彼等が壊れた扉を踏みつけて、部屋の中に入る。
明かりらしきものはなく、暗闇までとは行かないが、かなり暗く感じる様子。
しかも、足音の反響からして部屋自体がかなり広い。
こんな状況で人を捜せと言うのだから少し無理がある。
「バン、いたら返事しろ!」
「フィーネ、どこ〜!」
「バン、どこだ〜!」
3人がそれぞれ叫ぶ。
すると、突然マグネシウムを燃やしたような閃光が部屋に広がり、
レイヴンとリーゼが思わず手で目を覆う。
キースは光が見えた瞬間に頭のサングラスをかけた。
そして、段々と光が和らぎ、部屋の明かりと同程度になる。
「レイヴン、リーゼ、キース!」
バンの声が聞こえ、その方向を振り向くと、
バン、フィーネ、トーマにジークが縄で縛られていた。
だが、そこにいたのは彼等だけではない。
「よくもまぁ、その扉を破れたものね。」
「本当にお前達は驚かせてくれるよ。
毎度毎度のことだがな。」
そこにはバン達に銃を向けたカリスと、
鞭を構えてレイヴン達を見据えているリリスがいた。
彼等の横には例の如く、アンビエントとワイバード。
「格闘技は昔から得意だったからな。
サンダーもあれで大人しくさせたんだよ。
それにしても、お前、緑髪の方が似合ってるな。」
キースが負けじといつもの口調で返す。
すると、
「やっぱり親友なのかしらね。
アレンも同じ事を言ってたわ。」
キースの表情が引き締まった。
それにはバン達も怪訝な顔をする。
「それで、あいつはここにいるのか?」
少しトーンを低くして彼が言う。
それに答えたのはカリスだった。
「その前に、そちらの武器をこちらに放ってもらおう。
これが目に入らない訳ではあるまい。」
「ちっ。」
バンのこめかみに当てられた銃をちらつかせる。
仕方が無く、レイヴンとキースは銃を彼等の足下に投げた。
「さてと、いよいよ最後の時だな。
アレンだが、彼は確かにこの中にいる。
・・・聞きたいことはそれだけか?」
「とりあえずはな。
まっ、後でわんさか出てくるかもしれないけどよ。」
「あんたって本当にいい性格してるよ。」
口の減らないキースに、リーゼの方が呆れている。
レイヴンはジッと彼の方を見て、
「おい、何か手はあるんだろうな。」
小声でキースに話しかける。
「ああ、まだ手はある。
一瞬でいい、相手の目を俺から逸らしてくれ。」
「分かった。
お手並み拝見といこうか。」
この瞬間、彼はキースのこの余裕に自分の命を託した。
おそらく、レイヴンが命を他人に預けるということは初めての経験であろう。
リーゼもそれには賛成した。
「さて、まずはお前から死んでもらおう。
ただの賞金稼ぎが出しゃばりすぎたな。」
カリスが銃をキースに向ける。
そして、引き金を引こうとした時、レイヴンが声をあげた。
「おい、その前に俺の質問に答えてもらおう。」
その瞬間、全員の目が彼に向けられる。
キースを除いて。
「何だ、いったい?」
「アンビエントはどうしてお前に従っている?
名残惜しくて、あの世には行けないな。」
「それは、トップシークレットの為、却下だ。」
カリスは口で笑うと、再び銃をキースに向けようする。
だが、
ヒュッ
風を切る音と共に何かがカリスの手に刺さった。
その痛みと驚きで銃を落としてしまう。
そして、その隙をついて、キースが銃を拾おうと腕を床に伸ばしながら走り出した。
リリスがそれに気付き、鞭を振るおうとしたが、
一瞬だけ彼の動きが速く、
ガキューン
リリスの手から鞭が消え、血だけが残っていた。
彼はその位置で身体を捻り、カリスに回し蹴りを喰らわす。
まともに喰らった彼は床に身体を打ち付けた。
「アンビエント!」
彼女がキースの一番近くにいる赤いオーガノイドの名を呼ぶ。
それに反応し、それが角の付いた尻尾を彼目掛けて振った。
すると、
ガキッ
金属と金属がぶつかる音が鳴り響く。
アンビエントの尻尾を受け止めたのは、なんとバン。
「ふぅ〜、ギリギリセーフ。
サンキューな、キース!」
「バン、お前、縄は?」
キースが驚きのあまり、一瞬状況を忘れて思わず問い掛ける。
だが、彼が忘れていたのは一瞬、
すぐにアンビエントの身体に蹴りを入れ、相手を壁に叩き付けた。
「ああ、あれ。」
バンが指さす方向を見ると、リーゼがナイフで彼等の縄を切っていた。
ワイバードもスペキュラーに抑えられている。
そして、レイヴンはリリスに銃を向けていた。
「2人もやるね。」
キースがポツリと呟くと、倒れているカリスの手に刺さったものを抜いた。
それはなんと、トランプのカード。
「スペードの10か。
『いくら焦っても、思い通りにはなりません』、だとよ。
こう見えても、トランプ占いが趣味なもんでね。」
言うだけ言うと、視線を今度はリリスに向けた。
「それで、さっきの質問の答えを出してもらおうか?」
レイヴンがリリスに問いただす。
彼女は手を押さえたまま、緑色の瞳でキッと彼等を睨んでいた。
「別に彼に従ってる訳じゃないわ。」
「そうだろうね。
さっきは君の命令を聞いていた。
しかも、カリス以上に反応が速い。
オーガノイドは信頼している人物の命令をよく聞くからね。
お前、ヒルツと何か関係が・・・。」
リーゼがそう言いかけた時、突然明かりが落ち、
再び暗闇がその空間に広がる。
そして、
「グギャウ!」
スペキュラーの叫び声が部屋に響いた。
その十数秒後、明かりが灯り、彼等の目に衝撃的な光景が映し出された。
なんと、ワイバードを抑えつけていたスペキュラーが壁に吹っ飛ばされていたのだ。
「スペキュラー!」
リーゼが悲惨な状態になったオーガノイドに近付く。
そして、
「バン、リリス達がいないわ。」
リリスとワイバード、倒れていたカリスとアンビエントがその場から姿を消した。
その頃、外では、
「これで終わりだ!」
ライトニングサイクスがレーザーを放ち、ディロフォースを仕留める。
それが最後の敵でこっちの戦闘も全て終了した。
「でも、こんなたくさんのゾイド、どうやって?」
レックスが倒れているレブラプターやヘルキャットを見て、そんな疑問を浮かべる。
彼女達が倒したそれらの数は50を超えていたのだ。
こんな数を短時間で手に入れられる訳もない。
「スリーパーを捕まえた、というのはなさそうだな。」
アーバインが自分の意見を述べる。
それというのも、
帝国軍が殆ど全てのスリーパーゾイドを回収したという情報があるからだ。
そして、ゾイドの足を研究所に向けた時、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
突然、地面が揺れだした。
「いったい、何?」
「あれを見ろ!」
アーバインの声で彼女が研究所の奥を見てみると、
なんと、ホエールキングが飛び立とうとしているではないか。
「くそ、リリス達の奴、逃げる気だな。」
本当は待て、と言いたいところだが、
先程の戦闘でもう体力は限界に近付いていた。
それはシャドーとサンダーも同じ。
それを嘲笑うかのように巨大要塞は鳴き声をあげて飛び去っていく。
アーバイン達も、研究所内にいるバン達も、それを黙ってみているしかなかった。
その後、研究所内をくまなく捜索したが、何の手掛かりも掴むことが出来なかった。
そして、ホエールキングのデッキでは、
「まったく、今回は本当に危なかったわ。」
リリスがカリスに向かって愚痴る。
当の本人は自分の手に包帯を巻いていた。
だが、利き腕に巻いている訳なので、一向にうまくいかない。
すると、その包帯を第3者の手が巻き始めた。
「今回は貴方のおかげで助かったよ。」
「どういたしまして、と言った方がいいのですか。」
白く長い髪の“少女”が丁寧な口調でそう話す。
そんな光景にリリスは呆れ顔。
「本当に反省をしない人ね。
まぁ、助かったからいいけど・・・。」
彼女がそう言い終わる頃、ちょうど包帯を巻き終えた。
“少女”は立ち上がって一言。
「今度は私が言ってもいいですか?」
「好きにしてくれて構わない。」
「ありがとうございます。
ただ、もうちょっと時間が掛かりますの。
だから、もうちょっと彼等のお相手をお願いできます?」
“少女”がそう言うと、リリスがやれやれと言った感じで、
「分かったわ。
そのかわり、次で最後になっても知らないわよ、レイナ。」
少し皮肉めいた口調で彼女が答える。
だが、
「ありがとうございます。」
ニッコリ笑顔でレイナがそう言った為、リリスはちょっと拍子抜け。
普段だったら何か言い返す彼女だが、今回は精神的疲れの為、断念。
そのやり取りを3体のオーガノイドはジッと見つめていた。
一体は緑、もう一体は赤、
そして、最後の一体はシャドーよりも黒い『闇』色であった。
その後、GF本部では、
「なぁ、キース。
アレンって何者なんだ。」
バンがキースにそんなことを尋ねていた。
彼はリリスが放った一言が引っかかっていたようだ。
その場にいた当事者も興味津々で聞いている。
すると、キースはこんな事を言い出した。
「『野生ゾイド保護地区』というのを知っているか?」
「ああ、ガリル高原のさらに北にある、ユーパス山脈のふもとにつくられた、
絶滅寸前の野生ゾイドを保護している地区だな。
たしか・・・、1,2年前に出来た・・・。」
トーマが全員に説明すると、
キースはああ、と頷き、話を続けた。
「アレン・スレット、彼はそこの管理人であると同時に、
ゾイド生態の研究をしている科学者もしている。
そして・・・、俺の同郷の親友だ。」
「でも、何故リリスがその人の名を・・・。
まさか・・・。」
「ああ、リリス達に、捕まっているらしい。」
その瞬間、バン達の表情が驚きに変わった。
「どうして今まで黙ってたんだ!」
トーマが声を荒らげる。
すると、キースはテンションを落として話し出した。
「俺だって最初は信じられなかった。
だから、せめて自分の手で確かめたかったんだ。」
「だからって・・・。」
フィーネが何か言いかけたが、バンが手でそれを制す。
キースの握り拳が震えていたのだ。
「それで、どうだったんだ?」
「分かっているのは、アレンの他にあいつの妹も捕まってる、ということだけだ。
だいぶ会ってなかったからな、俺が賞金稼ぎになってから・・・。」
紙カップに入ったコーヒーを飲み干して、さらに続けた。
「だけどよ、
アレン達は絶対に助け出してみせる。
絶対にな!」
彼は紙コップを握りつぶした。
彼の決意の言葉と共に。
その頃、とある森で女性が1人、碧色の肩まで伸びた髪を靡かせながら歩いている。
いつも通り慣れている道なだけに、いつもと同じ様に進んでいる。
だが、川に掛かっている橋を渡り始めた時、彼女の“いつも”は崩れ去った。
彼女がふと川を見ると、なんと川の淵に人が倒れていたのだ。
「大変!」
彼女は慌ててその場に駆け寄る。
見た感じ男性である。
「よかった、息がある。
もしもし、大丈夫ですか?」
身体を揺さぶってみるが、反応がない。
どうやら気を失っているようだが・・・。
「早く人を呼んでこないと・・・。」
そう言って彼女はコロニーへと急いで戻った。
赤い髪の男を助けるために・・・。
やっとあがった〜。
もう夜中の2時だよ・・・。
謎がいっぱいの第3部。
いよいよ、大きな山の一つに差し掛かりました。
けど、その山がまだいくつもある訳で・・・。
ここでオリキャラの紹介です。
まず、Yukiさんから頂いた、レックス・ハーティリー。
シュバルツの彼女という設定です。
この2人の恋をどうぞ応援してあげて下さい。
そして、もう1人が桜神さんから頂いたレイナ。
今は事情があって、名前だけしか出せませんが、
彼女もキーパーソンの1人、要チェックです。
今のところ、第3部の投稿キャラはこれぐらいです。
Yukiさん、桜神さん、どうもありがとうございました。
あと、予告に出ているサウラとはキースの妹の名です。