのんきに高笑いをするディと、
それを後目にまだケンカを続けている2人と、
それらを見てため息をつく6人がそこにいた。
そして、その現場にいないのが約2名。
レイヴンとリーゼだ。彼らは屋上にいた。
彼の方は空を見ている。
「どうした、リーゼ。」
彼女がずっと下を向いたままなので、レイヴンが問いかける。
「不安なんだ。もしアンビエントと共にヒルツまで生きていて、
それで、僕たちに復讐をしようとしていたら・・・。」
「グルル。(リーゼ・・・。)」
スペキュラーが心配そうに声を掛ける。
「もしヒルツが生きていたら、今度こそ息の根を止めればいい。
絶対に奴の好きにはさせない。」
「君がうらやましいよ。心も体も強くって・・・。」
「俺だって不安だ。
けど、そればっかり気にしてても始まらない。
前に進まないとな。」
「レイヴン・・・。」
(最初にあった時とは別人みたい)
そうリーゼは彼の顔を見ながら思った。
やがて夜が来た。
プテラスにハーマン、オコーネル、ムンベイが乗り、
バン達もそれぞれ自分のゾイドに乗って待機していた。
カノントータスにはハーマンが連れてきた共和国軍兵士が乗っている。
フィーネとリーゼ、Dr.ディは司令室で後方支援。
「フィーネ、全員の準備は?」
「ほとんど完了しているわ。後はアーラバローネが来れば完璧なんだけど。」
「あの2人は敵が出てこないと現れないと思うぜ。」
「それもそうか。」
バンとフィーネが仲良く話している。
「そういや、ハーマン。さっき通信機で話していたみたいだけど、誰か呼ぶのか?」
「なに、すぐに分かるさ。」
アーバインがハーマンに聞くが、軽くかわされてしまった。
(一体何がくるんだか)
そう思いながらも、大切な相棒の調子を確かめている。
「ライトニングサイクスか。かなり楽しめそうだな、シャドー。」
「グルルル。(腕が鳴るよ。)」
「レイヴン、張り切るのはいいけど、無理しないでね。」
「グルル。(シャドーも。)」
「分かってるよ。」/「ギュルルル。(はいはい。)」
とリーゼとスペキュラーの注意に、同時に答えるレイヴンとシャドー。
だが、「心配してくれる人がいるのも悪くない」と彼らは思った。
「シュバルツ大尉、援護射撃の準備は?」
「我がディバイソン、及びカノントータス隊、全て準備が整っています。」
「了解。」
トーマとシュバルツは本当に兄弟かという会話をしている。
「今度は落ちないでよ、大尉さん。」
「言われなくても分かってる。・・・ったく、なんであんな奴に・・・。」
「んっ、何か言った?」
「いや、別に。」
プテラスの中でオコーネルがムンベイに嫌みを言われている。
ブツブツ独り言のように文句を言っても、彼女の耳には届いていた。
そんな彼らの会話を聞いて、1人苦笑しているハーマンであった。
そして、フィーネが突如叫んだ。
「レーダーに反応!16ポイントから高速で接近中の物体!」
「このスピードは・・・、間違いない、ライトニングサイクスじゃな。」
ディも確認する。
レーダーには確かに2つの影が映っていた。
「行くぜ、みんな!」
『おう!』
バンのかけ声と共に陸戦ゾイドが全部走り出した。
ディバイソンとカノントータスを残して。
そしてそれが戦闘の合図となった。
「行くぜ、相棒!」
まず先陣を切ったのはアーバイン。
パルスレーザーを撃つが、流石に相手もライトニングサイクス、
残像を残してかわされてしまった。
そして、アーバインのサイクスの横をすり抜けていった。
慌ててアーバインも反転する。
「ちっ。行ったぞ、バン!」
軽く舌打ちをして、バンに合図を送る。
その後、自分も後を追った。
「トーマ、後方支援、頼むぜ!」
「任せろ!メガロマックス、ファイヤー!!」
カノントータスの長距離射撃と共にディバイソンがメガロマックスをぶっ放した。
それらはすぐにジャンプで避けられたが、バンが狙ってたのはこの瞬間であった。
「行くぜジーク、ブレードアタックだ!」
ライトニングサイクスが着地したところに、
煙の中から現れたブレードライガーのブレードが迫ってきた。
流石に避けきれず、足の付け根のところを切り裂かれた。
そこにシュバルツのセイバーが砲撃、1体は崩れ落ちた。
「レイヴン、そっちに残りが行ったぞ!」
「分かっている。シャドー、一気に決めるぞ。」
ジェノブレイカーが足をフットロックで固定した。
これは荷電粒子砲を使うことを意味している。
「喰らえ!」
ライトニングサイクスが現れたところに荷電粒子砲を発射した。
だが、サイクスは急ブレーキをかけ、反転した後、
背中のブースターを点火してさっきとは反対の方向に走りだした。
その為、荷電粒子砲は空振りに終わってしまった。
だが、それは無駄にはならなかった。
なぜなら、
「やっと追いついた。感謝するぜ、レイヴン。
足止めしていてくれてな。」
「俺は仕留めるつもりだったんだがな。」
アーバインのサイクスが駆けつけてきた。
こうして新旧のライトニングサイクス同士の決闘となった。
その5分後、管制塔では別のゾイドを探知した為、リーゼがハーマン達に報告した。
「レーダーに反応。さっきと同じ方向から飛行ゾイドが。」
『ストームソーダーか。』
「いや、もっと小型のもの。数およそ10、ブラックレドラーです。」
オコーネルの問いにフィーネが答える。
『ストームソーダーの反応は?』
「いや、ない。おそらくステルスのせいじゃろう。
ロブ、編隊の先頭にいるかもしれん。注意するんじゃ。」
『了解。オコーネル、ムンベイ、発進するぞ。』
ハーマンとディの会話が終わり、プテラスが出撃した。
「シュバルツ大尉、派手に花火を打ち上げてくれ!」
「了解!」
ハーマンの合図で、トーマはディバイソンの顔の横にあるミサイルポッドから、
数発のミサイルを発射する。
やがて、ミサイルは上空で爆発し、激しい光が空を照らした。
彼は閃光弾を打ち上げたのだ。
「見えた!」
ムンベイが叫んだ。彼女の目線の先にはブラックレドラーが十数機、そして、
「ストームソーダー・ステルスタイプ、2機とも確認!」
オコーネルが声を上げる。
その頃、ストームソーダーのコックピットではリリスと誰かが話をしていた。
「少しは考えたようね。」
「油断するなよ、リリス。」
「分かってるわよ。ワイバード!」
リリスが声を上げると、ストームソーダーのゾイドコアが活性化した。
「砲撃開始!」
ハーマンの声でプテラスが一斉にガトリング砲を撃つ。
しかし、いとも簡単にかわされてしまい、すぐにレドラーに反撃されてしまう。
「うわぁ!」
「くっ!」
ムンベイ達が叫びながらも必死に弾を避ける。
「数が違いすぎます。」
「ちょっと弱音を吐いてる暇があったら、とっとと撃ってよ!」
「うるさい!」
「何よ!」
とうとう喧嘩を始めてしまった2人。
『喧嘩をするとは、ずいぶん余裕だな。』
その声と共に2機のストームソーダーが現れた。
「天定まって、またよく人に勝つ!」
「我ら平和の使者、漆黒の闇を切り裂く翼の男爵、アーラバローネ!」
「誇り高き嵐の刃、ストームソーダーを恐れぬならば、かかってくるがよい!」
お決まりのセリフで現れたアーラバローネ。
やっぱり3人で来たみたいだ。
「よく皇帝陛下を連れてくるよなぁ。」
バンがそんな風にぼやいていた。
ロイヤル仮面と名乗っていても、正体が分かっているのが現状である。
そんなバンのぼやきを知ってか知らずか、
ストームソーダーはソードを出し、敵の編隊に突っ込んでいった。