キースは朝になって、やっと目を覚ました。
彼が寝ていたのは基地の中の医療室らしく、薬や消毒液の臭いが充満していた。
六亡星のペンダントとサングラスも脇の棚に置かれている。
ただ、服装だけは替わっていなかった。
そして、ふと見ると、

「サンダー・・・。」

ベットの脇でサンダーが心配そうに彼を見ていた。

「グキュ〜。(大丈夫?)」

「ああ、なんとかな。」

そういって起きあがってみる。
体には傷や打撲はないものの、
少し頭がズキズキしたらしく、すぐにベットに腰掛けた。
それと同時に、バン、フィーネ、ジーク、アーバインにムンベイが入ってくる。

「キース、起きあがって大丈夫なのか?」

「ああ、少し頭痛がするけどな。」

バンと話している間にも少しズキズキしたのでちょっと顔をしかめる。
ムンベイが呆れた顔をしてこう言った。

「それはただの寝過ぎ。もう7時よ。」

「なるほど、通りで。」

キースがテストをしたのが昨日の1時頃、
それから18時間寝ていたのだ。

「医者の話だと疲れが相当溜まっていたみたいだぜ。
おそらくサイクロンブレイダーの最高速の負荷がかかったんじゃないのか。」

「みたいだな。
・・・そう言えば、ブレイダーはどうした?」

アーバインの言葉で相棒のことを思いだし、尋ねる。
すると、

「翼が折れていて、とてもじゃないけど飛べる状態じゃないわ。
いま、Dr.ディが様子を見てる。」

フィーネが重苦しそうに話すが、
キースはそんなに落ち込んでなかった。

「そうか・・・、荷電粒子砲をもろに受けたからな。
まぁ、翼だけで済んで、本当によかったよ。」

明るい調子に少々拍子抜けしたバン達であった。

 

キースの頭痛が治り、全員でブレイダーの様子を見に行くことに。
格納庫に入ると、レイヴン

「キース、もう大丈夫なのか?」

「ああ、18時間も寝たから、バッチリだよ。」

トーマの問いにいつもの調子で答える。

「それで、ブレイダーは?」

「あそこだ。
今、スキャンをかけている。」

「そろそろ結果が出る頃だよ。」

レイヴンが顎で示すところでブレイダーはスキャンゲートをくぐっていた。
そして、スキャン結果がでたので、全員はディの元へ。

 

「キース、サイクロンブレイダーのスキャン結果だが・・・。」

「どうかしたのか?」

ディが途中で言葉を止めたので不審に思って聞いてみる。

「ゾイドコアに少し傷が付いての。
まぁ、命に別状はないんじゃが、当分は動けんだろう。」

「当分って、どれくらいだ?」

「そうだな、このまま自己修復を続けると、一ヶ月ぐらいは掛かるぞい。」

「一ヶ月・・・。」

キースは驚きのあまり声が出なかった。

「サンダーを使っても相当時間が掛かるし、オーガノイドに掛かる負担も大きい。
このまま待つしか・・・。」

「おいおい、一ヶ月も仕事をせずに黙ってろって言うのかよ。
冗談じゃないぜ、こっちは実家に仕送りしてんだぞ。」

そう、今クリエード家の生活はキースの仕送りに掛かっているのだ。
こう見えても結構背負っているものが大きいのである。

「家族がいるって大変なんだね。」

「結婚した相手ならまだしも、実家だからなおさらだな。」

「俺も姉ちゃんに仕送りした方がいいのかなぁ。」

「そうしたらお姉さんも喜ぶかもね。」

上からリーゼ、レイヴン、バン、フィーネの順でこそこそ話していた。
この後、バンがマリアに仕送りしたかどうかは不明。

「とはいっても・・・。」

しばらく考え込むディ。
すると、突然大声をあげた。

「そうだ!
お前さんに試してもらいたいゾイドがあるんだが・・・。」

『試してもらいたいゾイド?』

全員が声をそろえる。
ディはさらに続けた。

「うむ。儂が共和国の依頼を受けて開発した新ゾイドなんじゃが、
乗りこなせるものがいなくてのう。
一時はお前さん方に頼もうかと思ったんだが、
自分のゾイドを換えるわけにもいかんじゃろ。」

「確かに・・・、で、そのゾイドはどこに?」

トーマが尋ねる。

「もう、この基地に運び込んである。
まずはお披露目といこうじゃないか。」

そう言ってディは全員を引き連れて別の格納庫に向かった。
この時、キースは嫌な予感がしたのか、顔色がさえなかったという。
そして、彼の予感は見事に的中した。

 

格納庫にて、

「これがそのゾイドじゃ。」

そこには黒と金のパーツが目立つコマンドウルフみたいなゾイドがあった。
一同が見とれている中、ディはさらに話を続けた。

「これが共和国でこのたび開発に成功した、
最高の隠密性を誇る忍者ゾイド、その名も『シャドーフォックス』じゃ。」

「シャドーフォックス・・・。」

バンが呟くように口ずさむ。

「古代ゾイド人の技術を雛形にし、
さらに現代技術の粋を集めた、奇襲戦闘用の中型高速ゾイドじゃよ。
もっとも、まだテストは済んでいないがな。
こいつは、気性が荒くてな。ご機嫌取りが大変なんじゃよ。」

「よかったな、キース。結構良さそうな・・・。」

アーバインはそこで言葉を止めた。
何故なら、キースの顔面は真っ青になっていたから。

「どうかしたの?」

「何かおかしなものでも食べたのかい?」

フィーネとリーゼが呼びかけてみるが、
それでもシャドーフォックスを見上げたまま答えようとしない。
すると、バンがあることを思い出した。

「あっ、そういえば、お前、初めて会ったときに、
『陸戦ゾイドは苦手』って言ってたっけ・・・。」

彼の言葉にその場にいた全員が『あっ。』と声をあげる。
キースは溜息を吐きながら静かに話した。

「ああ、俺は陸戦ゾイドが苦手なんだよ。・・・はぁ。」

腰に手を当てながらも、溜息は止まらない。
キースは何故か陸戦ゾイドが苦手なのだ。

「まあ、試しに乗ってみればよかろう。」

ディの一言で、殆ど無理矢理シャドーフォックスに乗せられる羽目になったキース。
ちょっと涙目になっていたとか、いないとか。
そして、バン達はそんな彼のことを哀れみの目で見ていた。

 

昨日、バン達がシュミレーションテストを行った場所にシャドーフォックスが姿を現した。

「では、テストを始める。危険と判断したらすぐにテストを中断するからな。」

「俺にこいつを操縦させる時点で、もう危険だと思うぜ。」

ディの言葉にため息を吐きながら、彼は操縦桿を握る。
観測室ではバン達がモニターを見ていた。

「テストを開始します。」

ディの助手がパネルを操作し、演習用ゾイドを発進させる。
シールドライガーとコマンドウルフだ。

「発進する。」

シャドーフォックスが甲高い声をあげて走り出した。
それとほぼ同時に高速ゾイドが砲撃を開始する。
すべて実弾であった。
だが、フォックスは右へ左へとジグザグに走り、器用に玉を避けていく。

「速いわね。」

「ああ、かなりのスピードが出ているみたいだ。」

フィーネとバンがモニターを見ながら、感想を口走る。

「まぁ、ブレードライガーまでとはいかないが、それなりに速いな。」

これはレイヴンのもの。
画面上ではフォックスがレーザーバルカンで攻撃を仕掛けていた。
これが次々にコマンドウルフを蹴散らしていく。

「このレーザーバルカン砲は自由に角度が変えられる。
だから空の敵も、自分と併走している敵も狙えるんじゃ。」

デイの説明に一同感心顔。
すると、

「おっ、スモークデスチャージャーを作動させたぞ。」

トーマの言うとおり、フォックスの顔の脇や足の付け根から煙が噴出した。
そして、画面上が黒い煙に覆われる。

「だが、スモークデスチャージャーは自分も見えなくなるぜ。
よく敵から逃げるときに使ってたが。」

「流石はアーバイン。元コマンドウルフの操縦者だけはあるな。
だが、こいつにはその心配は無用じゃ。」

アーバインの言葉とは裏腹に、コマンドウルフがどんどん打ち抜かれていく。

「こいつからは丸見えだぜ。」

コックピットの画面にはゾイドの正確な居場所が移されている。
そのゾイド達は混乱のせいで、立ち往生していた。

「あれは頭部にあるマルチイアーセンサーの効果じゃよ。
あのセンサーはゾイドの足音で正確な位置を特定できる優れものなんじゃ。
例え、光学迷彩で隠れてもすぐに居場所を見つけられる。
よし、次は格闘戦じゃ。」

「了解。」

一言返事をして、フォックスをシールドライガーに向かわせる。
ライガーはミサイルや背中のビームガンで応戦するが、全部避けられていた。
そして、フォックスの爪が光り出した。

「ストライクレーザークロー!」

ライガーにその爪がヒット。
足を吹っ飛ばし、そのまま地面に崩れた。

「この通り、格闘戦にも対応できるんじゃ。」

「でも、キースの腕前も大したものだね。
あんなに苦手って言ってたのにさ。」

「そうだね、オーガノイドも使ってないのに。」

ムンベイとリーゼが感心を示す。
他の連中もそれが疑問に思うぐらいの動きなのだ。
それについて説明するのもディだった。

「おそらく、キースとシャドーフォックスの相性がピッタリなんじゃろ。
操縦者がゾイドの性能を引き出し、又ゾイドがパイロットの操縦をアシストする。
見事なコンビネーションじゃ。」

「ゾイドとのコンビネーションか。
それがゾイドの醍醐味だもんな。」

バンが妙にはしゃいでいる。

「よし、ゾイド迎撃ミサイル発射!」

ディのかけ声と共にミサイルが発射、シャドーフォックスにの後ろに付いた。
すると、フォックスの尾が開き、そこからミサイルが発射。
そのミサイルは途中で展開し、中から出てきた網で迎撃ミサイルを絡め取った。

「あれが電磁ネット砲じゃ。
他のゾイドの足止めが可能じゃ。」

「これまた凄いゾイドだわ。
正に忍者ゾイドって感じだわね。」

ムンベイが腕組みしながら感想を言う。
ディは凄く自慢気。

「よし、テスト終了じゃ。キース、戻ってきていいぞ。」

「あいよ。」

返事をすると、キースは操縦桿を横に動かす。
だが、フォックスはそのまま走り続けた。

「おい、どうしたんだよ、フォックス。
もうテストは中止だぞ。」

そう言って、再び操縦桿を横に動かすが、一向に止まる気配がない。
いや、むしろ加速し始める始末。

「キース、どうしたんだ!」

バンが不審に思い、無線で連絡を取る。
すると、キースが叫び声が聞こえてきた。

「どうもこうも、フォックスが止まらねぇんだよ!
くそ・・・、止まれっちゅうに!」

彼も必死で操縦桿を動かしているが、まっすぐ進むばかり。
そして、その先には、

「キース、5q先に岩山があるぞ!
早く何とかするんじゃ!」

「言われなくてもそうする!」

だか、フォックスは岩山に一直線。
次第に距離も短くなってきている。
それと共にキースの焦りもピークに達してきた。

「止まれ、フォックス!!」

必死の思いで叫ぶ。
すると、思いが通じたのか、フォックスは岩山の一歩手前で止まった。

「ふぅ、とんでもなく我が侭なゾイドだな、お前は・・・。」

その後、シャドーフォックスはムンベイのグスタフで基地に運ばれていった。
そして、キースに運賃を請求したとか、しないとか。

 

 格納庫にフォックスを黙って見上げているキースとサンダーがいた。
その表情は満足感と不安が混ざっている。

「キース、大丈夫だったか?」

「ああ、なんとかな。」

声をかけてきたのはアーバイン。
キースの隣に立って、同じようにフォックスを見上げた。

「本当に我が侭なゾイドみたいだな。
まるで俺のライトニングサイクスみたいだ。」

「でも、お前のサイクスはむやみに岩山なんかに走らないだろう。」

「ふっ、まあな。」

アーバインの言葉の後、しばらく沈黙が続いた。
そして、その沈黙を最初に破ったのも、アーバインであった。

「なあ、どうして陸戦ゾイドが苦手なんだ?」

キースにそんな質問をぶつけてみる。
実際、飛行ゾイドの方が扱いが難しいはずなのだ。
彼はしばらく考えた後、静かに語りだした。

「俺が入隊してすぐのことだったな。
ほら、この間コマンドウルフを岩山にぶつけたって言っただろ。
それが今でもトラウマみたいな形になっちまってな。」

「そうか、大変だったな。」

「でもよ、こいつに乗ったとき、何か安心したんだよ。
気持ちが落ち着いて、トラウマなんか吹っ飛ばせそうな気がしたんだ。
まぁ、実際、激突しそうになったけどな。」

再びフォックスを見上げるキース。
そして、くるっと出口の方向に体を向けた。

「さてと、ブレイダーの見舞いにでも行くかな。」

そう言って、サンダーと共にその場を後にしようとする。
すると、

「『いつまでも気にしてても、何かが始まる訳じゃない。』
これ、誰が俺に言った科白だ?」

アーバインの言葉に足を止め、黙って右手を挙げた。

「は〜い、俺が言いました。
・・・よく覚えてるな。」

「結構、心にズシッと来たからな。」

「そうか。」

そう言って、彼はアーバインに笑い返すと、そのままそこを後にした。

 

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