その頃、トーマは愛機、ディバイソンの整備。
ビークの調子もいいらしく、ご機嫌な様子で作業をしていた。
その証拠に鼻歌を歌っている。

「えらくご機嫌だな。」

後ろから声がかかったので、彼が振り向くと、
カメラ付き眼帯とオレンジ色のバンダナが目に入った。

「アーバインか。おまえもゾイドの整備か?」

「ああ、ちょっとサボるとすぐに機嫌が悪くなるからな、こいつは。」

そういって、彼は愛機、ライトニングサイクスを見上げる。
開発された当初は、
乗りこなすものがいないと言われていたカスタム機だったが、
今では量産が進み、どんなパイロットでも扱えるようにプログラムされている。
この間のライトニングサイクス強奪事件がそれを物語っている。
ただ、目の色が橙色で、
しかもゾイドが本来持ち合わせている野生の本能と荒々しさが残っているのは、
現在では彼の相棒だけである。
もし他の誰かが乗ろうとしても、それ自体が拒否するだろう。

「ところで・・・、おまえ、何かあったのか?」

「は?・・・何でだ?」

アーバインが思わずそんな声を上げたので、
トーマは思わず間抜けな声を上げてしまった。

「なぁに、最近先走りが多いからよ。ちょいとばかし気になってな。」

「そ、そうか?別に・・・変わったことはないが・・・。」

何故か語尾を少し濁らす。
そのまま普段の態度を見せていれば、怪しまれなかっただろうに。
アーバインはいきなり彼の肩に腕を回した。

「な、何を・・・。」

「おとなしく吐いた方が身のためだぞ。」

そういってヘッドロックをかますアーバイン。
だが、トーマはなおも抵抗を続ける。

「は、放せ。い、いったい・・・何のことだ〜!」

「とぼけるなってぇの。おまえみたいな奴がそう簡単に吹っ切れるか!」

お次は腕ひしぎ逆十字。

「ギブ、ギブアップだ!」

トーマが必死にアーバインの足をたたく。

「じゃあ、いうか?」

「何の・・・ことだ。」

まだ白を切るのでとどめのコブラツイスト。

「だああぁぁぁ〜!」

絶叫と骨の軋む音が格納庫に響くが、誰一人として現れなかったりする。

「言うか?」

「言う、言うから〜!」

ようやく観念したみたいなので、アーバインは彼を解放した。
ゼイゼイ肩で息をするトーマを見て、少々情けなさを感じる。

「で、何があったんだ?」

「じ、実は・・・。」

トーマが言いかけた時、

ビーン、ビーン、ビーン、ビーン

突然、警報が鳴りだした。

『ガーディアンフォースは至急司令室へと向かってください。
繰り返します・・・。』

「どうやら事件のようだ、いくぞ!」

猛ダッシュで司令室へと向かうトーマを見て、アーバインは、

「話を聞きそびれたな。
それに、俺はガーディアンフォースじゃねぇって。」

ポツリと独り言を言うと、彼もトーマの後を追った。

 

 アーバインが司令室に入ると、いつものメンバーが顔をそろえていた。

「みんな集まったな。」

「何があったんだ?」

「今日、ルドルフ陛下がニューヘリックシティに視察にいくことは知っているな。」

ハーマンの言葉に全員がコクリと頷く。
それを見て、今度はシュバルツが口を開いた。

「先ほど陛下が乗っているホエールキングから連絡があってな、
そのホエールキングに爆弾が仕掛けられていたんだ。」

「何だって!」

大声を上げたのはバン。
他のみんなも驚きを隠せないでいた。
シュバルツが話を続ける。

「しかも、それを解除できる技術者がホエールキングに搭乗していないらしい。
そして、無理に外そうとすれば・・・。」

「爆弾がドッカーン、ホエールキングが大爆発って訳か。」

キースが彼の後に続いた。
さらにオコーネルが付け加える。

「さらに爆弾は時限性で、
ホエールキングがニューヘリックシティの上空に着くと同時に、
爆発するようにセットされているらしい。」

「それじゃあ、ニューヘリックシティも・・・。」

「ああ、あんな超大型ゾイドが街に墜落すれば、首都は間違いなく壊滅だ。」

深刻な声でハーマンが言う。

「そんな事をする奴はこの世に2人しか思い当たらないな。」

「リリスとカリス、だね。」

「発着場で縛られている作業員がいた。
アンビエントらしい赤いオーガノイドを見たと言っているから間違いない。」

レイヴンとリーゼの言葉にオコーネルが信憑性をつける。
そして、今回の作戦が発表された。

「作戦は簡単だ。
飛行ゾイドでホエールキングの口から進入、乗員の安否を確認の後、
速やかに爆弾を解体する。」

「それは私にやらせてください。
機械のことならガーディアンフォース一だと自負しています。」

名乗りを上げたのはトーマ。
シュバルツも最初から彼に任せるつもりだったらしく、快く許した。
彼も内心、成長したな、と喜んでいるようだ。

「ただ、ホエールキングの周りをレドラーが数機飛んでいるらしい。
そこでキース、おまえの出番だ。」

「俺がブレイダーでレドラーを落とせばいいんだろ。」

キースが先を見通したように話すが、その予想は若干外れていた。

「ああ、ただその前にシュバルツ大尉をホエールキングまで運んでほしいんだ。
おまえの腕なら造作もないだろう。」

「おいおい、俺はタクシーの運ちゃんか?」

ハーマンの言葉に少しはにかむ。
だが、状況が状況なだけに断るわけにもいかず、

「仕方がないな。おい、トーマ。
頼むから途中で気を失わないでくれよな。
サンダーを乗せたサイクロンブレイダーのGは、
ストームソーダーの比じゃないぜ。」

「ああ、わかっている。」

ここで説明をしておくと、
サンダーの能力はゾイドの根本的なスピードを上げることである。
それによって最高スピードマッハ3.6のサイクロンブレイダーも、
マッハ3.8まで、うまく操れれば最高マッハ4まで引き上げられるのだ。

「バン、レイヴン、アーバインは陸から援護してくれ。
最悪の場合、乗組員を飛行ゾイドで脱出させ、
総攻撃でホエールキングを爆発させる。」

『了解!!』

こうして全員はミーティングを終え、格納庫へと向かった。
ちなみにフィーネはバンと一緒に、
リーゼはレイヴンの反対を押し切って、ガトリング付プテラスで出ることとなった。

ホエールキングがニューヘリックシティに着くまで、あと1時間。

 

 バン達のいる基地から少し離れた崖の上で、

「リリス、こっちの準備は終わった。後は任せるぞ。」

風に銀髪を靡かせながらカリスがリリスと話していた。
彼らの後ろにはそれぞれアンビエントとワイバードが立っている。

「分かったわ、後はこの子であいつらを潰せばいいんでしょ。」

彼女の目線の先にはあのジェノザウラーがあった。

「少なくとも時間ぐらいは稼いでくれ。
本来の目的は首都を潰すことなのだからな。」

「分かってるわよ。」

ちょっとむくれた声を出しながら、ワイバードと共にジェノザウラーに進みよる。

「カリス、一言だけ言っておくわ。
あなたの言いぐさ、私の兄にそっくりよ。」

無表情でそう言うと、彼女はゾイドに乗り込んだ。
それと同時にワイバードも緑色の光となってジェノザウラーと合体する。
そして、基地に向かって発信した。

「行方不明の兄・・・か。」

「ガルルル。」

アンビエントが心なしか少し寂しそうな声で鳴いた。

 

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