「頼もしき相棒」

 

「ブレードライガー、最終防衛ライン突破。」

今、バン達は本部でテストを受けていた。
その内容は戦闘シュミレーション用のコマンドウルフとプテラスを数十機倒し、
ゾイド迎撃ミサイルを避けるというもの。
ちなみにオーガノイドは禁止らしく、ジークは司令室で待機。
バンのブレードライガーは今、すべてのシュミレーション用ゾイドを倒し終わったのだ。

「ゾイド迎撃ミサイル準備!」

ハーマンのかけ声でミサイルが準備される。
司令室では他の面々もモニター越しにそれを見ている。
ちなみに今回はムンベイも顔を出していた。
どうやら今まで仕事だったようだ。

「ミサイル、発射!」

ブレードライガー目掛けてミサイルが飛んだ。
それは正確にライガーの後を飛んでいく。
そして、ミサイルはライガーに直撃した。
だが、

「ブレードライガー、テスト終了。合格です。」

とっさにE.シールドを張り、ミサイルを防御、
ライガーは無事基地へと到着した。

 

その後、司令室へと戻ってきたバン。

「バン、お疲れさま。」

そう言って、フィーネはタオルを差し出す。

「サンキュー、フィーネ。」

汗だらけだったバンは手渡されたタオルで汗を拭いた。

「キスなら後にしてくれよ。」

「そうそう。」

もういい雰囲気を醸し出しているこの2人に、
ちょっかいを入れるアーバインとムンベイ。
バンとフィーネは顔を真っ赤にして黙ってしまった。
余談だが、つい十数分前にレイヴンとリーゼも全く同じ事になった。

「だが、あの程度のテストじゃクリアしても何の自慢にもならないな。」

「まぁ、君だったら簡単かもね。」

レイヴンとリーゼが皮肉を言う。
彼らしいといえば彼らしいが。
ちなみに彼は荷電粒子砲でテスト用ゾイドを一掃、
その後のミサイルもフリーラウンドシールドで受けるという、
ジェノブレイカーの能力を生かした戦い方で見事合格。
 アーバインもシュミレーション用ゾイドには苦労したものの、
ミサイルをライトニングサイクスお得意の高速平行移動で避けて、何とか合格。
ライトニングサイクスは元々機動性重視の奇襲戦闘用ゾイドなので、
大多数の敵を一掃する手段がないのだ。
 そして、テストを唯一合格できなかったのが1人・・・、

「どうせ俺は不合格ですよ。」

そう言っていじけているのはトーマ。
彼の愛機、ディバイソンは攻撃力が高いので最終ラインはクリアしたものの、
ミサイルを避ける機動性も防御する手段もなかったため、ものの見事に撃沈。
それからずっと落ち込んでいた。

「まぁまぁ、トーマのディバイソンは重武装が取り柄なんだ。
そっちの方面で頑張ればいいさ。」

バンが宥めるも、トーマはずっと落ち込んだまま。
すると、アーバインが良い案を思いついた。

「おっ、トーマの彼女。」

アーバインの言葉にトーマはすぐさま反応、
あたりをキョロキョロ見回し始めた。

「何処、何処ドコどこ〜?、どこですか〜。」

その光景にシュバルツ大佐は呆れ顔。

「いるわけねぇだろ。」

「何だ、十分元気じゃん。」

リーゼの言うとおり、ハシャギまくっている彼。
だが、いないと分かってまたテンションが下がった。
まぁ、前よりは幾分よくなったが。
アーバインの思わく通り、元気を少し取り戻したトーマだった。

「ハーマン大佐、サイクロンブレイダーの発進準備が整いました。」

オコーネルがハーマンにそう伝える。

「よし、キース。これから飛行ゾイドのテストについて説明する。
まず、ここから10キロほど飛んでからこの基地に向かって反転する。
そこからがテストのスタートだ。
シュミレーション用のプテラスとレドラーを数十機倒した後、
バン達と同じようにゾイド迎撃ミサイルを避ける。」

「つまり、コマンドウルフの代わりにレドラーをぶっ潰しゃあいいんだろ。」

ハーマンの言葉を自分の分かりやすいように言い直すキース。
そんな彼にハーマンも思わず苦笑い。

「まったく、お前は昔からそうだったな。」

「そうだな。・・・じゃあ、発進するぜ。」

「グキュ〜。(頑張ってね。)」

サンダーの声援に応えるかのように親指を立てる。
そして、ブレイダーのブースターエンジンが始動した。

「サイクロンブレイダー、発進する。」

カタパルトから滑るように発進、そのまま指定ポイントまで飛んだ。

「こちらキース、指定ポイントに到着、これからそっちに向かって飛ぶ。」

「こちらオコーネル、これよりテストを行います。」

オコーネルが操作パネルのボタンを押し、シュミレーションゾイドを出現させる。

「あと数分でシュミレーション用プテラスとレドラーが見えると思います。」

「了解、ちゃんと見失わないようにしとけよ。」

とりあえず敬語のオコーネル。
一応、元中佐という事なので、敬意を払っているようだ。
そのキースはちょっとむず痒がっている。
キースの場合、階級よりも年齢を気にするので、
同年代のオコーネルにそう言われると、違和感を感じるようだ。
そして、テストは始まった。

「お手並み拝見だな。」

司令室でレイヴンが呟いた。
他のみんなもモニターを食い入るように見つめている。

「まずはこいつだ。」

そう言ってキースは翼の下のミサイルを6発全部発射した。
ミサイルはそのままレドラーにあたり、とりあえずの6体撃破。
ブレイダーは休むことなく、パルスレーザーを撃つ。

 

「攻撃方法は昔のままでまるで変わってない・・・。」

ハーマンが懐かしむようでそう言った。

「どういう風なんだ、キースの攻撃方法って?」

バンが興味を持ったのか、彼に尋ねた。

「ああ、あいつはまず遠距離の敵をミサイルで攻撃。
続いて、ある程度近付いた敵をレーザーやマシンガンなどで攻撃。
そして、それでも残った敵は格闘戦で叩く。」

「なるほど、ワンパターンだが大人数を相手するのには効果的な戦法だ。」

ハーマンの言葉にシュバルツも頷く。
すると、トーマがある疑問を抱いた。

「ハーマン大佐、ストームソーダーが開発される前は彼は何に乗っていたんですか?」

「確か・・・、『レイノス』だったな。」

「レイノス・・・か。珍しいゾイドに乗ってたんだな。」

バンがハーマンの言葉に反応。
フィーネが詳しく説明する。

「確か、共和国が対レドラー用に開発した飛行ゾイドね。
操縦がかなり難しくって、乗れるものが少ないから、
ごく少数しか生産されてないって聞いたけど・・・。」

「まぁ、あいつの腕だったら、分かる気がするが。」

レイヴンが妙に納得していた。
すると、トーマが口を開いた。

「前に一度、聞いたことがある。
共和国にレイノスを駆る凄腕の飛行ゾイド乗りがいる、と。」

続いてシュバルツ。

「だが、それはもう数十年前の話といわれているが。」

「この間、キースは27歳って聞いたけど・・・。」

彼の言葉にリーゼがさらに謎を深めたので悩み込んでしまう一同。
すると、

「それは彼の親父さんだよ。」

その言葉と共に入ってきたのは、彼らがよく知っている人物だった。

「クルーガーのおっさん!」

そう、バンの父親の親友であり、知将といわれたクルーガーである。
今は昇進して少将となってはいるが、もっぱら政治の方面で仕事をしている。
これはルイーズ大統領の計らいで、彼に精神的負担を懸けたくなかったのだろう。

「何だ、まだくたばってなかったのか。クルーガーの旦那。」

「いきなり挨拶だな、アーバイン。
まぁ、向こうは退屈で死にそうだが。」

アーバインも楽しそうに受け答えする。
彼にとっては、ゾイドの本質を教えてくれた師匠みたいなものなのだ。

「それで、キースの父親とは、どんな人物だったのですか?」

トーマが話を元に戻す。
クルーガーは「うむ」と頷き、静かに話し始めた。

「ダン程は親しくはなかったが、よく知っているよ。
名前はカルタス・クリエード。
引退前までは大佐まで上り詰めた凄腕のゾイド乗りだった男だ。
そして、彼の愛機がレイノスだった。
だが、年月には勝てないものでな、
レイノスのスピードに彼自身の動体視力が付いていかなくなってしまった。
だが、彼は軍を辞めることはなく、そのままゾイドを乗り換えた。
そのレイノスはそのままキースに受け継がれた。」

「で、何のゾイドに乗り換えたんだ?」

今度はレイヴン。
彼の興味を持ち始めたみたいだ。

「飛行ゾイドでもっとも攻撃力のある『サラマンダー』というゾイドだ。
今はカルタスもそのサラマンダーを引き取って、
故郷で隠居生活を送っているよ。」

「サラマンダーか。
空の王者と言われていて、高々度からの爆撃が可能な最強の飛行ゾイドだな。」

トーマがすぐさま機体説明。
すると、

「つまり、あいつの飛行ゾイドの腕は父親譲りっていう事か。」

アーバインがそう言って感心していた。

「まぁ、飛行ゾイドの勘を受け継いだといった方が正確だよ。
あいつの腕は軍に入ってからメキメキ上達したからな。
本当に凄い奴だよ。」

ハーマンが訂正。

「そう言えば、キースのレイノスはその後どうなったの?」

ムンベイが疑問を投げかける。

「ああ、それは・・・。」

「ハーマン大佐。」

ハーマン声をオコーネルが遮った。
それと共に全員が彼の方に向く。

「サイクロンブレイダー、最終防衛ライン突破しました。」

「よし、ゾイド迎撃ミサイル発射。」

ハーマンのかけ声と共にミサイルが発射された。
バン達はキースの格闘戦を見逃して、ちょっと残念そう。

 

「最後のテストだな。
よし気合い入れていくぜ、ブレイダー!」

キースの声に答えるように鳴き声をあげる翼竜。
そして、ミサイルがブレイダーの後ろに付いた。
ミサイルはブレイダーの後ろをピッタリとマークをしている。
だか、

「なかなか着弾しないな。」

トーマがモニターを見つめながら、ポツリと言う。
すると、レイヴンがあることに気が付いた。

「いや、着弾しないんじゃない。
着弾出来ないんだ。」

「速すぎてミサイルが追い付かないんだね。」

リーゼが説明を付け加える。

「サイクロンブレイダー、ただ今の速度は・・・すごい、マッハ3.3を越えています!」

オコーネルが思わず声をあげる。

「あのミサイルのスピードも約マッハ3.3といった所だ。
付いていくだけで必死なんだよ。」

ハーマンはそう言いながらも、驚きを隠せないでいる。

 

「よし、本気を出すぜ、ブレイダー。」

キースはレバーを目一杯押し出して、手元にあるボタンを押した。
すると、背部にあるイオンブースターが作動、一気に最高速度まで上がった。
それと共に彼は体を激しく後方に追いやられる。

「サイクロンブレイダー、最高スピードのマッハ3.6まで上昇。
ミサイルが、引き離されて行きます!」

驚いている一同を目にして、サンダーは何か誇らしげ。
まぁ、彼女が進化させたのだから当然といえば当然なのだが。

「グキュ〜、ゴキュ。(もしかして、自慢してるの?)」

「キュイ〜。(まあね。)」

「キュイイ〜・・・。(おいおい・・・。)」

ジークとサンダーがそんな会話をしていたとか。
そして、

バーン

「ミサイルが目標を見失って、爆発しました。」

「本当にどえらいゾイドだ。」

ムンベイがポツリと漏らす。
他の連中は驚きを隠せないでいた。

「よし、テスト終了。キース、あがっていいぞ。」

「了解。」

ハーマンの声に返事をして、彼は愛機を基地の方に向けた。
だが、その時、

「レーダーに反応、E36方向より所属不明のブラックレドラーを1体確認!
まっすぐこちらに向かってきます!」

オコーネルの声と共に司令室に緊張が走った。
すると、大画面にキースが映った。

「1機のブラックレドラーぐらい、俺一人で十分だ。俺が行く。」

「大丈夫なの?テストの後だって言うのに・・・。」

「こっちはまだまだ暴れたりないんだよ。」

フィーネの心配する声に笑いながらそう言う。

「ああ、分かった。
だが油断はするなよ。あいつは陽動かもしれない。」

「ああ、重々気をつけるよ。」

彼は無線を切って、愛機をブラックレドラーに向けた。
しかし、ハーマン達には知られてはいないが、キースの息は荒くなっていた。
本当は先程の加速で、体に負荷が掛かり、疲労がたまっていたのだ。
だが、それはバン達も同じと思い、自ら迎撃をかって出た。
それが彼の我が侭でも構わない、仲間を何よりも大事に思っているから。

「ブラックレドラーを確認、これより迎撃する。」

ミサイルは使い切ったのでパルスレーザーで攻撃する。
だが、いとも簡単に避けられ、さらに後ろに付かれてしまった。

「運動性能がが通常の奴とは全然違う。
と、いう事は・・・オーガノイドか。
だったら!」

ブレイダーはそのままブラックレドラーを引き連れて、
アクロバット飛行を始めた。
その様子を見て、ハーマンとクルーガーは渋い顔。

「出来る相手を見ると遊んでしまう。あいつの悪い癖だ。」

「そうだな。」

2人がそう言っているのも知らずに、キースはまだまだ遊んでいる。
結果的にはこれが敵を苛立たせて、ミスや焦りを誘うのだが。
そういえばSSS強奪事件の時もそうだったな、とその場のメンバーは思った。

「そろそろ終わらせるか。」

額の汗を拭い、キースはブレイダーをブラックレドラーの後ろにつける。
そして、ブレードを展開、一気に加速して羽を切り裂いた。
そこから緑色の光が飛び出したのを見て、不審を抱くキース。

「脱出したのは、オーガノイドだけ・・・。」

 

司令室でも、

「あれは、リリスのワイバード!」

リーゼが光を見て叫んだ。
そして、疑問を持ったのはトーマ。

「だが、何故リリスはジェノザウラーで攻撃を仕掛けないんだ?」

すると、

「ジェノザウラーのゾイドコア反応を確認!」

オコーネルの声が響くのと空に光の槍がないだのはほぼ同時であった。
それは紛れもなくジェノザウラーの荷電粒子砲。
そして、その槍はサイクロンブレイダーの翼をもぎ取った。
直感的に危険を察知し、わずかながら機体を反らしたので、それだけの被害で済んだ。
もし直撃していたら、ゾイドコアは消えてなくなっていただろう。
しかし、翼を失ってしまったので、ブレイダーは煙を出しながらそのまま墜落した。

「ぐ・・・、くそ・・・。」

必死に機体を上に反らし不時着しようとするが、機体がいう事を聞かない。

「キース、脱出しろ!」

ノイズ混じりの無線機でハーマンが必死に脱出を促すが、

「ブレイダーを見捨てられるか!
それに、脱出装置もやられちまった。
不時着するしか方法がない!」

そう怒鳴り返されてしまった。
だが、一向に状況がよくならず、
コックピット内では警報機が鳴り響いている。
すると、一筋の金色の光がブレイダーの中に入っていった。

「サンダー!」

キースが歓喜の声をあげた。
そう、サンダーがブレイダーと合体したのだ。
実はブラックレドラー発見から主人を心配して外に出ていたのだ。
サンダーのおかげで機体が持ち上がり、
サイクロンブレイダーは何とか不時着した。

「サンキュー、サンダー・・・。」

呟くようにそう言うと、そのまま彼の視界は暗転した。
リリスのジェノザウラーはとどめを刺そうとしたが、
バン達が向かっていると知り、その場を後にしていた。

 

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