「過剰な巡り合わせ」
〜「襲われる」という悪夢〜

 

 とある共和国内の街、"レスレクションシティ"。
ここはへリックシティとまではいかないものの、それなりに活気のある都市である。
そして、共和国内でデスザウラーによる荷電粒子砲の被害を受けなかった希少な街でもある。
世界の終焉の危機を乗り切り、共和国内でも復興が始まっている。
それから何ヶ月目だかのお祝いのお祭りを今日この街ではやっていて、とても賑やかだ。
だが、そんな中を困りながら歩いている者がいた。

「ええっと、この荷物は…ここから6区画先ね。
……って、6区画ってどれくらい先なのよ…」

腰に手を当て、「はぁ」と溜め息をつきながらカートを押す運び屋さん。
そう、ムンベイだ。
かなりの人混みで、全く見通しが利かないのだ。

「こんな事になるって分かっていたら、この間もっとよくこの街を歩いてみたんだけど…ここかしら?
急がないと次のおいしい儲け話に間に合わなくなっちゃう!」

文句をぶつぶつ言いつつ、急ぎ足で路地を曲がろうとした。
その時だった。

ダンッ!

「わっ!?」

「きゃっ!」

ドタタッと荷物が落ちる音がした。
どうやら紐が解けたらしい。
ムンベイもその場にしりもちをついていた。

「アイタタタタ…」

「あっ、すみません!!
大丈夫ですか!?」

ムンベイが顔を上げると、そこには少年が立っていた。
年齢はムンベイが初めて出会ったときのバンくらいだろうか?
クリーム色の髪もバンと同じようにつんつんしていて、後ろで一つに縛ってある。
だが、その髪の長さはまちまちらしく、全体的にばさばさしている。
少年の黄色い瞳は、こちらを覗き込んでいた。

「ええ、何とか。」

ムンベイは彼が差しだした手を取り起きあがった。

「すみません!
荷物も今、拾いますから!」

「あぁ、いいわよ。
私がいけないんだから。」

ムンベイが服をはたいていると、その少年はすぐに落ちた荷物をカートに積み上げ始めた。
何やら急いでいるらしく、手早く作業を進めて紐で縛った。
その慣れた手つきに、ムンベイは感心した。

「あんた、慣れてるのね。」

「あ?あぁ…昔親から叩き込まれたんだ。
これでいいか?」

「ええ、ありがとう。」

ムンベイがそう言うと、少年はそばに置いてあった布袋を持って走り出した。

「すみません、急いでいるので。」

だが、そこを予想だにしなかった音が、彼の行く手を阻んだ。

ドドドドオーーーーーン!!!

「きゃあっ!?」

「なっ!?」

何かが爆発したような音と、振動が辺りに響いた。
空にはそれの煙らしきものが上がっていた。
表通りでキャーキャー、ワーワーと人が叫んでいる。
一瞬にして、お祭り気分に浸っていた街は恐怖に包まれた。

『ウ〜ウ〜ウ〜ウ〜…』

警報も鳴り出した。
どこからかゾイドが出るらしく、金属の擦るような音もする。

「盗賊、か?」

「ええっ!?何でこんな所に来るのよ!
ここの軍備の規模は大きいはずよ!!」

空の煙を見上げていた少年はそう呟いた。
ムンベイはこの出来事が信じられず、思わず叫んでいた。
だが、街に砲撃するといったら、盗賊ぐらいしかいるまい。
他にいないわけではないが、彼等が付け狙うGFがいない場所で、
しかも何もめぼしい物がないのなら、彼等が襲ってくることはまずあり得ない。

「くそっ!嫌な予感が当たっちまった。
とにかく戻らねぇと…」

「ああっ!
ねぇちょっと待ってよ!!」

この場から去ろうとする少年をムンベイは引き留めた。
少年は驚いた様子で振り返った。

「あたし、ここら辺に土地勘ないのよ。
積み荷が心配だから急いでゾイドの停めてあるところに戻らなきゃいけないんだけど、あんた近道知らない?」

「ああ、知ってるけど…」

「お願い!案内して!!」

ムンベイは両手を合わせて頼んだ。
この街の他にも荷物を届けなければいけない場所がいくつかある。
ここで積み荷を盗賊に奪われでもしたら、運び屋失格だ。
そんなことには意地でもなりたくない。

「いいけど…」

少年は「ふぅ」と溜め息をついて、ある物を指差した。

「その荷物、どうするんだ?」

「ああああっ!!」

少年にそう言われて、ムンベイはそのカートの存在にやっと気が付いた。
今までグスタフの積み荷のことで頭がいっぱいになっていたのだ。

「ど〜しよ!あと2区画先…」

「どっちに?それと、店の名前は?
何か特徴はないか?」

急いでいたはずの少年の方が、落ち着いて対応をしている。
ムンベイは取り乱しっぱなしだ。

「ええっと、東!
オレンジと緑の看板が目印のお店!!」

「ああ、あそこか。
こっちだ。」

少年が先導して、ムンベイも走り出した。
だが、盗賊と軍の戦況は悪化しているのか、状況は酷くなる一方。
瓦礫がたくさん降り注いでくる。
爆撃音も止まず、四方八方から煙が見えた。

カラカラカラ…

あちらこちらから発生して止まない爆撃音を聞きつつ、
程なくしてカートを押すムンベイと先導する少年はその看板がある店へ着いた。
だが…

「うそっ!閉まってる!?」

ドアの前には「CLAUSE」の文字。
戸を叩いても返事は無し。
カーテンが閉まっていて、中を覗くことさえ不可能だった。
どうやら留守なのか、逃げ出したかのどちらからしい。
その店には人気がなかった。

「カートを置いて行くぞ!」

「ちょっと待ってよ!
まだお代…」

そう言うムンベイを、少年はキッと睨んだ。

「足手纏いになるぞ、それ!
ここまで無事に運べたって方が奇跡的だ!
御陀仏になっても知らねぇぞ!!」

あんまりにも激しい口調で言うので、ムンベイも諦めた。
独り言ではそんな言葉遣いをしていたが、この少年にこんな口調で言われたのは今のが初めてだ。

「…分かったわよ。
あんた意外に、バンじゃなくてアーバインに似ているわね。」

「誰だよ、それ?」

手を広げて「ふぅ」と息をはいたムンベイに、少年は怪訝そうな表情をした。

「とにかく案内してよ!
南の方よ!!」

「あぁ、分かってる!
運び屋さんは大抵そっちだからな!」

まだ続く騒々しい音の数々を聞きながら、二人はゾイドが停めてあるところへと向かった。
どこかで、火事が起こっているらしい。
もうもうとした煙が立ちこめ、辺りに独特の臭いが広がっている。
空には黒い機体が横切る以外、もやもやとした灰色に包まれている。

「ひゃあ…何たって盗賊がここまでできるんだよ!
軍もいるぜ、この街。」

まだ瓦礫は降り続けている。
表通りではワーワー、キャーキャーと悲鳴が上がっている。
それを耳にしながら、細い道を二人は走る。

ガラガラガラッ…

「きゃあっ!」

「ほら、危ねぇぞ!急げ!!」

ドドーンと音がして瓦礫が落ち、その粉塵が降りかかってきた。
そう、こちらの道でも状況は同じ。
何時、どこから瓦礫が落ちてくるか分からない。
幸い、人がいないのが功を奏したのか、
直接爆撃を受けることはなかったが。
それでも、ただ事ではない状況であることには変わりない。

「…もしかして、仕掛けられてたのか?
あの爆発は。」

そう、最初にしたあの爆発音は、確か軍のゾイドが置いてある方向だ。
どうやら、盗賊はただ闇雲に仕掛けてきたわけではなかったらしい。

「えぇっ!?最初のおっきな爆発が?
ああんもう、何をしているのよ軍は!!」

ムンベイは愚痴を漏らす。
それでも走り続け、何とかゾイドが停めてある場所が見えるところまで来ることができた。

「げっ!?
もう来てたか、彼奴ら…」

慌てて足を止めると壁に背をぴったりと当て、そこから向こうをそっと見渡した。

「嘘っ!!」

ムンベイも、その角から顔だけを出してその方を見た。
無愛想な男が、何人も辺りを徘徊している。
見つかりそうになって、二人は「ひっ」っと引っ込んだ。
相手が手にしていたのは機関銃。
大きくて物騒な物だ。

「何てったって彼奴ら銃を持ってるんだよ、くそっ!」

「盗賊が銃を持ってるのは当たり前でしょう!?」

ムンベイは少年に突っ込みつつ、もう一度そっと向こうを見た。

「分かってる。
とにかく、このままじゃ先に進めねぇ!
この状況を打開しないと…」

少年は懐に手を突っ込み、何かを取り出した。

「ゾイドは?
何か分かり易い目印はねぇか?」

少年はムンベイの方を見て尋ねた。
ムンベイは視線の方向を変えずに答える。

「私の相棒はグスタフよ。
装甲は赤いけど、一つだけ白いの。」

少年もそっと向こう側を見渡した。

「あれか…まだ物色されてはいねぇようだな。
強行突破するか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!
あんたのゾイドは?
ゾイド乗りじゃないの、あんた?」

ムンベイは少年の言動に驚いて、彼の方を見た。
彼を初めて見た瞬間、ゾイド乗り独特の雰囲気を感じていたのだ。

「生憎、ここじゃねぇんだよ。
街の外。」

視線を変えず、「ふぅ」と息をついた少年に、ムンベイはやっと彼が考えていることが分かった。

「まさか私にそこまで連れて行ってもらおうって訳?」

「そうしてくれると有難いけど。
でも俺の相棒、強くねぇんだよ。
ただのレドラーだし。」

なおも向こうをじっと見つめる少年。
ムンベイはある考えを思いつき、にやっとした。

「まぁいいわ。
軍があんなに手こずっているのなら、ここにいるわけにもいかないしね。
早くここからずらからなきゃならないし。」

「…はっ!?
まさか俺に護衛をさせようと?」

今度は少年の方が驚いてムンベイを見た。

「そうよ!リバイブコロニー。
あそこに一時避難するの。
いいでしょ?」

「まぁ、構いやしねぇけど…」

少年は少し呆れてムンベイの方を見た。
そんな様子にムンベイはお構いなしに言葉を続ける。

「じゃ、決まりね!早く行きましょ!」

そう言ってムンベイも銃を取り出した。
昔何度も散々な目にあったので、それ以来武装もしっかりするようになったのだ。
腕はまだオコーネルにも及んでいない位かもしれないが。

「銃、か…」

「え?」

「いや、何でもない。」

一瞬、少年の顔が曇ったような感じがした。
だが、すぐにキッと前方を睨んだ。

「俺は右の方から行く。」

「分かったわ。
じゃあ私は左の方ね。」

ムンベイは銃の安全装置を外した。

「「せぇのっ…」」

二人は呼吸を合わせて飛び出した。
ムンベイは銃を乱射し、少年は…

「何、あれ…?」

何か黒い物体や細長い物を敵に投げつけていた。

「うわっ!?」

「くっ!逃がすなァ!!」

敵の盗賊共は、すぐに銃を構えた。
だが、一瞬の隙をついて、ムンベイはグスタフに乗り込んでいた。

「早く!出るわよ!!」

左の方は割と手薄だったが、右の方には結構な人数がいた。
少年はまだグスタフの所までたどり着けていなかった。

「行かせるかぁ!」

盗賊の一人が怒鳴り、彼等の銃が少年に向けられる。

「あっ!危な…」

だが、ムンベイがそう叫びそうになったとき、彼は何かを放った。

ビュッ!!ガガガン!

「うわっ!?」

「ぐっ!?」

またさっきの黒い塊が飛んだのだ。
複数のそれは、見事に敵の銃口に当たり、相手は怯んだ。
そこを少年は駆け抜けていって、ヒラリとグスタフの後部座席に乗り込んだ。

「早く出ろ!」

「え、えぇ!」

すぐにグスタフはキャノピーを閉じ、黄色い荒野に向けて走り出した。
少年はそのキャノピー越しに敵の様子を見つめている。
ふと、ムンベイは彼の表情が青ざめていることに気が付いた。

「どうしたのよ、あんた?
顔色が悪いわよ。大丈夫?」

ちらっと後ろを振り向き、彼の様子を探る。
やはり、やけに顔が青ざめている。

「別に。何でもない…」

「本当に?
どこか怪我でもしたんじゃないの?」

「いや、」

ムンベイがそこまで聞くと、「ふぅ」と溜め息が聞こえた。

「俺、銃が大の苦手なんだ。
ただ、それだけだ。」

「あっ、そうだったの?」

少しばかりムンベイは驚いた。
盗賊と戦っているときは微塵もそんな様子は見せなかったからだ。
だが、ムンベイが銃を取り出したとき、そう言えばどこか今と似たような表情をしていた。
どうやら嘘ではないようだ。
ムンベイはふうんと思い、それからお互い自己紹介がまだだったのを今更のように思い出した。

「そう言えば、名前聞いてなかったわね。
あたしはムンベイ。
あんたは?」

さっきから外ばかり気にしていた少年は、ムンベイの方に向き直った。

「俺はラウト。
ラウウァートシス・シェム・デイヴィッサー。
よろしくな、ムンベイさん。」

「別に呼び捨てでいいわよ、ラウト。
そんな仰々しくしなくったって。」

さっきのがちょっとばかし辛かったためか、少年からはさっきまであった張りつめた物を感じなくなった。
言葉遣いも、最初に会ったときと同じような感じに戻ってきた。
だが、ムンベイ自身、さん付けで呼ばれるのには慣れていない。
どちらかと言えば、苦手である。

「じゃあ、そうさせてもらいます。」

この言葉にも、前の口調が頭から抜けていないムンベイにとっては、何だかくすぐったかった。

「それより、あんたのレドラーは?
どこに置いてあるのよ?」

「リバイブコロニーに行く途中にある、岩場の所。
あそこだ。」

「分かったわ。」

ムンベイは内心ホッとした。
今日はどういう訳だか、散々な目に遭っている。
目的地の進路上にあるのは幸いなことだ。

 

 それから数分後…

「やっぱり追いかけてくるな、彼奴ら。」

ラウトはグスタフの中から空を見上げ、そう呟く。
上空には数機の黒い影。

「当たり前でしょう!
盗賊なんだから。」

さっきから攻撃を受けているムンベイは苛立ちながらそう言う。

「違う。
ブラックレドラーだけでも3…いや、5体か。
コマンドウルフもいるな。」

一方、どういう訳だかラウトは落ち着いて敵のブラックレドラーの数を数える。

「ちょ、ちょっと。何でそんなに追いかけてくるのよ!」

「とにかく、急がないと。」

「これで最大速よ!!」

頭が大混乱する中、ムンベイはグスタフを走らせる。
その表情はかなり張りつめていて、もう他のことは頭になかった。

ダダダン!ダダダダダン!

「くっ!」

ムンベイは積み荷に砲撃が当たらないように、右へ左へとグスタフを走らせる。

「結構近づいてきたな。
にしても、何であんな大群で来んだ?」

「知らな…あっ!見えてきたわ!!」

ムンベイが叫んだ先には、大きな岩がごつごつある岩場があった。
微かに、何か赤い機体が見えた。

「ここまで来れば…キャノピーを開けてくれ!」

ラウトは座席から立ち上がった。

「ちょっと、まだ早いわよ!」

「いいから!」

ムンベイがそう言うのを聞かず、ラウトは自分でキャノピーを開けた。
それから、一歩外に出て立ち、すっと大きく息を吸い込んだ。

「リムラぁーーーーー!!」

ラウトは岩場がある方向に向かって、そう大声で叫んだ。
すると、どうだろう。
微かに見えていた赤い機体が動き出したのだ。
ムンベイは困惑した。

「仲間か誰かがいたわけ?」

向かってくるそれは、かなり低空飛行をしながら飛んでいる。
どうやら、かなりの腕を持ったパイロットが乗っているらしい。
ブラックレドラーからの攻撃も次々とかわし、すぐにグスタフの横にまで飛んできた。
だがムンベイは、またここでも驚くハメになる。

「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!!
むっ、無人!?」

そう、自動で開いて見えたコクピットからは、人影が見当たらなかったのだ。
ラウトはすぐさまそれに飛び移り、その赤い機体は上昇していった。

「ホント、今日はどうなってるのよぉ〜?!」

さらに混乱した頭で、それでもムンベイは操縦に専念した。

「さぁて、今日は大群だが…頼むぜ、リムラ!」

『グアアアアン!!』

ラウトの方は戦闘に意気込んでいた。

ダダダン、ダダダダダン!

砲撃を交わす両者。
だが、相手の数は半端じゃない。
それに空には5体のブラックレドラーが待ちかまえている。

「(ブラックレドラー、コマンドウルフ、…ガイサック)」

ラウトは瞬時に相手を認識して迎え撃つ。
その周辺全体にいるゾイドを全て頭に入れて戦うので、砲撃を避けることは、さして難しくはなかった。
だが、戦況はグスタフの所に敵が行かなくなった以外、大してよいものではなかった。

「ひゃあ。
引きつけてくれたのはいいけれど、あれからどうするのよ。」

状況は最悪と見える。
ブラックレドラーがよってたかって赤いレドラーに向かってくる。
コマンドウルフもその砲口を向ける。
ただ、まだ相手がラウトに傷を負わせていないのは不幸中の幸いだった。

「小僧、これで終わりだ!」

敵のブラックレドラーがブレードを展開し、その操縦者の内の一人がそう言って突っ込んでくる。だが、

「なっ!?うわあぁ!!」

「ぐわあっ!」

ラウトはすんでの所でヒラリとかわし、交わされた方は同士討ちとなった。

ドドドーーーーン

片方の機体が落ち、その下で砲口を構えていたコマンドウルフに危うく直撃しそうになった。

「あら、意外にやるじゃない。」

その様子を眺めていたムンベイはそう思った。
岩場がもう目の前に見えるところまでやってきていた。
どうにかあれを背に、姿をくらましたいところだ。
だがこの盗賊団、そう簡単にこちらの思い通りにさせてくれるわけがなかった。

「!?」

ラウトは慌ててムンベイのいる方に砲撃した。

「えっ?何よ、ちょっと…って、きゃあっ!!」

ダダン、ダダン!

『ギャアアン!ギュアアン!』

急に黄色い砂の下から、ガイサックが数機現れた。

「嘘っ!?狙われてた!!」

ラウトの砲撃に当たったガイサックは伸びたが、それ以外のガイサックが次々と姿を現した。

「ちょっと待ってよ!
これっていつの日かと全く同じじゃない!!」

そう、いつの日かと変わらない。
積み荷をガイサックに襲われると言うことだけをとれば。
だがあの時とは状況が全く違う。
今積んでいるのが爆薬ではないこと。
自分を助けてくれているのがレドラー一機だけだということ。
そして相手の数が少ない代わり、有人であること。

「もう!踏んだり蹴ったりだわ!!」

ムンベイはそう言いつつ、アクセルを強く踏む。
だが、ガイサックから逃れるのは不可能だった。
グスタフの速さは時速135キロ、ガイサックの速さは時速120キロ。
単純に考えればグスタフが逃げ切ることは可能だ。
しかし、遠くからブラックレドラー、コマンドウルフが援護する。
当然、その分速さが遅くなる。
それに…

「ムンベイ、危ない!
前方にステルスバイパーが!!」

「えええ〜〜〜〜っ!!」

グスタフの目の前の砂から、突如として現れたのはステルスバイパー。
時速は180キロ。
と、言うことは…

「こんなのから、どう逃げ切れって言うのよぉ〜〜〜〜〜!!」

どうにか間を擦り抜けながら走るグスタフ。
敵のステルスバイパーは、ステルスバイパーと言うにはやけにごてごてしていて、
あまり速そうには見えなかった。
だが、それでもグスタフについていくのは容易だ。

ババババン!

「きゃあっ!何よあのステルスバイパー!
何であんなどえらい物を積んでるのよ!?」

とにかく、そのステルスバイパーの武装はすごかった。
対空砲を改造、強化しており、左右についている機銃も、どうやら強化されているらしい。
背中にはアタックユニットらしい物を装備、
そして尾にも、何やらシールドライガーのように機銃を取り付けてあった。

「…………」

ダダン、ダダン!

『ギャアアン、ギュアアン!』

ラウトも戦いに集中して、ヒラリと攻撃をかわしつつ、ガイサックやステルスバイパーを撃つ。
だが、そのほとんどをブラックレドラーとコマンドウルフに阻まれる。

「ああん、もう!
誰か助けてよ!!
この状況をあたしがどうにかできる訳ないじゃない!!」

そう叫んだところで、毎回タイミング良く助けが加わるとは限らない。

「もう!どうして今日に限って…え?」

ムンベイは目を見張った。
ちょうど岩場まで来たとき、そこに水色の影が見えたのだ。

「え?ちょっと、何あれ?
スペキュラー…じゃないわね。
色味が違う。
でも…あれ、やっぱりオーガノイドじゃない!」

確かにオーガノイドだ。
岩場の影からこちらの様子を窺っていて、全体を見ることはできないが。
山吹色の目がじっとこちらを見つめている。

ダダダダダン!ドドン!

『キュアァッ!!』

岩場に、ガイサックの流れ弾が当たった。
そしてジークよりも一回り小さいらしいそのオーガノイドは、慌てて飛び出してしまった。
まだ盗賊共には見つかっていなかっただろうに。

「何だ、あいつは!?」

飛び出しでもすれば、盗賊に見つかるのは必至である。
目立つその水色はムンベイのグスタフと並行して走る格好になった。

「げっ!?エクサ、見つかっちまったな!」

ラウトの方も慌てた。
どうやら彼のオーガノイドらしい。
だが、そちらに向かおうにも、空にはまだ3機のブラックレドラー、下には8機のコマンドウルフがいる。
ムンベイはラウトの乗っているレドラーに通信をつなげる。

「ちょっと待ってよ、ラウト!
これあんたのオーガノイドなの?!」

「そうだよ!!」

ピイィンとなって映ったムンベイに、ラウトは苛立ったような声を返す。

「何で合体させないのよ!
オーガノイドがいればそれくらいどうにかなるんじゃないの!?」

「悪いが、このレドラーとは無理があるんだよ!くっ!」

ラウトは相手の攻撃を交わすので手一杯だった。
これだけの数を相手にしてこれだけの時間戦っていられるのだから、
かなりの腕を持っているのだろうが、この状態を打開できないことには変わりない。

ダダダン!

『キッ、キュアァッ!』

「あぁっ!」

どしゃぁっと音がしてエクサは倒れた。
ガイサックの砲撃がすぐそばで爆ぜたのだ。
ムンベイは思わずブレーキを踏みそうになった。
砲撃したガイサックが近づいていき、その尻尾を地面に突き刺した。

『キュァ、キュキュアアァ!!』

ドオオォォンと言う音がして砂煙が立つ。
間一髪のところでエクサはその攻撃から逃れ、走り出した。
が、

『キシェエェェェ!!』

『キュッ…キュアァッ!!』

「ああっ、ステルスバイパーが!!」

突如として目の前にステルスバイパーが立ちはだかった。
立ち上がって威嚇するその様は、ジークより一回り小さいエクサとってはかなりの迫力だ。

『キュ、キュゥキュゥキュゥウ…キュ…………
キュアアァーーーーーーーー!!』

「なにっ!!」

エクサは背中から青白い光を噴射して飛んだ。
エクサの背中は、シャドーのように羽が出そうな、そんな形をしていたが、実際は違った。
スペキュラーのように光を噴射して、その動力で飛んだのだ。
これのためにそれの高さは低めになっていたのだが、パッと見では誰もそれに気が付かなかった。

ダダダーーーーーン!!

エクサは飛び上がると、そのまま敵のステルスバイパーにぶつかり、
ステルスバイパーはその勢いでひっくり返ってしまった。

「なっ!?うわっ!くっ、くそぉっ!起きあがれねぇ!!」

ステルスバイパーはかなりの重武装をしていたので、起きあがることが不可能になった。
搭乗しているパイロット、盗賊の一人がコンソールボタンを思いっきり叩いた。

『キュ、キュア、キュアアアアッ!』

エクサはとても慌てた様子でまたグスタフと平行して走り始めた。

「ちょっとあんた、飛んで逃げれるんなら飛んで逃げなさいよ!
それじゃ遅いでしょ!!」

ムンベイがそう言っても、その声が届いていないのかエクサの様子は変わらない。

「もう、言語道断だわ!
何が起きてるのよ、今日は!!」

ムンベイはそう叫んだ。
確かに驚天動地な事が立て続けに起きている。
しかし、なおもガイサックは連結部分を破壊て積み荷を奪い取ろうと襲いかかってくる。

ダダダダダン、ダダダダダン!ドオォン!!

「あっ!」

画面の一部がバババッと消えた。
グスタフの上部に付いていたレーダーが破壊されて落ちたのだ。

ドドドーーン!!

『キュアアキュウッ!キュゥ…』

その大部分がエクサの目の前に落ちてきた。
思わず顔が引きつるエクサ。

『キュアアアァーーーーーーーーー!!』

「な!?」

「えぇっ!?」

エクサは、恐怖のあまり突然青白い光の塊となって飛び上がった。
驚くラウトとムンベイ。
驚いたのは、合体したその先だ。

キィイイーーーン!!

「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!
何であたしのグスタフなのよ!!」

そう、その先とはムンベイのグスタフ。
さっきの攻撃で破壊されたレーダーが元通りになり、グスタフのスピードが微かに速くなった。

「なるほどな…リムラとは無理だからって、一緒に逃げているグスタフにしたのかよ。
……ったく、臆病者なんだから……」

ラウトは、その行動の意味に察しがついて苦笑した。

「ああん、もう!
一体どうなっているのか分からないけど、とにかく突っ走るわよ!!」

ムンベイの方は、もうやけを起こしてとにかく前進した。

 

 そんな頃、遠くからこの様子をじっと見ていた細長く黒い機体があった。
しばらくして、それはものすごい速さでこの激戦が繰り広げられているところに向かって走りだした。

────────────────────────────────────────────────

*アトガキモドキ*

どうにかしてムンベイとラウトを会わせようとしたら、「スリーパートラップ」になってしまいました(爆)
しかもまだ続くし…
こんな物ですみませんが、よろしくお願いします。


シヴナさんから頂きました。
ムンベイとラウト、エクサのお話です。
戦闘シーン、私より上手いかも・・・。
まだまだ続くと言うことで、これからが楽しみです。
しかし・・・、エクサは本当に臆病ですね。
うちのサンダーとは大違い・・・。
アナザーでもそうなんですかね・・・。
シヴナさん、ありがとうございました。

 

続きを読む
コーナーTOPに戻る         プレゼントTOPに戻る         TOPに戻る