「二つの出会い」
〜ジェノブレイカーとジュジュ〜

 

〜一つ目の出会い、ジェノブレイカー〜

「・・・おい、ジュジュ。」

名前を呼ばれた気がして、銀髪の女性―ジュジュ・フォレストはゆっくりと目を開けた。
徐々に視界のピントが合ってくると、
目の前によく見知った顔がこちらをのぞきこんでいるのがはっきりしてきた。

「・・・あれ?ケイン?
・・・おはよう・・・。」

ふあ〜と1つ、大きなあくびをしながらジュジュは上半身を起こした。

「お前、こんな所で何してんだ?」

ここは人里はなれた広大な草原である。
彼女はそこで愛機のヘルキャット、“ヘル”の足元に横たわっていた。
配達を終えて店へ帰る途中であったケインがそこにたまたま通りかかり、
ヘルを発見してジェノブレイカーから降り、彼女に気づいて話しかけたのだった。

「・・・・・・昼寝。」

ぼんやりとした口調でジュジュは答えた。
まだ眠たそうに目をとろ〜んとさせている。
彼女のそんな姿にケインはがくっと肩を落とした。
てっきり怪我か何かして倒れているのかと思えば、昼寝とは。
いくら真昼間でゾイドが一緒でも、
女性が1人で原っぱにこうも無防備に寝るものなのか??
寝れるものなのか???
いや、そりゃこいつは普通でないと言うか、
一般の女とは多少・・・、かなり違った思考回路の持ち主だが・・・。

「子供か、お前は。
・・・何かあったらどうするんだよ。」

と思わず注意した彼に、
ジュジュはふにゃら〜と両手の指を折り、何か数を数えていた。
の〜んびりとした口調で話す。
目が完全に開ききってない。

(・・・寝てるな・・・、半分以上・・・。)

ケインは察する。

「・・・私・・・、20だよ・・・。
子供じゃないよ・・・??
ケイン忘れたの〜??
・・・何かって〜?
何さ??」

「・・・・いや、もういい。」

何を言ってもこんな感じだろう。
彼は話題を変えた。

「・・・お前、今日の仕事はどうしたんだ?」

ジュジュは大手の出版会社に勤める腕利きのゾイドカメラマンだ。
毎日世界各地で行われるゾイドバトルの取材に日夜駆け回るという、何ともハードな仕事をしている。
最も本人はゾイドが好きで好きで、体力も十分あり、楽しんで仕事をしているが。

「今日は〜、な〜い〜・・・。
お休み〜・・・。」

ごろん、と再び寝っころがるジュジュ。

あっという間にく〜かく〜か、と実に心地よい寝息が聞こえてきた。
その鮮やかさと素早さにケインはあっけにとられ、言葉も出ない。
彼はこの先どうしようかちょっと考えた。
後ろを振り返り、彼の相棒であるゾイド、ジェノブレイカーに語りかける。

「・・・おーい、どうするよ、こいつ。
なあ、ジェノ。」

彼女のこの様子では、当分の間何があろうと簡単には起きないであろう。
このままほっといて行く、というのは何となく気が進まなかった。
・・・何か、あったらなあ、と思うと気が気でない。
こんな時心配症なのは、彼も弟と妹を持つ“お兄ちゃん”だからかもしれない。
う〜ん、と低くうなりながら、ポリポリと頭をかくケイン。
やがてジェノブレイカーの下に来ると、どかっと腰を降ろした。

「よっしゃ、ジェノ。
俺たちも休憩するか。」

今日は急ぎの配達もないし、まあ平気だろう。
店にはリッドもシエラもレイスもいるし。
ケインは草原に座ったままジェノブレイカーを見上げた。
雄雄しく堂々とした雰囲気を放つジェノブレイカーのはるか上空、
雲が流れ、ゆっくりと過ぎ去っていく。
穏やかで優しい風が草原に吹き、ケインの前髪が揺れる。
太陽は暖かく柔らかな光を注ぎ、昼寝日和には正にもってこいの気候であった。

「・・・静かだな。ジェノ。」

毎日ゾイドバトルと店の経営で、こんなのんびりと空を眺める時間なんて久しぶりかもしれないな。
向こうをちろっと見ると、ジュジュが相変わらず気持ちよさそうに眠っているのが見えた。
彼の表情に自然と笑みが浮かぶ。

(・・・あいつ、何だカンダで疲れたまってるんじゃないのか?)

いつも元気に走り回っている彼女だが、
どんなに楽しい事をしてても、全く疲れない人間などいないだろう。

「まっ、ゆっくり寝かせてやるか。」

そう言うと彼も大の字になって草原に寝転び、
やがてうとうととしてきて、目を閉じた。

「お休み、後は頼んだぜ、ジェノ。」

そうしてケインもまた、すー・・・、っと心地よい眠りにたちまちおちていった。
彼はジェノブレイカーの下で夢を見た。
それは、今から一年半ほど前に本当にあった、彼の“過去の夢”だった。

 

ドカッ!!

「うわっ!!」

「きゃあ!」

かなりの衝撃音に続いて、二人の人間の悲鳴が聞こえた。
通路の曲がり角で互いにしりもちをついて頭を盛んにさすっている。
・・・相当、痛そうであった。

「いっつ〜・・・。」

「あたた・・・。」

先に立ち上がったのはケインの方であった。
怒りをあらわにしてぶつかってきた相手に怒鳴る。

「廊下を走る時は前をよく見やがれ!!
頭割れるかと思ったじゃねーか!!」

それを聞いた相手は座ったままの姿勢で、彼に向かって勢いよく怒鳴った。

「貴方こそ、曲がり角曲がる前に確かめなさいよ!
それに女性にぶつかっておいてそういう態度な訳??!
最低ね!!」

「お、女だったのか・・・?」

ここの作業員の服を着ている。
帽子を深くかぶっているので顔はよく見えないが、銀髪であった。
ぶつかった相手が女と知って、ケインは引いてしまった。

(・・・ちょっと、言い過ぎたかもな。)

「悪かったな。ほら。」

そう詫びると手を差し出し、女がそれを掴むと引き上げ、立ち上がらせた。
女の身長は、ケインより頭一つ分くらい低い。

「あ、ありがとう。」

女は素直に礼を言った。しばし二人はそのまま立っていたが・・・、

「やべ。こんな事してる場合じゃねー!」

ケインは自分の今の状況を途端に思い出し、はっとなった。

「じゃあな!」

何がなんだかわからない、というようにケインを見ている女に軽く礼をすると、
ケインはダダダダ!と全力で走り出しその場を去った。
通路を走りながらさっきの女が自分の事を誰にも言わなきゃいいがな、とふと思った。
なぜならば、
今、自分はこの工場―表向きはどこにでもある普通のゾイド整備工場だが、
裏の実態は、実はBD団の基地なのであった。
BD団とはルール無用でゾイドバトルを荒らしまわり、
ダークバトルで敗北した相手のゾイドを奪う犯罪組織である。
―に揃えてあるパーツを少々頂こうと無断で忍び込んだ、いわば“侵入者”なのだから。
もっとわかりやすく言うと“パーツ泥棒”である。
ただの泥棒でもまずいのに、よりによってBD団の基地に盗みに入ったのだから、
捕らえられたら非常にまずい。
どうなるかわかったもんじゃない。

「あーやっぱ無謀だったかあ?!!
上手くいくと思ったんだがなあ!」

誰にともなく叫ぶ。
案の定、彼はパーツを漁っている所を、
見回りの作業員―裏の実態は皆BD団の関係者である─に見つかってしまった。

「お前、誰だ?!
おい、侵入者だ!
捕らえろ!」

「うわ、やべ!」

その場から慌てて逃げ出し、
今もこうして追っ手から逃れ脱出を考え走り回っている真っ最中であった。
とにかく外に出れば、隠してあるトラックに乗って逃げられるだろう。

(・・・パーツはあきらめるしかない。)

「いいパーツたくさんあったんだがな〜。
くそう、俺のドジ!」

“だから無茶だって言ったのに”とあきれる妹、シエラと
“やっぱりな・・。”と冷ややかな目でこちらを見る弟、リッドの顔が浮かぶ。
“ま、無事だったからいいじゃないか。”と言ってくれそうなのはリッドの親友のレイスだろうな。
自分が捕まったら、きっとあいつらにも迷惑がかかる。
それは絶対に避けたかった。
そんな事を思いながらケインは脱出を考え、走り続けていた。
侵入して来た時通った道は、
自分が見つかった事で作業員たちが走り回っており、もう使えないだろう。
別の脱出ルートを見つけるしかないが・・・。

「・・・どうすりゃいいんだ、一体。」

悩んでいる間にも後ろからドタドタ・・・と慌しく数人の足音が聞こえ、
こちらにどんどん近づいてくる気配がする。
後戻りも、立ち止まることもできない。

(・・・じゃあ、前に進むしかないよな!)

ケインは止まらず、がむしゃらに走り続けた。
道を探して。
走り続けるケインの前に鉄製の扉が見えてきて、彼は勢いよくそれを蹴とばした。
ガン!と鈍い音がして扉はいとも簡単に開き、ケインは中に入った。

「ここは?!
外か?!」

落ち着いて辺りを見回すとそこは外ではなく、
整備したゾイドを並べておく格納庫のような所だった。
あれだけ大きな音がしたのに何の声も聞こえず、ここに人はいないようであった。
ケインはほっと胸をなでおろす。

(しばらくは安心か。)

彼は辺りをみまわし、
複数のレブラプター、ヘルキャット、ステルスバイパーなどが両脇に陳列してある。
その奥にひときわ大きな影を見つけ、そのほうに向かって歩いていった。
他のゾイドとは離れるようにして、“それ“は一体のみで静かに置かれていた。
ケインはその正体に気づき、驚きをあらわにした表情で、目の前のゾイドを見上げた。

(これは・・・、この、ゾイドは・・・。)

呆然とした口調には、信じられない、という思いが混じっていた。

「・・・ジェノブレイカー・・・?
紅い魔装竜・・・。
・・・本物、か・・・?」

数千年前の歴史書にわずかにその名と姿を残すのみの、いわば幻のゾイド。
今までに発見例がなく、その存在は伝説とされてきたが・・・。

「なんで、こんなすごいゾイドがこんな所にあるんだよ??」

BD団の奴らが見つけたのか、ジェノブレイカーを?
どこで?

「すっげーな・・・。
本当に本物だ・・・。
存在したんだ・・・。」

ただただ感嘆のため息をつき、
ケインはその禍禍しくも雄雄しき紅い機体を見上げ続けた。
小さな頃、おとぎ話で聞いた魔装竜の比類なき力、そのすごさの数々が思い出される。
次第にケインは一人のゾイド乗りとしての思いをむくむくと湧きあがらせていた。

(こいつに、乗ってみたい!
伝説級の力を確かめたい!)

「俺と・・・、来ないか?お前。」

ケインはジェノブレイカーに語りかける。
その時、後ろから数人の男達の声がした。
追っ手が辿り着いたのだ。
彼らはジェノブレイカーの前にいるケインを発見し、周囲に叫ぶ。

「いたぞ!
早く捕らえるんだ!」

男達は彼に向かって走ってくる。

(・・・まずい。)

ケインの顔に緊張が走る。

「ちくしょう!
捕まってたまるか!」

そう叫んだ時、背後でプシュ、と何かが開く音がした。
彼が見ると、ジェノブレイカーのコクピットが開き、シートが降りてきたのだ。
乗れ、というように。

「・・お前、か?
ジェノブレイカー?」

ケインが語りかける一方で、男達が慌てふためいていた。
こんな事態は予測してなかったのだ。

「な、何で“アレ”のコクピットが勝手に開くんだ?!」

「整備ミスか?!」

「あ、おい!あの男がコクピットに入ったぞ!」

男達が躊躇している間にケインはジェノブレイカーに乗った。

「おい!やばいぞ!
逃げた方がいい!」

あせり出す男の一人に、別の男が語りかけた。
彼もあせりのためか声が上ずっていたが、必死に冷静さをなくすまいとしていた。

「大丈夫、今までテストに参加した奴は誰も“アレ”に乗れなかったんだぞ!
あんな奴に乗りこなせるはずが・・・。」

男はこう思っていた。
優れたゾイド乗りの多いBD団の者にすら、
ジェノブレイカーを乗りこなせる者はいなかったのだから、
あんな得体の知れない奴にできるはずがない、と。
しかし、その男の最後の冷静さも、次の瞬間見事に消え去ってしまった。
ジェノブレイカーの瞳に紅い閃光が走り、ゆっくりと動き出したのだ!

「ま、まさか・・・、そんな・・・!」

金縛りにあったように動かない男達の方をジェノブレイカーが見下ろすと、
途端にわっ!と蜘蛛の子を散らすようにして逃げていった。
コクピットの中ではケインが操縦桿を握り、モニターを見つめていた。
その表情は自信に満ち溢れている。
ケインはジェノブレイカーの感情を感じ取っていた。
数千年の眠りから覚めた、歓喜の思いを。

「起きぬけの体操がわりに、いっちょ派手にいくか、ジェノ!!」

ケインの声に、ジェノブレイカーは歓喜の咆哮をとどろかせ、彼に応えた。
そして膝に装備されたウェポンバインダーの砲門が開き、
ミサイルが壁に向かって発射された!

ドゴオォォォォン!!

巨大な爆音が基地中に響き渡り、大量の爆煙が吹き上がった。
煙がおさまると、ミサイルの命中した壁に大きな穴がぽっかりと開いているのが見えた。

「よっしゃ、行くぜジェノ!
こんな所からおさらばだ!」

ケインはその穴から外に脱出する。
すると目の前にレブラプターの大群が待ち構えていた。
ジェノブレイカーの姿を確認すると次々に背中のカウンターサイズを開き、戦闘体制に入る。

「・・・おもしろいじゃねえか。
俺たちを止められるもんなら止めてみな。」

ケインは不敵な笑みを浮かべた。

 

「・・・それで、ジェノブレイカーが倉庫にいたのね。
あー、びっくりしたわ。」

「パーツ盗みに行ってゾイドを盗むとは大胆だな。」

「でも、すごいよな。
本当にあったんだな、ジェノブレイカーって!」

ケインがBD団の基地に泥棒に入った夜から一夜明けた朝食の時間。
いきなり店の倉庫に出現した“魔装竜”に、
起きてきたシエラ、リッド、レイスはあんぐりと口を大きく開き、驚きをあらわにした。
そして散々夢でない事を確かめた後、
部屋で寝ているケインをリッドがたたき起こして、事の真相を聞いたのだ。
上のセリフはケインの話を聞いた後の3人の言葉である。
上から順にシエラ、リッド、レイスである。
ケインはレブラプターの大群を蹴散らせた後、
新しい追手が来ないうちにとウィングスラスターを起動させ、
超高速で荒野の向こうに突っ走っていった。
ジェノブレイカーの姿は、あっという間に夜の闇と地平線の彼方に溶けて見えなくなっていった。
追手の心配がないのを充分に確かめた後、ジェノブレイカーを誰にも見られないようにして、
レリードタウンの自分達が経営しているゾイドのディーリングショップの倉庫に入れた。

「リッド達はまだ寝てるし、起きてから話せばいいか。」

窓を見るとうっすらと空が紫色で、夜明け前だった。
コクピットから降りたケインは途端にものすごい睡魔に襲われ、
倉庫の上の階にある家の自分の部屋に入り、
ベッドに倒れこむとそのまま深い眠りに落ちてしまい、
リッドが起こしに来るまで眠っていた、というわけである。

「・・・あのな、リッド。
ジェノブレイカーは盗んだんじゃない、連れてきたんだ。
訂正しろ。」

「間違えた。
兄さんはジェノブレイカーを誘拐してきたんだな。」

「・・・・・・殴るぞ、お前。」

「もー、ケインお兄ちゃんもリッドお兄ちゃんも喧嘩しないでよ!
朝っぱらから!」

二人の兄の間にシエラが割って入り、喧嘩を止めた。
レイスがふと、思いついたように言った。

「これから、どうするんだケイン?
BD団の奴ら、今ごろ必死になって探してるんじゃないか?
ジェノブレイカー。」

「・・・色々と貴重なゾイドだしな。
強いし・・・。
簡単にはあきらめないんじゃないか?」

とリッドが言うと、ケインが黙った。

「・・・まさか、返したりなんかしないよね、ケインお兄ちゃん。
そんな事したら絶対ジェノブレイカー、不幸になるよ!」

不安げにシエラが言う。

「ダークバトルでの犠牲者も増えるかもな。
あんなゾイドでバトルジャックされたら、並みのチームでは勝てないだろう。」

リッドがシエラの言葉に付け足す。
ケインは正直、深い事は何も考えてなかったのだが、
一つだけ確かな事は、BD団の奴らにジェノブレイカーを渡す気は全くないという事。
ケインはリッド達に向かってにっと笑うと、

「ジェノブレイカーは俺しか乗れないよ。
奴らがどう出ようと無駄な事さ。」

「・・・何でそう言えるんだ?」

レイスが問い掛ける。
ケインの自信のありように少し戸惑っていた。

「わかるのさ。
・・・あいつは俺の“相棒”だ。」

まだ出会って一日も経っていない。
だが、すでにケインと魔装竜は強い絆で結ばれていた。
互いに最高の相棒に出会ったのだ。
それは正に運命の出会いといえるだろう。

「・・・じゃあ、皆でジェノブレイカーを守ろうよ。
今は事態が落ち着くまでしばらく隠しておいて、秘密にしよう。」

シエラの提案に、リッドとレイスがうなずく。

「落ち着いた頃にゾイドバトル連盟に兄さんのゾイドとして登録してしまえば、
BD団の奴らも簡単には手出しができなくなる。
・・・堂々とお日様の下を走れるぞ、兄さん。」

今は連盟もたびたび続くBD団のバトルジャックに対し神経を尖らせている。
そんな時、登録に行って、ジェノブレイカーがBD団の基地から持ってきたものだとわかれば、
ケイン達も仲間と疑われかねない。
面倒はごめんだった。

「・・お前な、そう減らず口ばっか言ってると殴るぞ、本当に。」

リッドにそう言いつつもケインは笑っていた。

「登録したらケイン、ジェノブレイカーでゾイドバトルに出ろよ。
きっと注目されるぜ、お前のゾイドは。」

「小さな頃からの夢だったでしょ?
私達兄妹でチーム作って、ゾイドバトルに出ようって。」

「俺も入ってるぞ。」

レイスとシエラ、レイスが言う。ケインはうなずいた。

「自分のゾイド決めてないの、ケインお兄ちゃんだけだったけれど。
でもこれで安心ね。」

シエラとリッド、レイスにはすでに自分の“相棒”がいる。
いなかったのはケインのみであった。
ゾイドバトルは、ゾイドとの絆が強いほうが勝つ。
それがケインの持論だ。
彼はどんなゾイドにも乗れる腕をもっていたが、
ゾイドバトルには自分の最高の“相棒”と一緒に、と考えていた。
ずっと、探していた。
そして、ジェノブレイカーに出会うことが出来た。
ゾイドバトルには、あいつと一緒に。
それ以外はもう考えられない。

「・・・そうだな。
よし、じゃあそれまで、しっかりジェノを守らなきゃな!」

「兄さんの大事な“相棒”だからな。
俺がしっかり整備しておくよ。」

「ああ、頼むぜリッド。」

ゾイドの整備担当の彼は、早速仕事に取り掛かろうと部屋を出ていった。
レイスも手伝おうと後を追っていく。

「頑張ろうね、お兄ちゃん。
ゾイドバトル界にデビューしたら、その後はジェノで店の配達もしてね。」

シエラの言葉に、ケインはどて!とこけた。

「ジェ、ジェノで配達するのか??!
いや、そりゃスピードはあるが・・・。」

配達用トラックを尻尾につないだ魔装竜が荒野を疾走する姿を想像し、
ものすごい光景だ、と思った。

「・・・目立つんじゃないか?」

「何言ってるの?!店のいい宣伝になるじゃないの。
『魔装竜が最速便でお届けします、パーツのご注文はアーサーディーリングショップまで!』。
いいアイデアだと思わない、お兄ちゃん?」

うきうきと語るシエラにケインは逆らわないことにした。
果たしてジェノが引き受けてくれるかな〜、と不安はあったが。

「・・・そう、だな・・・。」

それだけ言うのがやっとであった。
こうしてジェノブレイカーはケイン達の家の新しい住人になった。

 

 それから一ヶ月の間は、いつもと変わらぬ穏やかな日々が続いた。
ジェノブレイカーは昼間は店の奥の倉庫にいて、
夜にこっそりケインが乗って調子をはかる、という感じであった。
新聞やテレビのニュースにはあの基地での事は出てこなかった。
事が大きくなることを恐れたBD団が裏で秘密裏に処理したのかもしれない、とリッドが言った。
最近BD団が盛んに狙いをつけ、ダークバトルを申し込んでは破れているチームがあり、
彼らの活躍がきっかけとなって、ゾイドバトル連盟がこの機に組織壊滅を本格的に始動させたらしく、
奴らも下手な動きはできないのだろう。と言うのはレイスだった。

「じゃあ、ひとまず安心って事かな?」

シエラの言葉に難しい顔をしたのは、ケインだった。
確かにここ一ヶ月は何もなかったが・・・。

「?兄さん、どうしたんだ?」

リッドがそんな兄の様子を見て尋ねる。

「・・・どうも、ここ最近誰かに見られてる気がする。
時々、視線を感じるんだ。」

はっきりとしない言い方にレイスは考えすぎじゃないのか、と言ったが、
ケインの表情は険しかった。
追手だとしたら、すでに彼らの事はわかってるのかもしれないのだ。

「・・・よし、じゃあもう少しやっておくか。
・・・レイス、手伝ってくれないか。」

「あ、ああ、わかった。」

レイスと共にリッドは部屋を出て行こうとした。
その背中にシエラが、何をするの?、と質問を投げかけると、
リッドは意味ありげな笑みを浮かべた。

「“念には念を。”
・・・じゃ、行ってくる。」

後に残されたシエラとケインは、
訳がわからない、というようにしばらく顔を見合わせていた。

「・・・ま、心配ないだろ、きっと・・・。」

 

 その夜遅く。
ジェノブレイカーのある倉庫のほうで、突如どさ!!!と何かが落ちる音がした。

「かかったな!」

途端に倉庫の中がぱっと明るくなり、
隠れていたケイン、リッド、シエラ、レイスが飛び出してきて、
ジェノブレイカーの下に転がっている物体を囲む。
いくつもの投網に巻かれたそれは、思うように身動きできない状態である。

「・・・まさか、こうも上手くいくとは思わなかったな・・・。」

リッドがポツリと呟く。
彼は昼間ケインが、視線を感じる、と言っていた事で、
店中に設置されている彼お手製の泥棒撃退トラップを強化しておいたのだ。
特にジェノブレイカーの周りは厳重にしておいた。
その内の一つにまんまと侵入者は捕らえられたのだった。
加えてケインが今夜から倉庫で寝ると言い出して、
じゃあ今夜は皆で見張ろう、という事になったのだが・・。

「・・・で、これ、どうする??
警察に今から電話するか?」

レイスが投網でぐるぐる巻きのそれをさして言った。
彼の声が聞こえたのかそれはもがもがー!!と激しく抵抗した。

「・・・嫌がってるな。
まあ当たり前だが。」

「朝までここに置いておこうよ。
こんな格好じゃ自由に動けないから安心だよ。」

シエラがふあ〜と大きなあくびをした。相当眠いらしい。
ケインは、自分が朝までここに見張るから大丈夫だ、と言って、
リッド達を上の部屋に行かせた。

「悪かったな、みんな。
後は俺がやるからゆっくり休んでくれ。」

ケインの言葉にレイス、シエラ、リッドがそれぞれ言葉を返した。

「いーって、いーって。
それより、しっかり見張ってろよ。」

「お兄ちゃん、お休み。」

「何かあったら来てくれ。」

そうして面々が去った後、
ケインはその物体に近づき、一枚一枚投網を慎重にはがしていった。

「大人しくしな。
今取ってやるよ。
・・・色々と話も聞きたいしな。」

途中暴れて逃げたりしないように気をつけて作業を行う。
やがて中の人物が見えてきた。
と、途端に勢いよく頭が飛び出してきて、ケインの顔面をガン!!と直撃した。

「〜〜〜!!!
お、お前なあ!!」

顔面を押さえてケインがどなる。
痛みが大きすぎて声が上手く出ない。
相手のほうも相当痛かったらしく、床にうずくまって動かない。
思わず声がもれた。

「い・・・いたたたた・・・。」

「あれ?
・・・その声・・・、どっかで・・・。」

ケインはここ数ヶ月までの記憶の糸をたどり、ふいに思いついた。
うずくまった相手の頭を見て、銀髪であることに気づき、彼は確信した。

「・・・お前!
あの時ぶつかった女か??」

彼の叫びにぴく、と反応した彼女がやがてゆっくりと顔をあげこちらを見た。
今度は帽子がないからはっきりと顔が見れた。
前髪に青いメッシュが一筋入っている。
青い瞳がケインをじ〜っと見つめていて、どうやら向こうの方もケインを覚えているようであった。
いまだ体は投網でぐるぐる巻きにされ、
頭だけ見える姿はまるで雪だるまのような姿の彼女は彼に向かってこう言った。

「今度は手を差し伸べてはくれないのかしら?
・・・ケイン・アーサーさん?」

名乗ってなどいないのに自分の名前を知っているこの女性に、ケインは警戒心を強める。

「・・・お前、誰だ?
やっぱりBD団の手先か?」

「そんな怖い顔しないでよ。
私はBD団の手先なんかじゃないわ。
・・・私は、貴方と同じ。
あの日、あそこに潜入してた“侵入者”なの。」

さらりと女の言った事にケインはあっけにとられる。

(・・・あの日、こいつも侵入してたのか?
じゃあBD団じゃないのか?)

「・・・お前もパーツ盗みに来たのか?」

「ううん、違うわ。
私は・・・、この子を奴らの手から逃がしてあげたかったの。
あんな所にいたら不幸になるわ。この子。」

すぐ後ろのジェノブレイカーを彼女は見上げる。
この子・・・とは誰の事かすぐにわかった。

「でも、貴方に先を越されちゃったでしょ。
びっくりした。
あの時は。途中まで追いかけたんだけど見失ってしまって。
・・・探すのに苦労した。」

「・・・で、お前はBD団じゃないなら、何しにここに来たってんだ?
わざわざこんな夜中に忍び込んで。」

彼女は嘘を言っているようには見えなかった。
しかし、目的がわからなかった。

「・・・あのね、信じてくれるかしら?」

遠慮がちに女はケインに聞いた。

「言ってみろ。
それから判断する。」

女は何かを考えているのか、長いこと黙っていたが、
やがて意を決した。すーは、すーは、と深呼吸をした後に、

「・・・ジェノブレイカーを、見てみたかったの。
・・・それだけ。」

と、顔を真っ赤に染めて、
小さな声で確かに彼女はそう言った。

「・・・・・・・・・・・・は?」

今、何て言った?こいつ。
ケインの頭の中の時が止まる。

(ジェノを、見てみたかった、だけ、・・・だと??
それだけで人の事調べて探したり、夜中に忍び込んだりしたのか??)

「だから・・・。
盗もうとか、そういうんじゃ、全然、なくて・・・。
・・・ジェノを近くで見てみたかったの・・・。
本当にそれだけなの・・・。」

「・・・はあああああ!!??
お前、本気かそれ??!」

ケインは大いにあきれ返る。
と同時に体の力が一気に抜けていくのを感じる。

(な・・・、何なんだこの女は???)

彼の頭の中は混乱していた。

「こっちはBD団の追手が来やしないかと結構張り詰めてたってのに!!
・・・まぎらわしい!」

「だ、だから信じてくれるかって・・・、聞いたのよ・・・。
信じてくれない、かな・・・?」

おそるおそるケインの様子をうかがう彼女。

(・・・普通、こんなの信じる奴はいないぞ・・・。)

だが・・。

「・・・信じるよ。お前の言う事。
お前はBD団じゃなくて、盗みに来たんじゃなくて、
ただジェノに会いに来たんだな。」

ケインの言葉に、ぱああっと彼女の顔が明るくなる。
「ありがとう!」と言って雪だるまの体でぴょんぴょん跳ねた。

「ねえ、私を自由にしてくれないかな?
もっと色んな所からジェノを見てみたいの!お願い。」

「それは駄目だ。
まだお前が何者なのか聞いてないからな。
BD団じゃなくても怪しい事に変わりはない。」

ぴしゃり、と言い放つケインに彼女は不満げにぷう、と頬をふくらませたが、
それもそうか、と思いなおした。

「・・・じゃあ、何でも質問して。
私は一切を正直に話します。
そしたらジェノの近くに行かせて。
お願い。」

ぺこ、と頭を下げる彼女にますます、おかしな女・・・、という気が彼の中で大きくなるが、
面白い気がしてきた。
ケインは彼女の前に座って尋ねた。

「じゃあ・・・。まず名前を教えてくれ。」

向こうは自分の名前を知っているのに、自分は彼女の名前を知らない。
この変わった女の名前は、なんて言うんだ?

「私は、ジュジュ。ジュジュ=フォレスト。」

ジュジュはにっこりと微笑んで、ケインに向かって名を名乗った。

to be contenued

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あとがき

HAZUKI様こんにちわ!
前にメールでお話しましたケインとジェノブレイカー、ジュジュの、
初めての出会いの話の前半が(ものすごく長い・・・)できましたので送ります!
当初こんなに長くなるはずじゃなかったのにどんどこどんどこ・・・、
勝手にバスターズの面々も出してしまいました!
うぐわ!!
ど、どうしよう・・・(書いてからはたと気づく奴)
ここまでやってしまっていいのか?
いいんですか??!
あの気に入らないとか違うとかありましたら、
ばしばし削除なり変更なりしてしまって構いませんので!(><)
はい!生みの親はHAZUKI様ですから!!
後半はケインとジュジュの会話です。
彼はジェノブレイカーとジュジュと同じ頃に出会ったんだなあ・・・。
2つの相棒(一つはまだ「?」だけど(爆!))との出会いを同じ時に!!(笑)とか一人で大盛り上がり!!
もうアホですね・・・。
HAZUKI様、いかがでしょうか?
頑張ったんだなーというのは・・・、認めて下さい・・・。(T□T)
では、失礼します!
後半「二つ目の出会い〜ジュジュ=フォレスト」頑張ります!


初心者さんから頂きました。
どうもありがとうございます。
これで前半・・・、凄いですねぇ・・・。
後半はもっと盛り上がることを大期待!!(図々しい!!)
でも、これは私が書くべきだったのでは・・・。
初心者さんにお手数をかけてしまって・・・、どうも済みません。
本編でもケインのことは書くつもりです。
ジェノブレイカーのパイロットですしね。
ちょっと最近オリキャラが目立ち過ぎの私のサイト・・・。
ケイン、結構思い入れが強くなってきました。
これじゃあ、キースに悪いかなぁ・・・。
あと、最近リッドにも凝ってきて・・・。
どんどん続くよ、オリキャラワールド。(荷電粒子砲)
初心者さん、どうもありがとうございました。

 

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