「深緑の故郷」
〜眠らぬ思い〜

 

木々が真ん中へなだれ込むようにして倒れている。
そんなやけに奇妙な景色の隣で赤いレドラーと、その上に一人の少年、
下にはオーガノイドが丸くなって眠っている。
日も沈んでからはもうだいぶ長い時間が経っている。
ミンブルーの夜空に星は埋め尽くそうと輝いていた。

「明日の朝は早くなりそうだな。」

少年がそんな風に言ったので、私は低く短めに返事をした。
夜が更けてからだいぶ時間が経つが、
彼は布にはくるまっているものの全く眠る気配を見せていなかった。

「とにかく今日中に盗賊どもも捕まったし、ゾイドもちゃんと見てもらえるだろうし、
ただ、なんだかなぁ……」

溜め息をつきながら体を席にもたれさせる。
数秒目を閉じてから、彼はまた星々を見上げた。

「盗賊には会うし、バン達に時間を取らせる羽目になるし、
エクサのことでみんなに迷惑を掛けたし、
休暇とっても、これだもんな……」

始めは、いつものようにただ外出するだけのつもりでいた。
習慣となってしまったこれも、私にはあまりよいものではなかった。
まさか、ムンベイという方のせいでこうなってしまうとは、予想していなかった。
確かにエクサはムンベイという方に懐いていたのだから、この結果は予想できなかったわけではないが。
エクサに負けたことと、…多分あの方は、私に仕返しをしたつもりだったのかも知れない。
そう思うとなおさら嫌だった。
だが結局のところ、旅の主導権を握っているのはラウトだ。
ラウトがそう判断したのなら、私も従うほかない。
元々この旅の目的は、エクサと、もう無くなって久しいあの方のための旅だ。
必要ならば、とどまることも止む終えまい。
だとしても、ずっとここにいるつもりは全くない。
基地という場所は、どうも私には合わないものだった。
幸い、今日は基地に戻らずにすむのは良かった。
処理班が来てからは彼らを手伝っていたようだし
その後は調子が悪いからと、今日帰るのを取りやめた。

「満天の星空でも、天の川だけは案外はっきり分かるもんだな。」

今日は新月らしく、さらに雲もなく、本当に空一面を星々が埋め尽くしていた。
だが、最近ラウトは星空を見上げては浮かない顔をしている。
何故なのか、私には全くそれが分からなかった。
けれども、今日のその呟きでそれがやっと分かった。

「……また1年が経ったか。
もう今年で、3年目……」

3年目?3年前?
その時は、まだ故郷を出ていなかった。
彼は12歳で……
そこまで考えて、やっと思いだした。
あの時と星の並びが一緒なのだ。
まだ大して時は経っていないが、旅立つ前のあのころを懐かしく思う。
だがその年は、彼にとって生涯忘れることのない、嫌な思い出のある年だ。
ラウトはその年を、厄年と呼んでいる。
確かに、悪いことが立て続けに起こった。
だから理由も分からなくはない。
それで彼はだいぶまいっていたのを覚えている。
そして、あの時彼の考えが変わり、…それから彼の考え方は変わっていない。
何故、あんなように考えるようになったのか。
ラウトは、人とはどこか違ったものを持っていた。
その姿で戦う彼に、私は虚しさすら感じる。
そうだとしても、私はそれを変えないことを、私自身に誓った。

 

少し前だが、バンからこんな話を聞いたと、それを私に話してくれたことがある。
…白いゴルドスの話だ。
バンという方から、色々と遺跡の話を聞き出していたらしい。
その方が旅に出てから、初めて立ち寄った遺跡だそうだ。
余談だが、その時アーバインという方に会われたらしい。
その遺跡は、軍事基地として利用されていたが、ある日、それを放棄しなければならなくなったようだ。
当時そこにいた白いゴルドスは怪我を負っていた。
だから、一緒にそこを去ることができなかった。
その主人は、そのゴルドスのことを本当に大事に思っていたそうだ。
そして、彼には早く自由になって欲しいと思っていた。
バンという方は、そんな白いゴルドスに会われた。
始めは敵と思われ、攻撃されたそうだ。
だがその後、がれきに綴じ込められたところを助け出された。
その後、色々あったらしいが最後はこうだ。
バンという方は戦争が既に終わり、お前は自由なんだと、そう仰ったらしい。
だが、そのゴルドスはその遺跡に帰った。
ずっと、ずっとずっとその砦を守り続けるために………何という意志の強さだろう?
私は、コモススに補助される形で行動している。
もしコモススがいなかったら?
私はこの意志を貫き通せる自信がない。
私にはない。だが、その白いゴルドスにはあるのだ。
私は悔しかった。辛かった。
私は、あのエレイドという方に目覚めさせられた。
私はそれまで、普通のゾイドだった。
乗り手を選ぶといえど、大したことはない。
そんなゾイドだった。
私は、もっと乗り手を選ぶようになった。
その時選んだのが、ラウトという少年だった。
まだ10歳くらいだった彼は、必死にゾイドに乗ることを覚えようとしていた。
そのライバルは、同い年であるはずなのに既にコマンドウルフを乗りこなしていた。
彼は追いつこうと、必死に訓練に耐えていた。
私は才能がある者ではなく、このひたむきな少年に興味を持った。
人間の子どもにしてみれば、かなり辛い修行らしかったが
それでも少年は耐え、ただひたすら頑張っていた。
私は、彼がいいと思った。
他を拒んだが、まだその少年は飛行ゾイドに乗れるほどではなかった。
だが、しばらく待つとコマンドウルフも操れるようになっていた。
私に乗って、訓練を始めるようになった。
まだその頃は飛ぶまではいかなかったが
それでも、私はそれで十分だった。
12になるときには、もう普通に乗れるようになっていた。
それでも、ライバルに追いつけないと必死に頑張っていた。
少年はただそれだけのために努力し、熱心で、人一倍我慢強かった。
なのに、悲劇が訪れてしまった。
そのライバルが亡くなり、それから兄と慕っていたエレイドという方もなくなり…
その間に、もっと強い悪夢も存在していたらしい。
私はそれを少しだけ知っているが、それでもその理由が何だったのかまるで分からない。
そもそもゾイドに乗って戦うことだけが、少年の仕事ではなかった。
全てを知ろうなど、そんな考えは虫のいい話だった。
おそらく、それから彼は変わっていたのだろう。
私は始め、それに気付いていなかった。
変わることなど、思ってもいなかったのだろう。
それが、後々の後悔につながり、今の私がいる。
自分自身でなく、他人と後々のことを考え、それの上で行動するという、よそ者の皮を被った私だ。
そんな自分は、あの時生まれようもなかった。
それから1年後の13歳の…いや、もうすぐの時に誕生日を控えていた。
どうもあの村、ジャーベコロニーを守る者の中に属していたらしく、その頃、シェムというミドルネームを持っていた。
その村の方が外出することは珍しく、というのも、近くに村が存在しないからだ。
私でもそれなりの時間がかかる。
気軽にいけるような距離ではない。
だとしても、村では絶対に得ることができないものだって存在する。
だから、自分達の作ったものを売り、そのお金で物を買う。
それをするのが、その村を守る者だった。
その者達はラウトを含めても僅かしかいない。
それなりに人はいるが、出稼ぎに出ている者が多く、実際に住んでいる人数はそれほどでもない。
それくらいのものなのであろう。
私達の場合、いつも村から離れた岩場にエクサを待たせ、それから目的の村へと赴いていた。
こんな辺境のど田舎だが、盗賊もたまに出没する。
だから、外出も多少危険らしい。
その、ちょうど危険な目にあったことがあった。

 

「あっ、おはようございます!」

早朝に出た私達は、その途中で薄緑色のグスタフと会った。
その方とは知り合いで、ラウトは何度かお世話になったことがあるそうだ。

「おっ、おはようラウト。
今朝は市場に出るのかい?」

「えぇ。これを見れば分かりますよね?」

私の下にはアンカークローでしっかり捕まれた箱のようなものがある。
使い古しで、ボロボロではあるが。

「レドラーでそんな風にものを運ぶだなんて、聞いたことがないな。」

「まぁ、こうするのが1番早いので…」

他にものを運べると言ったら、プテラスもできないことはないだろうが…
私の方が速い上、このような形の方が安定するだろう。
いつもなら、これで挨拶が終わって私達は先にその町へと向かう。
だが、今日はそうできなかった。

「ところで、つけられていませんか?」

「…そうなのか、やっぱり?」

最近は、盗賊が出て損害を受ける村が出ているそうだ。
こちらに移動してきたのかも知れない。

「後ろ、空いていますよね?
乗せてもらえませんか?」

「そうしてくれ。
どうせグスタフで戦闘なんかはできない。
…言ってみればお前にかかってるんだから頼むぞ。」

「分かっています。
早くしましょう。」

別に垂直離発着ができるので無理ではないが…
狭い場所に確実に置くなど、私は苦手だ。
プテラスなら、大したことがないのだろうが……
よりによって、グスタフの荷台の上に乗せるとは。

「リムラ、慎重にな。」

『グウウゥゥ…』

分かってはいる。
だが、これはもの凄く難しいことだ。

「…風向と風力、あとは…よし、確認できてる。」

ゆっくりと…私は遅いのは苦手なのだが、
荷物を上手くグスタフのに台に乗せられるように…

ゴッ…

何とか上には乗ったようである。ワイヤーを離す。

「おわっ…」

ブースターを噴射、空に戻る。

「おっかねぇな〜!」

「っと、済みません。
こうしかできないんで。」

グスタフの至近距離で作業をしたため、相手には怖かったのだろう。
それに荷物を置くときは大抵、その直後に着陸している。
普段とは違う方法なので、思うようにスムーズにいかなかったようである。
だが、なんだかんだといっているが成功している。
呆れられずにはいられない。
コモススの手伝いあって、何とかなったというところか。
だがまぁ、ラウトのその集中力も大したものなのかも知れない。

「ちゃんと時間を稼げよ!
固定してシートをかぶせるとなると時間がかかるんだからな!」

「分かっています。」

一定の距離を取って相手はついてきている。
先にこちらから出向く。

「相手は…ガイサックがけっこう居るな。
あとはコマンドウルフに注意…もっと後方にも何かいやがるな。」

意外だが、けっこうな数がいるらしい。

「行くぜリムラ。今日も頼むぜ。」

いつものように戦闘が始まる。

ヒューーーーーン!!

「っと、なんだぁ!?」

まずは低空飛行の威嚇をして、宣戦布告。

「赤いレドラー?」

「邪魔だ、撃ち落とすぞ!」

…そうこう言っているうちに攻撃したらどうだ?と思う。
そのセリフでこちらが砲撃し、ガイサックの何体かが動かなくなった。

「なっ…1発でだと!?」

「んな馬鹿な!」

相手が整備不良気味のせいもあるが、簡単にガイサックを戦闘不能にできるほどラウトの射撃の腕はいい。
この程度の武装なのにこれだけの命中率。
普通の者には真似できない。
これは、コモススの助力と村の仕組み上得られたものだが、かなりの武器となる。

「こいつは後ろに任せて、さっさと行くぞ!」

「あぁ、面倒だ。」

コマンドウルフが走り出した。

キャン…

ブレードを展開する。

ビュビュビュビュビュン!!

「おわっ!?」

「ぐっ…」

砲撃をして、相手の頭上を通り過ぎ旋回。

「わっ!」

「しまっ…!!」

もう遅い。
ブレードで攻撃された相手は、フリーズした。
コマンドウルフはあと3体、ガイサックは7体…

「低空飛行できないな。」

後ろ、が来たらしい。

「何でこんなところにセイバータイガーが…」

腕のいいパイロットなら、1個小隊を撃破できるらしい。
面倒な相手だ。
早めにガイサックは砂の下に潜っていたものまですべて始末。
コマンドウルフは素早かったが、1体だけ倒せた。

「後ろはレッドホーン、手前にはコマンドウルフが2体にセイバータイガーが1体。
なんなんだか…」

私はレッドホーンなど相手にしたことがない。
…動く要塞をどうしろと?

「こうなったら、セイバーとコマンドで倒すぞ!
どうせ相手はグスタフだ。
すぐに追いつける。」

やはり、あの方は狙われていたようだ。

「半分やけになりそうだな…頼むぜリムラ!」

『グウゥゥゥ…』

相手の砲撃をかわしながら反撃。
だが、やはり避けられてしまう。
まぁ、ラウトはそれを考慮して撃っているのだが、時間がかかりそうだ。

「ったく。のらりくらりと…」

「大人しくしやがれ!」

誰も自分から攻撃を受ける奴などいない。
大体、この状況でわざわざ受ける奴など…
そろそろコマンドウルフ、セイバータイガーが互いの距離をだいぶ離した。

「こいつ!!」

ドウッ、ドウッ!!

無駄な足掻き…この距離では避けることなど苦労しない。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「があっ!」

「ちぃ、何て奴!」

少し牽制した後、コマンドウルフの急所に数発打ち込む。
これで残り3。
だが、レッドホーンがだいぶ近付いてきた。

ドォン!!

「対空砲か、あれは?」

威力が比べものにならないほど凄まじい。

「…こうなったら、利用するしかねぇな……」

コマンドウルフはともかく、セイバータイガーなど私には無理だ。

「とにかく…」

ひらりとかわす。
だが、かわすだけでも、だんだん難しくなってきた。

「さすがはあのゴジュラスに対抗できるだけあるな…」

火力が他と比べて全然違う。
これで装甲も厚いのだから…だから、これをどうしろと……?

「っとあ!おい、危ねぇじゃねぇか!!」

コマンドウルフの近くに砲撃が墜ちた。

ビュビュビュビュビュン!!

「ぐあっ!!」

その隙に、何とかフリーズさせて…。
こいつらはどうやって倒すのだろう?
セイバータイガーとレッドホーン…こんな場所には不似合いな奴らだ。

「こいつめぇ…降りてこい!」

だから、言われて降りるわけではない…
こういう奴らは絶対相手の立場を考えていないのだろう。
まぁ、それを利用されてしまうのだから、しょうもないが。

「おらぁっ!」

少しだけ低空を飛行してやると、相手はまんまと飛び上がった。
私は、さっさとそこから離れ、上昇する。

ドオオォン!!

「なっ…!」

頭に血が上って、目の前しか見ていないのが悪い。
レッドホーンの砲撃に当たったのだ。
最後に…だから、この動く赤い要塞を、一体どうしろと?
武装は変えてないらしく、大口径三連電磁突撃砲が一つ、中口径加速ビーム連装対空砲が一つ、
高圧濃硫酸噴射砲が一つ、高速キャノン砲が二つ…対空砲があって…私はあの濃硫酸のやつが嫌いだ。
一番相手にしたくない…と、その前に本来なら相手をするはずがないのだ。
大体、何故飛行ゾイドの私がたった一機でと思う。
状況的には仕方のないことだが。
ビーム砲は仕方がないとして、他のものはなるべく撃ち尽くさせておかなければ反撃も容易にできない。
まぁ、相手がいささか頭に血が上っているようなので撃ち尽くさせるのは大変なことではない、が…、
やはり、かわすのが大変だ。
だから私はこの手の相手が嫌いだ。
普通なら無視してやりたいものだが、注意をこちらに向かせておかなければならない。
グスタフがあの町へ着くまでの辛抱だ。
それにあそこにいるので、いいのでもコマンドウルフがせいぜい。
少しは相手にダメージを与えておかなければならない。
とは言っても、それは無理強いに近い。
だから、私だけでは相手にしたくないというのに…

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

牽制もするが、所詮は威嚇攻撃に過ぎない。
相手に注意を引きつける…

「いい加減に落ちやがれ!!」

…誰が墜ちるもんですか。
色々とやってみるが、なかなか相手の砲弾もなくならず、持久戦のようになりそうだ。

「かかるかな…」

ラウトは、あることに気が付いて相手を誘導させようと試みる。
まぁ、相手は罠だとか、そう言うことはあまり考えなさそうだ。
やってみるだけの価値はある。

「待てぇ!!」

やはり追いかけてきた。その辺りにはあれがある。
威嚇程度にもう一度砲撃を繰り返す。
まんまとはまった。

「ぬっ…どあああぁっ!!」

「うあっ!」

レッドホーンの体が傾く。
そのまま横倒しになれば、もう起きあがれないだろう。
自分の仲間を踏みつけるとは…
砂の下のガイサックに、全く気が付いていない奴ら…
御愁傷様。
ブレードを展開。相手が怯んでいる隙に武装を削ぎ落とす。
そうしようとした。が、上空に引き下がらねばならなかった。
…私は全く気が付いていなかった。

『グアアアッ!』

「このっ!」

セイバータイガー…少しでも遅かったら、あいつに仕留められていた。
恥ずかしながらラウトの方が気付くのが早く、反応も早いとは、私もまだまだか、それとも全然か…
砲撃が当たりそうになったが、何とかかわせた。
…あの赤い要塞は倒れて動けない。
しかもパイロット達は気絶してくれた模様。
残念ながら、先の方法は使えない。

「撃ち落としてやる!」

砲撃はかわせる。だが、攻撃できない。
威嚇するのがせいぜいとなると…どうしたものだか。
時たま飛び上がり、攻撃を仕掛けては来るが
成功するはずもない。
それはこちらにとってチャンスではあったが、それをうまく活かせない。

「どうするか…うまくいく保証もねぇし。」

下手に近付けば、相手の砲撃が当たる。
しかしそれが封じられれば…牙と爪は、近付かねば心配ない。

「一か八か、背中のヤツだけでも…行くぞ!」

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

また砲撃を繰り返す。
相手の砲撃を避けながら、少し低空飛行。

「んなろおぉっ!」

まんまと相手は挑発に乗った。
…今だ。
これは武器ではないが…このような状況下では全てを利用するしかない。
アンカークローが、まるでひもを付けて投げ飛ばした石のように、相手を襲う。

「がはっ!」

器用に相手の武器を掴めないところが残念だが、これでも今は十分だ。
ブレードよりかは長距離で相手に攻撃を仕掛けられる。
それにわざわざ姿勢を変える必要もない。

「くそっ、このガキめが!」

かといっても、相手が倒れたわけではない。
勝負は続行中だ。気は抜けない。
相手はレッドホーンから受けた攻撃で傷を負っているが、大して動きが鈍くなったようには見えない。
あの赤い要塞が目を覚ますと事なので、
できれば早く終わらせたいのだが。

「くっそおおおぉぉぉ!!」

相手は腹部に残った方で、また砲撃してくる。
旋回してこれをかわし、砲撃をしながら相手の上空を通過。
セイバータイガーは振り返ってこちらを追いかけてくる。

「この野郎っ!回路がイカレて使えなくしやがって!!
こうなったら強制排除!」

『ガオオオォン!!』

セイバーが雄叫びを上げる。
身軽になられた分、多少不利な面もあるが大したことはない。

「そろそろ倒さねぇと…危険だな。」

ふと辺りを気にすると、レッドホーンに嫌な感じを受ける。
大方、コモススが反応しているのであろう。
相手が追いかけてくることを確認し、そのまままっすぐ飛ぶ。

「このやろっ!」

相手は先程、武装の一部を排除した。
その分早くなっている。
それでもある程度あの場所から離れた。 旋回し、砲撃。

「どあっ!こいつめ!!」

その隙に戻る。
あの赤い要塞の武装の一部でも何とかしておかない限り、辛い目に遭いそうだ。
まだあの様子では、フリーズしていまい。
ブレードで武装を剥ぎ落とす、これが今は一番だろう。

「…来る!」

ラウトが言ったのと、“それ”が来たのはほぼ同時だった。

ゴウッ!!

少しばかり遅かったようだ。

「くぅっ!このガキめ、いい気になるんじゃねぇ!!」

まだ起きあがれないでいるレッドホーン。
だとしても、あの様子なら下手をすれば起きあがるかも知れない。

「貴様、待ちやがれ!!」

セイバータイガーも戻ってきてしまった。
…どうする?
同じ手が通用する可能性は低い。
相手だって、馬鹿ではないだろう。
それならとうの昔に捕まっているはずなのだから。
どうする?

「もう逃がしはしねぇぞ!」

対空砲が迫ってくる。
何とか、時にギリギリのところでかわす。
そこで、セイバータイガーが飛びかかる。
下手すれば落とされかねない。
少し距離を取り余裕を持たせるが…
このままでは何時になっても終わらない。
どうする、どうすればいい?

「いたな!」

ふと、別な気配がした。
コマンドウルフ、ガイサック、ゴドス、ダブルソーダ…
あの町の自衛兵達らしい。
あの方は、どうやらあの町までたどり着いたらしい。

「お前達の思うようにはさせないぞ!!」

ダブルソ−ダが飛び出してきた。
不意を突かれ、敵はまんまと相手を近づけさせた。

ヒュ〜〜ルルル〜〜〜〜〜!!

下で爆風が広がる。
あのゾイドの得意攻撃、爆撃弾だ。
が、相手が相手だ…

「避けろ!!」

レッドホーンの砲口が、ダブルソーダに向いた。
ラウトが慌てて叫び、それを阻止しようと砲撃を放つ。

「ぐああっ!」

ドドドドーーーーン!!

次の瞬間、ダブルソーダは左の羽を失っていた。
そのまま失速し、地面へと墜ちた。

「この野郎めが!」

コマンドウルフが、起きあがった赤い要塞に向かっていく。

「ふん、貴様は…なに!?」

セイバータイガーが動こうとした。
だが、それを阻止したのは…

「そっちへは行かさないぜ!」

ガイサック。

「この、命知らずめが!」

セイバータイガーは器用にガイサックを振り払う。

「おらあああぁぁ〜〜〜っ!!」

ゴドスがそこに襲いかかる。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

こちらもゴドスを援護する。

「うるせぇっ!」

だが相手はそれを無視し、ゴドスを前足で蹴り飛ばした。

「うわあっ!」

「くそっ!」

こちらはブレードで攻撃を仕掛ける。

「甘いんだよぉ!」

「ちっ…」

上手くジャンプして避けられ、決まらなかった。

「弱すぎるお前はちゃっちゃと消えろ!」

ゴドスに、砲撃。
こちらも何とか阻止せんとしたが

ドドドドドォーーーーーーン!!

「がああぁっ!!」

やはり、不可能であった。
そしてもっと悪いことに、この音は2ヶ所でしたのだ。

「コマンドウルフもやられたか…」

見れば、そこには地に伏し、痛々しく火花を放つ、あのコマンドウルフがいた。
残ったのは、私だけのようだ。
…一体、本当にどうすればいい?
ラウトも、それなりに体力を削っている。
だが負けるわけにはいかない。
ラウトだってそう思っている。
だが、何か様子が変だった。

「うっ、…くそっ何で……」

弱音を吐いているような様子ではない。
どこか、何かの拍子に怪我したのかとも思ったが、そうでもない。
では、何なのだ…?
分からなかった。当時の自分には、分かるはずもなかった。
まだ、知りもせず、気付きもしていなかったのだから。

「もうどうにでもなれ…こうなれば、」

ラウトは一呼吸置いた。
何か、ただならぬ緊張感があった。

「覚悟しろ、リムラ。
止まるんじゃねぇぞ…」

分かっているつもりだった。
その言葉の意味が、何を示しているか。
だが、私は全くと言っていいほど分かっていなかった。
操縦に力が入った。

「うわっ!」

砲撃の精度も増した。

「こいつめっ!!」

反応速度も、敏捷性も増した。
だが、違う。これは集中力?
いや、違う。どこか違う。
この感じは初めてだ。
操縦がかなり細かくなっている。
でも、それ以外が…

「喰らえっ!!」

飛び上がったセイバータイガーをギリギリで避け、無理な旋回をして砲撃をする。

「うわっ!」

何故?普通、この状態では当てられない。
それにこんな無理な操縦は、いつもの彼らしくない。
何かが、何時もと違う。

「いつまで浮いてるんだ!」

レッドホーンの攻撃も避けた。
何か、体が固まりそうな感覚を覚えた。
何時もと違い、何かが足りない。
それに気付いたとき、一瞬だけ速度が落ちてしまった。

「いい加減にしやがれ!」

背後を取られた。
思わず、落とされると思った。

「おわっ!」

だが、墜ちなかった。
無理矢理動かされた私は、セイバータイガーの爪から辛うじて逃れていた。
…人間ではない。
気が付いた。私が乗せているのは、人間ではない。
優しさや思いやりさえ、すっかり消えてしまっている。
そして、ただならぬ殺気。
ラウトからこれほどまでの殺気を感じたのは初めてだ。
最近は、随分と感じていなかったのに……もはや、ラウトではない。そう感じた。
その時、彼が言ったことの本当の意味を知った。
でも、どうやったらここまで…
感情も理性もなくしたような動きができるのだろうか?
普通なら有り得ない、普通なら…。
固まりそうな体を必死に動かし、ラウトの指示に従う。
もう自分で動いている余裕はない。
システムをフリーズさせないだけで手一杯だ。
異常なまでの動きに、相手にも動揺が出始めていた。

「こいつ、さっきよりも動きが早くなりやがった!」

人間の方はまだ気が付いていない。
だが、ゾイドの方はうすうす感じ始めたらしい。
急に殺気が増したことを不審がっている。
私は、体がバラバラになるのではないかと思いつつ、あの赤い要塞の方に向かっていた。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「ちぃっ!」

「このガキは!」

何をするのか、私には分からなかった。
相手の目の前に煙幕を張り、そのまま突っ込んでいく。
突っ込むこと自体には恐怖を覚えなかった。
今は、もっと未知の恐怖を感じていた。

ババババァーーーーン!!

…前足が、火花を放っていた。
何ということを。少しの急所を狙い、武装を破壊するなどとは。
少しも怖れず、寸分の狂いもなくこの爪で破壊した。
理解できない。人間の、心ある者ができることではないはずだ。
普通なら恐怖に負けてしまう。
自信か過信か、はたまた猛進か分からない。
それが、恐い。

『グアアアァァァ〜〜〜ッ!!』

赤い要塞は悲鳴を上げていた。

「おい、どうした。
早く動かせ!」

「だっ、だめだ!
コンバットシステムがフリーズしちまった!!」

「なにぃ!?
傷も大して付いていなくて、レドラーにびびったとでもいうのかぁ!!」

「とにかく、動かねぇんだよっ!」

普通、あれでレッドホーンが固まるとは思えない。
背筋がぞくっとした。
顔も青ざめていくようだった。

「きっ、貴様めぇっ!!」

残ったセイバータイガーのパイロットは、味方を全て失い、かなり気が立っている様子だ。
だが、この状態がいつまで持つか…

「のあっ!?
ひゅるひゅるとよけんじゃねぇ!!」

砲撃を繰り返し、相手の前へ後ろへ飛び回る。

「この野郎!これでとどめを刺してやる!!」

相手が飛び上がった。
ラウトは、相手に向かっていく。
セイバータイガーの砲撃が、頭上を掠っていった。

ドオオオォォ〜〜ン!!

セイバータイガーは、私のブレードで左前足を失った。
セイバータイガーなら、足1本失った程度ならまだ戦えるはずだ。
だが、今相手が再び立ち上がることはなかった。
コモススが、私以外の周辺にいる全てのゾイドが全員フリーズしていることを知らせてくれた。
…まさか。
有り得ないと思った。現実ではないと思った。
もしかしたら、ただ単に有り得ないことが目の前に起こっているために情報の処理が不完全になっているだけなのかも知れない。
とにかく、少し落ち着いたのでラウトの様子を見ようとした。
…もう、先程のラウトではなかった。
少し安堵の気持ちを覚えながら、だがそれでも気になった。
ラウトは操縦を握っていなかった。
既に手放し、辛そうに呼吸をしている。
時々咳き込んでは、必死でそれを手で塞いでいる。
疲労が溜まったのだと思ったが、
それでもラウトが操縦権を完全に手放すことは今まで無かった。

『グウウゥゥゥ…』

私は何とかラウトに話しかけたが、もはや返事さえできない状態だった。
私の声でさえ聞こえないらしい。
しばらくは頭を抱えるようにして、うずくまるきりだった。
私も、それからは前足の痛さを耐えているきりだった。
しばらくすると他のゾイドが来た。
その中に、薄緑色のグスタフも混じっていた。

 

町に着いた頃には、ラウトの息も正常になっていた。
私は、彼から簡単な応急処置を受けた。
預けた荷物を受け取りに行こうと、彼は歩き出した。
…その時、あいつらが運ばれてきた。
盗賊の奴らと、それに利用されたゾイド達。
さすがに、レッドホーンまでは運べなかったらしいが、それ以外は殆ど運び込むらしい。
囚人になるべき者達が出てきた。
紐で縛られ、簡単には身動きがとれない。
周りには、銃を持った大人の方々もいる。
脱走はまず不可能だろう。
一人ずつ歩かされていた。
ラウトは、ただそれを黙って見ていた。
見ていただけだった。

「……ひいいぃぃぃっ!!」

情けない声が、いきなり聞こえてきた。
確か、セイバータイガーに乗っていた盗賊。
何を見て叫んだかと思えば、飛んでいたコモススによれば、ラウトだったらしい。
その後のセリフには、私も驚愕した。

「しゅ、しゅ、修羅だ!
阿修羅だ!!
くっっ、こっちに来るな!来るなあああぁぁっ!!」

阿修羅!?
その男の怯えようは、異常なものだった。
ラウトはもう、いつものラウトに戻っていたにもかかわらず…
ラウトも、驚いていたらしい。

「何を言ってやがるんだ!
さっさと歩け!!」

すぐにそいつは姿を消した。
阿修羅……怒りと、悲しみと、決意を持つ鬼神。
その三面の顔を持つ悪神。
あながち、間違ってもいないのかも知れないが…
阿修羅には3つの顔がある。
だが、笑顔はない。
持っていないのだ。

 

あの後は、ラウトは普通どおりにしていた。
いつものようにものを売って戻ってきた。
ラウトは普段どおりに振る舞っていた。
…それを努力しているのが、今の私には分かった。
彼は、精神面でも、体力面でも必死に耐えていた。
何故今まで気が付かなかった?
多分、隠すのはこれが初めてではない、そんな気がした。
私は、今まで気が付いていなかった?まさか…
でも事実だとすれば……

 

私は、彼を選んだ。
ただひたむきだった彼を。
彼は、何時も何か努力していた。
それを、私は全部知っているつもりだった。
だが実際は違った。
私は何も知らなかった。
あとから分かったことだが、その原因はあの「悪夢」だった。
彼には、きっと強すぎたのだろう。
それでも彼は耐えたのか、耐えたふりをしたのか…
それは未だに分からない。
ただ、今分かったのは…私には何もできないこと。
何ができるか知らない。
今は、彼の考えを尊重するだけ。
いつか言っていた、「誰も死なせない。」という言葉を。
彼にとって、それは正義ではなかった。
気が付けば、もう持っていなかった。
人と違う戦い方に、虚しさを覚えながら、私は何も言わない。
熱くなるべきはずの魂が、冷たい炎となる事。
ラウトは、相手が強ければ強いほど、気を静めようとする。
私は、ただ熱くなっていくだけだと思い込んでいた。
ラウト以外では、そのような人物しか、私は知らない。
だが言ったところで何も変わりはしない。
彼にとってそれは、義務感であるのだから。
それを変えられるほどのことを、私は知らない。
それでも…無表情に矢面に立って、今以外を考えない。
自分の存在を無視して、物のように扱う。
あの時の彼からは、そんな感じを受けた。
それが、恐ろしく思えた。

 

あれも、もしかしたらこのことを指していたのかも知れない。
私が、彼を選んだばかりの頃だった。
あのころは、エレイドという方がいた。
コモススを使い、エクサをパートナーに持つ、不思議な人間。
私はコモススによって目覚めた、といっても過言ではなかった。
そのコモススを使ったのは、多分あの方だ。
私の、リムラという名前もあの方から頂いた。

rimula(リムラ)

ラウトはまだ私に乗れなかった。
始まりにさえ立っていない。
だから、この名を頂いた。
希望にもなりきれていないからと……。
すっかりこの名が馴染んでしまっていて、思い出すこともなかった。
あの言葉は、「プリムラ」だ。
私は、欠けた始まり。欠けた希望。
自分の中に残る、あの言葉。
戻れるだろうか?なれるだろうか?
何時までも欠けたままではなく。
…もう一度考え直そう。
もう、自分の我が侭だけで動くわけにはいかない。
私が彼を選んだのだ。その責任はある。
私は、彼を縛っている。
昔決めたことを、今更変える気はなかった。
ならば……彼が本当に強くなれるように、できる限りの努力をしよう。
今は、誰にも気付かれぬよう、他のものを拒み続ける。
過去を捨てないよう、いつも側にいる。
彼が自分自身を受け入れられるまでの間。
本当に強くなるまでの間。
昔のように、素直になれるまでの間。
人間らしさはあるのに、それを失うことがある。
それ故、阿修羅などと呼ばれた。
だが、永遠にそのままではない。
変える道はあるだろう。
何が正しく、何が間違っているのか。
はたまた何が答えを持たぬのか。
それを知って……今は消えてしまった、その何かを取り戻せるように。
掴めるだけの真実を使う、受け入れるだけの真実を掴む。
私にはそれができるだろうか?
あの言葉に戻れるように。

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*アトガキモドキ*

ここで1人称を書くのは、もしかして初めてでしょうか?
…何故よりによってゾイド、それもリムラι
これだけ喋らせていいのか分かりませんが、こうでもしない限り分かりづらいので……
もしかしたら、余計にややこしくしてしまっただけかも知れませんが(汗)
しかもリムラ、あんな事を言っておきながら外見は全く変わってない…
以前よりは少し折れやすくなっただけだろうな……
え〜っと…ここまで読んでいただき、どうもありがとうございました。
と言うよりは、つきあわせて済みません(汗)
それにしても戦闘シーン、無茶苦茶……
次書くときは(多分、過剰〜の番外編だとは思いますが)
もう少しまともなものができるようにしたいです…
さすがにレドラーだけではセイバー&レッドホーンを相手させるべきではないですね(自分で書きながら展開に困りましたι)。
因みにリムラの一人称は「わたし」ではなく「わたくし」になります。
最後に書いてすみませんが……まぁ変に固そうな奴だと思って下さい。
こんな支離滅裂な文ですが、どうぞよろしくお願いしますm(_ _;)m


シヴナさんからいただきました。
ラウトの過去話ですね。
リムラの一人称、結構貴重ですね。
そして、ラウトの修羅・・・、少し痛い気がします。
若き飛行ゾイド乗りの苦悩というべきでしょうか。
なんか、私が訳わからなくなってきましたね・・・。
まぁ、キースたちとの絡みで多少は軽減されればいいんですけど。
シヴナさん、どうもありがとうございました。

 

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