バン達が森で迷子になっている頃、

「待ちやがれ!」

荒野を駆ける2体のゾイドがいた。
一体はコマンドウルフ。
そして、もう一体はキースのシャドーフォックスだ。
どうやら、彼の言っていた“仕事”みたいである。

「俺達から逃げられると思うなよ!」

操縦桿を前に倒し、彼はフォックスを更に加速させる。
シャドーフォックスのスペックならコマンドウルフに余裕で追いつける。
そして、彼の思惑は現実となった。
フォックスとウルフが並んだのだ。

「チェックメイトだ。」

フォックスの背中のレーザーバルカンを横に向けて発射。
レーザーが脇腹に当たり、ウルフはそのまま失速した。

「賞金ゲットだぜ、フォックス、サンダー!」

「グルル〜!(ヤッター!)」

ウォーーン

彼の言葉に応えるかのようにサンダーとフォックス鳴き声を上げる。
彼等が喜んでいると、急に通信回線が開いた。
ハーマンからである。

「おっ、ハーマンじゃねぇか。
今、連絡しようと思ってたところだよ。」

浮かれ調子で応答するが、ハーマンいたって神妙な顔。

「キース、ちょっと頼みたいことがある。」

「どうしたんだよ?いったい・・・。」

「実は・・・。」

彼はバン達が森で離ればなれになってしまった事、
リリスに襲撃されている事を話した。
これらはトーマからの連絡で分かった事だ。

「また、あいつらかよ・・・。
飽きないねぇ。
まぁ、危ない状況だということは分かったし、
アルフの森に向かってみる。」

「済まない。
報酬はちゃんと払うから、頼むぞ。」

ハーマンの言葉に「ああ」と頷く。
すると、キースが何かを思いだしたらしく、声をあげた。

「あっ、そうだ。
賞金首を捕まえたから、処理班をこっちに回してくれ。」

「了解。」

そこで通信は終了した。

「さてと、アルフの森に向かうか。
でも・・・、」

そこで彼は外の光景を見た。
目線の先には、
賞金首の男がコマンドウルフのコックピットから這い出ようとしている姿が。

「あいつがおとなしく処理班を待つような性格には、見えないよな〜。」

彼が捕まえたのは盗賊、
素直に捕まるような性格じゃないのは一目瞭然である。
彼はしばらく考えると、
ある考えが頭に浮かび、フォックスのコックピットから飛び降りる。
そして、その男の目の前に立つと、彼はニヤリと笑ってこう言った。
すごい優しい声で。

「いい子だから、しばらくおねんねしてね〜。」

その後、何かを殴ったような音が荒野に響き渡ったという・・・。

 

 キースがそんな漫才をやっている頃(おいおい)、
フィーネ達は森をどんどん進んでいた。

「どうしたんだろう?
さっきからゾイドの気配がないけど・・・。」

「そうね・・・。
何か、嫌な予感がするわ。」

その言葉にリーゼは不安の表情を浮かべる。
以前、バンから聞いた話だと、フィーネの“嫌な予感”はよく当たるらしい。
おそらく、古代ゾイド人の第6感みたいなものなのであろう。

「へ、変なこと、言わないでよ。
ただでさえ薄気味悪い森なのに・・・。」

この時、リーゼは半分泣きそうになったという。
そんな会話が行われてから、数十分経った頃・・・、

「リーゼ、あれ!」

「な、何なにナニ、何なの〜!?」

突然、フィーネが大声をあげたものだから、
リーゼはパニック状態に。
ちょっと壊れかけてます・・・。

「もう、何ビクビクしてるのよ・・・。
ほら、あれ・・・。」

フィーネの言葉でやっと我に返ったリーゼ。
顔を赤くしながらも、フィーネの指さす方向に目をやる。
すると、

「あれが・・・、アルフ遺跡。」

森の木々の隙間から、まばゆい光と共に遺跡らしき建物の光景が飛び込んできた。
間違いなく、彼女たちが目指していたアルフの森の遺跡である。

「バン達が来てれば良いけど・・・。」

「とりあえず・・・、行ってみようよ。」

リーゼの言葉に静かに頷くフィーネ。
希望を胸に遺跡へと走った。

 

 遺跡は森が開けた場所に建っていた。
その大きさは予想以上に大きく、ガリル遺跡の2倍ないし3倍はあろうかというもの。
大抵こういうところは隠し部屋やいろいろな仕掛けがあり、
探索を余計困難にするものだ。
ましてや、今まで誰も足の踏み入れたことのない場所だ。
6人だけでは手を焼くことだろう。

「バン達はまだ来てないみたいね。」

「どうする?」

「ここにはゾイドは近付けないし、とりあえず安全ね。
調査はバン達が来てからにして、私たちは休みましょう。
こんな大きな遺跡だと、2人だけじゃ無理よ。」

5時間以上も歩きっぱなしだったので、
彼女達の体力はもう限界に近付いていた。
フィーネの提案により、少し休憩することに。

「ゾイドを寄せ付けなくさせるパルス・・・か。
いったい、誰が何のためにそんなものを・・・。」

「自然発生の可能性もあるって言ってたけど、どう見ても不自然よね。
大昔からそんなものがあったら、野良ゾイドなんて住み着くはずがないもの。」

フィーネの言葉にリーゼが頷く。
元来、野良ゾイドというものは人が乗り捨てたゾイドが野生化したもの。
野生と同じという訳なのだから、当然住む場所も選ぶ。
つまり、そんなパルスが発生しているところを住処に選ぶ訳がないのだ。

「ということは、最近になって発生したのかな。」

「それも、誰かが意図的に・・・、ね。」

その場の空気が一瞬にして張りつめた。
そう、それは他の誰かがこの遺跡にいることを意味している。
目的はどうあれ、それは確かだ。

「ついでに目的も教えてあげましょうか?」

その声を発したのはフィーネでもなければリーゼでもない。
明らかに第3者の声である。

「この声は・・・。
リリス、何処なの!」

「隠れてないで出てきたらどうなんだい!」

彼女たちの声が遺跡に木霊する。
そして、その声に応じるかのように彼女は暗がりから姿を現した。

「別に隠れてるつもりはないんですけどね、
古代ゾイド人のお嬢さん方。」

金の前髪をかき上げながらそう言うリリス。
今、この場の緊張はピークに達しようとしている。

 

 一方、こちらの緊張もピークに達していた。

「何だってこんな事に!」

「いいから逃げろ!」

アーバインとレイヴンが猛烈な勢いで走っている。
その後ろにはオーガノイド3体。
そして、さらにその後ろには・・・、なんとレブラプターとヘルキャット。

「まったく、お前があんなところで大声を出すから・・・!」

「その言葉、そっくりそのままお前に返す!
だいたい、お前が最初に叫んだんだろうが!」

逃げながらもケンカをするこの2人。
いったい、この元気はどこから出てくるのだろう・・・。
後ろのシャドーもそんな主人に呆れている。

「くそ・・・。んっ?」

アーバインが前方の何かに気付き、眼帯をいじる。

「曲がれ!
前からガ・・・。」

彼の声は爆音にかき消されてしまった。
弾を撃ったのは後ろの2体ではなく・・・。

「ガイサックだと・・・!」

そう、彼等の前にいるガイサックがレーザーを撃ったのだ。
挟み撃ちになるわけにもいかず、2人と3匹はそのまま右方向に曲がることに。
そこには道と呼べるものはなく、草と木が覆い茂っていた。
だが、それでも3体は追ってくる。

「ったく。しつこい奴は嫌われるぞ!」

「じゃあ、お前も嫌われ者だな。」

「お互い様だ!」

またケンカを始める2人。
少しは状況を考えて欲しいものである。
そんな彼等を見て、オーガノイド達は一言。

『グキャギャウ。(誰か、助けて〜!)』

悲痛の叫び以外の何者でもなかったとか。
そして、しばらく走っていると、森の様子が先程とは一変した。

「なぁ、何か嫌な予感がするんだが・・・。」

辺りの木は密集してきているし、前方には光が満ちている。
アーバインのその予感は的中することに・・・。
急に光が視界を覆った。
そして、彼等の目に飛び込んできたのは・・・、
なんと、一面の荒野。

「ここは・・・?」

「どうやら、森の外らしいな。」

しれっ、と言うアーバインに他のみんなは冷ややかな視線を送っている。
ちなみに彼の方向音痴ぶりはバンとルドルフが証人である。
だが、彼等にはのほほんと状況把握をしている暇はない。

ヒュー、ドゴーン

すぐ後ろで爆発が起こり、今ある状況にやっと気付く。

「とりあえず、ゾイドのところに戻るぞ。」

「異議なし・・・。」

言うが速いか、全員が慌ててその場を後にする。
案の定、ヘルキャット達は森を突き抜けて彼等を追った。

「そろそろ、やばいな・・・。」

流石に森の中とは違い、野良ゾイド達は悠々走り回っている。
彼等が追い付かれるのは時間の問題である。

「シャドー、先に行ってジェノブレイカーをここに・・・。」

レイヴンの指示に従い、
シャドーは羽を広げてゾイドのあるところへと飛んだ。
これで誰もが安心と思った、その時、
レブラプターが思い切りジャンプをして、彼等の行く手を遮った。

「まずいな・・・。」

額に汗を掻きながら、アーバインがポツリとそう言う。
こうしている間にも野良ゾイドがジリジリと迫ってきている。
頼みの綱のシャドーも今やっとジェノブレイカーに融合したばかり・・・。
そして、ガイサックが腕のレーザーカッターを振り下ろそうとした時、

ヒュー、ドゴーン

急にガイサックが爆発を起こした。
それには彼等もキョトンとしている。

「な、何が起こったんだ?」

その刹那、視界に爪を光らせた黒いゾイドが飛び込んできた。
それはその爪でレブラプターの腕を吹っ飛ばすと、
背中のレーザーバルカンでヘルキャットを仕留める。
それは暴風と言っても過言ではなかった。

「アーバイン、レイヴン、無事だったか?」

『キース!』

スピーカーから聞こえてきた声に2人が声をそろえて言う。
そのゾイドは紛れもなくキースのシャドーフォックスであった。
そして、

「グキュ〜。(ぼ、僕の出番は・・・。)」

フォックスの後ろでブレイカーに融合したシャドーが寂しそうに呟いていたとか。

 

 一方、リリスと遭遇したフィーネ達は・・・。

「私たちを古代ゾイド人って知っているのね。」

「オーガノイドを使っているんですもの。
そのくらいは知ってるわよ。」

フィーネ達は驚いていた。
彼女達が古代ゾイド人だという事はごく一部の限られた人間しか知らない。
ガーディアンフォース内の秘密事項とほぼ同じ扱いなのだ。

「そうそう、パルスを張った理由を知りたいのよね。
・・・ここの遺跡にはあるものが隠されてるわ。
私はそれを回収しに来たんだけど、外は野良ゾイドがウヨウヨ。
前まではこの遺跡の中にもいたのよ。
だから、この遺跡から半径5qにはゾイドが近付けないようにパルスを張ったって言う訳。」

彼女達に種を明かすように話すリリス。
だが、そこには疑問が残る。

「だけど、どうやってここからその『あるもの』を持ち出すんだい?
まさか、人が持っていけるほど小さなものじゃないんだろう。」

リーゼが疑問をぶつける。
すると、

「そんなのは簡単よ。
私達が出ていくと同時にパルスを止めれば良いんだから。
機能を停止させているゾイドだったら運び込めるのよ。」

「けど、何故私達にそんな事を・・・?」

今度はフィーネ。
これは当然の疑問である。

「マジックは終わってから種を明かすもの。
つまり、もう必要なものは搭載し終えたってこと。
だから、今更あなた達がどうこうしたって、もう無駄なのよ。」

「させるか!」

リーゼがとっさに隠し持っていた銃を構える。
だが、

ヒュッ、パン

「つっ・・・!」

リリスが持っていた鞭ではたき落とした。
銃が音を立てて転がると同時に、リーゼの手から血が滴り落ちる。

「リーゼ、大丈夫?」

フィーネが駆け寄ると、彼女は右手をもう片方の手で抑えて、うずくまっている。
被害は皮一枚で済んだようだが、出血はまだ止まっていない。

「無駄だって言ったでしょ。
少しは大人しくしたら。」

彼女達に数歩近付いて、リリスは冷たく言い放つ。
さっきとはうって変わって冷酷な表情となっている。
それは初めて彼女達が遭遇した時と同じものである。

「リーゼ、虫は?」

「ごめん、パルスのせいで使えない。」

実はパルスのせいで彼女ご自慢の虫ゾイドも使えなくなっていた。
まさに絶体絶命の状態である。

「別れの挨拶は済んだかしら。
自慢の虫も使えないんじゃ、流石の“青い悪魔”も形無しね。」

その言葉にリーゼがはっ、となる。
その事も殆どの者しか知らない事なのだ。

「お前、何故その呼び名を・・・。」

「忘れちゃったの?
私達、会ったことがあるのよ。
9年ぐらい昔にね。」

「えっ・・・!」

「さてと、もう未練はないわね。
じゃあ、死んでちょうだい!」

驚くリーゼ達にリリスの鞭が振り下ろされた。
フィーネはリーゼを抱えてとっさに横に避けるが、逃げ遅れた足に鞭が当たってしまう。
そこには血は出ていないものの、内出血の跡が出来ていた。

「くっ・・・。」

「フィーネ!」

痛みで顔を歪める彼女にリーゼが声を上げる。
そして、次の一撃をリリスが繰り出そうとした。
だが、

ガキューン

「きゃっ!」

銃声と共にリリスの手から鞭が離れた。
肩を撃たれたようで、そこから血が出ている。

「大丈夫だったかい?お嬢さん方。」

そこにはキースが銃を構えて立っていた。
その後ろには、

「フィーネ、大丈夫か!?」

「リーゼ!」

彼女等の旦那が駆け寄ってきた。

「バン!」

「レイヴン!」

涙目になって彼等にすがる彼女達。
緊張の糸が切れたのか、涙が溢れていた。

「一応、俺達もいるんだが・・・。」

「完全に2人の世界に入ってるな。」

「やれやれ、状況ぐらい考えろよ。」

アーバインとトーマがリリスに銃を向けながらポツリとそう漏らしていた。
キースもなんだか寂しそう。
ちなみに言っておくがアーバインとキースは彼女がいない・・・。

「あなた達、いつの間に!?」

「さっきからペチャクチャ喋ってたからな。
エコーで会話の内容は筒抜けだったし、居場所を見つけるのも簡単だったぜ。」

「まっ、流石に5qも歩くのはしんどかったがな。」

キースとアーバインがそれぞれ説明する。
実はアーバイン達はゾイドをパルスの圏外ギリギリのところへ停めて、歩いて遺跡まで来た。
そして、入り口のところでバン達に合流したというわけだ。
ちなみにバンのブレードライガーはジークが、
トーマのディバイソンはスペキュラーがそれぞれ融合して運んだ。

「さぁ、今度はこっちの質問だな。
ここにあるものの正体を教えてもらおうか。」

トーマが強い口調でリリスに尋ねる。
すると、

「じゃあ、後ろの人に聞けば?
ねぇ、カリス。」

『何!』

リリスの言葉に全員が後ろを振り返る。
だが、そこにはカリスどころか、誰の姿もない。
もしかしてと思い、全員が再び前を見てみると、

「リリスが・・・、いない・・・。」

案の定、リリスはその場にはおらず、
ただ暗闇だけが目の前に広がっていた。

((古典的な手に引っかかってしまった・・・。))

全員してそんな事を思ったとか。
そして、リリスの爆笑の声が後になって木霊してきたという。

「と、とりあえず、俺はパルス発生装置を止める。
バンとレイヴンはフィーネとリーゼをゾイドに運んで手当をしてやれ。
アーバインとトーマはバン達のボディーガードだ。」

キースが的確に指示を出す。
これはフィーネ達の状態と、
アーバイン達がゾイドでここまでこられるようにする為だ。

「それだったら俺も行く。
ディバイソンだったら、ビークの自動操縦でここまでこれる。
それに機械だったら俺の方が詳しい。」

「じゃあ、アーバイン。
バン達を頼むぜ。」

「あいよ。」

こうしてキースとトーマは遺跡の奥に、
バン達は一旦、ゾイドのところに戻ることとなった。

 

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