「王者の決戦」
〜ハリーのラストバトル〜

 

 今日も朝日が全ての者を眠りから解放する。
だが、時にはこれを無視して眠りを続ける者もいる。

「・・・むにゃ〜・・・。」

窓から朝日が射し込んでいるにも関わらず、
ペットの中で寝息を立てているのはビット。
すると、

「ビット、朝御飯よ〜、起きなさい〜。」

声と共に布団をはがされ、彼はようやく起床。
大きなあくびをしながら、起こした人物に目をやった。

「おっはよ〜、ビット!」

「ああ、おはよう、リノン・・・。」

まだまだ寝ぼけ眼のビット。
リノンに挨拶を返すと、そのまま立ち上がってタオルを手にする。

「顔を洗ってくる・・・。」

眠たそうな声でそう言う。

「ねぇ、今日の約束、覚えてる?」

「ああ、ライガーの散歩に付き合うんだろ?
ちゃんと覚えてるよ。
重くてライガーが暴れなきゃいいけど。」

「もう、失礼しちゃうわね〜。」

笑いながらそんな会話をする2人。
熱々のまま部屋を後にした。

 

 その頃、元気のない男が1人・・・。

「はぁ〜・・・。」

切なく溜息を吐き続ける彼。
そこに近付いてくる“モノ”が。

「ハー君、ご飯が出来たわよ〜。」

彼、ハリー・チャンプは今、とても悩んでいた。
そう、ビットとリノンのことだ。
あれ以来、食欲もなければ、バトルに対する意欲も失っている。
その証拠に、ベンジャミンの声にも上の空。

「ハリーの奴、重傷だな。」

「困ったわねぇ。
このままじゃ、ご飯、冷めちゃうわ〜。」

そう言う問題なのか?ベンジャミン・・・。
そんな疑問を無視して、ロボット2人が話し合っていた。

「で、どうするの?
あれじゃあ、こっちまでどうにかなりそうだわ。」

「う〜ん、難しい問題だな・・・。
とりあえずハリーに飯を食べさせないと、あのままじゃそのうち倒れるぞ。」

議論しあっても、何も案は出ず、
とりあえず彼等はハリーを食卓まで引っ張って行った。

 

 そして、日が高くなりだした頃、
街の通りにバラッドとナオミの姿が。

「久しぶりね、2人で歩くのって。」

「ああ、そうだな。」

素っ気ない会話でも、2人は満足。
実は今日のデートは予定外。
先程レオンがトロスファームを訪ねてきて、その時ナオミも一緒にいたのだ。
その時、ビットとリノンは外出中。
レオンもトロス博士と喋っていたし、
ジェミーは買い出しに行ってしまった為、
2人はそれぞれのゾイドを駆って、街へと繰り出した。
彼等がしばらく歩いていると、

「あれ、あんなところに占い屋がある。
ちょっと寄っていきましょう。」

彼等の目にテーブルに座った占い師の姿が。

「何かインチキ臭いなぁ〜、大丈夫か?」

バラッドが当然の疑問を浮かべた。
実は彼、あまり占いなどは信用しない方。
しかも、彼等の目の前にいる占い屋は、顔と頭を青い布で隠し、
身体も水色のローブで包んでいる。
いかにも占い師という格好なのだ。

「とりあえず・・・、行ってみましょう。」

「まぁ、やるだけやってみるか。」

やれやれと言った感じで了承する彼を引っ張って、
ナオミはその占い師のところに向かった。

「すいません、占ってもらえます?」

「ええ、いいですよ。」

女性の声でその占い師が答える。
すると、その声にバラッドが反応。

(この声、どっかで聞いたような・・・。)

彼の頭にはある女性のイメージが浮かんでいる。
そして、それを確信付ける物が彼の目に飛び込んできた。

「それでは、何を占いますか?」

そう言って、占い師が取り出したのはカードの束。
彼はその裏面の絵柄に心の中で驚いている。

(やっぱり・・・、何でまたこいつが・・・。)

バラッドがそんなことを思っているとは露知らず、
ナオミは彼との恋を占ってもらうことに。

「では、このカードをかき混ぜて下さい。
その際に、占う事柄を心の中でイメージして下さいね。」

ナオミは言われるままにカードをかき混ぜる。
ちょっと目が真剣。

「結構です。
では、始めます。」

彼女が手をどけると、
占い師は手慣れた様子でカードをまとめ、素早くカットする。
そして、それを上から順に星の形を描くように並べ、6枚目をその中央においた。

「まずは、相手の現状ですね。
『光(レイ)』・・・、相手の方をリードして。」

「う゛っ・・・。」

それには流石に言葉を詰まらすバラッド。
今までのデートはナオミの方が一方的に予定を決めていたのだ。
続いて2番目においたカードをめくる。

「これは現在の状況です。
『秤(ライブラ)』は穏やかであることを示しています。
可もなく不可もなく、と言ったところでしょう。」

続いて3番目。

「これは貴方の問題点です。
ほう、『影(シャドウ)』が出てますね。
嫉妬や誤解などに気を付けて下さい、ということです。」

「・・・だとよ。」

「大丈夫よ。
だいたい、バラッドに限ってそれはないでしょ。」

だか、この後、嫉妬することになろうとは思ってもいないだろう。
占い師は4番目、5枚目、6枚目と次々にめくる。

「傷害についてです。
『幻(イリュージア)』、迷いがあるそうです。
おそらく、先程の嫉妬や誤解に係ってくると思います。
アドバイスは・・・、
『夢(レーヴ)』ということは、噂に惑わされないようにして下さい。
最終結果として『風(ヴァン)』のカードが出てます。
自然な付き合い方を心掛ければ、自然とうまくいくでしょう。」

「ありがとう。」

礼を言って料金を払おうとするナオミ。
すると、バラッドがそれを止めた。

「どうしたの?」

「さて、そろそろ素顔を見せたらどうだ?アスカ!」

そう言うが早いか、彼は占い師の顔を覆っている布をはぎ取った。
その瞬間、ダークブルーの髪が肩になだれ落ちた。

「あら、バレちゃったわね。
久しぶり、バラッド。
で、いつから分かってた?」

「カードを見たときからだ。
お前の愛用のカードだろう。」

「はぁ〜あ、やっぱり占い屋は失敗だったかなぁ。」

「やれやれ。」

ふぅ〜、と溜息を吐きながらそう言うバラッド。
だが、何かを感じたのか、恐る恐る振り向く。

「バラッド、この人は?」

若干怒り気味のナオミの質問。
やはり、さっきの占いは当たったようだ。

「俺の幼なじみのアスカだ。」

「アスカ・ファローネよ。
よろしく、ナオミ・フリューゲルさん。」

勿忘草色の瞳を細め、
ローブを脱ぎながら、自己紹介をするアスカ。
ローブを脱いだ後に、バラッドと同じ形で紫色のペンダントが胸元に見える。
しかし、ローブの下に服を着ていて、暑くはなかったのだろうか?
一方、ナオミは自分の名前を言われてキョトンとしていた。

「あれっ、何で私の名前を?」

「私もウォーリアーなの。
貴方のことぐらいは知ってるわ。」

「それで、どうしてここに?」

バラッドの声が2人の会話に割り込んだ。
彼の質問に微笑みながら言う。

「あなた達が来るから、ここで驚かそうと思って。」

下らない理由にバラッド達は目眩を感じたとか。
そして結局、もうすぐ昼と言うこともあり、
アスカも一緒にトロスファームに来ることとなった。
尚、この後3人でセットを片づけたのは余談である。

 

 その頃、ビット達は、

「もう、お腹ペコペコ〜。」

「もうすぐトロスファームだから我慢しろよ・・・。」

ライガーゼロのコックピットの中で、
リノンがビットの膝の上で喚いていた。
ライガーの散歩が終わり、もう帰ろうとしているところだ。

「俺も腹が減ったなぁ。
まぁ、4時間も出歩いてりゃ、こうなるか。」

実は彼等が散歩に出たのは朝食の後。
それから2時間はライガーで走っていた。
残りの2時間は、彼女とウインドウショッピング。
楽しいデートを満喫していた。
そして、目線を前に戻すと、

「なぁ、あれって・・・。」

「んっ?」

彼の言葉にリノンも前を向く。
そこには普段じゃ考えられない光景が。

「お〜い、ケイン〜!
何やってんだ?」

前を走っているゾイドに通信を送る。
そう、彼等の前を走っていたのはジェノブレイカー。
しかも、ブレイカーの尻尾の後ろにワイヤーをくくりつけて、
荷物をのせたキャリアーを引っ張っている。
そして、返事はすぐに帰ってきた。

「ああ、パーツの配達だよ。
今、注文先を回ってるところさ。」

それぞれゾイドを停めて会話を始める。

「あれ、グスタフは使わないの?」

今度はリノンの質問。

「いやさぁ、こいつ、俺が他のゾイドに乗ると拗ねるんだよ。
しょうがないから、こうやってキャリアーを牽引してるんだ。
まぁ、こっちの方がスピード出るからいいんだけど。
ところで、2人はデートか?」

「ち、違うよ。
た、ただの散歩だよ、散歩。」

「そ、そうよ。
散歩よ、散歩。」

彼の問いに2人は顔を真っ赤にして否定する。
だが、

「それってデートって言わないか?」

この言葉に2人は黙ってしまった。
顔を魔装竜の色に負けないぐらい赤くして。

「まぁ、いいや。
そういや、俺もトロスファームに向かうところだったんだ。
一緒に行こうぜ。」

再び彼の言葉に反応する2人。
今度は恥ずかしさからではなく、

「あの博士、また何か買ったのか?」

「もう、稼いでるのは私達なのに・・・。
無駄遣いするんだったら、私達の小遣いをもうちょっと上げてよね。」

「そっちも無駄遣いだと思うが・・・。」とビットは思ったが、
口に出すのは止めておいた。
後でどうなるかが目に見えているからだ。

「それじゃあ、行きますか。」

ケインの言葉をきっかけに、ライガーとブレイカーが再び始動した。

 

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