破滅の遺伝子を持つ者

 

 煙草に火を点けながら、スピーカーの音量を上げる。
白い煙がコックピット内を漂い、名前も知らない大昔の曲の心地いい振動を受ける。
煙草を吹かしながら腕時計を見ると、思ったよりも早く着いたらしく、約束の時間までにはまだ暫くある。
退屈な時間を過ごす手段は色々あるが、生憎と今日はクロスワードや小説の類は持ち合わせていない。

「・・・・・・暇だ。」

ギュゥゥゥゥ・・・

愛機のガイサックに愚痴ってみても、満足な答えは得られないし、逆にタバコに対して抗議しているようだった。
まぁ、体の中で煙を出されれば、誰だって嫌がるだろう。

「いい加減にお前も慣れろよな。」

相棒の抗議を適当に聞き流しつつ、数日前のことを思い出す。

 

 あれは一仕事終えて馴染みのカフェで、いつものパフェを食べている時だった。
いよいよスプーンを入れようとしていると、

「ハンス・クリムトさんですね?」

声をかけてきたのは、黒のスーツを着た30代前半の男だった。
見た目から判断すると、ボディーガードか何かの様だか・・・。

「まず名乗るのが礼儀だろ?」

そう言ってアイスの山を崩しにかかる。

「・・・失礼しました。
私はゼノン・マイヤー、デッドスコルピオ団の者です。」

言葉とは裏腹に、悪びれた様子も無く言ってきた言葉にスプーンを止める。

「デッドスコルピオ?」

見ると、男の胸元には蠍を象ったバッジが鈍く光っている。
ダークバトルが最近復活したと言う噂は、少し前から流れていた。

「ああ、あのDSね・・・。
それで?BDの二番煎じが何の用だ?」

「これはまた手厳しい。」

苦笑を交えつつ男は続けた。

「貴方にウォーリアーとしてバトルをしてもらいたいのですよ。」

「・・・・・・。」

「もちろん成功報酬ですが、満足していただける額の賞金を用意してあります。」

男が懐から差し出した書類には、かなりの金額が書かれていた。

「何で俺なんだ?」

「・・・と言いますと?」

「俺よりも腕のいいのは幾らでもいるだろう?」

自分のゾイド乗りとしての腕は中の下、それほど強いわけではない。
唯一得意なのは射撃だが、お世辞にも精密射撃と言えるような代物はもない。
C・Bランクチームの助っ人をして、何とか食い繋いでいる。
そんな自分に、多額の賞金を積んでくる人間に対して疑問を持つのは当然ではある。

「依頼をしているのは貴方だけではありません。他にも依頼をしています。
貴方はその中の一人、という事です。」

「数合わせって事か?」

「そう思ってもらって結構です。」

「はっきり言いやがる・・・。」

半眼で告げるが、男は表情一つ変えない。

「それで、返事のほうはいかがですか?」

賞金は多額、数合わせって事はそれほど大きな役割はないのだろう。
賞金稼ぎとしては、非常に美味しい話しではあるのだが・・・

「断る。
ウォーリアーから恨みを買うような事はしたくないんでね。」

この仕事は信頼が命。
一度失った信頼を取り戻すのは容易ではない。
DS団に雇われたとなると、今後の仕事は絶望的だ。
賞金に釣られて、これからの仕事を棒に振るつもりは更々ない。

「殆どの方がそう仰いますね。
・・・残念ですが、貴方に拒否権はありません。
どうしても断ると言うのなら、貴方自身と貴方のゾイドの安全は保障出来かねます。」

男の表情からは何も読み取れなかったが、冗談とも思えない。

「それがあんた達の『依頼』のやり方か?」

「貴方にとっても悪い話しではないでしょう?
仕事が終われば、今後一切関わりを持たないと約束します。」

(駆け引きは無駄か・・・)

舌打ちを一つして告げる。

「・・・仕方ねえ。受けてやるよ。
その代わり、契約した以上は賞金をちゃんと払ってもらうからな!」

「その点はご安心ください。
では、バトルの日時と場所は追って連絡いたします。」

男はそう言って店を出かけて、

「ああ、それから警察やゾイドバトル連盟に通報しても無駄ですよ。
彼らに私達を捕らえる事は出来ませんから。」

と釘をさしてきた。

「解ってるよ!」

不機嫌な感情がそのまま声に出る。
それを聞いて、一瞬不適な笑みを見せると今度こそ店を出て行った。

「いけ好かない野郎だ。」

そう呟いて、ウエハースを口に放り込んで噛み砕いた。

 

「ん?」

ふと気付くと、咥えていた煙草が殆ど燃えて落ちかけている。

「っと。危ねぇ。」

慌てて灰皿に押し付けて火を消す。

(・・・何であいつらは復活できたんだ?)

漂う煙を見ながら、そんな事を考えてみる。
元々別の組織だったという噂もあるが、自分からすればBDとDSは同じ物だとしか思えない。
当人達が聞いたら怒るかもしれないが、一般的な理解はこの程度だろう。
例えば、世の中には娯楽に飢えている金持ちが居てDS団に投資をしたとか、
ゾイドバトル連盟との裏の取引があったのかもしれないし、
BD団の残党が地道に力を蓄えていたのかもしれない。
どれにしても、あれだけ大きな組織を僅かな期間で一から立ち上げることは、不可能では無いにしろかなり難しいだろう。
何かしらのバックアップがあった筈だ。

「まぁ、どうでも良いけどな。」

多少投げやり気味に呟いて、もう一本の煙草を取り出しながら、キャノピー越しに空を見上げる。
煙で多少視界が悪いが、空の彼方に影が見え始めた。

「漸く到着か。」

黒いホエールキングは次第に大きくなっていく。
空は晴れて、太陽の光が申し分なく降り注いでいる。

「今日は長くなりそうだ。なぁ?」

ギュゥゥゥゥィ・・・

先刻と似たような問いかけに、ガイサックは同じような声で応えた。
だがその声は、

『成るように成るさ』

と言っている様にも聞こえた。

 

ピーピーピーピーピー・・・・・・。

多少耳につく電子音は時間通りに鳴り始めた。

「んぁ?・・・ん〜・・・朝かぁ・・・。」

枕元に置いてある目覚し時計のスイッチを叩いてジンは目を覚ました。

「ん〜〜〜!」

背伸びを一つしてからベッドを降りてカーテンを開ける。
空はやっと白み始めたころで、窓を開けると朝の匂いがした。
一通り身支度をしてからカレンダーの日付を確認して、期待と不安が入り混じった不思議な感覚に思わず身震いする。
今日はAクラスに入ってから初めてのゾイドバトルなのだ。
ウォーリアーになって一年と少し、紆余曲折あったものの漸くAクラス入りを果たした。
この時期になってのAクラス入りを早いと見るか、遅いと見るかは人それぞれだろうが、
ジン本人は思っていたよりも早いと感じている。
ただ、それはジンのウォーリア−としての腕の為か、
それともジェノザウラーのポテンシャルの高さの為かは判断し辛いが・・・。
ともあれ、目標に向けて一歩前進した事に変わりは無い。
手早く作った朝食を食べてから、一階に降りてジェノザウラーの様子を見る。
ジェノザウラーはいつものプールでなく、その隣の整備ドックに居た。
ジンの気配を感じ取ったのか、それまで寝ていたジェノザウラーは大きな欠伸を一つして起き上がった。

「おはよう〜。調子はどうだ?」

『グアァァァッ!』

ジェノザウラーはジンの問いかけに吼えて答える。

「っ痛〜声でかいって!」

予想以上の声量に思わず耳を押さえて呻く。

「お前も張り切ってるんだな・・・。」

ジンは相棒の気合の入り具合にちょっと嬉しくなった。

「あいつにも言っとかないとな・・・。」

そう言って格納庫のシャッターを開ける。
多少軋んだような音を立てつつ、シャッターはゆっくりと上がっていく。
空いた隙間から冷気が流れ込んで顔を撫でた。
砂漠特有の朝の寒さが体に染みる。
砂漠は昼間異常に暑くなるが、夜から朝方に掛けて昼間が嘘のように冷え込む。
まだ慣れていないうちはよく風邪を引いて、熱を出しながらバトルに臨んだ事もあった。
シャッターが完全に開くころには、グスタフの姿が見えた。

 

 今寝ているのは、バトルフィールドにジェのザウラーで直接行くのが辛くなってきた頃、
馴染みのゾイドショップから「今日は掘り出し物が入ったんだ。どうだ?」と言われて見に行ったグスタフだ。
正直なところ、この時期の出費は痛かった。
実際、ジェノザウラーが楽しみにしている海水プールは現在節約のために使えない。
ジェノザウラーの機嫌が悪くなるのは解っていたが、それでも今後のことを考えて思い切って購入したのだ。
破格だった理由は・・・すぐに分かった。

『バトルに向かないグスタフですが、牽引能力は他のゾイドの追随を許しません。
性格は温厚できっと満足していただけるはずです。
運び屋を目指している貴方!ゾイドバトルでの移動が苦痛な貴方!
是非、我が社のグスタフをご購入ください!』

「・・・・・・・・・。」

大手ゾイドショップのカタログと、家に着いたばかりのグスタフとを見比べてみる。
能力は他のグスタフと変わらないのだろう。
外郭の強度も十分なようだ。

が――――。

「性格は温厚・・・ねぇ。」

ジンの目には、ジェノザウラーに突っかかっていく気の荒いグスタフしか映っていなかった。
・・・グスタフらしからぬ荒い気性だった。

 

冷やりとした空気の中、グスタフはまだ寝ているようだった。

「お〜い!もう朝だぞ〜!」

ジンが呼びかけるが起きる気配は無い。

「起きろって!」

頭をベシベシと叩いてみても起きない。

「ちょっと早過ぎたかな・・・。」

仕方なく戻ろうとすると、ジェノザウラーが出て来た。

「ん?どうした?」

ジェノザウラーはジンの問い掛けに答えず、『ちょっと離れて』と身振り手振りで伝えてきた。
怪訝な顔をしながらも、ジェスチャー通りにグスタフから離れる。
ジェノザウラーはグスタフの正面に立つと、右足を大きく上げた。
そして、その右足を躊躇無く下ろす。
真下にあったのはグスタフの触角。
当然、触角は踏み付けられる訳で―――。
グスタフは、ビクッ!と体を震わせてから目を覚まして、触角を触角で摩りながら、ジェノザウラーをと睨みつける。
もっとも、迫力も凄味も全く無いが・・・。
グスタフのエンジン音とジェノザウラーの唸り声が交互に聞こえる。
人間で例えれば、『てめぇ!何しやがる!』、『起きないお前が悪いんだろ!』といった口喧嘩なのだろう。

(今のは幾らなんでも酷いって・・・。)

と思ってみても、口にはしない。
売り言葉に買い言葉・・・だと思う、次第に口喧嘩の様な音の応酬は激しくなっていき、
ついにグスタフの触角がペチッ!ジェノザウラーを叩く。
しかし、ジェノザウラーにとっては痛くも痒くも無いらしく、平然としている。
そのことが気に入らないのか、グスタフは余計にヒートアップしていく。

「今日は大事なバトルなんだから程々にしろよ〜!」

こんな喧嘩が日常茶飯事、放っておいても時期に収まる。
まだ、何かしら言い合っている二匹を残して、ジンはバトルに向けての準備を始めた。

 

 今日の相手はダスト・メザール、チーム・トライアルのリーダーで、愛機はダークホーン。
重装甲・格闘能力を生かしつつ、砲撃能力を特化させた機体で、Aクラスでの経験も豊富な強敵だ。
ダークホーンの本来の力を存分に発揮する戦い方は他のウォーリア−の見本となっている。
バトルモードは0992、もちろん荷電粒子砲の使用は禁止されている。
ジェノザウラーの代名詞とも言える荷電粒子砲を欠く火力でどうやって重装甲を撃ち破るか、が問題となってくる訳だ。
ジェノザウラーの基本火力は決して低いわけではないが、決定的な対抗策が無い。
今回に限らず、もしも格闘戦・砲撃戦と、間合いの特化した相手との戦いとなれば、
オールラウンドタイプのジェノザウラーは不利となる。
砲撃戦を得意とする相手に対抗するには、相手の射程圏外からの長距離狙撃をするか、
接近して相手の砲撃装備を使い物にならなくすれば良い。
ジンが選んだ作戦は・・・後者だった。
その為に、特別に用意した物が『アサルトガトリングユニット』。
元々はエレファンダーの武装強化パーツの一つとしてBD団によって開発され、
現チーム・アウトロースのストラ・スティグマが、以前ビット・クラウドとのバトルで使用したものだ。
LRパルスレーザーライフルよりも重く、射程距離も落ちるものの、中〜近距離では凄まじい破壊力を誇る。
当時はライガーゼロ・パンツァーの超重装甲を撃ち破ることは出来なかったが、
ダークホーンが同程度の強度を持っているとは考えにくい。
計算上では、ダークホーンの装甲を撃ち破れる筈だ。
それに・・・、

「やっぱ格好良いな〜。」

LRパルスレーザーライフルとはまた違う重厚感に、ジンは声を上げる。
当時は一般ルートでは手に入らなかったこのパーツも、今ではパーツショップで購入することが出来るようになっている。
BD団が解体されてから一年余りで、彼らが開発したゾイドやパーツがゾイドバトルで使用されることも珍しくはなくなった。
もちろん、ゾイドバトル連盟の厳しい検査を受けてからだが、
ザバットやディマンティス等のゾイドはそのままに、
BFに装備されていたバスタークローやその他のパーツは、反則に該当する機構を排除して一般ルートに出回っている。
彼らの行動理念とはともかく、技術はゾイドバトル連盟に負けず劣らず高水準だった。
当然、性能高いパーツは驚くほど高額ではあるし、搭載できるゾイドも限られてはいるが・・・。
バトル中の装備の換装―――とは言ってもCASの様な大掛かりなものではないが―――をするウォーリア−も増えてきた。
噂によれば、エレファンダーやシャドーフォックスといった高性能ゾイドの量産化しよとした大手ゾイドメーカーが、
技術的な問題やコストの面から泣く泣く断念したという事もあったようだ。

「特にあのガトリング部分が、こ〜何とも言えない魅力があるよな〜。」

うっとりした目付きで見上げながらも、慣れた手つきで武器・弾薬のチェックをする。
知らない人間が見ればかなり怪しい光景である。
そうしていると、外で大きな金属音がした。

「?」

窓越しに外の様子を覗くと、ジェノザウラーが右手を押さえて悶えていた。
・・・どうやらグスタフの外殻を殴ったらしい。

(何やってんだか・・・)

例えジェノザウラーと言えども、全ゾイドの中で最も硬いと言われているグスタフの外殻を殴って平気ではないようだ。
『ギャハハハ!馬っ鹿じゃねーの?』
『う、うるさい!くぅ・・・その殻さえなければ!』
などというやり取りがあったかどうかは知らないが、ともかく二匹は未だ言い合っているようだった。
そんな様子を、半ば呆れながら眺めて、常々疑問に思っている事を深めるのだった。
今グスタフと口喧嘩をしているジェノザウラーには、魔獣の血は受け継がれていないのではないか、と。
ジェノザウラーは魔獣・デスザウラーの因子を使って、人の手によって産み出されたゾイドである、
というのが研究者達の間で一般化しつつある。
確かに、金属細胞の年代測定やDNA解析・体内に組み込まれている荷電粒子砲の構造を調べると、
その仮説が限りなく真実に近いと確信できる。
しかし、伝説化しつつあるデスザウラーの『狂気にも似た破壊衝動』に関して、
一年余り共に暮らしてきたジンは一度も感じ取ったことは無かった。
一緒に発見された残り二体のジェノザウラーもそうなのかどうか、ゾイドバトル連盟の管理下にある今となっては知る術はない。
だが、もしもジンの元に居るジェノザウラーが、稀有な性格を持っていたとするならば、それは幸運なことだろう。
なにせ、研究者達の間でも恐れられているほど、本来ジェノザウラーは凶暴なゾイドなのだから。

「・・・・・・。」

思っていたよりも長い間考え込んでいたらしい。
気を取り直して再び作業に入る。
暫くの間、整備ドックにはジンの作業の音だけが響く。

(そろそろだな)

見当をつけてAGユニットの取り付け準備を始める。
ちょうど大型クレーンで吊り上げた時、タイミングよくジェノザウラーが帰ってきた。
喧嘩が終わる時間を経験から解っていたのだ。

「さあさあ、遊んでないで始めるぞ。」

大人しく従うジェノザウラーを固定すると、各種の武器を装備していく。
レーザーガン・8連装ミサイルポッド・AGユニットを問題なく装備し終わり、額に浮かぶ汗を拭って一息入れる。
今まで使い込んだ装備は言うまでも無く、AGユニットも一昨日の試射を問題無くこなしている。
後は・・・自分次第。
例え相手が誰であろうと、Aクラス初戦で躓くわけにはいかない。

「さて、行くか!」

全ての準備を終えた後、グスタフに乗り込んだ。

 

眼下に惑星Ziを見ながら、ジャッジサテライトが衛星軌道上を進んで行く。
地上よりも遥かに強い太陽光に照らされて、ゾイドバトル連盟の紋章が煌いている。

「W−06・B−36ポイントでのゾイドバトルの申請を確認。」

ジャッジサテライト内に、いつもと変わらぬ声が響き渡る。

「バトルモード0992でのゾイドバトルを承認。」

指定された白い円柱形のカプセルが迫り出して来る。
やがて、投下口に辿り着くと数本のアームがハッチを開く。

「ジャッジカプセル投下!」

掛け声とともに、火花を散らしながらジャッジカプセルが射出された。
カプセルは大気圏突入の際の熱によって、赤く変色しながら落下して行く。
そして、時間にして僅か十数秒で激しい轟音と衝撃を撒き散らしながらバトルフィールドに降り立った。
自ら作ったクレーターの真中に深々と埋まったジャッジカプセルは、ゆっくりと迫り上がり始める。
人工衛星による試合の監視及び、動衛星から派遣された審判による勝敗の判定。
ゾイドバトルに管理・運営には非常に有用な手段ではある。
ただ、ウォーリア―からすれば、どこに落ちてくるか解らない不安が付きまとうし、
あれは自然破壊ではないのか、という意見も少なからず存在するが、今はそれらに関して討論する事も無くバトルが始まる。

「ここより半径10km以内はゾイドバトルのバトルフィールドとなります。
競技者及び関係者以外立ち入り禁止です。
危険なので直ちに退去してください。
繰り返します。直ちに退去しください。」

もう定型句となった、ジャッジマンの声が響く。
今回のバトルフィールドは大部分を荒野が占め、障害物がほとんど存在しない。
砲弾を妨げるものが無い・・・つまり、相手の得意とするフィールドなのである。

「フィールド内スキャン完了!」

撃ち合いになったら必ず力負けをする。

「バトルフィールドセットアップ!」

狙いは接近してからの僅かな時間。

「ダスト・メザールVS.ジン・フェスター!バトルモード0992!」

操縦桿を握る手に力が入る。

「レディー・・・ファイトッ!!」

ゴングが高らかと鳴る。

「・・・行くぞ!!」

ゴォオオアアアアッ!!

ジェノザウラーの咆哮と同時にスラスターに点火した。

 

それより少し前、DS団のホエールキングでは・・・。
迎えに来たホエールキングに乗り込んだ後、ハンス達は格納庫の一角に集められていた。
機密保持のためだろう、格納庫には窓一つ無く外の様子は全く解らない。
向かっているのはダークバトルを仕掛けるバトルフィールドなのだろうが・・・。

「まともな部屋に通してもらいたいね。」

冷たい壁に寄りかかってハンスは愚痴る。
此処に集まっているのは、ざっと見渡して30人弱。
中には顔見知りも何人か居たが、お互いに談笑をする気にはなれない。
ゾイドもそれに見合うだけの数があって、格納庫はさながらゾイドの展示会の様になっていた。

(それにしても、無駄にでかいな)

入る時にも気付いたが、まず形が違う。
普通のホエールキングを一回り、ボリュームで言えば倍以上拡大して、
どこをどう改造しているのかその積載量を格段に大きくしていた。
自分達のゾイドを全て入れても尚余裕があるほどだ。
恐らくは通常の3〜4倍は入るのではないだろか。
多くても8体前後で行われるゾイドバトルをバトルジャックするには少々大掛かりにも思える。
これだけの数を必要とする相手とは誰なのか・・・。
一瞬チームブリッツの名前が浮かんだが、彼らを襲うならば自分達だけの戦力を用意するだろう。
何せDS団の前身であるBD団壊滅に深く関わっているのだから、他人の力を借りるとは考えにくい。
そうなると、彼ら以外の凄腕のウォーリア-達に喧嘩を売る事になるのだが・・・

(まさか、チーム・バスターズかチーム・アウトローズじゃないだろうな・・・)

ジェノブレイカーやBFを有する彼らに対抗するにはどう考えても戦力不足だ。
他のゾイドはともかく、先の二体にとって20や30の戦力は物の数ではない。
下手をすれば荷電粒子砲の餌食になる可能性もある。

「ん?」

並んでいる顔ぶれの中に、一際目立つ集団が居る事に気付いた。
何故か影のほうに固まっていたので今まで気付かなかった。

(なんだあいつ等?ゴキブリじゃあるまいし・・・)

人数は4人で、内1人は女、美人の部類には入るのだろうが目つきは鋭い。
そして全員が全員、何処と無く民族衣装のような服装なのである。
男達は、眉無し・顎鬚・モヒカンもどき、とかなり個性的だ。

(どっかで聞いた事ある格好だな・・・)

近寄りがたい雰囲気は合ったが、好奇心と曖昧な記憶が勝って声をかけようとした時、
間の悪い事にDS団の人間が入ってきた。

「お待たせした。
私がこの艦の責任者、ガルンスト・ロフトフスキーだ。
本来ならばブリッジでの説明をするところだが、諸君等とは一時的な契約に過ぎないので、このような場所での説明になる。」

そう言ってきたのは、40才前後の大柄な男だった。

「目的はバトルジャックである。
諸君らには手段を問わず敵を撃破して欲しい。
さて、その相手だが・・・」

部下に何かの指示をすると、小さなモニターが現れた。
そこに映し出されたウォーリア―を見てざわめきが起きる。

「彼ら知っている者もいるだろうが、チーム・トライアルのダスト・メザールとジェノザウラーに乗るジン・フェスターだ。
彼らのバトルをバトルジャックする。
発進のタイミングはこちらで指定するので、それまでは各人ゾイドに搭乗して待機して欲しい。
・・・何か質問は?」

なおもざわめく一団の中から声があがる。

「ダストっていったらAクラスの中でもかなりの強豪だぜ?
それにジェノザウラーなんか相手にしたら命が幾つあっても足りやしない!」

「そうだ!ロイヤルカップの時みたいになったらどうするんだ!」

前回のロイヤルカップが脳裏に浮かぶ。
BFに対する3発の荷電粒子砲によって大地が蒸発して出来た巨大なクレーター。
皆その時の恐怖が蘇ったのだ。

「その点は安心しろ。
ジェノザウラーのゾイドコアエネルギーを常に計測している。
荷電粒子砲の発射が不可能な値になってから発進させる。
その頃には双方とも疲弊しているだろう。」

「本当に大丈夫なんだろうな?」

「我々も諸君らに命のやり取りをしろとは言わんよ。」

そんな会話を聞いて、ハンスはつい言葉が出た。

「随分姑息な手を使うんだな。」

「不満かね?」

「いや、そこまでして勝って意味があるのかと思ってね。」

「諸君等が闘いの意味を考える必要は無い。
ただ仕事を成功させる事を考えていろ。
・・・成功すれば契約通り賞金を出す。
希望者はDS団への入団も考えよう。
健闘を祈る。」

多少早口になったガルンストは出て行った。

「さあ!さっさと待機していろ!」

下っ端に堰かされて皆しぶしぶゾイドに乗り込む。
さっきまでいた四人組は何時の間にか姿を消していた。

(DSの奴等何か嘘をついている・・・
そうじゃないな。肝心な事を言っていないんだ。)

人が何かを隠しているのを見抜くのは昔から得意だった。

(何を企んでいるんだか・・・)

とりあえずは向こうの言う通りに動くしかない。
不信感を持ちながら発進の時を待つ。

 

バトルが始まって数分、ようやくレーダーの右上隅に反応があった。
バトルフィールドの境界線のギリギリ内側、どうやら開始時点から動いていなかったらしい。
フィールドの隅に陣取れば背後の心配をする必要は無いが、自分の行動範囲は狭くなる。
余程砲撃戦に自信を持っているかのそれとも・・・

(こっちの作戦を見抜いているのか?)

今の装備で撃ち合いになれば、一方的な展開になってしまう。
ダスト・メザールは百戦錬磨のウォーリアー、自分の不利な間合いでの闘いも数多くこなしている筈だ。
疑問や不安は幾らでも湧いてくる。
かといって、今更作戦変更は出来ない。
スラスターの出力を最大まで上げて加速していく。
スピードメーターは跳ね上がり、ダークホーンが近づいてくる。
もうすでに相手の間合いに入っている筈だった。
いつ攻撃されてもいいように、Eシールドのレバーに手を掛けておく。
しかし、射程距離で言うところの中距離の間合いに入っても、一向に撃っては来ない。

(何を考えてるのかは知らないが、作戦通りにやらせて貰う!)

背部のAGユニットの16連装地対地ミサイルランチャーを正面に向け、
両脚部に設置している8連ミサイルポッドと共に全照準をダークホーンに合わせる。
瞬時に、ロックオンしたことを告げるマークが表示される。
両方のトリガーを同時に引く。
ミサイルの群れが、白い軌跡を残しながら飛んで行く。
空になったミサイルポッドを切り離し、さらに加速する。
ダークホーンはまだ動かない。

(まさか正面から受けるつもりか!?)

と、今まで動かなかったダークホーンが僅かに動いた。
ほんの少し上を見上げるように。
そして、軽い発砲音が数発したかと思うと、全てのミサイルが突然爆発した。
未晦ましのために混ぜておいた煙幕弾共々爆発したために、辺り一面に黒煙が立ち込める。

「くぅ・・・!一体何がどうなって・・・。」

爆風に押し流されて軽いパニック状態になったジンは、減速しながら左に大きく曲がった。
未だに高熱を漂わせている一帯を呆然と眺めながら、それでも相手の姿を確認しようと目を凝らす。
だが、相手の視覚を奪うはずだった煙幕弾が裏目に出た。
相手からも見えないだろうが、自分からも何も見ることができない。
とにかく一旦離れようとした瞬間、黒煙を一条の光が貫いた。

(何だこれは・・・!)

頭で判断するよりも体が先に動いた。
Eシールドのレバーに手を掛けていたことに感謝しつつ、限界まで思い切り引く。
シールドが展開されると同時に光がジェノザウラーを捉えた。
激しい負荷に二基のジェネレーターが悲鳴を上げ、ついには一基の回路が焼き切れる。
シールドの強度は低下し、体勢を保つことも出来ない。
ホバリング中は足場が無い為に踏ん張りが利かず、派手に吹き飛ぶ。
辛うじて残っていたシールドは地面に擦り付けられた衝撃で掻き消え、ジェノザウラーは一度バウンドしてから地面に叩き付けられた。
何とか起き上がろうとしても、すぐには起き上がれない。
たった一撃、それもシールド越しにこのダメージ。
そんな威力の武器といえば限られてくる。

「荷電粒子砲・・・?
いや、そんな筈は・・・。」

荷電粒子砲ならば、今頃こうして考える間もなく意識を無くしているだろう。

「思った通りの動きだ。」

突然の通信とともに映し出された顔には見覚えがあった。

「ダスト・メザール・・・!」

そして、通信の発信元であろうダークホーンは悠然と煙幕の中から現れた。
ざっと見て確認できる武装は、顔の両側面にある小型の銃。
硝煙が立っているところから判断して、ミサイルを迎撃したのはあれだろう
恐らく対ゾイド大口径ショットガンを応用した物。
タネが解ればもう焦る必要はない。
問題なのはその上。
背部にはガトリング砲と長大な砲身―――プラズマ粒子砲があった。

「君の動きはとても素直だ。好感が持てる。
・・・が、ここでは命取りだ!」

「何を・・・!」

スラスターの反動で無理矢理跳び上がると、ダークホーンに向かう。

(プラズマ粒子砲は厄介だけど、直ぐには使えない筈だ!)

ダークホーンのガトリング砲がに動く。

「そんな重い体で付いて来れるものかっ!」

叫んで、ガトリング砲の死角になる左にステップする。
体を捻って着地すると同時にビームガトリングガンを向ける。
そこにはダークホーンの横っ腹・・・ではなく真正面が見えた。

「っ!?」

「やはり、君はまだ此処に居るべきではない。」

刹那、六つの砲身が火を噴いた。
数百の弾丸が迫ってくる。
先刻の攻撃でジェネレーターが両方潰れなかったのは偶然だが、今はその偶然に縋る。

「ちぃっ!」

残ったエネルギーを全て使いシールドを展開する。
豪雨の中で壊れかけの傘を差すように、エネルギー濃度の薄い所から弾丸が漏れる。
弾丸が体の彼方此方を掠めるが、うまく跳弾しているようだ。
とは言え、いい加減にシールドも限界にきている。

(このままじゃやられるのを待つだけ・・・)

「そんなのは御免だ!」

シールドを展開したまま、スラスターのスロットルを全開にする。
逃げる事も出来ない今、出来る事は全てやってみる。
一か八かの賭け。
何時弾け飛んでもおかしくないシールドを纏ながら突っ込んでいく。

「諦めが悪いぞ!」

ダークホーンは砲撃を止め、真っ直ぐ突進してきた。

「ぬぅおおおおおおっ!」

「だああああああっ!」

二体の機獣が真正面から衝突する。
純粋な力と力のぶつかり合い。
宙に舞ったのは・・・ジェノザウラーだった。
容赦なく地面に叩きつけられたジェノザウラーの頭を、ダークホーンの左足が押さえつける。

「無謀だな。」

「う・・く・・・。」

ダークホーンの力はジェノザウラーの頭を踏み砕くほどの力は無い様だが、振り払えるほど弱くもない。

「私もこのまま徒にゾイドを傷付けたくは無い。
時には退く事も勇気だと思うが?」

既に勝敗は決していた。
意固地になってバトルを続ければ、ジェノザウラーに要らぬ怪我をさせるだけだ。

「くそ・・・ここまで力の差があるものなのか?」

「機体性能は君の方が遥かに上だ。
だがな、私と君では踏んだ場数が違う。」

既に闘う気は無いのか、ダストが喋り始めた。

「さっきも君の動きを読んだだけだ。
世間では未来位置なんて洒落た呼び方をするそうだがな。
そんなものは経験で身につくものだ。
後方支援組からジェノザウラーの装備を知らされた時から君の動きは予想出来た。」

「・・・・・・。」

「君はまだ未熟。
このAクラスに居るのもジェノザウラーに乗っているからだ。
バトルにおいて機体性能は重要だが、絶対ではない。
今の君では私には勝てない。」

「く・・・!」

「さあ、もう終わりにしよう。」

ガトリング砲の照準がジェノザウラーに向けられた。

 

同時刻、DS団のホエールキング内には予想外の展開に戸惑いの声が上がっていた。

「おいおい、随分一方的な展開だな。」

「全くだ、俺達の出番無いんじゃねえのか?」

格納庫で待機していた賞金稼ぎ達が、思い思いに声を上げる。
そんな様子とは反対に、ブリッジでは着々と準備が進んでいた。

「ジェノザウラーのコアの様子はどうだ?」

「現在、エネルギー値低下中・・・予定値に達しています。」

「よし、ダークジャッジマンを投下しろ。」

ガルンストは続いてマイクを手に取る。

「これよりバトルジャックを行う。各員発信準備。」

格納庫内にサイレンが鳴り響く。

「行くみたいだぜ?」

「やれやれ・・・。」

そんな愚痴を無視して、ホエールキングの発進口がゆっくりと開こうとしていた。

 

「出来ればギブアップをしてもらいたいのだがな。」

「・・・解りました。
ジャッジマン、・・・バトルの中止を申請します。」

悔しさに奥歯をかみ締めながら、ジンはジャッジマンに通信を開く。

「ジン・フェスターからバトル中止を受諾。
審議中・・・審議・・・ぐわあああああ!?」

ジャッジカプセルが何かによって押し潰された。

「ほぉ・・・。」

「え!?」

正反対の反応を見せる二人の視線の先には、黒いジャッジカプセルがあった。

「こぉのバトルはDS団の管理下に入る!
当然!お前達に拒否権はなぁ〜い!」

ハッチが開くと同時に、ダークジャッジマンがバトルジャックの宣言を吐く。

「聞いたとおりだ。
このバトル受けてもらうぞ。」

突如現れたホエールキングから通信があった。

「賞金は通常の5倍、ただしそちらが負けた場合には手持ちのゾイドを全て頂く。
ジャッジマン言ったようにそちらに・・・」

「DS団のお出ましか・・・。
御託はいいからさっさと始めよう。」

と言ったのはダスト。

「物分りが良くて助かる。」

「断ろうがどうせ仕掛けて来るのだろう?」

「それが我々の遣り方だからな。」

ホエールキングが降り立ち、ハッチが開くと中から次々とゾイドが出てくる。

「さて、そちらにも準備時間を与えよう。」

一方的に通信が切れる。

「勝手に話を決めて悪かったな。」

「いえ、奇襲を受けるよりはいいですよ。」

「集団戦の経験は?」

「これが初めてです。」

「そうか・・・。
エリス、ジェクト、オグマ、ローズの発進準備を頼む。」

「三人とも既に準備完了しています。」

「いい判断だ。
連盟への連絡はどうなっている?」

「先程から続けているのですが・・・、妨害されていて繋がりません。」

「奴等も馬鹿じゃないって事か。
エリスはバックアップと連盟への連絡を続けてくれ。」

「解りました。」

「ジェクト、敵の情報が欲しい。
偵察を頼む。」

「了解。」

「オグマ、弾幕を張ってジェクトの援護をしてやれ。」

「解った。」

「ローズ、出来るだけ早く合流してくれ。」

「解ってるわよ。」

「トップカタパルト及び、ポセイドン・ネプチューンのカタパルト開きます。
各機発進してください。」

エリスの声が各格納庫に響く。

「ジェクト・ダマ―、出る。」

「オグマ・ギア、発進する。」

「ローズ・テイラー、出ます。」

ドラグーンネストからレドラ−BC、ハンマーヘッド、レブラプタ−が順次発進していく。
先ず、レドラ−とハンマーヘッドがジンとダストの頭上を通り過ぎていく。

 

ガルンストはその様子をモニターで確認しながら、

「・・・連盟の動きはどうだ?」

「変わりはありません。
ジャッジサテライトの監視システムにハッキングして、ダミーの映像を流しているので、
気付くまでにはもう暫くはかかると思われます。」

「直ぐに実験機を発進させろ。」

「は?」

「聞こえなかったのか?」

「あ・・・いえ。」

「連盟に感づかれる前に全てを終わらせるのだ。」

「お言葉ですが、映像にノイズを混ぜていますし、それほど早くは・・・」

「連盟を甘く見るな。
彼らは無能でも無力でもないのだ。」

「・・・解りました。」

「準備が整うまではそれらしくオペレートしてやれ。
それらしくな・・・。」

「了解。
それでは、ダークバトルを開始します。」

そう言ってスイッチを押すと、ダークジャッジマンが動き出す。

「バトルフィールド、セットアップ!バトルモード、0999!!
レディー・・・、FIGHT!」

ゴングが鳴り、ダークバトルが始まった。

 

続きを読む
コーナーTOPに戻る        プレゼントTOPに戻る         TOPに戻る