バン達が牢屋に入れられた頃、
ガーディアンフォースの基地では、

「レイヴン、もうあの夢は見なくなった?」

「ああ、だいぶ落ち着いた。」

寝ているレイヴンに、リーゼがベットの脇から膝を突いた形で声をかける。
実は彼、最近悪夢にうなされていて、ろくに睡眠をとっていなかったのだ。
だから、リーゼの力により記憶を封印して、久しぶりに眠ったのだ。
ちなみにシャドーとスペキュラーは部屋の隅で丸くなっている。

「ねぇ、どんな夢見たの?」

「さあな、忘れたよ。」

ふっと笑いながら起きあがるレイヴン。
リーゼはそんな彼をみながら、

「もう、意地悪なんだから。」

と笑いながら皮肉めいたことを言う。
そして、彼女も立ち上がろうとした時、

(・・・リーゼ・・・)

彼女の頭にフィーネらしき女性の声が響いた。
その瞬間、彼女の動きが止まる。

「どうした?リーゼ。」

「・・・今、フィーネの声が聞こえたような気が・・・。」

「えっ?」

「フィーネ達に・・・、何かあったのかも・・・。」

リーゼの答えにレイヴンが怪訝な顔をする。
俗に言う、“虫の知らせ”と言うやつである。
それを裏付けるかのように、扉が勢いよく開いた。
入ってきたのはキース。

「大変だ!
バン達が・・・。」

彼の言葉を聞いた瞬間、室内に緊張が走る。
それを感じ取ったのか、シャドー達も目を覚ました。
彼女の予感は奇しくも当たってしまったのだ。

 

 3人が司令室に入ると、
ハーマン、オコーネル、シュバルツ、レックスが神妙な面持ちで彼等を出迎えた。

「バン達がピンチってどういうことだ?」

レイヴンが部屋に入るなり、その一言。
それを聞いて、ハーマンが重々しく口を開いた。

「さっき、アーバインのライトニングサイクスがこの基地に帰ってきたんだ。
彼は凄く弱っていて、すぐさまメディカルセンターに運ばれた。
そして、その時に。」

「バンが敵の新ゾイドと交戦中。
至急応援が欲しい状態だ、と訴えかけたんだ。」

ハーマンの後をオコーネルが続ける。

「じゃあ、早く行かないと・・・。」

リーゼが急かすように全員に促す。
すると、再び扉が開いた。
入ってきたのはディと、なんとアーバイン。

「アーバイン、動いて大丈夫なのか?」

「ああ、なんとかな。」

キースの問いにそう答えるアーバイン。
だが、口調は少し辛そうだ。

「敵の攻撃による傷は浅い。
おそらく、ライトニングサイクスの加速の負荷が体中に掛かったのだろう。
まあ、特に問題はないが、無理は禁物じゃぞ。」

ディが説明を付ける。
そして、シュバルツから命令が下った。

「レイヴン、リーゼ。
以上の2人はバン達を救出した後、敵基地を破壊してくれ。
アーバインとキースも済まないが手伝ってくれ。」

「ああ、分かってるよ。
やられた分は倍返しにしねぇとな。」

「そのかわり報酬は弾んでくれよ。
今回のはかなり面倒そうだ。」

2人がそう答えると、彼はレックスの方を向いて、

「ハーティリー中佐、君も彼等に同行し、指揮を執ってくれ。」

「はい、分かりました!」

レックスが敬礼をしながら答える。

「大丈夫なんですか?彼女は・・・。」

「ああ、腕は確かだ。
私が保証する。」

オコーネルが心配そうに尋ねた。
シュバルツが腕組みをしながらそう言うと、彼女は少し照れ笑い。

「まぁ、いざとなったら、こいつがいるから大丈夫だろう。
そうだろ、キース・クリエード元中佐。」

ハーマンがあえて階級を付け加えてキースの名を呼ぶ。
キースは少しムッとして、

「それはもう2年も前の話だろ。
俺はもう、退役したんだ。
今は自由奔放な賞金稼ぎさ。」

そう言うと、とっとと出ていってしまった。

「大丈夫なんですか?彼は。」

「ああは言ってるけど、あいつの腕は俺以上だ。
心配することはない。」

「ハーマンが言っても説得力ねぇ・・・。」

彼の言葉に小声で突っ込むアーバイン。
ハーマンは指揮官としては優秀なのだが、ゾイド乗りとしては今一歩と言うところなのだ。
その突っ込みにはシュバルツも思わず顔で笑う。

「とにかく・・・行くぞ。」

レイヴンの声と共に4人がその場を後にした。
その後にシュバルツが一言。

「ハーマンもたまには演習に出たらどうだ?」

「う゛・・・。」

「そう言えば、最近全然ゾイドに乗ってませんもんね〜。」

「オコーネル、お前もか。」

何かどっかの誰かさんが言ったような科白とそっくりだなと、
その場にいた2人は思ったとか。

 

 そして、2時間後、ホルスヤード研究所前で、
ライトニングサイクス、緑のセイバータイガー、シャドーフォックス、ジェノブレイカーが、
さっきよりも離れた場所で様子を伺っていた。
レーダーに引っかからない為である。

「周りに敵はいないみたいね。
一気に突っ込もう。」

「ちょっと待て!」

リーゼが突入を促すが、キースがそれを制する。

「どうかしたの?」

「マルチイヤーセンサーに反応がある。
これは・・・、ヘルキャットだな。
いま、サーチ結果を転送する。」

レックスの問いに彼が答えると、残りの3体にデータを転送した。
シャドーフォックスのマルチイヤーセンサーは、
かすかに聞こえる足跡や動力音で敵を察知する優れものなのだ。

「わんさかいるな・・・。」

レイヴンが思わず口に出す。
画面に映し出された結果によると、その数はおよそ20体。
下手をすればもっといる事になる。

「そのまま突っ込んだら、さっきの二の舞になってたな。
あぶねぇ、あぶねぇ。」

「で、どうしるの?」

完全に自分任せになってる、とキースは若干思いながら、少し頭を捻らせる。
そして、

「この様子だとバン達は捕まったか、殺されたかのどちらかだな。
まぁ、奴らの性格からして、俺達を誘き出すための人質にされている可能性が高い。
そこで・・・、」

この後、キースが作戦を説明、
1人ほど嫌な顔をしたが、全員の説得により、仕方が無く了承。
こうして、『バン達救出作戦』がスタートした。

 

 程なくして、研究所周辺に爆発が起こる。
そして、突っ込んできたのは、セイバーにサイクス、そしてジェノブレイカーだ。

「キースのデータのおかげで丸見えだ。
撃て、撃て、撃ちまくれ!」

アーバインが残りの2体に促す。
レックスもゾイドの腕はシュバルツに太鼓判を押されているだけあって、
次々にヘルキャットを片づけていく。
すると、建物の中からレブラプターやモルガも出てきた。
そして、あのディロフォースも。

「出てきやがったな、小さい野郎が。
あいつらはスリーパーだ!
遠慮なくやっちまえ!」

「了解!」

先程の戦いでディロフォースがスリーパーだと見抜いたアーバイン。
いくら俊敏性が高いと言っても、
優れたゾイド乗りはパイロットが乗っているか、いないかぐらいは分かる。
そして何より、ディロフォースは小さすぎて人を乗せるスペースがないのだ。

 

 その頃、シャドーフォックスはというと、

「やっぱ止めるんだったかなぁ、この作戦・・・。」

「だから僕は反対したんだよ。」

キースがコックピット内で愚痴る。
リーゼも先程から文句ばっかり。
そして、レイヴンは黙りこくっていた。

ウオォォン

「もうちょっとだ、我慢しろ、フォックス。」

フォックスも思わず抗議の声。
キースが必死で宥めていた。
もう、お分かりだと思いますが、フォックスのコックピットにこの3人とスペキュラーが乗っている。
ちなみにジェノブレイカーはシャドーが動かしている。
そして作戦とは、アーバイン達が入り口で暴れている間に、
キース達が研究所に潜入し、バン達を探すというものだ。
この時、フォックスは光学迷彩で潜入している。
だが、流石にコックピットは狭く、3人入っただけでもすし詰め状態。
しかも、オーガノイドも乗っているのだ。
フォックスも文句を言っている。
そんな状態が続く中、やっと人の入れそうな場所に来た。

「よし、ここから進入できそうだ。」

コックピットのハッチを開け、そこに降り立つと、早速中に入ろうとする。

「サンダー、フォックス、お前達はアーバインの加勢に行ってくれ。」

「キュイイ。(了解!)」

サンダーは返事をすると、フォックスと共に戦場へと向かった。
その直後、

「キース、ここ、開きそうにないよ。」

リーゼの声が聞こえたので彼女のところに行く。
彼が見ると、そこの扉は堅く閉ざされていた。
もちろん鍵も掛かっている。

「どうする、他の入り口を探す・・・か・・・?」

ガキューン、ガキューン・・・バッキャーン

レイヴンの声が顔と共に引きつる。
それもそのはず、
彼が言い終わる前にキースが銃で鍵を壊し、ドアを蹴破ってしまったのだから。
それにはリーゼとスペキュラーも呆れていた。

「よし、開いたな。
とっとと入るぞ。」

「あ・・・、ああ・・・。」

まるで何もなかったかの様に中に入るキースに、
2人は驚きを隠しきれずにした。
実はキースが蹴り破ったドアは蝶番が錆び付いていた揚げ句に、
鍵が2個もかかっていたのだ。
キースが銃で壊した鍵は一個なので、普通の鍵付ドアを蹴り壊したのと同じである。
しかも、引き戸・・・。

「凄い蹴りの力・・・。」

リーゼが呟いた後、
キースの後を追うように中に入っていくレイヴン、リーゼ、スペキュラーだった。

 

 彼等は廊下らしきところを歩いていた。
キースとレイヴンの手にはそれぞれ銃が、
リーゼは必死になってフィーネ達を探している。
スペキュラーはテレパシーの増幅器の役目を果たしている。
そして、曲がり角に差し掛かったとき、突然キースが足を止めた。

「誰か・・・、来る。」

全員が聞き耳を立てると、確かにコツッ、コツッ、と言う足音が聞こえる。
しかも、それがだんだんと近付いてきている。

「どうするの?」

「心配するな。
まぁ、任せておけって。」

そう言いながら銃を腰元にしまうキース。
そして、取り出したあるもので、すぐそこまで来た男を思いっきり叩いた。

スパーン

「ハ、ハリセン・・・。」

そう、彼のお得意技、ハリセンチョップである。
相手が彼等に気付いた頃にはもう遅く、
怯んだ隙にキースの強烈な蹴りを腹に喰らって気を失った。

「ざっと、こんなもんだな。」

キースがそう言いながら、手をパンパンと払う。
さっきからキースに驚かされっぱなしのレイヴン達であった。

 

 彼等がだいぶ歩いた頃、
今度はリーゼが動きを止めた。

「近い、すぐ側にいる。」

「それは一向にいいんだが・・・。」

レイヴンが前方を見てそう返す。
キースもなんだか浮かない表情。
なんと、彼等のすぐ目の前に敵の団体がマシンガンを乱射しているではないか。
実はさっき、スペキュラーが不意に非常ベルを押してしまったため、
こんなに集まってきてしまったのだ。
数はおよそ10人ほど。

「やれやれ、えらくたくさん寄越しやがって。
で、どうするんだ?」

銃で応戦しながら、キースがぼやく。
このままだと持ち弾が全て無くなってしまいそうなのだ。
すると、リーゼが、

「じゃあ、僕の本領発揮だね。
任せておいて。」

自信ありげにそう言うと、手から青色のものを空に放つ。
それも無数に。
それらは青色の霧となって、敵に襲いかかった。

「出たな、リーゼの十八番・・・。」

「噂には聞いていたが、流石に凄いな。」

レイヴンとキースがそれぞれ感想を口にする。
リーゼが飛ばしたのはミニダブルソーダ。
彼女はそれを使って、遠くの相手とも喋れるし、
相手の精神を自由にコントロールすることが出来る。
今回は後者の方の応用。
虫を使って相手の意識を飛ばしたのだ。

「全員倒れたみたいだな。
・・・行くぞ。」

相手が倒れた音を確認すると、彼等は迷わずすぐそこの扉へ。
リーゼによると、ここにバン達がいるようである。
だが、

「リーゼ、伏せろ!」

レイヴンが声と共にリーゼに向かって跳んだ。
なんと、敵がまだ残っていたのだ。
相手の放った弾がレイヴンの肩をかすめる。
これは彼がリーゼをかばった結果であった。

「レイヴン!」

「ちっ、おとなしく寝てやがれ!」

相手がまた銃を撃とうとしたので、キースはそれより先に撃った。
彼の弾は相手の右肩に命中。
その痛みに耐えきれず、相手は銃を落とす。
その刹那、キースが敵の懐に飛び込んで、胸に蹴りを放つ。

「ぐはっ!」

その蹴りをもろに喰らった相手は、壁に身体を強く打ち付けて意識を失った。
それを確認した後、彼もレイヴンの下に駆け寄る。

「レイヴン、大丈夫?」

「ああ、掠っただけだ。
心配はない。」

「・・・よかった・・・。」

完全に2人の世界に突入してしまったレイヴンとリーゼ。
そんな彼等を現実に引き戻したのは、

ドッ、ガシャーン

キースが扉を蹴り壊した音であった。

 

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