アーバインは司令室で他の面々と談話をしていた。
キースの今までのことを話しているようだ。
「キースのトラウマか・・・。
でも、シャドーフォックスは大丈夫なんだろ。」
「ああ、本人は落ち着くって言ってる。」
アーバインがバンに返す。
「それは前にも言ったように、キースとシャドーフォックスの相性が合っているからじゃよ。
しかし、何故シャドーフォックスは岩山なんかに・・・。」
ディは首を傾げた。
ゾイドが勝手に動くことはない訳ではない。
彼が考えているのはフォックスが岩山に向かって走った理由である。
「登りたかったとか?」
「それはないな。
あの岩山はゾイドが登れない程、傾斜がきついぜ。」
フィーネの言葉をバンが否定。
「古代ゾイド人の遺産は・・・、謎が多いのう。」
譫言のようにディの口からそんな言葉が出てくる。
すると、
「ねぇ、前々から気になってたんだけど、
その『古代ゾイド人の遺産』って、いったい何なの?」
「確か、ライトニングサイクスも古代ゾイド人の遺産を雛形にしたって言ってたわね。」
リーゼとムンベイがそんな質問を投げかける。
ディは「うむ」と頷いて、静かに話し始めた。
「ライトニングサイクスとシャドーフォックスは、
同じ古代遺跡から見つかった設計図を基にして作られたゾイドなんだ。
もっとも、この2体の開発コンセプトは違っていてな。
ライトニングサイクスはごく少数しか生息していない野生ゾイドを設計図の通りに仕上げ、
さらに最先端の技術を取り入れ、最高速ゾイドとして誕生させた。
そして、シャドーフォックスは・・・、
その遺跡に保存されていたゾイドコアから培養したゾイドをベースに作ったんじゃ。」
「遺跡にあったゾイドコアを培養?」
思わずシュバルツが声をあげる。
ディはさらに続けた。
「そう、ゾイド生体研究の第一人者といわれる科学者の協力の下、
そのコアを培養し、ある野生ゾイドが蘇った。
最初はコマンドウルフの変異体かと思って、野放しにしていた。
だが、スピードはシールドライガーやセイバータイガーに引けを取らず、
運動性能も一級品だった。
そして、更なる敵の襲来に備え、
見つかった設計図を基に、あのシャドーフォックスを完成させたんだ。」
「まるで『デススティンガー』みたいだね。」
リーゼが呟くように言う。
デススティンガーもゾイドコアを培養して生まれたゾイドだからだ。
「まぁ、フォックスの場合、元々気性は荒いが、人懐っこい性格だから大丈夫じゃろ。
なにより、キースに懐いておる。」
「ああ見えても、キースはゾイドに懐かれやすいんだよ。
シャドーフォックスもそうだし、レイノスも・・・。」
「ハーマン、前に聞きそびれたけど、キースのレイノスってどうなったんだ?」
バンがハーマンの言葉で聞きそびれた事を思いだし、再び尋ねる。
すると、彼はこんな事を口走った。
「簡単に言えば、アーバインのコマンドウルフと同じだな。」
「どういうことだ?」
アーバインは不思議に思うと同時に、若干驚いていた。
そして、ハーマンはゆっくりと話しだした。
「あれは数年前、確か、バン達がルドルフ陛下と会った頃だ。
当時、共和国はDr.ディの指揮の下、ストームソーダーを開発中だった。
だが、帝国がレドラーの改良に成功したと聞き、焦りもあったせいか、開発は難航、
そしてやっと最初の1機が出来上がった。」
ハーマンの後をクルーガーが続ける。
「そして、私の推薦でテストパイロットにキースが選ばれた。
当時、彼はレイノスが事故で再起不能となり、自分のゾイドを失っていたし、
高性能のストームソーダーを扱えるのは、彼を置いて他にいなかった。」
次はディ。
「だが、テストは失敗。
キースは無事に脱出したが、ストームソーダーはメモリーバンクを損傷してしまった。
開発予算も底を突き、我々は開発を諦めかけていた。
その時だよ、あやつが自分のレイノスのメモリーバンクを使ってくれ、と言い出したのは。」
再びクルーガー。
「あいつは、レイノスともう一度空を飛びたい、もう一度戦いたい、そう訴えてきた。
その時、思ったよ。本当に親父に、カルタスに似ているとな。」
「そして、キースのレイノスのメモリーバンクを移植し、ストームソーダーは完成したんじゃ。
最初は不安もあったが、共和国同士のゾイド同士、
メモリーバンクの構造が似ていた事もあり、実験は成功。
無事にキースは空に舞い戻った。
そして、ストームソーダーの量産に漕ぎ着けたのだよ。」
デイの言葉でキースのエピソードは終わった。
一同は不思議な面持ちである。
どう表現していいか分からないのだ。
ただ1人を除いて・・・、
「な、何という感動的な話なんだ!
俺は今、猛烈に感動している!!」
トーマだけは涙を流して、絶叫していた。
「人にはいろいろと過去があるもんだね。」
「しかし、驚いたなぁ。
キースもストームソーダーにメモリーバンクを移植してたなんてよ。」
ムンベイとアーバインがしみじみそう言う。
「さて、そろそろ昼だし、飯にでもするか。」
『賛成!』
ハーマンの声に全員が異口同音で答え、一行は食堂へ向かった。
一方・・・、
「キース・クリエードを仕留め損なったな。」
「でも、あいつのサイクロンブレイダーはちゃんと仕留めたわ。
当分の間は動けないはずよ。」
アジトでカリスとリリスが話していた。
それぞれの隣にはアンビエントとワイバードが立っている。
どうやら彼はキースが生きている事が不服らしい。
「だが、ガーディアンフォースは新しいゾイドを奴に与えたらしい。
これはどうするつもりだ?」
「新しい・・・ゾイド・・・?」
驚いているリリスに対して、彼は淡々と話を進める。
「“あいつ”が目覚めるまでに、少しでも奴等の戦力を潰しておく必要がある。
それは分かっているだろうな?
ただでさえ4体のオーガノイドは強敵・・・。」
「分かったわよ!
今度こそ奴の息の根を止めるわ。」
カリスの皮肉に少々苛立つ彼女は、大声を出して彼の言葉を遮る。
そして、ワイバードを従えてその場を去ろうとした。
「ちょっと待て。まだ話は・・・。」
突然、カリスがリリスの手を取って引き留めた。
すると、
パン
「気安く触らないで!
あなたなんか、私がいないと何も出来ないくせに!」
彼の手を振り払った後、そう言い放って、彼女は行ってしまった。
「ふっ、ああいう強気なところも魅力的だ。」
カリスは手を押さえながら、彼女の後ろ姿を見つめて微笑んでいた。
だか、どこか強がっているような雰囲気だ。
その証拠に笑顔が引きつっている。
アンビエントはそんな彼にヒルツを重ねていた。
ヒルツもリーゼに対してそんな節があったのだ。
アンビはヒルツを思うように悲しく鳴いた。
あれから二日が過ぎ、キースは毎日シャドーフォックスとともに荒野を走っていた。
一刻も早く、陸上ゾイドに慣れるためだ。
だが、走る度にフォックスは例の岩山に向かって走ってしまうのだ。
「まったく、お前はいったい何がしたいんだよ。」
キースは昨日一晩中考えた。
何故、フォックスが岩山に向かって走るのかを。
そして、しょうがないからそのまま走らせてみようと言う結論に至った。
だか、今日はそれは断念せざるを得なくなる。
フォックスの足が止まった。
そして、彼らの目の前にいたのは、
「随分とご執心だな。
ここまでしつこく迫るなんて、俺に惚れたか?」
「生憎ともう好きな人はいるの。
ごめんなさいね。」
リリスのジェノザウラーだった。
横にはワイバードもいる。
フォックスも威嚇の為の低いうなり声を上げた。
それに応えるかのようにジェノザウラーも吼える。
『キース、今すぐバン達を向かわせる。』
「いや、こいつにはでかい借りがある。俺1人でやるよ。
よこすんだったら、サンダーをよこしてくれ。」
『分かった。だが、無茶はするなよ。』
「ああ、分かってる。」
ハーマンとの会話が終わり、キースは操縦桿を握り直す。
司令室ではバン達が見守っている。
サンダーは彼を心配して、基地を飛び出した。
「今度こそ息の根を止めてあげるわ。
・・・ワイバード!」
リリスのかけ声と共にワイバードは緑色の光となって、
ジェノザウラーの中に吸い込まれていった。
「行くぜ、シャドーフォックス!」
甲高い雄叫びを上げて、フォックスは走り出した。
ジェノザウラーは腕を伸ばして、フォックスに掴みかかる。
だが、右へ左へと体を振り、器用に避ける。
そして、近付きざまに首下に噛みついた。
「ちっ、ちょこまかと!」
すぐに振り払い、今度はパルスレーザーと頭のビームガンでフォックスを狙う。
すると、突然コックピットの画面が黒い煙で覆われた。
「な、何!?」
フォックスがスモークデスチャージャーを使ったのだ。
すべての計器が役に立たなくなり、ジェノザウラーはその場で立ち往生。
その隙にキースは後ろからレーザーバルカンを発射し、
ジェノザウラーの脇腹から煙が上がった。
「やったか?」
キースがにわかに期待を寄せる。
だが、フォックスはまだ吼えている。
「まだ終わってない・・・か。」
持ち前の勘とフォックスの興奮の具合からそう判断した彼は、
間合いを取るために横に走りだした。
すると、さっきまで彼らがいた場所に光の槍が薙いだ。
荷電粒子砲である。
そのままそこにいたら、彼らは今頃、空を彷徨っていただろう。
だが、さらに驚くべき事態が起こった。
もの凄い風が起こって、煙が一瞬にして晴れたのである。
その風でフォックスも吹き飛ばされそうになったが、
とっさにフットロックで足を固定し、その場に踏みとどまる。
これはフォックス自身の判断だ。
「いったい・・・何が・・・?」
彼が前を見ると、ジェノザウラーが荷電粒子砲の発射態勢を取っていた。
そう、リリスは荷電粒子砲を発射したときに起こる衝撃波で煙幕を吹き飛ばしたのだ。
「結構やるわね、そのゾイド。
でも、ちょっと考えが浅すぎたわね。」
「くっ・・・。」
ジェノザウラーの脇腹から火花が吹き出しているが、
そんな事を気にする様子もなく、ジリジリと迫ってきた。
すると、フォックスがキースの意志を無視して走り出した。
彼は突然のことで驚いている。
ジェノザウラーもその後を追った。
シャドーフォックスがしばらく走っていると、例の岩山が見えてきた。
後ろからはジェノザウラーが足のブースターを全開にして、
パルスレーザーを撃ちながら追ってきている。
「このままじゃ止まった瞬間にやられちまう。
どうしたら・・・。」
彼が考えている間にも目の前に岩山が迫ってきた。
すると、フォックスが軽く鳴いた。
まるで、任せろ、と言っているみたいに。
キースほどのパイロットになると、ゾイドとの精神的な繋がりがかなり強くなってくる。
だからゾイドの感情も分かってくるのだ。
「よし、お前を信じるぜ、相棒!」
そう言って操縦桿を前に倒す。
彼の「相棒」という言葉にを喜ぶかのように、フォックスは高く鳴き、さらにスピードを上げた。
「何をする気なの?」
リリスの目にはシャドーフォックスが岩山に突っ込むようにしか見えなかった。
そして、岩山の一歩手前に迫った時、
フォックスはジャンプし、そのまま岩山を登っていったではないか。
ゾイドが登れるはずもない80°の急斜面を。
「いったい何であいつは登れるんだ?」
「あんな急斜面を・・・信じられん。」
司令室でアーバインとハーマンがそんな事を口にしていた。
全員の表情は驚きに満ちていた。
すると、ディが叫んだ。
「そうか、分かったぞ!
フォックスの足に付いているフットロックがピッケルの役目を果たし、
シャドーフォックスが滑り落ちるのを防止しているんだ。」
「すげぇ・・・。」
彼の説明に感心を覚える一同。
そのまま画面に釘付けになった。
「凄い、凄いぜ、お前・・・。」
キースも無邪気な子供のように喜んでいた。
リリスは荷電粒子砲を撃とうとしたが、
その前にフォックスが岩山を登り切ったため断念せざるを得なくなった。
一方、崖の上ではサンダーが待っていた。
どうやらずっとここで観戦していたみたいだ。
「サンダー、来い!」
サンダーは頷くと、羽を広げてシャドーフォックスと合体した。
この時、サンダーはゾイドコアの活性化だけに専念し、
フォックスの意志を消さないでいた。
「いくぜ、サンダー、シャドーフォックス!」
「キュイ。(O.K.)」
キースのかけ声にサンダーとフォックスが鳴き声で応える。
そして、来た方向とは逆の向きから下り始めた。
リリスはフォックスが出てきたところで荷電粒子砲を撃とうと待ちかまえていた。
だが、それも無駄に終わる。
突然、ジェノザウラーの右腕が爆発し、吹っ飛んだ。
「な、何?何が起こったの?」
彼女は完全に混乱していた。
必死で砲撃してきた相手を捜す。
すると、後ろから黒い機体が姿を現した。
実はシャドーフォックスは岩山を降りた後、
光学迷彩をかけて、ジェノザウラーの後ろに忍び寄り、砲撃したのだ。
「くっ、よくもやってくれたわね!」
「それはこっちの科白だ。
今のは俺からのお返しだ。
そしてこれはサイクロンブレイダーの分だ!
受け取りやがれ!」
フォックスは走り出した。
サンダーの影響でスピードがブレードライガーを上回っている。
ジェノザウラーも荷電粒子砲を発射しようとするが、チャージが間に合いそうもなかった。
「喰らえ、ストライクレーザークロー!」
フォックスの光った爪がジェノザウラーの左足を吹っ飛ばした。
ジェノザウラーはそのまま崩れ落ち、爆発と共に炎上した。
強い衝撃を受けたため、荷電粒子が逆流したのだ。
リリスは爆発する一歩手前にワイバードで脱出をしていた。
「逃がしちまったな。」
キースはそう言っている割には嬉しそうだ。
「それにしても、お前は本当に凄いな。
少しやんちゃだけどよ。」
フォックスは雄叫びを上げた。
勝利の雄叫びである。
そして、ここに最強のトリオが誕生した。
リリスは基地に舞い戻っていた。
その目には悔しさで涙が溢れている。
そして、廊下をワイバードと共に歩いていると、
「その様子だと失敗したみたいだな。」
彼女のもっとも会いたくない人物が姿を現した。
カリスである。
「やれやれ、失敗だけならまだしも、ジェノザウラーを失うとはな。
とんだ失態だな、リリス。」
「言いたいことはそれだけ?
そうだったら、ほっといて。」
カリスの皮肉に満ちた言葉を受け流し、
リリスはそのまま奥へと進んでいった。
「また、彼の所に行くのか?」
その言葉に彼女は足を止めた。
「彼に惹かれているのはいいが、彼はお前のことをどう思っているのかな。
第一、彼等をさらったのは紛れもない、お前だ。」
「それ以上言ったら・・・、殺すわよ。
私はおしゃべりな男が好かないわ。」
静かにそう言うと、彼女は再び歩き出した。
だが、
「殺せるものならな。」
と余裕の表情。
ほくそ笑みながらそう呟くと、彼はその場を後にした。
どうも〜、久々の第3部です。
結構手間が掛かってしまいました。
ついに出しちゃいました、シャドーフォックス。
「キースを陸戦ゾイドに乗せるとしたら」と思い、部屋のプラモ達と睨めっこ。
最初はライトニングサイクスもいいかな、と思ったのですが、
さらにアーバインと被ってしまうので、やめました。
そして、目に留まったのが黒いキツネでした。
まぁ、ゾイド投票で1位になったことだし、という軽い気持ちで決めました。(爆)
さて、来週は・・・森でバン達が迷子になっちゃった。
詳しくは予告週で。