バトルフィールドの広さは変わらないが、お互いに端と端に居たために視認出来る距離ではない。

「じゃあ行ってくる。」

「・・・・・・。」

そう言い残してレドラ−とハンマーヘッドが敵部隊の方角に飛び去っていった。

「この際だ。
呼び捨ての方が気が楽だと思うが、構わないか。」

「ええ。」

「ちょっと、何二人で語ってんのよ・・・。」

「ローズか、早かったな。」

「当たり前でしょ。
それよりも、ジン・・・だっだわね?
ジェノザウラーのダメージはどうなの?」

「何とか・・・。」

「無理はしなくてもいいわよ。」

「はぁ・・・。」

「俺達の識別コードを送っておく。
同士討ちはしたくないからな。」

「了解。」

そのやり取りが終わる頃、レドラーから通信が入る。

「こちらジェクト。
敵部隊と遭遇した。
数は26、機種は・・・データを送るから確認してくれ。」

「了解。・・・何なのこの編成は?」

送られてきたデータを見てローズは呟く。
驚きというよりは呆れた様子だったが・・・。
モニターには、シールドライガー・ガンスナイパー・スピノサパー・モルガ・レブラプター・カノントータス・
シンカー・レッドホーン・イグアン・コマンドウルフ・セイバータイガー・ヘルキャット・ゴドス・
コマンドウルフAC・ライトニングサイクス・ディバイソン・ヘルディガンナー・ガイサック・ハンマーロック・
ダブルソーダ・サイカーチス・ディマンティス・識別不能×4が長々と表示された。

「まるでゾイドの博物館だな。
この識別不能ってのはなんだ?」

「地中を高速で移動していたからスキャン出来なかった。
多分最初にそっちに行くのはそいつ等だ。」

「そうか、お前達はどうする?
一旦戻って合流するか?」

「いや、このまま足止めをしておく。」

既に対空砲火を撃たれているにも拘らず、気軽な会話をするジェクトの腕は確かなものらしい。

「無理はするな、すぐそちらに向かう。」

「早く来ないと全部喰っちまうぜ。」

それっきり通信が切れる。

「さて、行くぞ!」

「OK。」

「了解。」

ダークホーン、レブラプター、ジェノザウラーは爆音が響いてくる方角へ向かう。

 

「おい。」

「なんだ?」

「本当に俺達だけで闘うつもりか?」

「ああ。」

「彼我の戦力差を考えると妥当では無いな。」

「自信が無いのか?」

「・・・いや、面倒なだけだ。」

「混戦になったら上空からの攻撃は制限される。
今の内に航空戦力を削っておいた方が良いだろう。」

「出来るだけ・・・」

それまでハイパーショックガンとパルスレーザーガンで弾幕を張っていたハンマーヘッドのマニューバミサイルコンテナが開く。

「努力しよう。」

本来は対艦対空のための上方ミサイルがゾイドの群に降り注ぐ。

「無駄だ!」

シールドライガーの賞金稼ぎが叫んで撃ち落そうと狙いをつけるが、途中でミサイルの装甲板が剥がれ落ちる。

「何だ!?」

装甲板の下には数銃の爆雷が隠れていた。
それらの爆雷は飛び散り爆発する。
ゾイドの動きを萎縮させる強力な閃光弾と、黄・ピンク・黄緑等の蛍光色の煙幕が広範囲を覆う。

「今ので地上に居たゾイドは動きを止めたはずだ。」

「まずはダブルソーダとサイカーチスを堕とすぞ!」

外付けのブースターキャノンを煙の中に撃ちこむ。
続いてハンマーヘッドもビームやレーザーを降り注がせる。
それらの攻撃が更に煙を立てて、混乱は増していく。
そんな中、ビームがレドラーの翼を掠めた。

「ちっ、外したか!」

ビームライフルの照準を合わせなおしながらハンスは毒づく。

「あの中から正確狙ってくるって事は、ちょっとは腕の立つのが居るわけだ。」

「油断してると怪我じゃすまないぞ。」

「ああ、解ってる。」

途絶えない対空砲火の中、レドラ−とハンマーヘッドの戦いが続く。

 

その頃、ジン達はジェクト達の元へ急いでいた。

「ダスト、もうちょっとスピード出ないの!?」

「無理を言うな。
こいつは元々高速戦闘用じゃないんだ。」

「大体、そんな物を付けてるから余計に遅いのよ。」

視線でプラズマ粒子砲を指す。

「まだエネルギーパックが残ってるんだ。
下手に切り離したら暴発するぞ。」

その会話を聞いて、ジンは自分の勘違いに気付く。

「コアに繋いでなかったのか・・・。」

「ああ、こんなエネルギーを喰う物をコアに繋いでいたらダークホーンがもたない。
・・・残り2発ってとこだな。」

「リーダー!例の未確認ゾイドが4機そちらに急速接近中です!」

エリスの言葉で3人に緊張が走る。

「来たか!突破するぞ!」

「了解よ!」

「了解!」

砂埃を立てながら地中を進むゾイドが1度跳ねて姿を見せた。

「ウオディックか!?
面白い使い方だ!!」

「何でもいいからさっさと行くわよ!」

「ウオディック?
・・・まさかな。」

不意に浮かんだ名前をすぐさま否定したが、このジンの予想は見事に当たっていた。
一方、ウオディックの4人組・・・チーム・フーマでは、

「イガ!コーガ!ネゴロ!
このバトルに勝利し、我等の力を示す!全力で行くぞ!」

『承知!!』

等という会話が交わされていた。
ウオディック3機が同時に飛び出すと、ミサイルランチャーを僅かな時間差を置いて発射する。
三位一体という言葉の通りの見事な動きである。
ジンは交わそうと動きかけるが、

「退くなっ!!」

ダストの叱咤に思わず止まる。

「ローズ!」

「了解!」

言うが早いか、レブラプターは地面に潜ろうとしているウオディックの一機に躊躇無く突っ込んでいく。
交わせるタイミングでは無いが、レブラプタ−にミサイルが当たる寸前にダークホーンが動く。
ショットガンを撃ち、迫っていたミサイルを全て迎撃する。
爆炎を抜けたレブラプターはカウンターサイズを開き、ウオディックの右側面を深々と切り裂いた。

「何だと!?」

切断こそしなかったものの、そのままシステムフリーズを起こす。

『ネゴロ!?』

これほど早く1人目を失うとは思っていなかったのか、他の2機の動きが一瞬止まる。
その隙を見逃すダストでは無かった。
ガトリング砲の照準を素早く合わせると、至近距離から撃ち込む。

「うおおおおっ!?」

ボロ雑巾のようになったウオディックは堪らすシステムフリーズを起こした。

「ジン!逃がすんじゃない!!」

「は、はい!」

ジェノザウラーは殆ど地面に潜りかけていたウオディックの尻尾に向かって右腕を撃ち出す。
ギリギリのタイミングで尻尾を掴むが、そのまま引き摺られていく。
ワイヤーが最大限まで引っ張られ、勢いに負けて体勢を崩しそうになるが、

「・・・こんのおおおおっ!」

アンカーで両足を固定すると操縦桿に力を込める。
それに応えたジェノザウラーは力の限り腕を引き戻した。
釣りあがったウオディックに向けて高圧電流を流して動きを止めると、ビームガトリングガンを撃ち込んだ。

「うああああっ!!」

高出力のエネルギーは、ウオディックの装甲を易々と貫き沈黙させた。

「後1体!」

ダークホーンのガトリング砲が最後のウオディックの居る辺りを撃ち抜く。

「くっ!」

堪らず跳び出したウオディックの色は紅だった。

「紅いウオディック!?
じゃあやっぱり・・・くそっ!使ってる周波数はどれだ!?」

ジンはウオディックに通信を繋ごうと動きを止める。

「ジン!何やってんの!!」

ローズの声に顔を上げると、そこにはもうウオディックの姿は無かった。

「エリス、今のウオディックはどうした?」

「そこから遠ざかっています。
一旦仲間のところへ戻るようです。」

「そうか・・・ローズ、ジン行くぞ!」

そう言った時にはもう走り出していた。

「ジェクトとオグマの様子は?」

「2機とも健在です。
敵機の数を減らしてはいますが、2機ともかなり被弾率が上がっています。」

「解った。
・・・ジン、あの紅いウオディックと何があるのかは聞かないが、今は反則ありのダークバトルの最中だ。
味方の足を引っ張るような事はするなよ。」

「済みません。
・・・あのウオディックは自分に任せてもらえませんか?」

「訳有りか・・・いいだろう。
だたし、言い出したからには最後まで自分で責任を取れ。」

「はい!」

 

その同時刻、ジェクト・オグマはかなり危険な状態になっていた。
モルガ・レブラプター・シンカー・イグアン・コマンドウルフ・ゴドス・ハンマーロック・
ダブルソーダ・サイカーチス・ディマンティスを何とか沈黙させたが、
レドラ−・ハンマーヘッド共に限界に来ていた。
特にハンマーヘッドは深刻で、高水圧に耐える事が出来る重装甲もボロボロになっている。
そこにミサイルが左翼を直撃した。

「つぅ・・・・・!」

「それ以上は無理だ。
後は任せて後退しろ!」

そう言うジェクトだったが、レドラ−もバトルを続けられるような状態ではない。
動きが鈍くなった2機に対して、容赦無い砲撃が撃ち込まれた。
ガイサックのビームライフルがレドラ―を撃ち抜き、スピノサパーの4連インパクトカノンがハンマーヘッドを捉えた。

「くそっ!」

「・・・ここまでのようだな。」

黒煙を上げながら双方共に不時着すると、同時にシステムフリーズを起こした。

 

「レドラ―・ハンマーヘッド戦闘不能です。」

「2人の状態は?」

「2人共軽傷の様です。
ただ・・・、」

「ただ?」

「ゾイドのダメージが大きくて、暫くバトルは出来そうにありません。」

「仕方あるまい。
明後日のバトルは棄権だな。
敵の残存戦力はどれ位だ?」

「ちょっと待ってください・・・・シールドライガー・ガンスナイパー・スピノサパー・カノントータス・レッドホーン・
セイバータイガー・ヘルキャット・コマンドウルフAC・ライトニングサイクス・ディバイソン・ヘルディガンナー・
ガイサック・ウオディックがそれぞれ1機です。」

「まだ結構残ってるわね・・・。」

「あっ!シールドライガーとライトニングサイクスがそちらに接近しています。」

「補足している。
敵戦力が分散している内に撃破するぞ!」

『了解!』

まずライトニングサイクスが一行を通り過ぎる。
シールドライガーと挟み撃ちにするつもりらしいが、

「甘いな。」

シールドライガーに向けてガトリング砲を撃つと、予想通りEシールドを展開して防ぐ。
すかさず突進して、ショットガンでEシールドの強度を低下させると、クラッシャーホーンの一撃で破壊する。
そのままシールドライガーの下に潜り込むようにすると一気に跳ね上げる。
背中から落ちたシールドライガーにレブラプターのカウンターサイズが追い討ちをかけた。
左手足を切り落とされシールドライガーはシステムフリーズ。
シールドライガーが倒されたと知ると、ライトニングサイクスはすぐさまUターンして加速した。
近づくライトニングサイクスに対してジェノザウラーが迎え撃つが、高速ステップによって弾は当たらない。

(焦るな・・・動きを良く見ろ)

ジンは自分に言い聞かせる。
ライトニングサイクスは最高速に達し、そのままの勢いで跳びかかってくる。

「・・・ここだっ!」

ジェノザウラーは体を半歩ずらして爪の攻撃を交わすと、カウンターの要領でライトニングサイクスの首を掴み、
そのまま地面に叩きつけると思い切り踏み付けた。
ライトニングサイクスは耐え切れずシステムフリーズを起こす。

(少しは成長したみたいだな)

ダストはジェノザウラーの動きを見てニヤリと笑う。

「何ニヤニヤしてんのよ。
気持ちの悪い。」

「・・・いや、何でもない。
それよりも、残りの連中が来るぞ!」

「あ〜もおっ!闘い難いったら無いわね!!」

ローズは近付いて来たヘルディガンナーを切り裂きながら毒づく。
ゾイドバトルに参加するチームは、そのチームカラーに合わせてゾイドの種類を揃える傾向が多くある。
しかし、DS団のゾイド達は数が多い。
種類に至っては全種類が違うので、例え熟練のウォーリア−と言えども苦戦を強いられるらしい。

「確かに・・・!ええい鬱陶しいっ!!」

レッドホーンを跳ね上げながらダストも同調する。

「二人とも、時間が経てばこちらが不利だ。
さっさと終わらせるぞ!」

『了解!』

 

「味方戦力の損耗率が50%を超えました。」

「即席のチームではこの程度か。
実験機はどうなっている?」

「現在、光学迷彩により姿を隠し、バトルフィールド内に待機しています。」

「よし、エネルギーフィールド展開準備。
準備が整い次第実験を開始する。」

「了解しました。
しかし・・・本当によろしいのですか?」

「一山幾らの賞金稼ぎや機械人形の1体や2体、どうなろうと構わない。」

「では彼らも・・・?」

「チーム・フーマか、元BD団と言うから様子を見ていたが・・・所詮は負け犬だったな。
覚えておけ、能力の無い者はDS団には必要無い。
我々も同様にな。
だからこそ、この実験を失敗することは許されんのだ。」

「・・・・・・展開準備完了しました。」

「フィールド展開の後、実験機は光学迷彩を解除。
直ちに作戦行動に移れ。」

「了解。フィールド展開します。」

 

戦況は拮抗していた。
ダークホーン、レブラプターの動きについていける相手は殆ど居ないのだが、数ではまだ敵の方が多い。
お互い少しずつダメージが溜まっていく中、ジンは紅いウオディックを探していた。

(無線が駄目なら接触通信をするまでだ)

ジンは説得を試みるつもりだった。
無論、成功するとは思っていなかったが、少しでも戦意を殺ぐことが出来ればいいと考えていた。
そして、何より話がしたい。

「あそこか!」

砲弾が飛び交う中、ジェノザウラーはウオディックに向かって行く。
当然、ウオディックからは攻撃があったが、フェイントを使いながら巧みに交わして行く。

(もう少しっ!)

実際、数秒後には触れることの出来る距離まで近付いていた。
両腕を撃ち出す用意をしようとした時、突然視界の約半分を何かが埋めた。

「おおっ!?」

反射的に左足を軸に半回転してその何かを避けるが、勢い余って転倒する。
直ぐに起き上がってウオディックを探すが既に姿は無く、代わりに視界に飛び込んで来たのは巨大な壁のような機械だった。

「これは・・・?」

気付くと、先程までしていた戦闘音が止んでいた。
ダスト達はもちろん、DSのゾイド達も何が起きたのか解らず戸惑っているようだった。

(何だ?DSの仕業じゃないのか?)

その壁は全てのゾイドをぐるりと取り囲むように配置されているが、その範囲はかなり狭い。
そして、レーダーに突如として新たな機影が現れた。
ちょうどその壁を挟んだ反対側。

「敵・・・か?」

ジンは直ぐにそのゾイドのデータ照合を始める。

「照合完了・・・・・・ディメトロドン?」

連盟の整備斑に居た頃から色々なゾイドを見てきたジンではあったが、そのゾイドを見るのは初めてだった。

 

ディメトロドン。
ゾイドバトルではあまり見かけないゾイドだが、特に貴重という訳でもないし、寧ろ旧型でさえある。
しかも多くのウォーリア―が使いたがらないのだ。
理由は、ディメトロドンが『電子戦ゾイド』というところにある。
その膨大な電子装置を駆使して敵の情報を察知しても、後方支援だけでは勝つ事は出来ない。
多くの場合同数で行われるゾイドバトルでは、一体でも戦線を離れると不利になる。
戦争でもするなら話は別だが、格闘・砲撃共に貧弱なディメトロドンは人気が無いのである。
誰一人使っていない事も無いが、数は非常に少ない。
また、乗りこなせばそれなりに使えるが、後方支援の域を出ない。
誰かにそんな事を聞いた覚えがあるが、その『電子戦ゾイド』がなぜ急に現れたのか。
しかもたった一体だけで。
疑いの眼差しを皆が向けていた時、通信が入る。

「このままこちらが敗れてしまっては盛り上がりに欠ける。
そこで、だ。
趣向を凝らそうと思う。」

ジンたちにとっては初めて見る顔だった。

「いまさらディメトロドンなんかよこしてどうするつもりだ?」

ハンスがもっともな事を聞くが、返事はこない。
どうやらあちらからの一方的な通信のようだ。

「怪我をしたくなければ、そうだな・・・精精操縦桿をしっかり持っておくことだ。」

なにやら意味深なことを言って通信を切る。

「ジャミングウェーブ照射開始!
ゾイドの反応は余すところ無く記録しておけ!」

ガルンストのその言葉を合図にディメトロドンの背びれがうねり始めた。

 

「何だか知らんが、味方だってんなら問題ね―――」

そこまで言いかけて、ハンスはガイサックの様子がおかしい事に気付いた。

「どうしたって・・・うお!?」

信じられない事に、操縦もしていないのにガイサックが直ぐ隣に居たガンスナイパーに襲い掛かった。
いや、ガイサックだけではない。
その場に居たゾイド達が、ウォーリアーの意思に関係なく暴れ出したのだ。
敵味方関係無く手当たり次第に襲い掛かる者も居れば、その場で行動不能になり苦悶の声を上げる者も居る。
何か強力な電場障害によって通信する事も出来ず、怒号や悲鳴が飛び交う悲惨さ状況になっていた。
ジェノザウラーも例外ではなく、誰かに襲い掛かりこそしなかったが、苦しげな声を上げながらその場に蹲っていた。
モニターにはノイズが走り、計器はでたらめな値を示す。
これら原因はさっきのディメトロドンである事は間違いない。
ジンは何とかコントロールしようと手を尽くすが、一向に回復の兆しは見られない。

 

「現在の状況は?」

「ジャミングウェーブの出力安定しています。」

「大型ゾイドの反応が鈍いように見えるが?」

「個体差によるものでしょう。」

「ふむ・・・、まだ余裕はあるな?
出力を上げろ。
せめてジェノザウラー級のゾイドに効果が無いと実用化に踏み切れん。」

「了解、ジャミングウェーブの出力を上昇させます。」

その命令を受け、ディメトロドンの背鰭が一段と強く光る。
それまでは動けないだけだった大型ゾイド達も同士討ちを始める。
ジェノザウラーの様子は変わらないように見えたが、コックピットのジンはジェノザウラーの変化に気付いていた。
ついさっきまで揺れていた機体が突然静かになったのだ。
いまだに異常な値を示す計器やモニターは治ってないが、一切の音が消えた。
外で鳴っている筈の音も何もかも。
その静寂の中に人間の心拍音と同じ音が次第に大きくなっていく。
やがて、それまでで一番大きな音がした瞬間、全身の毛が総毛立つ。
そこに座っているだけで息が詰まる。

 

「これは・・・!」

「どうした?」

「ジェノザウラーのコアの活動レベルが急激に上昇しています。」

「馬鹿なっ!?」

「恐らくはジャミングウェーブの影響でしょうが・・・こんな症例は今まで見たことがありません。
・・・・・・っ!荷電粒子反応が増大しています!!」

「何っ!?」

「予測射線上に当艦があります!」

「くっ!前面のシールドにエネルギーを集中しろ!」

それは信じられない事だった。
ロックをかけ、普段は使えないようにしてあるか荷電粒子砲が勝手に動いている。
どんなにシステムに介入しようとしても全く受け付けない。
アンカーが地面に突き立ち、尾のファンが開く。
咥内に光、荷電粒子が集まっていく。
止められない。
狙いはあのディメトロドン。
その先にはホエールキングが居る。
そして・・・、

「荷電粒子反応臨界点突破!
・・・きますっ!!」

「各員衝撃に備えろっ!!!」

青白い光は強固な筈のエネルギーフィールドを全く問題にせずディメトロドンの背鰭を削り取り、なおもその歩みを止めない。
ホエールキングに立っていられないほどの衝撃が走る。
拡散しながら軌道は反れたものの、衝撃波によるダメージは大きい。

「皆生きているな!?
被害を報告しろ!!」

「実験機のパイロットの生存を確認!
ジャミングブレードは消滅しました!」

「くっ、回収斑を直ぐに出せ!艦の被害は!?」

「左翼上部装甲板に損傷!航行に支障はありません!
衝撃波より第7区画に負傷者多数!
第13区画装甲板に亀裂を確認しました!!」

その後も次々と被害状況が伝えられる。

「何なんだこの威力は・・・?」

このホエールキングに搭載されているシールドの強度はブレードライガー以上、ジェノザウラー級の荷電粒子砲程度なら完全に防げる筈だった。
どれだけ出力を上げようと、ジェノザウラーでは是のほどの荷電粒子砲を撃てる筈が無い。
ガルンストの体に言い知れぬ不安がこみ上げる。

「いいかっ!回収が済み次第直ちに此処から離脱する!」

開かれていたハッチからディマンティスが大量に発進していく。

 

ディメトロドンが沈黙した事によって正気に戻ったゾイド達が動き始める。

「いくら何でもやりすぎよ。
こんな事が連盟に知られたら・・・」

頼りない足取りでローズのレブラプタ―が近付いてくる。
正体不明の怪電波の効果は切れたようだが、ジェノザウラーのパネルには依然として非常事態の表示があった。

「来るなっ!!」

叫んだ時にはもう遅かった。

「へ・・・?」

悲鳴を上げる時間も無かった。
ジェノザウラーの尾によってレブラプタ―は弾き飛ばされたのだ。
首を不自然な方向に曲げ、スパークを上げながら動かなくなる。

「ローズ!?」

「だ、大・・・丈・・夫・・・。」

ローズからは力の無い返事しかない。

「ジン、何の真似だ!!」

ダストの怒号が聞こえる。
・・・聞こえてはいるが頭で整理するような余裕は無い。

「に・・・逃げろ!早く!!」

そう言うのが精一杯だった。

「おい!ちゃんと説明・・・」

あまりの事に流石に動揺するダストだったが、ジェノザウラーの変化に逸早く気付いた。
今目の前に居るのは先程自分が相手にしていたゾイドではなかった。
姿形が変わった訳ではない
ただ、その身に纏う空気が違う。
手錬れのウォーリア―が放つ威圧感でも、野良ゾイドが放つ野生の息吹でもない。
例えるならば、瘴気。
ジェノザウラーの体躯に対して、その存在感は明らかにおかしい。
ダークホーンが怯え、後退る。
その事に気を取られて一瞬ジェノザウラーから目を離した。
再びジェノザウラーを見ようと視線を戻すと、目の前にジェノザウラーが迫っていた。

「ちぃっ!」

迂闊だった。
今のジェノザウラーから目を離すなど初歩的なミスだ。
もう交わすことは出来ない。
コックピットを狙って爪が振り下ろされる。
来るべき衝撃に身構えるが、その爪が届く事は無かった。
ジェノザウラーが急にその場から跳んだかと思うと、その直後ビームが数本横切る。

「今のタイミングで交わすか普通?」

呆れた声の主はダストの知らない顔だった。
どうやら通常回線らしい。

「誰だお前は?」

「助けてもらってその言い草はねえだろう?
俺はハンス・クリムト、まぁ賞金稼ぎだ。
目の前のガイサックに乗っている。
おっさん、あいつを止める気はあるか?」

「無論そのつもりだ。」

「なら加勢するぜ。」

「どういうつもりだ?」

「俺は無理矢理DSの奴等に雇われた。
その結果がこれだ。
これ以上あいつ等に使われるつもりはないし、あの化け物を止めない事にはお互い助からないだろ?」

「利害の一致、か。」

「そういうことだ。」

そう言いながらさらにビーム砲を撃つが、あっさりと交わされる。

「全く!何であいつだけ正気に戻らねんだ?
しかもバトルの時より速くなってるしよ!」

一頻り愚痴った後、周りの賞金稼ぎ達に向かって話し掛ける。

「お前等!まだDSに付くってんなら相手になるぜ!
もっとも、命と金を天秤にかけるつもりならの話だがな!」

さらに続ける。

「言っとくが、まだあの壁が残ってる以上逃げ道はねえんだ。
あいつが止まるまでこのクソ狭い中を逃げ回るか、残った奴等であいつを止めるか、二つに一つだ!
もっとも、あいつが自然に止まるとは思えねえがな!
助かりたい奴は手伝え!」

普段ならばこんな金にならない事には消極的な賞金稼ぎたちだが、今はそんな事をいっている場合ではなかった。

「こうなりゃ自棄だ!
やってやろうじゃねえか!」

「荷電粒子砲をもう撃たせるなよな!」

「お前等手を抜いたら承知しねえからな!」

ハンスの言葉に次々と賛同し、ジェノザウラーを囲むように展開する。

「まぁ、そういうこった。
本気でDSの味方をしたい奴なんか最初から居ねえのさ。
それから、聞いてるとは思うが艦長さん、悪いがこの契約は無しだ。」

「変わり身の早いことだな。」

ダストが呆れた顔で言う。

「そう言うなって。せっかく味方が増えたんだからよ。」

「いいだろう!」

ダークホーンの砲撃を合図に、一斉にジェノザウラーに攻撃を開始した。

 

「回収作業の様子は?」

「既に帰還作業に入っており、間もなく全機収容が可能です。」

「解った。・・・離陸準備!」

「エネルギーフィールドはどうなさいますか?」

「放っておけ。
最低限のデータが揃った以上、長居は無用だ。」

「了解・・・・・・ディマンティス隊収容完了しました。」

「よし、発進しろ。」

多少グラつきながらもホエールキングは飛び上がっていく。

「ちっ!あいつら用が済んだらオサラバかよ!」

「集中しろ!」

戦いはこちらが有利の筈だった。
手負いの者も居るが、数で攻めれば勝てる闘いだ。
どうやら、ジェノザウラーの火器管制システムは死んでいるようで、
その証拠にビームガトリングやレーザーガンを一向に撃ってこない。
全員で囲み、射撃系の武器で攻撃すればこちらに被害を出さなくて済む。
唯一の不安材料だった荷電粒子砲も使えないようだ。
先程撃った反動からか、砲身が熱で溶けだしていた。
普通そんなことは有り得ないのだが、現実にこうして起きている。
あの威力の荷電粒子砲を撃てば仕方が無いのかもしれないが・・・。

「ひぃっ!?」

不意にジェノザウラーがセイバータイガーを捉まえた。
ジェノザウラーの跳躍力を見誤ったようだ。
嫌な音を立てながらそのまま首をもぎ、投げ捨てる。
更には、砂地に足をとられたレッドホーンに躍りかかると、左足を腰の辺りから引き千切る。
凶悪なまでの力である。
その力は自身の体にも跳ね返り、両腕のシリンダーが拉げ、関節が砕ける。

「堕ちろぉぉぉ!!」

ディバイソンの17連突撃砲がバランスを崩したジェノザウラーを直撃する。
右腕が弾け飛び、フェイスマスクが爆ぜ割れる。
ジェノザウラーの体が崩れ落ち煙が立ち込める。

「やったか?」

「いや・・・まだだ!!」

誰かが言ったその言葉通り、ジェノザウラーはゆっくりと立ち上がり始めた。
確かに動いていた。
動いてはいたが、誰も攻撃をしようとはしない。
満身創痍という言葉はこういう時に使うのだろう。
体の各所から潤滑油を血の様に流し、マトモに歩く事も出来ない脚を引きずるジェノザウラー。
自分の体を破壊するほどの力で暴れ周り、何十何百という攻撃に晒されたその姿はとても直視できる物ではなかった。
だが、フェイスマスクの切れ目から覗くその瞳には未だに狂気の光が灯っている。

「ど、どうしたらいいんだ・・・?」

「知るかよ・・・。」

コアさえ無事ならばゾイドは復活できる。
そのことはウォーリア―ならば誰でも知っている事だ。
コア以外であれば例えどれだけ傷付けようと、ジェノザウラーは死なない。
止めようと思えば両手足を吹き飛ばしてしまえばいいのだが、今のジェノザウラーにこれ以上攻撃を加えるのは皆気が咎めたのだ。
放っておいてもこちらに危害を加える力は残ってはいまい。
さっきまで自分達を殺す勢いで襲ってきた敵に対して無意識に哀れみを覚え、どう動けば良いのか誰もが戸惑っていた。

「後は俺一人で十分だ。」

そう言ったのはダストだった。

「すぐに俺達のドラグーンネストが来る。
そいつなら壁を何とかできる筈だ。
そうしたら直ぐに怪我人の手当てをしておいてくれ。」

「本当に大丈夫なのか?
あいつの目はまだ死んじゃいないぞ!」

「大丈夫だ。
あいつはもう大して動けない。
早く行け!!」

「・・・解った。
お前等!聞いた通りだ。
早いとこ此処から離れるぞ!」

ハンスの指示に従い、賞金稼ぎ達警戒しながらもその場を離れ、傷ついた人間やゾイドを慎重に運んでいく。

「ジン!生きているな?
返事をしろ!おい!」

ダストが呼びかけるが、一向に返事は無い。
この時、ジンは意識を保っていたが声が出なかったのだ。
出るのはうめき声だけ。
内臓のどれかを傷めたらしく、声を出そうとすると激痛が走る。

「チッ・・・止めるのは外からしないか。」

ダストは舌打ちして操縦桿を握りなおす。

「いい加減に・・・止まれ!」

プラズマ粒子砲をジェノザウラーの左脇向けて放つ。
激しい風圧に耐え切れず転がる。
そこまで弱っていたのである。

「やったか?」

だが、ダストの期待とは裏腹に直ぐに起き上がってくる。

「これが駄目なら・・・。」

砲身を下げて狙いをつける。
最後の一発をジェノザウラーの足元に撃ち込む。
巻き上げられた砂と爆風が体と押し流すが、それでも尚力尽きる事はなかった。
もう四肢を切断するしかないと、ガトリング砲の照準を合わせようとする。
それとほぼ同時にジェノザウラーの体が強張ると、その開かれた口に光が集まり始める。

「あの体で撃つのか!?」

ダストが驚愕の声を上げている間にも、光は少しずつだが確実に大きくなり、
溢れ出したエネルギーが体の彼方此方を突き破っていく。

「ここまでか・・・!くそぉ!」

歯がゆい感情を押し殺してダストはジェノザウラーから離れる。

(あのままじゃあいずれ爆発する。
ゾイドはもちろん人間はひとたまりも無い)

ダストは壁を殴りつけ、己の無力さを呪った。

 

警報が流れる中、ジンは半ば諦めていた。
考え付いた事は全てやった筈だ。

(他に何かあるか・・・?
いや、考えるだけ無駄だ・・・)

完全に意識を手放そうとした時、操縦桿を伝ってジェノザウラーの意識が流れ込んできた。
一つは全てを破壊しようと蠢く闇、もう一つはそれに対抗するように輝く小さな光。
その光を感じた途端、全身に力が戻ってくる。

(こいつはまだ諦めちゃいない・・・!
最後まで抗う気だ!)

ジンは拳を強く握ると、頭を振った。

(ゾイドより先に乗り手が諦めてどうする!
やれる事はあるはずだ!)

自分に言い聞かせるように叫ぶと、コンソールのパネルを剥がして内部の機械を引っ張り出す。

(コアからのエネルギー供給を切断すれば止まるかもしれない!)

引きずり出した機械を見ながら考える。

(何か・・・何かないか!?)

今まで得た知識を総動員する。

(これだ!!)

コードの束を掻き分けて、その中から一番太いものを探し出した。

(これを切ればコアに繋がるパイプや神経回路は全て切断される筈・・・)

そのコードは、ゾイドのコントロールシステムの中枢に繋がるものだった。

それを切断すれば、確かにコアは隔離されるかもしれないが、
その結果として生命維持装置を含めた他の全ての機能が停止する可能性もある。
だが、何もしないまま甘んじて死を受け入れる事はできない。
少なくとも、ジェノザウラーが諦めていない限りは・・・。

(でも、最終的には頼るしかないか・・・)

自嘲気味に笑ってコードに手を掛けると、金属板の破片で切れ目を入れる。

「後は任せる!!」

そう叫んでコードを引き千切ると、照明を始めとしてモニターや計器が全て止まる。
もう外の様子は解らない。
暗闇の中、忘れかけていた激痛に襲われ意識が遠のいていく。
完全に意識を手放す直前、不意に声が聞こえた。

―――我等・・ニハ・・・マダ・・・成・・ス・・・キ事・・・残・・テ・・イル―――

「そう・・だ・・・な・・。」

そう呟いてジンは意識を失った。

 

熱だけを残してエネルギーの流れが止まる。
糸を切ったマリオネットのように、ジェノザウラーの体は重力のままに崩れ落ち、今度こそ動きを止めた。

「止まった・・・?」

ダストは言うが早いかジェノザウラーに向かってダークホーンを走らせる。
コックピットを跳びだすと、固く閉ざされたハッチを力任せに開け、ジンを引きずり出す。
そして、呼吸を確認してようやく落ち着いた。
地面に座り込み、手持ちの通信機でドラグーンネストに繋ぐ。

「こちらダスト。
奴さんは何とか生きてる。
そっちはどうだ?」

「壁を突破して、今怪我人を乗せています。
ええと・・・ローズさんの怪我は大した事はないみたいです。」

「そうか・・・。」

「そうか、ってもっと喜んだらどうなのよ?」

割り込んできたのは当のローズだった。

「あれ位で死ぬようなお前じゃないだろう。
もう喋れるのか?」

「肋骨の1〜2本はやられてるけどね・・・。
それから、今のは褒め言葉として受け取っておくわ。」

「連盟が来るまでは大人しくしていろ。」

「言われなくてもそうするわよ。
じゃあね・・・。」

通信は再びエリスと繋がる。

「連盟への連絡は取れたのか?」

「あ、はい。
直ぐに救助隊が来るそうです。」

「・・・とりあえず、終わったな。」

太陽は何事も無かったように、ダスト達を照り付けていた。

 

「あんた、チーム・フーマの頭だろ?」

賑やかな作業を眺めながらハンスが話し掛ける。
既に連盟の調査隊・救助隊が到着していて、負傷者や傷ついたゾイド達を収容していた。
例のディメトロドンがいた辺りも隈なく調べているのだろう。

「それがどうした?」

「いやな、知り合いにあんた等に潰されたチームがいるんだ。
そいつらからあんた達の年恰好は聞いていた。
思い出したのはついさっきだがな。」

「敵討ちでもするつもりか?」

「そこまでの義理はねえよ。」

ハンスはそう言って肩をすくめて見せる。

「聞きたい事はそれだけか?」

「・・・あんたの仲間は壁の外にいた。
ウオディックなら地中を通って逃げれたはずだ。
なぜ逃げなかった?」

「逃げたくても出来なかった、とういのが理由だな。
潜る為のパーツに被弾していた。
ジェノザウラーのパイロットの事が気に架かったもの少しはあるだろうが・・・。」

「へえ、気付いていたか。」

「あんなに動きをされて気付かない方がどうかしている。」

大型クレーンで吊るされているジェノザウラーに視線を向ける。

「近付いて来るだけ・・・何がしたかったのかさっぱり解らない。」

「そのことなら本人に聞くのが一番だろうな。」

会話に割り込んできたのはダストだった。

「よう、あんたか。
お仲間の様子はどうだい?」

「幸い大した事はないらしい。
念のために精密検査を受けさせるつもりだがな・・・。」

「そいつは良かった。
で、当の本人はどうした?」

「今医務室に居る。
暫くは目を覚まさないだろう。
あの状況で生きていられるとは運が良い奴だ。」

「待つしかない、か。」

「大体の見当はつくがな。」

フーマに目をやりながらダスト。

「・・・彼を待つ時間は私にはなさそうだ。」

フーマの視線に釣られて見ると、連盟の制服を着た男女が居た。

「チーム・フーマ所属のフーマだな?」

近付いてきた男の第一声はそれだった。

「ああ、そうだ。」

「他の三人の身柄は我々が拘束した。
今は傷の手当てを受けているが、それが終わり次第、お前も含めて連盟本部に護送する。
理由は・・・お前自身が良く解っているだろう?
大人しくしていれば、手荒な真似はしない。」

「安心しろ、今更逃げようとは思わない。」

「悪党にしては殊勝な態度だな。
まぁ、我々にとっては助かるが。」

「少し聞いてもいいか?」

と聞いてきたのはダスト。

「何でしょう?」

答えてきたのはもう片方の女だった。

「彼等・・・チーム・フーマの処遇はどんなものに?」

「部外者に教える事はできないので・・・。
ただ、決して軽いものではないと思いますよ。
もういいですか?我々も仕事なので。」

「ああ、ありがとう。」

「では行こうか。」

「ああ。」

連れて行かれるフーマの後ろ姿を二人は暫く見つめていた。

「奴さんにはどう言うつもりだ?」

徐らハンスが聞いてくる。

「そのまま言うのが一番だろう。
・・・若い時は周りが見えなくなるものだ。」

「危なっかしくて見てられんな・・・羨ましくもあるが。」

「しかしまた面倒な女に惚れたもんだ。」

ダストの呟きに合わせてハンスも頷いた。

 

「報告書は読んだ。
プロトタイプを失ったのは痛かったな。」

シドの落ち着いた声がモニター越しに響く。

「・・・死者が出なかったのは幸いだったが。」

「申しわけありません。
まさか、あのような事になるとは・・・。」

ガルンストは嫌な汗をかきながら答える。

「ジェノザウラーの暴走、か。
ジャミングウェーブにそんな効果があるとは予想外だな。」

「はい。
他のゾイドには同じ症状は出ていませんでした。
恐らくはジェノザウラーのコアにだけ存在する『何か』が反応した為と思われます。」

「それについては本部の技術斑も調査している。
暫くすれば解るだろう。
・・・シュダの機体も一度検査する必要があるな。」

「今回得たデータを考慮して、ジャミングブレードの完成を急いでいます。
予定期日には間に合わせるように伝えてあるのでご安心ください。」

「そうでなくては困るな。
本部は既に運用計画を立てているのだから。」

「はい・・・。」

「それから、今回はやり方が強引過ぎた。
事故処理に時間を割く余裕は無いのだ。
これからは肝に銘じておいて欲しい。
・・・ご苦労。暫くは休んでいてくれ。
今後の活動は追って指示する。」

「はっ!」

敬礼と同時に通信が切れる。
モニターが完全に沈黙すると、ガルンストは拳を思い切り握る。

「『今後の活動は追って指示する。』か、若造が図に乗りおって・・・!」

荒い呼吸を整えると今度は笑みを浮かべながら、

「・・・まぁ良い。
ジャミングブレードさえ完成すれば、私の地位も上がる。
いずれ奴を蹴落としてくれるわ。」

ガルンストの口から漏れる含み笑いは、薄暗い部屋に響いていた。

 

擬似OSの暴走。
それがジェノザウラーの狂気の原因についての連盟の解釈だった。
謎の怪電波によってゾイドコアが不安定になり、コアに直結していた擬似OSが暴走、
規定値をはるかに超える活性化によって凶暴性を高めてしまったらしい。
しかし、ジンにはそれだけとは思えなかった。
原因はそうだとしても、ジェノザウラーは明らかにただの暴走ではなかった。
何か巨大な怨念のような物を感じたからだ。
連盟には報告していないが、仮にしたとしても信じてもらえないだろう。
連盟はこの事態を受け、擬似OSの開発計画を凍結する。
そして、ジェノザウラーに搭載されていたプロトタイプを回収した後にこれを破棄したのである。
結局、今回の一連の事件は公にされなかった。
表向きは『DS団の新兵器について何も解っていない段階で公表すると余計な不安を与えるだけ』というものらしいが、
本当のところは連盟が開発したシステムの暴走によって負傷者を出した事を表沙汰にしたくなかったのだろう。

「連盟も完璧じゃない、か・・・。」

新聞を読みながら、ジンは一人呟いた。
あの後・・・連盟に救助された後、ジンは他の怪我人と一緒に病院に担ぎ込まれた。
鞭打ち・打撲・骨折・衰弱とかなりの怪我だったが、幸いにも命に関わるものではなかった。
賞金稼ぎたちの怪我も大きいものは無く、あれだけの事が起きた事を考えれば奇跡に近い。
ジンは治療を受けた後、1ヵ月ほど自宅で療養していた。
その間に連盟が事件の後始末をしたり、ダークバトルが頻発したりと世間は慌しく過ぎていった。
ジェノザウラーは連盟によって修復され、今は家に帰ってきている。
コアも最近になってようやく落ち着き、ほぼ元の状態に戻っている様に思える。
ただ、治療や事情聴取等で時間を取られて、
最近はジェノザウラーに関わる事が出来なかった為に、実際に声が聞こえたのかどうか曖昧にはなっていた。
チーム・トライアルや賞金稼ぎ達のゾイドの修復も連盟が引き受けたらしい。
多分に口止め料的な意味が含まれているようだったが・・・。
中には厳重注意を受けた者も居るようだったが、その中でもチーム・フーマは全員が身柄を拘束された。
BD団にいた当時から連盟に追われていたらしい。
彼等の行いを考えれば当然の処置だろうが・・・。
それでもジンが受けた衝撃は大きかった。
連盟は捕まえた人物の情報を一切公開しない。
もう一度フーマを探し出すのはかなり難しいだろう。

「はぁ・・・。」

溜息を吐いてベットに横たわる。
せめてもの救いは、探している相手が自分のことを知っている事だ。
ダストから、フーマとした会話のことは聞いた。
探している理由を話したらかなり呆れられたが、それでも協力してもらえる事になった。

(・・・きっとまた会えるさ。)

ジンはそう前向きに考え、もう一つも目標のビット・クラウドとのバトルに思いをはせる事にした。
本物のOSを持ったライガーゼロに乗り、数ヶ月間の武者修行を終えた彼は以前よりも遥かに強くなっているだろう。
仮に今バトルをしても敗れる事は目に見えている。
やる以上は良いバトルにしたい・・・いや、勝つつもりでやるべきだ。
ジェノザウラーの声がまた聞けるようになれば彼に近づける様な気がする。

(ま、その前にケイン・アーサーを超えなきゃいけないけど・・・)

ジンは起き上がると、そのままドックに向かう。
ジェノザウラーは眠っていた。

『生まれてはいけなかったゾイド』

ジェノザウラーに乗る事を反対していた知り合いの言葉だった。
確かに、あの時見せた力と凶暴性は、人間だけでなく、ゾイドの生態系にも悪影響しか齎さない。
悲しい事だが、デスザウラーの遺伝子が受け継がれている証拠だろう。
今回の事件が直接の原因となって、ジェノザウラーは危険ゾイドとして連盟に登録されてしまった。
また同じような事があれば、良くて拘束・悪ければ解体される可能性がある。

「ゾイドバトルに出ずに、あのまま保護されていた方がお前にとって良かったのかもな・・・。」

ジンはジェノザウラーに触れながら言う。

―――主ヲ選ンダノハ我ダ―――

「!!・・・お前・・・。」

―――後悔ナドシテイナイ―――
―――主ハ破壊シカ知ラヌ我二希望ヲ与エテクレタ―――

「・・・・・・。」

―――約束シタデアロウ?共ニ高ミヲ目指スト―――

「そうか、そうだな。・・・改めてよろしく頼むっ!」

ジンの語り掛けに、ジェノザウラーは優しい鳴き声で応えていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

後書き

まず、最後まで読んで頂き有り難う御座います。
書く、書く、と言い続けて早数ヶ月、漸く『破滅の遺伝子を持つ者』完成しました。
まぁ、長い時間かけて書いただけに文章も長くなりましたが、もっと無駄な部分を削れば良かったと反省しています。
一気に読まれた方は暫くの間遠くを眺めてください。
近くに緑があれば◎です。
話の展開に強引な部分が多々ありますが、私の表現力ではこれが限界なのです。
ゲストとしてシドさんに出演してもらいました。
モニター越しの語りだけですが、少しは幹部らしく書けたと思います。
葉月さん、如何なものでしょうか?
また、公式キャラであるチーム・フーマの扱いをどうするか迷いましたが、
一先ず連盟に捕まった方が今後展開させ易いと思い今回の扱いとなりました。
ジンには苦労させっぱなしですが、山あり谷ありの方が話としては面白いと思いました。
ジェノザウラーの声の部分は、03.6.6のチャットで頂いた意見を参考に手直しをしたものです。
ジンにとっては聞こえ始めたばかりなので、片仮名と漢字で表現してみました。
少し読み難いですがご容赦ください。
一旦喋らせたからには、次回作でもやはり喋らせないと不自然な訳で、オリキャラが一人増えたような感じです。

ジン「まだ書くつもり?」

うーむ・・・何か燃え尽きた感じがあるから暫くは休養かな。

ジン「希望としてはコメディタッチのが良いのだけれど。」

どうなるかな?書くかも知れないし、書かないかも知れない。
気長に待っていてください。
それでは。


S.Tさんに書いていただきました。
本当、こんなに書いていただいて、ありがとうございます。
一応、2ページに分けておきましたが。
今回はシドも出していただいてありがとうございます。
多分、ジャミングブレードはこの後、シュダのダークスパイナーに使われるんでしょうね・・・。
そして、ガルンストは・・・、「力無き者はDS団に必要ない」が掟ですからね。
実際、シドがあの地位にいるのもその実力ゆえ、ですから。
下手をすればダーク達に処分されますね。
それと、ジンは今回得るものがあったみたいですね。
まぁ、ジェノザウラーが危険ゾイドになってしまいましたが、ケインのジェノブレイカーはとっくの昔に危険ゾイドですから・・・。
やっとAクラスに入ったわけですし、頑張ってもらいたいものです。
あと、ダストが個人的に気に入りましたね。
なんかベテランっていう感じが出ています。
それと、ハンスも。
ハンスとジンって言うコンビもいいかも知れませんね。
あと、フーマさん、やっとの登場ですね。
実際、あまり考えてなかったり・・・。(爆)
まぁ、これで書きやすくなりますね。
連盟がらみならケインに聞けばわかりますしね。
あいつ、一応ダークバスターのリーダー・・・、みたいなものですから。(ただ1号っていうだけ・・・)
では、S.Tさん、ありがとうございました。

 

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