「シュバルツの名」

 

「ウオォォォォ、メガロマックス、ファイヤー!!」

その叫び声と共に、静かだった森の一部が閃光に包まれ、爆煙が上がった。
そこにはコンバットシステムがフリーズしているヘルディガンナーが4機と
先程メガロマックスを放ったと見られるトーマのディバイソンの姿が。

「トーマの奴、えらく張り切ってるな。」

「本当にな。」

ディバイソンの後ろにいるブレードライガーとライトニングサイクスの中で、
バンとアーバインがその光景を見ながらそんな会話をしている。
アーバインの場合、ちゃんと仕事をしないと報酬がもらえないので、
せいぜい1機ぐらいは残して置いてもらいたかったのだが。

「これで3回目だぜ、あいつの突っ走りは。」

「いつもは、『チームワークが大切!!』なんて言ってるのに。
何かあったのかしら?」

ライガーの後部座席で通信を終えたフィーネが彼らの会話に加わる。

「さぁな。皆目見当もつかねぇ。」

アーバインが肩を竦めてそう答える。
すると、

『バン、そっちにセイバーが行ったぞ。
そいつが盗賊のボスみたいだぜ。』

「了解。」

別行動を取っていたキースから通信が入った。
ちなみに彼はレイヴン達と共にその盗賊のアジトを捜索中。
通信が終わり、盗賊のボスを迎え撃とうとしていると、

「セイバータイガーごときなら俺1人で十分だ!」

と言って、トーマがディバイソンを森に走らせる。

「おい、トーマ!」

「またかよ〜。」

その場には、バン達の呆れた声だけが響いていた。

 

 基地のカフェテリアで、

「トーマ、一体どうしたんだ?」

バンが砂糖とミルクたっぷりのコーヒーを飲みながら話している。

「おかげで仕事が無くなったぜ。
キース、賞金首のリストを見せてくれ。」

「ああ、ほらよ。」

アーバインもブラックコーヒーを飲みながら愚痴っている。
キースからリストを半分もらい、すぐさま検索を開始。

「なんか、らしくなくなってるぜ、あいつ。
先走りが最近目立ってるし・・・。」

「何だか、昔のお前みたいだな。」

「そうだな・・・って、どういうことだよ、アーバイン!!」

彼にそんな事を言われたので、バンは思わず声を荒上げる。
フィーネは塩入りコーヒーを飲みながら、クスクス笑っていた。

「言葉通りだ。・・・まったく、しけた輩バッカリだな。」

リストに粗方目を通したが、賞金に不満があるらしく、
またも愚痴を漏らすアーバイン。
すると、

「しけた輩のやつしか渡してないからな〜。」

と、キースがブラックコーヒーを飲みながらケラケラ笑う。

「お前な、そっちも見せろよ。」

「イ・ヤ・だ。
こっちだって報酬が入らなくて困ってるんだからな。
・・・と言っても、こっちもしけてるもんばかりだけど。」

そういって、リストをテーブルの上に放り出すと、
「ブレイダーの整備でもしてくる。」と言って、
サンダーと共にその場を後にした。

「なぁ、俺が思うに、
トーマの奴、レイヴンが言ってたみたいに彼女でも出来たのかもな。」

「そうか〜、あいつ、女っ気なさそうぜ。
シュバルツ大佐に何か言われたんじゃないのか?」

「いえ、違うわね。」

ピシャッと言ってみせたのはフィーネ。
彼女の予想外の一言に顔を見合わせるバンとアーバイン。

「じゃあ、何だって言うんだよ。」

「きっと、ビークを改良したから試したかったのよ。
トーマさん、もしかしたらマッドサイエンテストの血に目覚めちゃって・・・。」

呆れた目で彼女のことを見る2人。
そして、

「今の言葉を昔のトーマが聞いたら・・・。」

「絶対にショックから立ち直れなくなるな。」

とため息混じりに呟いた。

 

 その頃、屋上ではポツンと1人佇んでいる人物がいた。
リーゼである。
隣ではスペキュラーが主人をジッと見つめている。

「ニコル・・・、僕だけ幸せになって・・・いいのかなぁ・・・?」

「グルル。(リーゼ・・・。)」

ため息混じりにそう言う。
ただ、先程のバン達とは違い、かなり重々しいものであるが。
そして、目の前に広がっている景色に目を移す。

「悩み事か?」

突然後ろから声が聞こえたので、彼女はゆっくりと振り返ってみる。
すると、キースがすぐ目の前にまで近付いていた。
その後ろにはサンダーの姿も。
それには彼女も目を見開く。

「い、いつの間に・・・?」

「かれこれ10秒前ぐらいかな。ふふふ・・・。」

「変だな、前だったらすぐに気付いたのに。」

「平和ボケしたんじゃねぇのか?
彼氏とずっと一緒にいて。」

キースが冷やかすように言ってみるが、
リーゼの反応は薄かった。
仕方無しに話を元に戻す。

「ねぇ、あんたは軍人だったんでしょう?
だったら、11年前、ノーデンスの村で起こった事、知らない?」

「11年前、ノーデンスか・・・。」

キースが記憶の糸を手繰り寄せる。

「俺が軍に入って、2年目の頃だな。
その時に親父から聞いた話なんだが、
当時、共和国と帝国が対立してたのは知っているだろう。」

コクリと頷くリーゼ。
それぐらいの事はヒルツに聞かされていた。
彼女の行動を見て、話を続ける。

「そんな状況だから、
帝国領にあるノーデンスの村の情報は一切入ってこなかった。
そんな時、ニューヘリックシティにある酒場で、
ある賞金稼ぎの男がこんな事を言いふらした。
『帝国領のある村に古びた遺跡があって、
そこから古代ゾイド人の少女とオーガノイドが発見された』と。
その時はその男の戯言だと思って、誰も相手にしなかった。
だが、その情報に目を付けた共和国軍の将校がいたんだ。
その将校は出世欲が強く、その情報が正しければ、
自分は軍のトップクラスに仲間入りできると思ったんだろう。
そいつは男に多額の賞金を出して、村のくわしい場所を聞き出した。
その村がノーデンスの村さ。」

「それで?その後、その将校はどうなったの?」

「その村で何が起こったかは俺も知らない。
ただ、その後、死人が出たという事で軍法会議にかけられた。
その結果、軍を追われる羽目になってしまったって聞いたが。
理由は「いくら帝国の国民といえども、民間人を殺した罪は重い」だったかな。
その時、その処分を下したのは当時の大統領自らだと聞いた。
その後、その将校は失踪、死亡説まで流れたが、その真意は定かではない。
・・・そんなところかな。」

「随分と詳しいんだね。」

「昔話さ。当時はその話題で持ちきりだったんだぜ。」

その時、リーゼの頭にある疑問が浮かんだ。

「そう言えば・・・あんたって何歳?」

「・・・27。」

嫌なことを聞くなぁ、と思いながら、彼がポツリという。
すると、リーゼは大笑い。

「ははははは、何だ、結構な年行ってるんじゃん。
ふふふふ、てっきり、アーバインと同いぐらいかと思ったよ。」

「笑うことないだろ、・・・ったく。」

キースは言うんじゃなかったと後悔。
リーゼはしばらく笑い続けて、

「あ〜あっ、何だか悩みも吹っ飛んじゃったなぁ。」

「そりゃよござんしたね。
さてと、そろそろブレイダーの整備に行かないと。
気難しいからな、あいつも。」

そう言って格納庫に向かおうとしたが、

「おっと、もう一つだけ。
あんまりウジウジ考えていると、しわが増えてレイヴンに嫌われるぜ。
俺達は今を生きてるんだからよ。」

彼女にとってキースの最後の言葉はズンと心に来たような気がした。

「ありがとう・・・。」

リーゼがポツリと言った言葉はキースの耳に届いているのだろうか。
彼はサンダーと共にそのまま自分の愛機の元へと向かった。

 

 その後まもなくして、ジェノブレイカーの整備が終わったレイヴンが、
シャドーと共に屋上に来た。

「もう、レイヴン、遅いよ!」

少々怒ったような声でリーゼが彼に言う。
どうやら待ち合わせをしていたらしい。

「済まない、なかなか終わらなくてな。
ところでさっきキースとすれ違ったが・・・。」

「ああ、ちょっとノーデンスの村のことを聞いてた。
おかげでいろいろと分かったよ。」

「そうか。」

彼女の答えに、素っ気なく返事をする。
その内心、強くなったな、と思った。
以前はその村の名を言っただけで泣き出しそうになっていたが。
すると、

「ねぇ、レイヴン、お願いがあるんだけど・・・。」

「何だ?」

「今度休みが入ったら、・・・一緒にノーデンスの村に行って欲しいんだ。」

少し驚きの表情を見せる彼。
だが、

「ああ、分かった。」

そっと微笑んで頷く。

「ありがとう、レイヴン。」

満面の笑みでそう言って、そっとレイヴンの腕を抱き寄せる。
彼はその行為に頬を赤らめた。
自分が信じた最高の人、その人と共に生きていこうと決めたリーゼ。
今、2人は人生のスタート地点に立ったばかりなのだ。

 

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