キースとトーマはひたすら遺跡の奥へと進んでいた。
「あのくそガキ。
何処行きやがったんだ!」
さっき小馬鹿にされたのでキースはかなり頭に来ている。
しかも、リリスの笑い声がエコーで聞こえてくるのを余計腹立たしく感じていた。
でも、くそガキは言い過ぎなんじゃ・・・。
第一、年がばれますよ・・・。
ばれてるけど・・・。
「キース、今は装置を発見することが第一だ。
リリスの捜索は後ですればいいだろう。」
「でも、俺達が装置を切った瞬間に逃げられたら一貫の終わりだぜ。」
その瞬間、トーマは時が止まったような感覚に襲われたとか。
やっぱり何処か抜けてるな、とキースは呆れていた。
「じ、じゃあ、キースはリリスを捜してくれ。
俺は装置を止めに行くから・・・。」
「へいへい・・・。」
返事をすると、キースはT字路を左へ、トーマはそれの反対方向へ向かった。
その頃、バン達はそれぞれのゾイドに乗って待機していた。
「リーゼ、リリスの言ってたこと、本当なの?」
フィーネがリーゼとリリスが昔あったことがあるかどうかを聞いている。
「分からない。
でも、もしそうだったら、最初にあった時に思い出してるはずだよ。」
「そうよね・・・。」
結局、結論は出ずじまい。
だが、たった一つだけリーゼには思い当たる節があった。
(いつだったろう?
確か、ヒルツが昔女の子を連れてきていたような・・・。
でも、彼女は金髪じゃなかったし・・・。)
彼女はある光景を思い出していた。
それは、彼女がヒルツの元に来てから1年が経った頃に、
彼がとある女の子を彼女に紹介したというものだ。
その女の子とはそれ以来会ってはいなかった。
ヒルツの方は度々会っていたみたいだが。
「リーゼ、パルスが消えた。
出るぞ。」
レイヴンの言葉でリーゼは現実に舞い戻る。
「うん。」
彼女が静かに頷くのを見て、彼はブレイカーを発進させた。
バン達はもう先に行ってしまった。
ブレイカーの後にはシャドーフォックスとディバイソンが追走している。
「リーゼ。」
「何?」
「辛い過去は無理に思い出さなくてもいい。
見てるこっちが辛くなる。」
「うん、ありがとう・・・。」
レイヴンに励まされ、リーゼが微笑む。
そのレイヴンはそれを見て、少しだけ顔を赤くした。
「パルスが消えたわね。
わざわざ切りに行く手間が省けたわ。」
「こちらの搭載準備は完了しました。
いつでも出発できます。」
大きな広間でリリスが部下らしき男と話していた。
その後ろにはブラックレドラーが2機。
これに乗って逃げるようだ。
「一刻の猶予もないわ。
とっとと引き上げるわよ。」
「そうは問屋が卸さないぜ!」
広間いっぱいに男の声が響いた。
そして、入り口には銃を構えたキースの姿が。
「そう易々と逃げられたら、こっちの報酬が減っちまうよ。」
「くそっ!」
男がとっさに銃を構えるが、キースの反応の方が若干速かった。
ガキューン
キースの撃った弾丸は男の右肩に命中、男はその場に崩れた。
「大した腕ね。
ここからそこまで50mもあるのに。」
「まあな。
こう見えても射撃は得意なんでね。
さあ、おとなしく降参しな。」
少々荒い口調で彼が叫ぶ。
すると、彼女は突然笑い出した。
「何が可笑しい?」
「そうね。
じゃあ、良いことを教えてあげる。
あなたのお友達を預かってるわ。」
「友達・・・だと?」
「そう、あなたの一番の親友で、
ゾイドの生体の研究をしている科学者を・・・。」
彼女がそこまで言ったとき、キースの顔が驚きに変わる。
「まさか・・・、アレン!?」
「そう、その人と彼の妹もね。」
「何処にいる!?
あいつらは何処にいる!」
彼がそう叫んだとき、突然遺跡が揺れだした。
いや、正確にはその広間だけが。
「な、何だ!」
立っていられない程に揺れがひどくなり、そこら中にひびが入ってきた。
そして、天井も落下してくる。
だが、リリスのいるところだけは崩れていない。
「ワイバード!
少し、遊んであげなさい。」
彼女の声に反応するかのように、
遺跡の壁を突き破って、ゴジュラスが姿を見せる。
それとほぼ同時に揺れも収まった。
「ふざけやがって!
こんな奴とダンスを踊るつもりはねえ!」
そう叫ぶが、先程の揺れで床はガタガタ、人間がろくに歩ける状態ではない。
すると、彼の視界に飛び込んできたのは、リリスがブラックレドラーに搭乗する光景。
彼はとっさに銃を向けた。
「行かせるか!!」
キースが叫ぶと同時に銃を撃った。
その声にかき消されて、銃声はリリスの耳に届いておらず、
彼女は銃を撃ったことに気付いていなかった。
「キャッ!」
弾丸は彼女の足をかすり、リリスは搭乗する梯子から地面に落ちる。
先程キースに腕を撃たれて、手に力が入っていなかったのだ。
彼女が地面に体を強く打ち付け、気を失った。
すると、彼女の頭から何かがズレ落ちた。
キースはその事には気付いてはいない。
いや、それどころではなかったのだ。
「本格的にまずいな・・・。」
瓦礫のせいでキースを見失い、暴れ回るゴジュラス。
おかげでそこの天井は完全に吹き抜けてしまう。
だが、キースもそこを動けずにいた。
動いたら見つかってしまいそうだからだ。
「そろそろのはずなんだがな。」
すると、激しい爆音と共にゴジュラスの体から火が噴いた。
たまらず、鳴き声を上げた。
「やっと来たな、有象無象共。」
ゴジュラスが先程突き破った壁、
その向こうに砲口から煙を上げているディバイソンの姿が。
そしてそこから、黒い影が入り込み、彼の元に駆け寄った。
「サンキュー、助かったぜ。」
シャドーフォックスに乗り込み、通信回線を開いてトーマに礼を言う。
そして、背中のバルカン砲で反撃する。
これも聞いたようで、ゴジュラスは遺跡の外へと逃げ出した。
だが、外には、
「出てきたぜ、でかいのが。」
「さっきはよくもやってくれたな。」
「礼をさせてもらう。」
アーバインのライトニングサイクス、バンのブレードライガー、レイヴンのジェノブレイカーが。
そして、後ろにはディバイソンとフォックスと、ゴジュラスを完全に包囲する。
すると、苦し紛れとばかりに背中のロングレンジバスターキャノンを発射した。
「ちっ、悪あがきを。」
バン達も砲撃を開始するが、一向に効果がない。
逆に弾を避けたり、爪を避けたりと、そっちの方に神経が廻ってしまう。
「ワイバードの影響で、再生能力と防御力、それに運動性能まで上がってるわ。
ここままだと、こっちがやられちゃう。」
フィーネが分析しながら、バン達に注意を促す。
「くっ、荷電粒子砲さえ使えれば・・・。」
「でも、チャージしてる間にやられちゃうよ。
あいつのパワーだと、シールドも持ちそうにないし・・・。」
レイヴンが砲撃を避けながら舌打ちする。
「短時間でいい。
奴の動きを止められれば・・・。」
その時、バンに一つの案が浮かんだ。
「トーマ、アーバイン、“シールドブロッケイド”で奴の動きを封じるぞ!」
「そうか、その手があったか。」
「よし、了解!」
そう、かつてデススティンガーの動きを封じて、
グラビティカノンの弾を命中させた、デルタフォーメーション・ブロッケイドである。
これなら相手の動きを止められると踏んだのだ。
「レイヴン、少しの間だけ奴の動きを止める。
後は頼んだぞ。」
「分かった。」
ブレイカーが後ろに飛んで、フットロックをを固定する。
それと同時にライガーとサイクス、ディバイソンがゴジュラスの周りでシールドを展開、
そこから光が飛び出し、それをピラミッド状に覆った。
ゴジュラスはブロッケイドを破ろうとするが、攻撃が跳ね返るだけである。
「レイヴン、ゴジュラスの弱点は足だ!
足の付け根を狙え!」
「了解!」
キースのアドバイスで足に狙いを定める。
「くらえ、最大級の荷電粒子砲だ!」
ジェノブレイカーが荷電粒子砲を発射。
光の槍はブロッケイドに当たって少しの間停滞するが、
あらかじめシールドエネルギーを弱めにしたので、すぐに破ることが出来た。
そして、ゴジュラスは足を損傷して、その場に横倒しとなる。
その後、ワイバードがゴジュラスから飛び出した。
「ふう〜、ようやく片づいたぜ。」
全員が安堵のため息をもらす。
だが、それも束の間、遺跡から瓦礫の崩れるような音がした。
「な、なんだ!?」
遺跡の方を向くと、ブラックレドラーが遺跡を飛び出す。
その下の方にはなにやらケースみたいなものがぶら下がっている。
「リリス!」
「今日のところは私達の負けでいいわ。
けど、これはもらっていくわね。」
ワイバードがレドラーに合体すると、凄いスピードで空へと飛び去っていく。
今のバン達に彼女を追う体力も方法もなかった。
その後、先程リリス達のいた部屋を捜索するバン達。
だが、完全に崩れていて、手掛かりらしきものは見つかりそうにもない。
「おい、何か見つかったか?」
「この状態で何を見つけろって?」
トーマの言葉にレイヴンが愚痴をこぼす。
そして、一同が諦めかけていると、
「おい、こっちに来て見ろ。」
キースがみんなを呼んだ。
「何か見つかったのか?」
「ああ・・・、これだ。」
そう言って差し出したのは、金髪のかつら。
「これって・・・、まさか?」
「ああ、リリスのものだ。
梯子から落ちたときに取れたんだろう。
そして、この裏に付いているがあいつの本当の髪だ。」
かつらを裏返してみると、緑色の線が何本か見えた。
彼女の髪の色が緑色であることを示している。
「重要な・・・、証拠だな。」
バンが呟くように言う。
全員がリリスの謎について、また一歩前進したような心持ちであった。
その後、遺跡内を散策して、石版が見つかったことを付け加えておこう。
その数日後、ディが再び研究所にバン達を呼んだ。
「ディ爺さん、どうしたんだ?
また全員を呼びだして・・・。」
バンの問いにディが静かに話し出す。
「この間、お前さん方が見つけたリリスの髪と血液をDNA鑑定にかけてみた。
そしたら、とんでもないことが分かったんじゃよ。」
「とんでもないこと?」
「うむ」と頷くと、画面のスイッチを押した。
画面には螺旋状の何かが3束映っている。
「この右端のがリリスのDNA、
そして、この2本はそこのお嬢ちゃん方のものじゃ。
これを比較した結果、非常に似ていることが分かったんじゃよ。」
「それって・・・、もしかして!!」
「そう。
リリスも“古代ゾイド人”である可能性がある。
それも、非常に高い確率でな。」
「リリスが・・・、古代ゾイド人・・・。」
驚愕の事実を突きつけられ、全員が言葉を失った。
続く
ゾイド第3部、いかがでしたか?
今回はリリスの秘密に着目してみました。
けど、彼女にはまだとんでもない秘密があるんです。
今後の展開にご期待ください。
あと、キースの親友にも。
なんか、知らない間にどんどん深くなっていっちゃったなぁ。
頑張らないとね。
さてさて次回は、バン達が大ピンチ。
詳しくは次回予告で。