「ホルスヤード研究所・・・、1年半ぶりだな・・・。」
悠然と立っている廃墟を目の前にバンがそう呟く。
かつて、帝国軍に武器解体工場として使われていた。
それが研究所として使われたのは、
彼等がデスザウラーを倒して1ヶ月もしない時。
もっとも、帝国が各地の復興に力を注いだ為、半年後には廃墟と化したが。
「で、どうするんだ?
方法は忍び込むか、正面から突撃かのどちらかだと思うが・・・。」
「ビークによるとこの辺りにレーダーが張り巡らされているようだ。
もうこちらの動きは勘付かれている可能性がある。」
「それじゃあ、方法は一つしかないわね。」
フィーネの言葉に全員がふっ、と笑いながら頷く。
そして、次の瞬間、
「ビーク、標準セット!
メガロマックス、ファイヤー!」
トーマの叫びと共にディバイソンが必殺技を発射。
弾は研究所の門を木っ端微塵にし、見張りのレブラプターも数体倒した。
そして、残りの見張りも・・・。
「いっけぇーーー!」
「喰らいあがれーーー!」
爆煙に紛れたライガーとサイクスによって全滅した。
「よし、中に入るぞ。」
「了解。」
3体のゾイドが中に入っていく。
後ろに出来た足跡に気付かずに・・・。
しばらく低速で進んでいると大きな広間に出た。
ここに来るまでにモルガを2,3体倒したことを付け加えておこう。
「ここは・・・、司令室か。」
上の方には大きく突き出たような部屋がある。
それにはバン達も見覚えがあった。
リーゼが兵士達を操っていた部屋である。
「なぁ、おかしいとは思わないか。」
「ああ、確かに。
あれだけ外で暴れたのに、中に入って襲われたのはあれっきりだ。」
バンとアーバインがゾイドの中でそんな会話をしていると、
「やっと来たわね、皆さん。」
聞き慣れた声がその部屋に木霊した。
それと同時に司令室の窓際に2つの人影が現れる。
「リリス、それにお前は・・・?」
リリスの隣に現れた銀髪の男にトーマが不思議そうな顔をする。
もちろん、リリスは緑の髪。
「お初にお目にかかる、とでも言っておこうか。
私の名はカリス、カリス・サノバンだ。」
「貴方がカリスね。
あの時ストームソーダーを駆り、アンビエントを操っていた・・・。」
「お前には聞きたいことが山ほどある。
何故、アンビエントがお前に従っている?」
バンが声を張り上げる。
だが、カリスは以前涼しい顔。
「これから死に行くお前らに何も話すことなど無い。
それだけ時間の無駄だ。」
彼が言い終わると、パチンと指を鳴らす。
すると突然、彼等の横の壁が開いた。
「な、何だ、これは?」
「紹介しよう。
彼等が死刑執行人であるゾイド、ディロフォースだ。」
扉が開き終わると、
暗闇から黄色と黒が目立つエリマキトカゲのような超小型ゾイドが現れた。
レブラプターをさらに小型化したような容姿、顔に付いている襟巻、
足に着いているカッターも印象的だ。
その数、約20機ほど。
「くそっ!
ビーク、標準!」
独特の機械音を鳴らし、ビークが命令を受理、
17連突撃砲がディロフォースに向けられる。
だがその瞬間、ディロフォース達がディバイソンに向けて飛びかかった。
「しまった!」
トーマは慌てて武器を乱射するが、全部避けられてしまう。
敵の機動力は予想以上のものであった。
「トーマ!」
「撃て撃て、打ちまくれ!」
バンとアーバインもレーザーを放つが、
襟巻から発生したE.シールドに全部弾かれてしまう。
これには全員、驚きの色を隠せない。
そして、彼等をもっと驚かせる事が。
突然2,3体のディロフォースが爪を立てて足を固定し、
開いた口に光の弾が現れたのだ。
「まさか・・・、荷電粒子砲!!」
「みんな、シールドを張って!」
フィーネの声で全員が電子振動シールドを展開する。
殆どギリギリのタイミングだが、何とか攻撃を防ぐことが出来た。
「なんてゾイドなんだ。」
「E.シールドに荷電粒子砲だと。
無茶苦茶だな。」
「一体一体がジェノブレイカー並の装備だ。
どうする?」
バンとトーマ、アーバインが額に汗をかき始めている。
相手の動きに追いつくだけで精一杯なのだ。
そして、トーマがとうとう相手の動きについていけなくなった。
それは敗北を意味している。
「ぐわあぁぁ!!」
トーマの叫びと共にディバイソンが崩れ落ちた。
コックピット内ではシステムフリーズを告げる音が鳴り響き、
トーマが気を失っていた。
「くそ、このままじゃ全滅しちまう。
どうしたら・・・。」
アーバインにも焦りの色が出てきている。
そんな時、ディロフォースを5,6体切り落としたバンがとんでもないことを言い出した。
「アーバイン、お前だけでも逃げろ!」
それには流石の彼も言葉を失う。
「な・・・、お前、自分の言ってる意味が分かってるのか!?
それだったら俺がここをくい止めるから、フィーネ達を連れて逃げろ。」
驚きのあまり、通信機が壊れそうな大声で怒鳴る。
すると、バンは静かに首を振った。
「そうじゃない。
とっとと本部に戻って、レイヴン達を連れてきてくれ。
それまで俺達は踏ん張ってみせるさ。」
「アーバイン、ライトニングサイクスの足だったらすぐよ。
だから、速く行って!
このままじゃ2体ともやられちゃうわ!」
先程よりも数が減ったとはいえ、まだ敵は10体以上いる。
時間が経てばそれだけ不利なのは明白であった。
「分かったよ。
バン、絶対死ぬんじゃねぇぞ!」
「ああ。」
バンの返事も聞かないうちに、サイクスは来た道を持ち前の俊足で走った。
それを見送ると、ライガーはブレードを展開する。
「さぁてと、アーバインが戻ってくるまで、
やられないようにしねぇとな!」
「戻ってこられるといいけどね。」
バンが意気込んでいる最中、リリスがクスクス笑いながら水を差す。
「どういう意味だ?」
「出入り口も封じてあるのさ。
お前らが中に入った瞬間にね。」
彼女の代わりにカリスが答える。
それにはフィーネも顔色を変えた。
だが、
「アーバインなら大丈夫だ。
あいつなら・・・、やれるぜ!」
そう叫ぶと同時にディロフォースの群に突っ込んでいった。
その頃、サイクスは出口に向かって一直線。
そのスピードは300q/hを超えている。
外に出た瞬間、突然サイクスの周りで爆発が起こった。
そのせいで足が止まってしまう。
「何だ、いったいどこから撃ってきたんだ?」
周りを見渡すが、敵の姿が一向に見えない。
だが、爆発はまだ続いている。
彼の愛機にもダメージが伝わってきていた。
そして、アーバインはある結論に達した。
「光学迷彩・・・、ヘルキャットか。」
そう、工学迷彩で姿を消したヘルキャットが砲撃しているのだ。
しかし、それが分かっても、それを倒す手段が彼にはなかった。
「くそっ、トーマがいれば、居場所なんてすぐ分かるのに・・・。」
軽く舌打ちしながら、今の情けない状況に腹を立てる。
だが、こうしている間にもバン達がピンチになるだけだ。
そう思った彼は、
「走るぞ、相棒!
強行突破だ!」
サイクスがアーバインの声に吼えると、思いっきり地を蹴った。
レーザーを前方に撃ち、前方を塞いでいるヘルキャットだけを倒しながら。
ライトニングサイクスの射界は砲塔が回転しないため、前方だけ。
これはスピードが速すぎるため、旋回砲塔だと命中率が下がるためである。
だが、今はそれが役に立っていた。
前に立ちはだかる敵だけを倒せばいいし、
どんなゾイドも彼の愛機には追いつけないのだから。
「走れ、走れ、走れーーー!!」
アーバインが座席横のスイッチを押し、サイクスのブースターを点火。
その際に彼の身体が後方に激しく追いやられる。
「うおおおぉぉぉぉぉーーーー!!!」
凄まじい加速度に耐えようと叫ぶ。
一気に最高速となったサイクスはそのまま本部へと走っていった。
呆然と立ちつくし、追って来ようともしない敵を後目に。
「逃がしたですって!!」
司令室にリリスの声が響いた。
それにはワイバードもびっくり。
『申し訳ございません。
ですが、相手のスピードが速すぎて・・・。』
弱々しい部下の声が彼女の苛立ちをさらに募らせる。
「言い訳はもういいわ。
あなた達はとっとと警備に戻りなさい!」
言うだけ言うと、一方的に回線を切断した。
「全く、折角網を張り巡らせたのに・・・。
これじゃ、台無しじゃない。」
「まぁ、いい。
奴は時期に戻ってくる。
残りのオーガノイド使いを連れてな。
その時に叩けばよかろう。」
カリスが落ち着いた声でリリスを宥める。
だが、それがかえって彼女を怒らせる羽目に。
「貴方のそのプラス思考、本当に頭に来るわ!
不測の事態って言うのを考えない訳!
だいたい、それで何回失敗したと思ってるのよ!」
もう彼女を止められない。
そう思った彼は仕方なく・・・、
「お前の言い分は分かった。
だが、もう過ぎてしまったことはしょうがない。
次の事を考えねば。」
「勝手になさい。
私はもう知らないわ。」
そう言って、リリスはその部屋を出ていった。
慌ててワイバードも追いかける。
その光景を見ていたカリスは明らかに参ったという顔。
「グルルオォン。(いいのか、放って置いても・・・。)」
「構わないさ。
それよりもこいつらを牢に運べ。」
彼が目線をおろした先には、なんとバン、フィーネ、ジークにトーマの姿が。
全員、気を失っているみたいだ。
「こいつらは餌として利用させてもらう。
やはり息のいい餌ではないと、いい獲物はかからない。」
そう言ったカリスの目はギラギラと光っていた。