役者は全て揃い、舞台はトロスファームに移る。
ビット達がトロスファームに着くと、
レオンが格納庫で待っていた。

「レオン兄さん、今日はどうしたの?」

「ビットに会いにさ。
調子良さそうだからな。」

リノンがライガーのコックピットから降りる。
それを待ち受けるかのようにレオンが一言放った。

「当然だろ。
俺達はいつでも絶好調さ。
なぁ、ライガー!」

グォォン

ビットのかけ声にライガーが咆吼をあげる。
相変わらずだな、と思いながら、レオンは口で笑う。
すると、やっと後ろの客人に気付いた。

「お前は、確かバスターズの・・・。」

「ケイン、ケイン・アーサーさ。
今日はここに配達に。」

ジェノのコックピット近くにいるケインにレオンが声をかける。
ケインは挨拶をそこそこに早速仕事に取りかかった。

「スティーブ・トロスさん、お届け物です!」

近くでブレードライガーの整備をしていたトロスに声をかける。
それに気づき、彼は作業の手を休めた。

「ああ、ご苦労さん。
悪いね、配達頼んじゃって。」

「まぁ、これも商売ですから。
これに受け取りの判子をお願いします。」

そう言って、書類を差し出す。
ケインの顔は業者の人のそれである。
そして、判子を押したとき、リノンが声をあげた。

「ねぇ、パパ。
今度は一体、何を買ったの?」

「またとんでもないパーツじゃないだろうな・・・。」

ビットも半分呆れ顔。
すると、彼は手を振って、

「いや、今回は部品を運んできてもらったんだ。
細かいパーツも少しあるけどね。
実は・・・。」

彼がそう言いかけた時、

ウオォォーーン

入り口の方から特徴のある甲高いゾイドの鳴き声が。

「あっ、バラッドが帰ってきたみたいだな。」

ビットの言葉に応えるかのように、バラッドが姿を現す。
女性2人を同伴して・・・。
1人はもちろんナオミ。
そして、もう1人は・・・。

「バラッド、そっちの人は・・・。」

「俺の幼なじみのアスカだ。
さっき街であってな。」

手短に彼女の紹介をする。
アスカは全員に向かって一言。

「アスカ・ファローネです。
今は賞金稼ぎをしてるの。
いつもバラッドがお世話になってます。」

まるで姉のような言葉にバラッドは少し呆れ顔。
そんな彼を見てナオミはクスクス笑っている。
実は、彼女からバラッドの昔話を色々聞いていたのだ。

「あっ、私はチームメイトのリノン。
よろしく〜。」

「俺はビット、ビット・クラウドだ。
一応、このチームのリーダーさ。」

「俺はナオミのチームメイトのレオンだ。
一応、前にここでリーダーをしていた。」

「俺はバスターズのリーダーのケインだ。
・・・って、何で俺まで挨拶してるんだ?」

その場にいたウォーリアーが全員挨拶をする。
ケインは勢いでしただけだが。
そして、アスカはビットに視線を向けた。

「貴方がビット・クラウドね。
バックドラフト団を倒して、ロイヤルカップで優勝した・・・。」

「へぇ〜、ビットって結構有名なのね。
私も鼻が高いわ。」

「そりゃそうだよ。
ウォーリアーの間ではSクラスに入った連中の名は常識だぜ。」

リノンに説明を加えるケイン。
実際、Sクラスに行くということは、
野球で言えばメジャーリーグに移籍する事と同じぐらい凄いことなのだ。
当然、ウォーリアーやゾイドバトルのファンの間では専らの噂になる。
特にビットの場合は“バックドラフト団を壊滅させた英雄”という称号もある。
ちょっと知識のある人ならば誰でも知っているのだ。

「ねぇ、バラッド達から聞いたんだけど、
あなた達、付き合ってるんですって。」

「えっ、ま、まぁ・・・。」

「まだ、付き合って一週間も経ってないけど・・・。」

少ししどろもどろに答えるビットとリノン。
こう言うことには2人とも、疎いらしい・・・。
すると、アスカがポンと腕を叩いた。

「そうだ。
これも何かの縁だし、貴方達の恋を占ってあげるわ。」

早速カードを取り出すアスカに、全員は完全に呆気にとられている。
バラッドに至っては完全に呆れていた。

「今回は簡単よ。
ただ2人揃って、カードを引けばいいの。
・・・はい。」

そう言ってカードを適当に混ぜて差し出す。
この勢いに勝てず、リノン達は手を揃えてカードを引いた。
出たカードは、

「あらっ、『影(シャドウ)』が予想位置で出てるわ。
これは『大きな試練』を表すの。
何かが起きるわ。」

『大きな試練?』

2人が同時に声をあげる。
すると、聞き慣れた声が2つハモって聞こえてきた。

『ちょっと待ったーーー!!』

彼等がその声に気付くのと、2つの影が降りてきたのは同時だった。
その影の正体とは・・・。

「ハリー!
それにラドンおじさん!」

その瞬間、ラドン・・・、失礼、ラオン博士は思わずずっこける。
まだ名前を覚えてもらってないようだ。

「ラオンだよ、ラ・オ・ン!」

「それより・・・、俺達はこの2人の関係を認めないぞ!!」

「そうだ、そうだ!!
我々はずっと彼女のことを思って来たのだ!
それなのに・・・。」

「だからこうして手を組んだのだ!
そして・・・、ビット、リノンをかけて勝負しろ!!」

ビシッ、とビットを指さして、挑戦状を叩き付けるハリー。
だが、当の彼は唖然としたまま。
彼だけではなく、他の輩も。
登場から一気に用件まで流したので、訳が分からなくなっているのだ。

「よく分からないけど・・・、
つまり、『リノンを賭けて、勝負しろ』、て言いたいわけだな。」

「バカな奴だな。
お前、それ何回言って、何回負けたんだよ?」

「バカの一つ覚えとはよく言うが、本当に学習能力のない奴だな。
ちょっとはライガーやフューラーを見習ったらどうなんだ?」

「自分勝手にも程があるわね。
バカみたい。」

「そうよ。
だいたい、人を物扱いするなって、あれほど言ってるでしょう!
進歩のないバカね!」

「まぁ、根性と引きの強さは一人前だわね。
バカだけど・・・。」

「まぁ、そのバカのおかげでうちは繁盛してるけど。」

上からレオン、ビット、バラッド、アスカ、リノン、ナオミ、ケインの順。
レオン以外の人間は“バカ”と言う言葉を多用しているので、
流石のハリーも怒った。
ついでに完全にシカトされているラオンも。

「やっかましいぃぃーーー!!
誰がバカだ、誰が!!」

「私を無視するなーーー!!」

彼等の絶叫も、耳を塞いでいる彼等の手にシャットアウトされている。
すると、

「で、ラオン。
何でお前までいる訳?」

「ハリーと手を組ん・・・、って説明したろーが!
人の話を聞かんかーー!!」

「あっ、そう。」

トロスとラオンが漫才をしている頃、
ハリーはビットに詰め寄っていた。

「で、どうするんだ?
この勝負、受けるのか、受けないのか!
ハッキリしてもらおうか!」

まるで借金取りのように詰め寄るハリーに、
ビットはどうしていいか分からない状況。
そして、やっと救いの手が差し伸べられた。

「粋がるのはいいけど、本人の許可は取ったのか?」

「そうよ。
だいたい、私は自分でビットと付き合うって決めたのよ!」

この時、ビットにはトロス姉弟の後ろに光が見えたとか。
すると、

「だいたい、恋愛は当人同士の問題よ。
第3者が口を出す余裕はないわ。
だいたい・・・。」

このあと、アスカにたっぷり30分間説教を喰らったとか。
しかも正座で。
バラッド曰く、「アスカは説教が得意」、
あと、「愛についてうるさい」、だそうだ。

 

「トロス、お前はいいのか?
娘が男と付き合ってるんだぞ!」

一方こちらはトロスとラオン。

「私が介入する余地はないよ。
それに、ビットは優秀なウォーリアーだしな。
私もそんな息子が持てて嬉しいよ。」

ラオンの文句をさらっと受け流すトロス。
しょうがなく彼は最終手段に。

「ふん、まぁ、怖じ気付くのも無理はないな。
お前が作ったヘボパーツを付けたんじゃ、
流石のライガーゼロも、私が改造したゾイドには敵わないからな。」

この科白を聞き、トロスは笑いながら返した。
ただ、声は笑っていない。

「ほう、私の作ったパーツがヘボだと?」

「そうだ。
お前のドラム缶に積んである、あんなヘボい換装パーツじゃ、
私のゾイドには敵うまい。
ライガーゼロも可哀相だ。
悔しかったら、この勝負を受けろ!」

その時、トロスはある決意を固めたとか。
それを確認したラオンは一度引き上げることに。

「ハリー、一旦出直すぞ。」

「あ、ああ。」

ハリーは痺れている足を強引に立ち上がらせると、
2人揃ってホエールキングで引き上げていったとか。
その後、その場に残った輩は、

「どうする?」

「別に受けなくてもいいわよ。
あんな奴のバトルなんて。」

「やるだけ時間の無駄だな。」

ブリッツの3人がそれぞれそう漏らす。
すると、トロスの口から以外な言葉が、

「いや、受けよう。」

『えっ?』

全員が不思議な顔をして問い返す。
だが、彼が振り返った瞬間、その訳が分かった。

「私のホバーカーゴをドラム缶呼ばわりし、
しかも、換装パーツまでバカにされた。
このまま黙っていられようか!」

そう、彼は完全に怒っていた。
いや、挑発に乗ってしまったと言うべきか。
彼の顔を見た瞬間、全員思わず、

『恐っ!』

と異口同音に口に出す。
流石にちょっと引いたとか。

「ビット、ギャラは4倍払う。
だから、私の作ったパーツを使って、絶対に勝つんだ!」

「は、はい・・・。」

ビットの肩をガシッ、と掴んでトロスが言い放つ。
その勢いにビットは怖々了承したとか。
そして、誰も文句を言うものはいなかった。

「じ、じゃあ、俺はこれで。
キャリアーは後で取りに来るから、部品を下ろして置いて下さい。
毎度あり〜。」

ケインは言うだけ言うと、魔装竜に乗ってとっとと帰っていった。
それと、ちょうど入れ違いにジェミーが帰ってきた。
だが、場の重々しい雰囲気を感じたが、
イマイチ状況が飲み込め切れずに、
お怒りモード全開のトロスから昼食の支度を頼まれたとか。

 

 その夜、ハリーから早速通信があった。
その場にはまだレオン達もいる。

「ルールはバトルモード0992、武装制限なしの個人戦だ。
場所はトロスファームとここの中間地点。
時間は明日の午前9:00。
そして、賞金は通常の20倍だ。」

「イヤに気合いが入ってるな。」

「ビット、俺はこのバトルに全てを賭ける。
そして・・・、俺はこのバトルに負けたら・・・、引退する覚悟だ!」

バンッ、と机を叩いてそう言うハリー。
ビット達は一瞬沈黙した後、

『何だってーーー!!!』

通信機なしでも十分聞こえるんじゃないか思う程の大声で全員が叫んだ。

「俺はリノンのためにゾイドバトルをやってきた。
だが、そのリノンがいなくなった今、もうバトルをやる理由がない。
だから、ビット、お前も全てを賭けて戦え!」

ビットはしばらく無言でいた。
彼も悩んでいるのだ。
このバトルに勝てばハリーは引退。
だが、負ければリノンはハリーの物になってしまう・・・だろう。
(彼女の性格上、そう素直にO.K.を出すわけがない・・・。)
最近ではハリーのことをいい友のように思えてきていたのだ。
しばらく考えた後、彼は結論を出した。

「分かったぜ、ハリー。
俺も全力を出して戦う。
それがゾイドバトルの礼儀だからな。
そのかわり、後悔するなよ!」

「その科白、お前にそのまま返すぜ。」

そこにいたのは、どっかの漫才コンビではなく、
立派なウォーリアーだった。
そんな2人に口を出す者はいなかった。

(『大きな試練』・・・か。
あの占い、当たっちゃったわね。)

リノンは昼間のアスカの占いを思い出していた。
そして、通信が終わった後、

「ねぇ、明日のバトルの結果、占える?」

リノンがアスカに問い掛けた。
彼女は「ええ」と頷いて、カードを取り出す。
すると、

「そんなもの、必要ないさ。」

ビットが窓の景色を見ながら答えた。
外には地球とは違う夜空が見えている。

「俺の未来は俺が、俺とライガーが切り開いてみせるぜ。
明日のバトルは俺達が絶対に勝つ!」

「ビット・・・。」

振り向きざまにそう言い放つ彼を見て、リノンは少し微笑む。
アスカはカードを引っ込め、一言。

「決め科白、取られちゃったわ。」

「そうみたいだな。」

バラッドがフッと笑ってアスカに言う。
昼間のお返しのようだ。
明らかにやられたと言う顔をして、彼女は立ち上がる。

「じゃあ、私、そろそろ行くね。
明日のバトルはテレビで見せてもらうわ。」

そう言って、愛機のコマンドウルフがある格納庫へと向かった。
バラッドとナオミも彼女を見送りに出る。
それぞれの思いが交錯する中、夜は静かに更けていった。

 

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