「薄明の悪夢(前編)

 

キイイィィィーーー…

銀色の機体が、よく晴れ渡った空を飛んでいる。
その外見はストームソーダーによく似ているが、性能は桁外れらしい。
このとき既に、ストームソーダーの最高スピードに達していた。
軽くそのスピードを出せるのだと言えば、この機体しかないだろう。
もうお分かりだと思うが、キースのサイクロンブレイダーである。

「早く次の町へ行くぞサンダー、ブレイダー。
そうじゃないと仕送りと生活費がまかなえないからな。」

『キュイ!』

さらに加速を続けるサイクロンブレイダー。
ちなみに、彼らを地上から見ることは困難を極める。
速い上に高々度を飛ばれては、よっぽどの者でなければ分からない。
だと言うのに、実はこれから彼らに襲いかかろうという無謀な奴らが居た。

「へぇ…そろそろ来るのね。」

暗く広い部屋の中、電子音だけが鳴り続けていた。

「フーの言う通りね。
上手く仕掛けたものだわ。
あとはあっちの仕掛け…
少しはおもしろくなるのかしら?」

ククク…とその女性は笑う。
時は、数時間前にさかのぼる。

 

「これでいいんだったな、お兄さん。」

「あぁ。サンキュー!」

キースは、とある家で中年の男性と話していた。

「まぁ、機会があったらまた寄ってくれよ。」

キースの手には、なにやら大きめの布袋があった。
どうやら、ここで盗賊を倒し、用心棒代と賞金をもらっていたようだ。

「まっ、本当に機会があったらな。
それまでくたばるなよ。」

「ハッハッハ!私はそう簡単には死なんよ。」

それだけ会話をすると、キースはその家をあとにした。
手には賞金のリストがある。

「さてと、もう少し稼がないとな。
最近シケたのが多くて探すのが面倒なんだよ。」

キースはブツブツとそう言いながら、サンダーとブレイダーが待つ場所へと戻る。
だが、彼は背後の視線に気が付かなかった。

「あれがキース・クリエードね。
元中佐…雰囲気が変わっていないおかげで助かったわ。」

くすっとその声は笑った。
物陰に隠れているその人は手に紙と、それからキースの軍時代の写真を持っていた。
そして彼女は、誰かを待っているかのような振りをして人々を欺いていた。

「(これなら、作戦を中止することはなさそうね…フフフ……)」

待ちくたびれた振りをし、彼女は人混みの中に消えていった。
それはどこにでもありそうな光景で、誰も彼女の正体を気にとめるものはいなかった。

 

「キュッ?」

「サンダー、そろそろ出るぞ。」

サンダーはキースが戻ってきたことに気が付き振り返った。
キースはその町のはずれに来ていた。
隣にはブレイダーもいる。

「さて、今度はどれにするかな…。
……一番マシそうなのはこれか。」

キースはもう一度、賞金リストにざっと目を通す。
次の仕事を決めると、すぐにブレイダーに乗り込んだ。
どうやら、先の仕事は楽に終わる程度のものだったらしい。

「サンダー、夕方には次の町に行くぜ。」

キースはサンダーをサイクロンブレイダーに合体させると、すぐにそこを発った。

「(あれが、サイクロンブレイダー…)」

どうやら付けてきていたらしい。
大分遠くの方ではあるが、また影の中でその呟きが聞こえた。

「サーカス、こちらフー。
奴はここを出たわ。
……そう、予想通りそっちに向かっているみたい。
ただ、ちょっと急いでるみたいだから速いわよ。
…えぇ、こっちもすぐに準備するわ。楽しみね。」

くすくすっと笑うと、その通信機器を切った。

「まとめて片づけるのって、面倒そうだけどおもしろそうね…フフ。」

そう言うと、彼女の気配はこの町から消えた。

 

「この調子で行けば、何とか暗くなる前に着けそうだな。」

キースは計器の様子を見ながらそう言った。

「この調子で頼むぜ!」

『キュイ!』

ビビッ!

だがそんな時、急に特殊な反応が画面に出た。

「なにっ!?」

ドドドドーーーーン!!

目の前でいくつもの砲弾が爆発した。
ブレイダーは軽々と避けたが、その影響で減速する。

「うっ、なんだ…?」

下を見ると、ゴルドスが数機確認できた。

「様子からして、待ちかまえていたのか……?」

ブレイダーの前に弾幕を張ろうとする奴らだ。
通るのなら誰でもいいというわけではないようだ。

「こんにちは。」

急に回線が開いた。
ノイズが掛かったそれで顔を確認できないが、それは女のものだった。

「悪いけど、これが盗賊団“サーカス”の今回の仕事…」

「サーカス……?」

どこかで聞き覚えがあるな、とキースは思った。

「確か、共和国、帝国両国のお尋ね者……」

少し考えると、すぐにその答えは出た。
そう言った瞬間、女の口元がニヤッとなった。

「悪いけど、逃がすわけにはいかないのよ!」

パチン、と指を鳴らす。

ビーーー

「なにっ!?」

急に新たな反応が出た。

「この反応からして飛行ゾイド…数は30を越えているな。」

すぐにその正体は確認できた。
ブラックレドラーとレドラー、そしてプテラスだ。

「仕方ないな。さっさと片づけて行くぜ!!」

『キュイ!』

ダダダダダダダダーーーン!!

キースはミサイルを撃とうとしたが、下にいたゾイドの妨害され、すぐに周りを囲まれた。
だが…

ダダダ…

「うわっ!」

「くそっ!!」

近付いた敵は、レーザーとマシンガンの餌食になる。

「そんな腕で俺とサンダーとブレイダーにかかってくるなんて、無謀なのもいいところだな。」

見かけの数は多いが、その盗賊団の腕は大したことが無いようだ。

ビッ…

突然、またあの通信が入った。
女の声が話しかけてくる。

「それは悪かったわねぇ。
だけどこの回は物量攻め。
腕の悪いのは気にしないでくれないかしら?
ほら、次よ。」

また、パチンと指を鳴らす音がした。

ビーーー

すぐにその正体は見えた。

「何だよ、今度はシンカーか。
あとはさっきの追加だな。」

もう既にキースは30機ほどの機体を落としていた。

「ククク…。
やっぱり伊達に“天空の覇者”を名乗ってないわね。
でも、そうじゃないと次がおもしろくないかしら?」

邪な笑みを浮かべるこの女性は、悠然とそう言い放った。
暗い部屋が、それをいっそう不気味にさせる。

『ギュアアァァッ!!』

「うわっ!」

またブラックレドラーが落ちていった。
それが連続しているものだから、さっきから下のゴルドスは砲撃できないでいるようだ。
ただ、ほとんどが落ちていったのに、未だに残っている集団があった。

「このシンカー、装甲が分厚すぎるな…」

シンカーだけはレーザーもマシンガンもものともしなかった。

「まっ、まぁまぁだな。
だけど俺たちには役不足だぜ!!」

キースはブレイダーのブレードを展開する。
格闘戦に持ち込み、次々に落としていく。

ダダン!

「なんだっ!?」

後ろへ近付いたシンカーが、尾の辺りを開き、ミサイルを放った。

「シールド!!」

それはすぐにネット状のものを放ち、襲いかかる。
だが彼らの判断で、“それ”は無意味となった。
直後、そのシンカーをブレードで切り落とす。

ジャアァァー!

「ぐあぁっ!」

落ちていくそれをよく観察すると、そのシンカーの尾の辺りは変形していた。
他のシンカーは形を変えているもの、変えていないものとが混ざっている。

「そうそう、言い忘れていたわね。
“サーカス”はスパイ活動もしてるの。
他にも色々と在るわよ…ククク……」

「へぇ、じゃあ少しは楽しめるのかな?
それとも、ただそれに頼っているだけなら俺たちには勝てないぜ!」

『ギュアアアアン!!』

キースのセリフに答えるかのようにブレイダーが一鳴きした。

 

「不甲斐ない奴らね。
本当に使えるのかしら?」

その光景を遠くで観ている少女が居た。
傍らには、緑色のオーガノイドがいる。

「まだまだだ。
あれはほんの序の口…」

側には男性の姿もある。
そして、赤いオーガノイドの姿も…

「グウウゥゥゥ…」

そのオーガノイドは、その光景を睨み付けながら呟いた。
後ろには、なにやらゾイドのものらしき影があった。

 

ババババーーーーン!!

相変わらず、そこには爆発音が絶えなかった。

「逃がすか!」

「ちっ、まだなくならないのかよ!」

もう既にシンカーは落とし終えたが、下からの攻撃で身動きがとりづらかった。

「砲撃専用か…随分と歩きづらそうなゴルドスだな。」

下には、ゴルドスが3機ほどいた。

「あらあら、それにはあんまり気を遣わなくていいのよ。」

「何?」

別な女の声だ。
キースは辺りを見回した。

ダダダダダダ…

その曲線を見ると、少し遠くから砲弾を撃ってきたようだ。

「レーダーに反応がない?
……罠か。」

だが、ブレイダーでしたにいるゴルドスを3体倒すとなると、困難を極める。

「だが他にゾイドの反応もない…
…まさか、光学迷彩かステルス?」

嫌な予感を感じた。

「まぁ、さっきの戦闘の合間に、軍に応援を要請したからな。
期待してはいないが、それまでにこのゴルドスもいい加減に弾切れを起こすだろ。」

相手の確認だけでもしなければいけないので、その正体を探りに飛んだ。

キイイィィィーーー…、ヒュ〜〜〜〜〜〜

相変わらず砲弾が追いかけ、そして迫る。
が、この3名のプレーの前には意味をなさない。

バァン!!

すぐにそれは標的も見失い、爆発した。
そこを抜け出し、砲撃してくるものの正体に近付く。

「なっ、あれは…3S?!」

そこに見えたのは、岩の上にある漆黒の機体…確かにストームソーダーだ。
だが、それはあまりにもらしくなかった。

「フフフ…やっと来たわね。
そろそろこれを使いましょう。」

彼女が画面を操作すると、ブレイダーに標準を付けた。

「フル・バースト……!」

ガガガガガガガガ………

おおよそストームソーダーが発射するには無理がありすぎるような砲弾を発射、
しかしそれでもその3Sには支障がないようだ。
もの凄い数の砲弾がキース達を襲う。
たとえは雨どころではなく、猛吹雪だ。

「………もう少ししないと駄目みたいね。
でも、もう少し経ったら……フフフフフフ…」
何とも不気味な声で、その女は笑った。

「何なんだ、あの3S!?」

キースの方は少し混乱する。
どう考えてみても、ストームソーダーにあれだけの数の砲弾を撃たせることは不可能。
機体が耐えきれずに吹っ飛んでしまうのがオチだ。
それでも、砲弾は迫ってくる。
とにかく一度その場を離れ、砲撃を振り切ったあとにその場に戻ることにした。
ブレイダーはぐんぐん加速していく。

バアアァァァァン!!

見事、その砲弾を引き離して爆発させた。

「ブレイダーのシールドはもう使えないか…」

キースはブレイダーの状態を見てそう呟いた。
画面に出ているグラフで、ブレイダーにそれなりの負担がかかっているのが分かる。
だがとにかく、3Sは空戦専門のゾイド。
プライドとして誰にも譲れない上に、3Sを落とせるのは彼らくらいしかいないであろう。

「……そう、そろそろ戻ってきたのね。
フフフ…そろそろ本領発揮かしら?
Secondunit、強制排除!!」

その黒い機体の翼に取り付けられていた武装がすべて落ちた。

「………セット…!」

『ピピーーーー』

背には、なにやらゴジュラスにでも付いていそうな砲台がまだ付いていた。

「……これで少しは面白くなるのかしらね。
…バースト!!」

ドドーーーン、ドドドドドーーーーーン!!

「!?まだ残ってやがった!」

火力は相当のようで、それはまるで赤い火の玉のようだ。
ブレイダーは何とかその連続攻撃を避けた。

「Firstunit、強制排除!!」

と、その3Sは力強く地面を蹴った。

「行くわよ、セイリオス(焼き焦がすもの)!」

「爪!?」

その3Sは通常の足を持っていなかった。
どちらかというと、ジェノザウラーなどの足のようだ。
しかもその3つの爪の内、真ん中の爪はまるでかぎ爪のよう、
そして踵部分の一本も、やはり鋭いかぎ爪らしい。

「ファイヤークロォーーー!!」

その爪が真っ赤に燃え上がっている。
そして果敢にもブレイダーにそのまま突っ込んできた。

「!?
…だったらブレードだ!!」

対するブレイダーもブレードを展開して迎え撃つ。

「くすっ…甘いわね。」

そう言うと、女は直前で機体を上に上げた。

「ちっ…」

ブレードが掠るが、当たらない。

ガッ

瞬間的に、ブレイダーは機体を微かに降下させた。
ギリギリのところで、相手の爪がブレイダーの翼を掠めた。

「サンキューな、サンダー……かぎ爪が下がるのか。
どおりでさっきの砲撃ができたわけだ。」

キースは感心して、その3Sを見た。

「くすくすっ…フー(炎)って言うコードネーム、聞いたこと無いかしら?
闇炎の暗殺者(かえんのかりうど)のね!」

「火炎の狩人…そう言えば!」

キースがまだ軍にいた頃、確かにその名は聞いた。
再び黒い機体が向かってきた。
昼間なので夜ほどそれを撃ち落とし辛いわけではない。
だが、パルスレーザーは軽々とかわされてしまい、相手は後ろにつき、砲撃までしてくる始末。

「けっこうできるんだな…
…だったら!」

ブレイダーはそのままその3Sを引き連れて、アクロバット飛行を始めた。
彼の得意中の得意の策だ。
敵を苛立たせ、ミスや焦りを誘う。

「そう。
確かにそれがあなたのやり方だって聞いたわ……」

だが相手はそう簡単には動じない。
一応その手のプロであるのだから。
今は後ろを付け、砲撃する。
もちろん一つも当たらないわけだが。

「やっぱり普通のやり方だと面白くないわね。」

何か画面を操作する。
機械音がして、何か画面に表示された。

「規制プログラム、…allclear!
フットブースター、ON!」

スピードが増した。
だが、もちろんブレイダーには追いつけない。

「戦い方って、一つじゃないのよね。」

それだけ言うと、3Sは翼を畳み、一気にそこを離れた。

「ちっ…」

予想外の行動に、一瞬判断が鈍った。

「この3Sのオプションパーツにはパルスレーザーガンがあるわ。
ジェノザウラーが背負っているものに近い、ね。」

頭部の両側に突きだした砲台から光が向かっていく。
すぐにブレイダーはそれを避ける。

「そう来なくっちゃ、あたしの相手として不十分だよ!」

再び向かってきた。
またアクロバット飛行を再開…が

「なに!?」

3Sは体当たりを仕掛けてきた。
いや、ただそう見えただけかも知れないが…

「こういう策戦も、ありよね?」

間髪入れずに砲撃にでる。
銀色の機体は、危うくそれに当たりそうになった。
さらにあいては、予測不可能な動きを仕掛けてくる。
離れるのか、近付いてくるのか、何をしてこようとしているのか…
技術だけではない。相手の心理を見透かしたような動き。

「強いものにも、弱点はあるのよね。
強いからこその………その反応の良さは、命取りだよ!
あんたの意志に介さないからね!!」

「ちっ!」

炎と同じく、掴みようのないヤツだ。
こういう者は、大抵ゾイドを何とも思っていないような連中に入る。

 

「いっけぇ〜〜〜〜〜〜!!!」

閃光が地を駆け抜ける。我に返って振り返る者達……
待機して空戦の様子を窺っていたゴルドスは、あっという間に武装を削ぎ落とされた。

「ええぇい!
メガロマックス、ファイヤーーーーーーッッ!!」

続いて、いくつもの光の筋がゴルドスに当たる。
だがそれは1体だけで、2体は離れた場所にいた。
残りゴルドスはその砲口をバンとトーマがいる方に向ける。

「トドメだ!」

だが、ついにそのゴルドスは攻撃することがなかった。
一筋の太い光がゴルドスの機体を掠る。
そこにいた3体は地に伏し、そのまま動かなくなった。

「大丈夫か、キース!」

「アーバイン!?」

キースは驚いた。
彼は別に、GFに連絡を入れたわけではないのだから。

「たまたまバンとあったら、ピンチだって言ったからよ。」

「ちょっと近くに仕事があったからね。」

リーゼの声も聞こえた。
大方、プテラスにでも乗っているのだろう。

 

「へぇ、やっと来たのね。
クス……」

彼女がそう言った瞬間、暗い部屋の中に長い機械音がなった。
怪訝そうな顔をしながら、キーを一つ叩く。

「どういうつもりかしら?」

画面に映ったのは、緑色の髪を持つ少女だった。

「別に?どういうつもりもないわよ。
どんなヤツが来ようと、あの銀色のを弱らせればいいだけなんでしょ?
あとの話なんて、聞いてないわ。
それでは申し訳ありませんけど、もうしばらくお待ちを…」

一気にそれだけしゃべり終えると、素早くその通信を切った。

「本当にどういうつもりもないのかな?」

不意に、後ろから声がした。
男性の太い声だ。

「無いわよ。
強いて言えば、GFが邪魔なだけ。
どうせこいつらじゃなくても軍隊が来ただろうしね。
それくらい考えてあるわよ。」

彼女は、数回キーを叩いた。

「第2ラウンド…第3ラウンド言うべきかしら?
ねぇ、レグルス(小さな王)?」

椅子から立ち上がると、その男性と向かい合った。
男性よりもまだ低いその女は、フィーネよりも若干年下だろうか?
何かをコントロールできるほどの年には見えない。

「どうせあなたは作戦を考えるのが不得手なんでしょ?
私に任せる。
確かにそう言ったわよね?」

ごついその男性は確かにな、とだけ言って笑った。

「なら邪魔しないで。
確かにあなたの方が地位的には上でしょうけど、これは私の仕事。
私だけで十分。
余計な真似はしないで。」

それだけ言うと、返事も聞かずにその部屋を出る。

「相変わらず、おかしなガキだ。
クククククク…」

様子から察するに、この“サーカス”という盗賊団の頭だろうか?
直にその男性もその場から去った。

 

「みんな、気を付けて!
何かいるわ!!」

「フィーネさん!?」

リーゼ操るプテラスの後部座席には、フィーネが乗っていた。
声を荒げて皆に忠告する。
悪い予感、だろうか?

「くすくす…勘がいいんだね。」

「もういいんじゃない?
ねーさんも行けって言ったし、
ポルックスも待ちくたびれたって言ってるよ、ディオスクロイ(ゼウスの息子)。」

いきなり、男の子の声が聞こえた。

「カストルも待ちくたびれていたみたいだよ。
じゃあ、さっさと行こっかポリュデウケス(ポルックスの原語)。」

「どこにいるんだ!?」

バン達は辺りを見渡す。
どこにも姿は見えない。

「「ユニット0…フル・バースト!!」」

その声と共に、近くにあった岩の上にガンスナイパーの姿が現れた。

「光学迷彩をしていたのね!!」

間髪入れずに砲弾が放たれる。
一方は黄色、一方は黒磯のガンスナイパーはその砲弾のせいで見えなくなる。

「ちっ…」

「あら、行かせないわよ。」

キースはバン達を助けに行こうとした。
だが、それもこの3Sに阻まれる。

「ミサイルもまだ残っているようね。
まだまだ余裕なのかしら?」

3Sはソードではなく、さっきから“爪”だけで攻撃を仕掛けてくる。

「そっちこそ、かぎ爪が2つもなくなった割には余裕だな。」

キースは負けじといつもの口調で返す。
だが、それでも彼らにはかなりの疲労が溜まっていた。

「ポリュデウケス、そのめんどくさそうなのどうにかしてね。」

「うん。へましないでね、ディオスクロイ。」

何かかが地面に叩き付けられるような音がした。
それと共に、その場所の地面が歪んだらしい。
おそらく、さっきまでガンスナイパーが付けていた装備であろう。
ガンスナイパーは、その急な角度の岩の傾斜を駆け下りた。

「まずは、こっちからだね。」

黒い機体が、トーマのディバイソンに近付いてくる。

「くっ…ビーク、標準セット!」

『ピルルルルル!』

電子音が鳴る、が……

『ピーーーーーー…』

「何!?セットできないだと?
まさか、ステルス…」

トーマがそう言った瞬間だ。
黒い機体は地面を強く蹴った。

「行けえっ!!」

「ビーク、シールドを発生させろ!」

『ピルル!』

ビークが短く返事をすると、すぐにシールドが発生された。

「うわっ!」

当然、その黒い機体はそれにぶつかり、跳ね飛ばされる。
砂煙を上げながら、その機体は転がった。

「この程度ですむなと思うなよ!」

だがそれは一瞬のことで、すぐに立ち上がる。
そのまま駆けていくと、左腕を振りかざした。

「しまった!」

トーマが気付いたときには、既に遅かった。
エネルギーを節約するためにすぐにシールドを解いたために、無防備だ。
後ろを取られてしまったため、敏捷性の高いその機体に反応しきれない。

バリバリバリッ!!

気が付いたときには、右後ろ足を貫かれていた。

「ぐうぅっ!」

「トーマ!!」

バンがすぐに駆けつけたが、相手は飛び跳ねてその場を下がる。
おおよそ、ブレードを手にしているところからしてガンスナイパーらしくない。

「大丈夫か、トーマ!」

「くそっ!このままでは移動できん!!」

悔しそうに握り拳を叩き付ける。

「バン、トーマさん、危ない!!」

「何!?」

空を見上げると、砲弾が迫ってきていた。

ダダダダーーーン!!

「なんだ!?」

どうやら、かなり遠くから撃ってきたようだ。

「キース、そっちから何か見えねぇか?」

「ちょっと待て!」

アーバインがそう言うが、はっきり言ってキースには余裕があまり無い。
ブレードで一気にけりを付けようとしたのだが、外されてしまったのだ。

「遠くの方にゴルドスが3機見える。」

だが、何とか答えるあたりはさすがである。

「まぁ、確かにこんな事ができるのはゴルドスくらいだもんね。」

リーゼもそう言いつつガンスナイパーを撃ち倒そうと試みるが、すばしっこくて、一向に当たる気配がない。

「ゴルドスは俺がやる。
バン達はそいつらをどうにかしといてくれ!」

「分かった。
気を付けろよ!」

「あぁ。行くぜ相棒!!」

アーバインはそう言うと愛機を駆けさせる。
だが…

ビュビュビュン!

「ぐあぁっ!」

それは何者かによって阻まれた。

「アーバイン!?」

「うっ…何!?」

続いて、ジェノブレイカーのフリーラウンドシールドにもそれは当たった。

「フィーネっ!?」

「だめ、相手を特定できないわ。
でも、この様子からして……」

「ヘルキャットか。」

フィーネがそう言うよりも先に、アーバインが言った。

「すぐにデータを送る!」

「頼むぜ、トーマ。」

バンがシールドでディバイソンをかばったため、何とかビークもフリーズしなかったようだ。
だが、何をどう準備しているのか…これもまた阻まれる。

「…なっ!?」

急に地面が盛り上がった。

『キシェェェエエエ!!』

「ガイサック!?」

バンは慌てて撃ち落とすが、ブレードライガーの足下からもそれは現れ、
すぐにすべてを排除できなかった。
それが運の尽きだった。

『ギャアアン!』

「ぐああっ!」

「トーマ!!」

数機のガイサックのはさみが、トーマのディバイソンを突き刺す。
やっとの事でそれらを追い払ったが、ディバイソンには痛々しい傷が残った。

「トーマ、無事か!?」

バンが呼びかけると、すぐに返事が戻ってきた。

「俺は平気だ。
だが…くそっ!
マシントラブルでヘルキャットの足音のデータが送れん!」

「何だって!?」

そう言ったのはリーゼだった。
相手の位置を予測できないとなると、なかなか厄介である。
また砲撃が向かってきた。ヘルキャットのものだ。
そして2体のガンスナイパーが、こちらの隙をじっと窺っている。
空では相変わらず黒と銀が凌ぎを削っていた。

 

「そこをどけろ。」

レイヴンはそう言い放つと、アンカークローを落とした。
光が収束する。
そこまでその近くにいたライトニングサイクスは、急いでその場から去った。

ヴアアァァァァーーーーーーーーー!!

ヘルキャットの攻撃をものともせず、そのまま光を放つ。
その進路状にいたヘルキャットはその体を燃やすこととなった。

「…行け!」

レイヴンはそう言った。誰の返事もない。

「アーバイン、早く行け。」

「あぁ俺かぁっ!?」

アーバインは驚いて目を見開き、口をポカンと開けた。

「この中では一番速い。
今なら横からの攻撃も少ないはずだ。」

そのレイヴンとアーバインの会話を聞いて、青緑色の瞳が人間らしさを灯す。

「…レイヴン、君も君なりによく考えたんだね。
昔だったらそんなこと、しなかったのに……」

すぐにサイクスが動いた…。
アーバインが調子を取り戻したのはすぐだった。

「O.K.」

「頼むぞアーバイン!」

「分かってらぁ。」

バンにそう言われると、アーバインはなるべく一直線で、できるだけゾイドの残骸がない道を選んだ。
一度決めると、彼らはすぐに走っていった。

「行くぜ、相棒!!」

赤いスイッチを押すと、すぐにスピードが上がり始めた。
砲撃をし続けて、そのまま突き進む。

「レイヴン、俺たちもアーバインに続くぞ!」

「分かっている。」

「「そう簡単にはいかせないよ!」」

見事にはもった声が、彼らの行く手を阻んだ。

「さっきのガンスナイパー…」

彼らの目の前には、黄色いガンスナイパーと黒いガンスナイパーがいる。
思わず、バンもレイヴンも足を止めてしまった。

『キシェェェエエエ!!』

「なに!?」

「しまった!」

足下からガイサックが現れる。

「レイヴン!」

「バン!」

プテラスも砲撃を放ち援護する。

「ディオスクロイ?」

「そうだね。
僕がやるよ。」

不意に、黄色いガンスナイパーが動き出した。

「リーゼ、あのガンスナイパー、こっちに来るわ!」

「もう、面倒だなぁ。」

リーゼはそう呟くと、標的をガイサックからガンスナイパーに変えた。

ババババババン、ババババババン!!

「あっ!」

フィーネは思わず叫んだ。
黄色いその機体は、するりするりと砲弾の間を縫う。
相手の敏捷性は、かなり高い。

「もう!ちょこまかと!!」

リーゼは苛立ちながらガトリング砲で砲撃を続ける。
だが、いっこうに当たる気配がない。
敵は力強く地を蹴った。
弾幕以外の黄色い煙が一つ上がる。

「行けぇっ!!」

「フィーネ!?」

バンが叫ぶ。
敵の機体は、ガンスナイパーとは思えないくらいのジャンプ力を見せつける。

「すっ、スペキュラー!!」

オーガノイドの援護で、何とか飛びかかってくるそれを避けた。

「何て機体なの…」

フィーネは不安そうに呟いた。

ビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!

バンが何とかガイサックを倒し、パルスレーザーガンを空に撃つ。

「なめるなよ!」

だがその機体の右足にあったブースターが噴射、
空中のそれに、ギリギリのところで避けられてしまった。

「そうそう、子ども扱いしてほしくないな。」

気が付くと、すぐ後ろに黒い機体がいた。

「何時の間に!?」

すぐ隣にいたジェノブレイカーが、エクスブレイカーを振りかざす。
敵はトン、と一歩下がって姿勢を低くする。
威嚇しているのであろう。
この2体の前では、かなり無謀なことではあるが。

「バン!」

フィーネがまた叫んだ。

「新たな反応が。
…これはコマンドウルフ、セイバータイガーに………シールドライガー?!」

「シールドライガーが?」

前の座席にいるリーゼも驚いた。
大体、盗賊が手に入れられるような代物ではない。

「…まっすぐ、こっちに向かってきているわ。」

またヘルキャットが砲撃を始めた。
2体のガンスナイパーはまた下がる。
大体の見当を付けて反撃を試みるが、ラチが上がらない。
それでも、もうそろそろそのゾイドが来る頃だ。

 

「見つけたぜ!」

一方、アーバインは長距離砲を撃つゴルドスのところまで来ていた。
バン達は来れそうにない。
ライトニングサイクスのストライククローでどうにかするしかないだろう。
3体のゴルドスがその砲口をライトニングサイクスに向ける。

ドドドーーーン!!

砲弾が放たれた。
だがライトニングサイクスはホログラムを使い、それを避ける。
突風が2体のゴルドスの間を突き抜ける。

「うぐっ!」

ゴルドスの体が揺れる。
それくらいの速さなのだ。
そのままライトニングサイクスは反転しながら止まり、砲撃を仕掛ける。

『ギュアアアァァァ!!』

「何だと!?」

中央にいたゴルドスの武装が剥がされる。

「ちっ!」

後ろにいるライトニングサイクスに標準を定めようとする。

「させるか!」

すぐにアーバインから見て右側のゴルドスが、先のと同じように武装を落とされた。

「ここで終わって堪るか!」

ダダダダダダ…………

左側にいたゴルドスが砲撃を放つ。
それは曲線を描き、まっすぐにライトニングサイクスに向かっていく。

「行くぜ相棒!」

その黒い機体は駆け出す。
何とか避けたが、それはそのまま追いかけてくる。

「へっ!」

アーバインは得意げにそう言うと、行動に出た。

「ちっ!」

相手が気が付いた頃にはもう遅い。

バキシッ!!

ライトニングサイクスは加速するついでに、その爪で砲撃してきた相手の右前足を奪った。
ゴルドスの悲鳴が、その後を追ってきた砲弾の爆発音と共に上がる。
すぐにまた反転し、今度は中央のゴルドスに向かっていく。

「くっ!」

武装をすべて奪われてしまったゴルドスに、為すすべはない。
また右前足を奪われたゴルドスは、先の時より小さい爆発音と共に倒れた。

「くそっ!」

残ったゴルドスのパイロットがそう言ったが、意味のないことである。
今度は左後ろ足を奪われたゴルドスが、その後すぐに放たれた閃光と共に沈んだ。

「ふぅ。危なかったぜ。」

と、アーバインがそう言ったのもつかの間……

『ギュアアァ!!』

すぐにその機体に砲撃が当たった。

「ヘルキャットか!」

敵の正体は見えない。

「この分だと、バンの野郎共も相当苦戦してるな…」

アーバインはそう呟くと、再び愛機を走らせた。
大事な仲間を助けるためだ。

「おら!どけどけどけぇっ!!」

『キヤアァァ!』

二人は、そのまままっすぐ突っ込んでいった。

 

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