「森の遺跡」

 

 今、バンは深い森の中を歩いている。
日光が木に遮られ、かなり薄暗い。
道を確かめるのも一苦労だ。

「トーマ、どうだ?」

「まだ、目的地にはほど遠いな。」

トーマがビークのサーチ結果を見ながらバンに答えを返す。

「いったい、いつになったら遺跡に着くんだ?
もう3時間も歩いてるぜ。」

「そんなことこっちが聞きたい。
まったく・・・、俺だってお前なんかと歩きたくない。」

最後の方をかなり小さな声で言う。
そう、彼の言葉通り、2人しかいないのだ。

「フィーネ達も早く見つけないとな。」

心配そうな顔で呟くように言うバン。
そして、歩き出そうとすると、

「待て!」

トーマが呼び止めた。
バンが振り返ると、彼は黙ってある方向を指さす。
その方向には、

「レブラプター・・・か。
あれも野良ゾイドか?」

「そうみたいだ。」

大木の陰に隠れながら、悠然と歩いているレブラプターを見る。

「さっさと遺跡に着かないと、いつかあいつらの餌食になっちまうな。」

「ああ。
ビーク、安全な道を見つけだすんだ。」

特有の電子音が鳴る。
ビークが命令を受理したのだ。
しばらく時間が掛かりそうだったので、2人はその場に腰を下ろした。

「フィーネ・・・。」

バンが呟きながら、微かに見える青空を見上げる。
その表情は見ている方も痛くなりそうだった。

 

一方・・・、

「リーゼ、こっちよ。」

「そんなに早く行かないでよ。」

フィーネがリーゼと共に道を歩いていた。
こっちもこの2人だけだ。
近くにはオーガノイドもいない。

「バン達、大丈夫かしら?」

「確かに、野良ゾイドがこんなにウロウロしてたら、かなり危険だもんね。」

そう言う彼女もレイヴンを心配していた。
こっちは女性が2人だけ。
心細いのはバン達の比ではない。

「とにかく急ごう。
遺跡に行けば、そこでみんなに会えるはずだよ。」

「そうね。」

「いざってなったら、虫を使ってゾイドを操ればいいしね。」

リーゼが明るく声をかける。
まるで、フィーネを安心させるかのように。
そして、自分にも大丈夫と言い聞かせていた。

「一応、頼りにしてるわよ。」

「何か引っかかるな、その言い方。」

そんな会話をしながら、暗い森の小道を進み出した2人であった。

 

そして、こちらは・・・

「しかし、だだっ広い森だな。
いつになったら目的地に着くんだか。」

「うるさい。
文句を言っている暇があったら、とっとと歩け。」

全く咬み合わないアーバインとレイヴンのコンビ。
その後ろにはオーガノイドが3体。

「こんな時にキースは仕事だもんな。
俺も仕事を見つけりゃよかったかな。」

「さあな。
まぁ、ガーディアンフォースの仕事は、遺跡の調査も含まれているらしいからな。
こんな面倒なこともあるさ。」

「ただの遺跡調査だったらな・・・。
あの女、余計なちゃちゃ入れやがって・・・。」

ふぅ、と一息吐いて、また歩き出す。
後ろのオーガノイド達は先行き不安な顔をしていた。

「グルルル。(大丈夫かなぁ・・・。)」

「グキュ〜。(さあ。)」

「キュイイ。(バンとフィーネは無事かな?)」

そう言いつつも、周りの気配に探りを入れてる3体であった。

 

 

 さて、どうしてこうなってしまったかというと・・・、
今から5時間前、
バン達ガーディアンフォース+アーバインはDr.ディに呼び出され、
彼の研究所へと集まっていた。

「ディ爺さん、話って何だ?」

「お前さん達に、ちと頼みたいことがあってな。」

バンの問いにそう答えると、彼はとある場所の地図を広げた。

「ここが今いる儂の研究所。
そして、この森がアルフの森じゃ。
実は、この森にも古代ゾイド人のものと思われる遺跡がある。
そこに行ってもらいたいんじゃよ。」

彼が指で地図をなぞって説明する。
そこには緑色で塗られている部分に赤い丸印が記されていた。

「それで、どうして我々なんだ?」

今度はトーマ。
すると、ディは重々しい口調で話し始めた。

「以前、軍の方の調査部隊がここに向かったんじゃが、
この森には凶暴な野良ゾイドが出没するという事で断念。
以来、ここの研究は見送られてきたのだよ。
そして、この森は表面が木に覆われていて、小型ゾイドじゃなきゃ入れん。
だが、木の密度は内部の方はすかすか。
奥地には大型ゾイドが住み着いておる。」

「飛行ゾイドは使えないのか?」

今度はレイヴン。

「飛行ゾイドを使っておおよその位置は特定できた。
だが、そこはゾイドを寄せ付けるのを防ぐパルスが出ていてのう。
飛行ゾイドでは不可能じゃ。
だから、小型ゾイド、もしくは徒歩でそこに行く必要がある。
しかも、小型ゾイドでも途中までしか行くことができん。」

「それって・・・、かなり危険なんじゃ・・・。」

リーゼが思わずうっ、となる。
そりゃそうだ、
小型ゾイドで大型ゾイドに勝負を挑むほど危険なものはない。
ましてや、無防備な徒歩なんて話にならない。

「だからこそ俺達に頼むんだろ、爺さん。」

「やってくれるな。」

静かに放ったディの言葉に、全員がその言葉に力強く頷いた。
それを見て彼は今回の任務を説明する。

「お前さん達にはこの遺跡に行ってもらい、
ゾイドが近付けなくさせているパルスの出所を調べだしてほしい。
そして、解除できるのだったらそれを止めてくれ。」

「ああ、分かった。」

バンがそう言って地図を受け取る。
すると、アーバインがこんな質問をぶつけた。

「ところで、ちゃんと報酬は出るよな?」

「ちゃっかりしてるのう、お前さんは。
ハーマンに頼んで出してもらうから安心せい。」

泣いても笑っても彼は賞金稼ぎ。
報酬がなければ飢え死にである。
何はともあれ、こうしてバン達は遺跡の調査を引き受けた。

 

 その約2時間後、彼等はアルフの森に着いた。
ゾイドが小動物に見えるような大木が入り口に多い茂っている。

「確かに大型ゾイドじゃ通れないな。」

「しょうがない、ゾイドはここに停めておこう。」

バンとレイヴンの意見にみんなが従い、それぞれのゾイドから降りた。
実際、一番大きな隙間を見ても、ライトニングサイクスがやっと通るぐらいだ。
そんなのでは、ブレードライガーやディバイソンはおろか、
ジェノブレイカーなんかは入りそうにもない。

「凶暴な野良ゾイドがウヨウヨ・・・か。
ビーク、遺跡までの安全なルートを探し出せ。」

トーマにしか分からない電子音が鳴り、
A.I.のビークが森のデータをトーマに送る。

「よし、この道を行けばいい。」

誇らしげに道を指さすトーマ。
だが、

「ビークって本当に便利だよな。」

「本当、凄いわね、ビークって。」

みんなが誉めるのはビークだけだったりする。

「おい、ちょっと待て。
凄いのはビークを作ったこの・・・。」

「トーマ、追いてくぞ。」

彼の悲痛な訴えかけはアーバインの言葉でかき消された。
今、一番哀れなのは彼なのかもしれない・・・。

 

 森に入って少なくとも10分は経過していた。
最初は殆ど見えなかった目も、今では森の暗さに慣れ、よく見えるようになっている。
中はディが言ったとおり、木はまばらにしか生えていない。
これならブレードライガーどころか、アイアンコングまでもが自由に歩き回れそうだ。
それでも暗いのは、彼等の上、それも50mぐらい上の所に、
枝がひしめき合って、葉がうっそうと覆い茂っているからであろう。
大抵、森の木というものは光が当たる場所にしか葉をつけないものなのだ。

「トーマ、後、どれくらいだ?」

バンが先頭を歩いているトーマに聞いた。

「まだまだだな。
安全なルートを進んでいるから、結構遠回りになっている。」

ビーク・モバイルからの情報を見ながら答える。
すると、

「なんだ、この固まりは?」

アーバインが道を遮るように横たわっているものに気付き、声をあげた。
かなりの大きさだ。
乗り越えるのは難しいだろうと誰もが思う。

「これは・・・。」

全員がまじまじとそれを見ている。
それ自体の色は深緑で、その表面を明るい色のコケが覆っている。
そして、ところどころが石になっていた。

「ゾイドの、ゴルドスの死骸・・・だよ。」

リーゼが呟く。
彼女の言うとおり、背中と思われる所には背びれがあり、
左前方の方には大きな頭が見えた。

「大型ゾイドがいるって言うのは間違いじゃなさそうだな。」

レイヴンがディの言ったことを思い出す。

「大きな引っ掻き傷があるな。
それに・・・この噛み跡・・・。
間違いない、ゴジュラスだな。」

「ゴジュラスが・・・この森に・・・。」

トーマの言葉にみんなが唖然となる。
一瞬静かになったその場も、鳥のざわめき声が聞こえてくる。
それがかえって不気味だ。

「先を急ごう。
襲われたら一溜まりもない。」

バンの言葉にみんなが頷く。
そして、ゴルドスを迂回するため、回り道をしようとしたときだった。

「そんな事言わないで、もうちょっとゆっくりしていったら?」

聞き慣れた声が森に木霊した。
それは彼等がこの場でもっとも会いたくない人物の声。
全員の間に緊張が走った。

「リリス、何処なの!?」

フィーネが真っ先に声をあげる。
男性メンバーも銃を構えて、周りを見渡す。

「何処見てるの。
ふふふふ・・・。」

次に放った言葉で彼女の居場所が分かった。
それと同時に全員がゴルドスの上を見る。
そう、彼女はゴルドスの上にいるのだ。

「は〜い。」

座りながら、無邪気そうに手を振るリリス。
それだけ余裕があるのだろう。

「今度は何を企んでいる!?」

「ちょっとこの先の遺跡に用があってね。
そしたらあなた達を見つけたから・・・。」

バンが声を荒らげるが、彼女はいたってすました表情。

「まぁ、あなた達がここにいるって事は遺跡に用があるんでしょう。
私の仕事の邪魔になり兼ねないし、ここで死んでもらうわ!」

パチン

彼女が指を鳴らすと、何かの足音が聞こえてきた。

ズシーン・・・、ズシーン・・・、ズシーン・・・

かなり大きなものである。
すると、

メキメキメキメキ・・・ドシャーン!

彼等の後ろに巨木が倒れ込んだ。
そして、現れたのは・・・、

「ゴジュラス!」

アーバインが叫んだ瞬間、ゴジュラスの目が光る。
そして、けたたましい鳴き声を上げた。
どんな相手でも尻尾を巻いて逃げ出しそうな声。
かつて、惑星Ziで最強を誇ったゾイド、その実力は今も健在である。
しかも、彼等は今、ゾイドに乗っていない。

「ワイバード、ちょっと遊んであげなさい。」

リリスはゴルドスの上からそう言うと、そのまま向かい側に飛び降りた。
どうやら、ワイバードがゴジュラスの中に入っているようだ。

「こんな奴と遊べるか!」

レイヴンの言葉を合図にみんなが森の奥に駆けだした。
ゴジュラスもそれを追いかけるが、
いくら大型ゾイドが動き回れると言っても、
ゴジュラスの森の中での速度はたかが知れている。
だが、彼等を追いかけるのにはそれで十分だった。

「何とかしないと、俺達のスタミナがつきちまうぞ!」

「このまま踏みつぶされて、押し花になるのはやだよ!」

「しょうがない、あれを使うか。」

アーバインとリーゼの声に押され、バンが腰から黒い球体取り出す。

「それは?」

「まぁ、見てろって。」

その球についている栓を抜くと、中から白い煙が発生した。
そして、それを前の方に投げると、煙の量が途端に増し、
あっという間に彼等を包み込む。
彼は煙幕を張ったのだ。
気が付くと辺り一面煙だらけになり、ワイバードはバン達を見失った。

 

 だが、もちろん煙幕というのはみんなが見えなくなるわけで・・・、

「フィーネ、ジーク、何処だーー!」

「フィーネさーん!」

バンはフィーネ達を見失い、代わりに着いてきたのがトーマ。

 

「バーン、ジーク!」

「レイヴン、スペキュラー!」

フィーネはリーゼと共に相方と恋人探し。

 

「バン、フィーネ!」

「リーゼ!」

「グォ〜。(バーーン!)」

「グルル〜。(リーゼ〜!)」

「グキュ〜。(離ればなれになってしまいました・・・)」

アーバインはレイヴンとジーク、シャドー、スペキュラーと一緒。
そして、

「参ったな。完全にはぐれちまったぜ。」

バンは途方に暮れていた。
煙幕なんか使わなければ・・・、しっかり手を繋いでいてやれれば・・・、
後悔の念ばかりが押し寄せてくる。

「とにかく、遺跡に向かおう。
もしかしたら、フィーネさん達はそこに向かっているかもしれん。」

「・・・そうだな。」

トーマに言われるがままに進み出すバン。
今の彼にはどれほどトーマがたくましく見えたことだろう。
始めてトーマが年上だと実感した瞬間だった。

 

「どうしよう、リーゼ。
バン達とはぐれちゃった。」

「レイヴンも無事だと良いけど・・・。」

こちらは女性2人組。
心細さで胸が張り裂けそうだ。

「とにかく、遺跡に行こう。
ここでじっとしているよりはましだよ。」

「そうね、バン達もそこに向かってれば・・・。」

互いで互いを支え合う形になった2人は森の奥へと進んだ。

 

 一方、アーバインとレイヴンは、

「で、なんでこいつらは3体一緒なんだ?」

「さあな。」

アーバインがオーガノイド達を見て一言。
レイヴンは次にどうしようかと考えていた。

「やれやれ、気難しい奴だけかと思ったら、こいつらまで一緒にきてやんの。
面倒くさいことになったな。」

とりあえず聞こえないように呟き、空を仰ぐ。
だが、さっき見た光景とあまり大差はなかった。

「で、どうする?」

「とりあえず、遺跡に行こう。」

「そうだな、あいつらのことだ。
今頃、遺跡に向かってるかもな。」

意見がまとまり、こちらも遺跡に向かうことに。
そして、レイヴンが一言。

「気難しい奴で悪かったな。」

さっきの話は聞こえていたりする・・・。

 

続きを読む       第三部TOPに戻る        ZOIDS TOPに戻る