「潜入、悪魔の砦」

 

 リリス達の一件から3日後、
バン、フィーネ、アーバイン、ムンベイはハーマンに呼ばれ、
グスタフでレッドリバーの南、エレミア砂漠をさらに南下していた。

「何だろうな、一体・・・。」

「さあな。
何でも、見せたいものがある、と言ってはいたが・・・。」

「それ、この間も聞かなかったか?」

「そう言えばそうだな。
確か、SSSとライトニングサイクスが盗まれた時か。」

バンとアーバインがグスタフのコックピットでそんな会話をしている。
ちなみに彼等の愛機は積み荷となって、グスタフのキャリアの上。
ジークはキャノピーの上で丸くなっていた。

「また新しいゾイドかしら?」

「だったら、今度は警備を厳重にしてほしいけどね。」

ムンベイが皮肉らしい言葉を口にする。
それというのも、最近、平和が続いていて、両軍の兵も抜けていることが多い。
この間も、盗賊に一つの基地が襲われたと報告があった程だ。
ちなみにその盗賊には莫大な賞金がかかり、アーバインがそれをものにしたとか。
つまり、裏を返せば、彼でも基地を壊滅させられると言うことだ。
それ程までに兵の質が落ちてきている。

「こっちとしては賞金が増えるのは有り難いことだが、
平和な御時世がどんどん遠退いて行くよな。」

アーバインがグッ、と伸びをしながら言う。
すると、突然ムンベイが声を上げた。

「ねぇ、見てよ、あれ!」

ムンベイの言葉で全員が身を乗り出す。
そこには、海に面してかなり大きな建物があった。
その大きさは一つのコロニー程。

「またどえらいのを建てたもんだな。」

「いったい、何の施設なのかしら?」

フィーネが当然の疑問を浮かべる。

「とりあえず行ってみますか。」

ムンベイが言葉と共にアクセルを思い切り踏み込んだ。

 

 建物に近付くとその大きさと広さはさらに明確なものとなる。
そして、その門には2人の衛兵が立っていた。

「身分を証明するものを見せて下さい。」

グスタフのキャノピーを開いて、早速聞こえてきたのが兵士の声。
バンが代表して、GFの紋章が入ったペンダントを見せる。

「あと、これらのゾイドの識別コードを提示して下さい。」

「あいよ。」/「はいはい。」/「へいへい、ただいま」

バン、アーバイン、ムンベイがカードのようなものを取り出す。
それはゾイドの識別コードを記憶させたIDカード。
各ゾイド乗りはそれを持たないと、
軍資施設に入ったり、ゾイドのメンテナンスを受ける事が出来ない。

「結構です。
どうぞ、お通り下さい。」

兵士が合図を送り、門を開かせる。
アーバインとムンベイは通行所を受け取ると、
グスタフは中へと入っていった。

「警備はまあまあといったところか。」

バンが感想を言う。
あくまでガーディアンフォースとしての客観的な意見である。
そして、広場には見慣れたゾイドと馴染みの顔が並んでいた。

「ようこそ、ガーディアンフォース本部へ。」

「へぇ〜、ここがGFの基地か。
噂には聞いていたけど・・・。」

全員がシュバルツの言葉に感心の色を示す。
そう、ここは以前から建設が決まっていたガーディアンフォース本部。

「ガイガロスとニューヘリックシティとの等距離に位置するこの基地は、
最新鋭の設備と防衛ラインを設け、昼夜問わずこの大陸の動きを監視する。
小さな盗賊の事件から、カリス一派の事件までな。
そして、最近の相次ぐ不祥事で両国の兵士に活を入れる目的もある。」

シュバルツが歩きながらこの基地の概要を説明する。
まぁ、彼らはこの建物に見とれていて、殆ど聞いてはいないが。
彼がその事に気が付いたのは、司令室に入る直前であった。
それまでベラベラ喋っていた自分が恥ずかしくなったとか。

「おっ、やっと来たな。」

「遅いぞ・・・。」

司令室に入って出迎えたのがハーマンの挨拶とレイヴンの悪態。
その後ろにはリーゼ、トーマにシャドー、スペキュラー、サンダーの姿が。

「これでガーディアンフォースが全員揃ったというわけだ。」

「俺はガーディアンフォースじゃねぇって・・・。」

オコーネルの声にとりあえず突っ込みを入れるアーバイン。
もう毎度のことなので、誰も気にとめてはいない。
すると、

「ねぇ、そう言えばキースは?
サンダーもこんなところにおいてってるし・・・。」

「屋上にいるから、バン達が来たら呼びに来いって。
何かえらく悩んでたみたいだけど・・・。」

リーゼがフィーネの質問に答える。

「そういえば、アルフ遺跡の一件から様子が変だったな。」

「あそこで何かあったのか?」

レイヴンとトーマの言葉に全員が頭を捻る。
しばらく考えたあと、悩んでても仕方がないので、彼を呼びに行くことに。
その役目を担ったのはアーバイン。
何故ならジャンケンで負けたから・・・。

 

 その頃、屋上ではキースが手すりに両腕と顎をのせて、ぼんやりと空を眺めていた。

「アレン・・・、ライナ・・・。」

親友とその妹の名を呟く。
その表情は見ている方が痛くなる程寂しげ。
だが、目には決意だけがみなぎっていた。

(必ず、俺の手で助け出すからな・・・。)

そう思うのと、彼の右の頬が冷たい感触を感知するのは同時だった。
驚いて振り向いてみると、そこには缶コーヒーを2本持ったアーバインが。

「アーバイン・・・。」

「な〜に、しょげた面してんだよ。
・・・ほら。」

手にしていたうちの一本をキースに差し出す。
彼はそれを受け取っておもむろにタブを開けた。

「何か・・・、悩みでもあるのか?」

「悩みのない人間なんて、いると思うか?」

「それもそうか・・・。」

彼の言葉を最後にしばらく沈黙が続く。
空には雲が小さな塊となって流れている。
どこまでも続く砂漠の果てには、うっすらとレッドリバーの渓谷が見える。
そして、後ろには広大な海。
潮風が心地よく吹いていた。
しばらくの間、そんな風景に見とれている。

「なぁ、もし悩みがあるんだったら・・・、遠慮なく言えよ。
こんな事言うのは恥ずかしいが・・・、
俺達・・・、もうそんなに浅い間柄じゃないだろ。」

沈黙を破ったのもアーバインであった。
その言葉にキースもふっ、と笑い、

「分かってるよ。
さてと、バン達のところに行くか。」

そう言いながらコーヒーを飲み干す。
彼が元の調子を取り戻したのを確認して、アーバインも缶の中身を飲み込んだ。

 

「わりぃ、待たせちまったな・・・。」

司令室に戻って、キースがみんなに謝罪する。
そんな彼に「気にするな」とハーマンが一言。
すると、

「シュバルツ大佐!」

女性の声が響くと同時に司令室の扉が開いた。

「シュバルツ大佐、ここでしたか。」

「ハーティリー中佐・・・。」

突然入ってきた茶髪の女性がシュバルツの名を呼ぶ。

「シュバルツ、彼女は?」

バンがとりあえず彼女について質問する。

「ああ、紹介がまだだったな。
数日前から私の補佐をしてくれている、レックス・ハーティリー中佐だ。
彼女の家と私の家は昔から交流があってね、
それで補佐官に抜擢したんだ。」

「レックス・ハーティリーです。
よろしくお願いします。」

シュバルツが簡単に説明すると共に、
レックスが敬礼をしながら挨拶をする。

「ハーティリー中佐、お久しぶりです。」

「君も立派になったわね、トーマ君。
何たってガーディアンフォースに入ったんだから。」

「はい、ありがとうございます。」

トーマも挨拶をかわす。
もちろん彼とも昔からの知り合い。

「それで、何かあったのか?」

「は、はい・・・、これをご覧下さい。」

そう言って彼女が取り出したのはフロッピーディスク。
そして、シュバルツはあることに気が付いた。

「もしかして、見付かったのか?」

「はい、今朝入電がありました。」

2人だけが会話を交わしているので、
みんなは訳が分からず、不思議顔。

「おい、シュバルツ。
一体何が分かったんだ?
俺達に分かるように説明してくれ。」

「2人だけで以心伝心してないでさぁ〜。」

レイヴンとリーゼがたまらず説明するように促す。
リーゼの発言に少し頬を赤らめるレックス。
シュバルツが咳払いをして、話し始めた。

「以前から我々帝国軍はリリス達のアジトを虱潰しに探していた。
隠れ家になりそうな場所、洞窟、研究所の廃墟などな・・・。」

「そして、とうとう見つけたの。
彼等のアジトらしきところを。」

レックスが続ける。
それと同時に画面に地図が映し出された。

「ここがアジトらしきところです。」

「ここは・・・、
ホルスヤード研究所!!」

トーマが思わず叫ぶ。
ホルスヤード研究所は以前まで武器解体工場として機能していた。
それが閉鎖になったのはつい最近のことである。
そして、ここでリーゼがシュバルツを操って、トーマと戦わせた場所である。

「以前は“誰かさん”のせいでえらい目にあったな。」

「あの時は本当に“誰かさん”のおかげで死にかけたぜ。」

「俺もあの時は“誰かさん”のせいで兄さんと戦ったっけなぁ。
あのまま兄さんが目覚めなかったら、どうなってたことか。」

「私も“誰かさん”に人質にされたり、殺されかけたものね。」

「グキャキャウ〜。(僕もあの時は“誰かさん”のせいで焦ったなぁ・・・。)」

シュバルツ、バン、トーマ、フィーネ、ジークの順でその時の事を口にする。
そして一言一言がその“誰かさん”の胸に痛く刺さっていた。

「み、みんなしてそんなに言わなくたっていいだろ!」

「ゴキャウ、キャウ。(そうだ、そうだ!)」

とうとうリーゼとスペキュラーが顔を真っ赤にして叫んだ。
そう、彼女たちがその“誰かさん”である。
当時彼女はヒルツの下で破壊活動をしていたので、
その事件はこの時に仕掛けたものだ。

「冗談だ、気にするな。」

『そうそう。』

「気にするって・・・、ていうか気にしてるんだって・・・。」

ちょっと落ち込み気味のリーゼ。
仕方が無くレイヴンは抱き寄せると、その行為に彼女は顔を赤くした。
やれやれと言った感じで、キースが話の続きを求める。

「それで、どうするんだ?」

「だが、これだけでは基地と断定は出来ない。
もしかしたら、ただ利用しているだけなのかもな。
そこで、バン、フィーネ、アーバイン、そしてトーマ。
以上の4名はホルスヤード研究所に行き、その内部の情報を探り出して欲しい。
レイヴン、リーゼ、キースは不測の事態に備えて待機していてくれ。」

ハーマンが的確に指示を下す。
すると、ムンベイが、

「ねぇ、私は何かすること無いの?」

仕事のおねだりである。
他のメンバーは呆れていたが、

「ムンベイにはやってもらいたいことがある。
運び屋としてな。」

ハーマンの言葉にムンベイの目が光った。

「どんな仕事?
当然報酬は出るんでしょうね?」

「共和国軍本部からあるものを運んできて欲しいんだ。
頼めるか?」

「当然でしょ。
荒野の運び屋、ムンベイ様に運べないものなんて無いわよ。
・・・で、何を運べばいいの?」

しばらくの沈黙の後、ハーマンが呟くようにその品をいった。

「“ウルトラザウルス”だ。」

その瞬間、ムンベイの思考は止まった。

「な、なな、な・・・。」

彼女の言葉は声になっていない。
その光景にアーバインとキースは笑いをこらえている。

「お前しかウルトラザウルスを動かせないだろ。」

「頼むぞ、荒野の運び屋さん。」

嬉しそうに彼女の愛称を言うオコーネルは、ハーマンと共にその場を後にした。
そして、バン達も、

「それじゃあ、俺達も出動するか。」

「そうね。」

「そうだな。
じゃあ、ムンベイ、がんばれよ。」

「それでは、兄さ・・・シュバルツ大佐、行って来ます。」

それぞれそう言って、とっとと行ってしまった。

「レイヴン、僕たちは休んでよう。」

「そうだな。」

「俺も休もう・・・。」

リーゼとレイヴン、キースもオーガノイドを連れて彼等の部屋へ。
この基地には隊員専用の部屋もあって、
宿泊も出来るのだ。
しかし、何故かアーバインとキースの部屋もある。

「さて、我々も食事にしようか。」

「大佐、ご一緒してもよろしいでしょうか?」

「ああ、一向に構わないが。」

「あ、ありがとうございます。」

シュバルツとレックスは食事の約束をしながらその場を後にした。
この時、また彼女は赤くなっていたとか。
そして、1人残ったムンベイは、

「な、な、何でこうなるのよーーー!!」

と、誰もいない部屋で1人絶叫した。

 

 そして、ホルスヤード基地では、

「何か、不気味なところね・・・。」

「仕方あるまい。
“あのお方”がここを選んだのだ。」

モニタールームらしきところでリリスとカリスがそんな風に話していた。
傍らにはワイバードとアンビエントが律儀に立っている。

「“あのお方”の情報によれば、まもなく奴らがここに現れるそうだ。
この巨大な罠にな、ククククク・・・。」

低い笑いを浮かべるカリス。
リリスはそれをジッと見ながら、

「まぁ、いいわ。
で、貴方は今回はどうするの?
手伝うの?」

「そうだな・・・。
彼等には名前以外の自己紹介をまだしていないことだし・・・、
たまにはよかろう。」

「そう。
じゃあ、私は少しぶらついてくるわ。」

「分かったよ。
何かあったら警報を鳴らす。
それまで自由にしてこい。」

彼の言葉を待つことなく、リリスとワイバードはとっとと行ってしまった。
それを見送ると、

「どうやら、アレンにご執心らしいな。
不思議なこともあるものだ・・・。」

「グォォン。」

彼の言葉に応えるかのように、
アンビエントが鳴き声をあげた。

 

 そして、彼女達が向かった先は施設内の研究室。
扉に入るなり、彼女は金髪の白衣の男に向かって声をかける。

「調子はどう?」

「まあまあってところかな。」

白衣の男が応えると、
割と明るい声が帰ってきたので、彼女はちょっと困惑した。

「随分と明るいわね。
さらわれたって言うのに・・・。」

「こう言うとなんだけど、
ガイガロスの研究所より、設備がいいから。」

「やれやれ。
そんなことを言うと、心配してる貴方の親友が怒るわよ。」

彼女がそう言った瞬間、
彼、アレンの手が止まった。

「やっぱり・・・、心配してるのか?
キースは・・・。」

「ええ、心配してるわ・・・。」

重い口調に少し声のトーンを下げて答えるリリス。
その表情はどう表現していいか分からないほど複雑だ。
そして、しばらく空間が静まり返る。

「ねぇ。
もし全てが終わったら・・・、」

彼女が何か言おうとしたとき、突然けたたましい音が鳴り響いた。
警報である。
そして、それが意味しているものとは・・・、

「GFが来たみたいね。
ごめんなさい、また今度話すわ。」

一方的にそう言い放つと、リリスはワイバードと共にその部屋を後にした。
リリス以上に複雑で、悲しそうな表情を浮かべた彼を残して。

 

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