「王狼の雄叫び」
〜走れ、ケーニッヒウルフ〜

 

   AM 1:00 アーサーディーリングショップ整備ドッグ

「防音装置よし、的の準備よし、トランシーバー異常なし・・・と。
レイス、やってくれ。」

「O.K.」

リッドがゾイドの下の方で指示を出す。
どうやら、新ゾイドのテストらしい。
そして、コックピットの中でレイスがテストを始めた。

「ヘッドギア、セット!
デュアルスナイパーライフル、準備完了!
照準、ロックオン・・・、発射!!」

ドキューン

彼が操縦桿についてるボタンを押し、背中のライフルから弾が飛び出した。
まっすぐ標的に向かって飛び、 2,3秒後には遠く離れた荒野に置かれた的に着弾。
見事にど真ん中を打ち抜いた。

「こちら、シエラ。
弾は見事に命中。
・・・寒いから、もう帰って良い?」

「こちら、リッド。
テスト終了だ。
とっとと戻って来い。」

無線機でシエラを呼び戻すと、彼は早速ライフルとゾイドの点検。
ちなみにシエラはケインと共に的の近くで観測をしていたのだ。
戻ってくるときは彼の車である。

「砲身に異常なし。
ゾイド本体も別段と異常なし・・・。」

「でも、あまり多様は出来ないな。
衝撃が強すぎるぜ、このライフルは。」

レイスがコックピットから降りてきて、
結果を書き留めているリッドに向かってそう言う。

「まぁ、こいつは格闘戦用だから、問題はないだろ。」

そう言って、ゾイドを見上げる。
それはコマンドウルフをライガーゼロ並に大きくしたような、
これまでに見たことがない、白いオオカミ型ゾイド。
その首からは天井に向かってケーブルが伸びている。

「しっかし、あのおっさんも凄いゾイドを作ったなぁ。
サイクスがいなかったら、俺が乗りたいぐらいだ。」

「その“おっさん”に頼まれて、俺達は大変な目に遭ってるけどな。
ゾイドを作るのは良いけど・・・、肝心の物を忘れてるんだから・・・。」

リッドが批評を述べていると、
その“おっさん”が来たようで、おしゃべりを止めた。

「いゃぁ、リッド君。
君のところの設備はいいねぇ。
順調に作業が捗ってるよ。」

「どうも。
で、そっちの方はどうなんです?
例の物は出来ましたか、ラオン博士。」

そう、彼等か話していたのは、
チーム・アウトローズのオーナー、ラオン博士である。
つい先日から彼等に場所を貸してもらっているのだ。

「それが・・・、もうちょっとかかりそうなんだよ。
この天才としたことが、少々手こずっていてね。」

この時、彼等は「天才と馬鹿は紙一重」という言葉を思い出していた。
ついでに、リッドは「まだまだだね」と口癖を呟く。
そこにケインとシエラが帰ってきた。

「あっ、兄さん、シエラ、お帰り。」

「ただいま〜。
ふぅ、寒い、寒い。
やっぱり夜は冷えるわね。」

「レイス、悪いけどコーヒーを入れてきてくれ。
俺はブラックな。」

ケインがコーヒーを注文。
すると、

「俺は砂糖を3杯。」

「私、砂糖とミルクをたっぷりね。」

リッドとシエラも便乗して注文。
レイスは渋々台所に向かった。
居候の辛いところである・・・。

「そう言えば、お宅のチームのメンバーは?」

「今頃、明日のバトルの打ち合わせだろう。
ベガもまた一段と強くなったし、儂がいなくても大丈夫だろ。」

「そうか。
またバーサークフューラーとやってみたいな。」

そう言って、リッドと同じように例のゾイドを見上げる。
ちなみに彼のホエールキングは店の裏に止めてある。

「そう言えば、こいつの名前、決まったのか?」

「今、ベガが考えてるよ。
儂がネーミングセンス、無いからって・・・。」

「ははははは・・・。」

ちょっと落ち込み気味に話すラオンに、
ケインは苦笑いを浮かべるしかなかった。

「やっぱり、まだまだだね。」

「リッドお兄ちゃん・・・、もう定番だね、その科白・・・。」

いつからだろう、リッドがその科白を言うようになったのは。
そのうち帽子をかぶりだすかもしれない・・・。

 

   AM 10:00 ディーリングショップ受付、倉庫

 朝になり、朝日が大地を照らした。
ケイン達は徹夜で眠いのだが、店を休む訳にはいかないので、渋々営業開始。
実は、例のゾイドのテストが続き、最近徹夜が続いている。
まだ公表前なので、昼にやる訳にはいかないのだ。
アウトローズは彼等と朝食を取った後、バトル場に向かった。

「ふわぁ〜あ、今日も暇なら良いんだけど・・・。」

眠そうな顔でケインが店先に座っている。
シエラも同じような顔で応接用のテーブルを拭いている。
そしてリッドとレイスは、ゾイドの整備をやって・・・いなかった。

『ZZZZZ・・・。』

倉庫で2人揃ってちゃっかり寝ていたりする。
ちなみにリッドはよく倉庫で昼寝をしているのが目に付く。
整備の仕事は結構神経や体力がいるみたいである。
ケインとシエラに見つかるまでの2時間、2人は気持ちよく眠っていた。

 

   PM 0:30 ディーリングショップ2階 居間

昼過ぎ、ストラ達が帰ってきた。

「あ〜、お腹減った〜。
ご飯、まだ〜。」

聞こえてきたベガの声にシエラは苦笑いで、

「もうすぐ出来るから、もうちょっと待っててね。」

と、一言。
ラオンが来てから、食事も共にするようになり、
食事担当のシエラは大忙し。
そして、リッドはちゃっかり食事代や場所代、弾代などの経費を計算してたりする。

「今回はスパゲッティー・ミートソース・・・。
麺代にソース代・・・。」

お世話になっているので渋々払っているが、
ベガ以外に評判はイマイチである。
まぁ、ゾイドの整備もやってもらっているので、なおさら文句も言えないが。
そして何より、ベガはシエラの料理が気に入ってるみたいなのだ。

「シエラって料理、上手いね。」

「どうも。
でも、ジェミー君の方が上手いみたいなのよね・・・。
いつか食べてみたいなぁ・・・。」

最近は積極的にデートに誘っているが、
家にお呼ばれしたことはないらしい。
ちなみに上手いという噂はここの常連である・・・、

「ケイン、いる〜〜〜!!」

「おいでなすったな、ここの常連さん・・・。
本当、ちょうど良いときに来るよなぁ〜。」

少し呆れ、少し感心しながら、裏口に向かう。
そして、彼がよく見慣れた人物がそこに立っていた。

「何か用か?ジュジュ。」

そう、ビットの従姉でケインの恋人・・・、
じゃなくて仲のいい友達のジュジュである。(2人してそんなに睨むなよ・・・。)
彼女がシエラにジェミーの料理のことを話したのだ。

「うん、ちょっとね・・・。」

少し様子がおかしい、彼は直感的にそう感じた。

「どうか・・・、したのか。」

「今日はケインじゃなくて、リッドに用があるの。」

「ということは・・・、ゾイドのことか。
ヘルが調子でも悪いのか?」

そう問うが、首を横に振る。
ますます訳が分からず、ケインはただ首を捻るばかり。
彼女がこんな状態というのは、ゾイド関連というのが妥当の推理だが。
すると、裏口の方から声が聞こえた。

「ケイン〜〜〜!!!
いるか〜〜〜!!!」

スピーカーを通したみたいな調子の大声が突然響き、ケインとジュジュが驚く。
こんな事をすれば、ハッキリ言って近所迷惑である。
そして、驚いたのはもう3名ほど・・・。

『どわぁ〜〜〜!!!』

「きゃっ!!」

男の声が見事にハモり、それに女の子の声がおまけに着いた。
それと同時に、ドタドタドタッ、と言う鈍い音もドラムのように響く。
ついでに工具箱の中身が散らかる音がシンバルとなった。

「何やってんだよ・・・、おまえら・・・。」

そう、リッドにレイスにシエラである。
どうやら彼等の様子を見ていたら、
先程の声に驚いて階段から落ちたようである。

「別に・・・。」

「あいたたた・・・。」

「もう、お尻打っちゃったじゃない!
いったい何なの?」

はぁ、と溜息を吐きながら、もういいという表情でジュジュの後ろをのぞき込んだ。
声の調子からみて、もうおおよその予想はついているが。

「やっぱりビット達か・・・。
昼飯時に何の用だよ・・・。」

彼の目線の先にはホバーカーゴとグスタフ、赤いブレードライガーの姿が。
ちなみにさっきの声の主はビットである。

「あらら、もう来ちゃった・・・。
もうちょっと遅いかなぁ〜、って思ったんだけど・・・。」

ジュジュがそんなことを言うものだから、ケインが疑問の色を深める。

「どう言うことだ?」

「いやね。
私が先に来て予約でも取っておこうかなって思ったのよ。
まぁ、本人達が来たから、直接話してもらうわ。」

あっけらかんと答えるジュジュに彼はまたも大きな溜息を吐いた。
さっきの神妙な表情はどこへやら・・・。

(本当にお気楽だよな、こいつって・・・。)

そう言いながらも客人を招き入れた。
ついでに、ベガ達はのんびり食事をしながら、窓から外の光景を見ていた。

「あっ、ビットだ!!」

「本当ね。
いったいどうしたのかしら?」

「トロスの奴、いったい何を・・・。
さては、あのゾイドの性能を盗みに来たな!!
シャドーフォックスだけじゃ飽きたらず、いけしゃあしゃあと!!」

「ああ、落ち着いて下さい、ラオン博士!!」

「・・・にぎやかだな・・・。」

そこにははしゃぐベガと、興味津々のピアス、
なにやら大騒ぎしてるラオンと、それを止めているサンダース、
そして、それらの光景を見ながら、
のんびりと食後のコーヒーを味わっているストラがいた。

 

   PM 1:15 ゾイド整備ドック

リッドが運ばれてきた青いコマンドウルフを見ている。
それはボロボロで腹部に直径2mぐらい大きな穴が開いていた。
その持ち主は心配そうに見ていた。

「どうだ、リッド。」

ケインが話しかける。
だが、返事はない。
熱心に見ている証拠である。

「どうなの?
治りそうなの?」

その持ち主−アスカ・ファローネ−もたまらず声を出す。
だが、同じく返事がない。
その脇にはリノンの兄、レオンと、
チームメイトでバラッドの彼女、ナオミ、
後方にはブリッツとアウトローズの面々にジュジュが立っている。
そして、診断が終わり、リッドが溜息と共に作業用のゴーグルを頭の上に上げた。

「どうなんだ?」

今度はビット。
すると、彼は寂しい表情で首を横に振った。

「そ・・・、そんな・・・。」

糸が切れた操り人形のように崩れ落ちるアスカ。
思わずレオンが支えようとするが、加速度に負け腕だけを持つような形に。
その目にはうっすらと涙がにじんでいた・・・。

「どうにもならないの?」

「リッドの腕でもダメなの?」

「いつも下取りに出たゾイドを直して中古で売ってるじゃない。
その要領で直せないの?リッドお兄ちゃん。」

リノン、ジュジュ、シエラが訴えかける。
だが、彼の口から出た言葉は、「無理」の一言だけ。

「どうしてだよ!!
何で無理なんだよ!!」

ビットが興奮して叫ぶ。
このままだと殴りかかりそうな勢いなので、バラッドがすかさずそれを制した。

「あれを見てみな。」

リッドはそう言って、コマンドの足の方を指さす。
全員がそこに目をやると、彼等の表情が強ばった。
一部分が石になっているのだ。

「石化現象・・・。
さっき傷口を覗いてみたら、
ゾイドコア・・・、心臓部がやられてた・・・。
ああなったら、どんなに腕のいいメカニックでも匙を投げる。
あと2日・・・、48時間もすれば・・・、完全に石の塊になる。」

彼の言葉はコマンドの命がもう僅かだと言うことを意味していた。
それには流石に驚きを隠せないでいる。

「アスカ・・・。」

レオンがアスカを見る。
彼女は未だに座り込んでしまい、顔も俯いている。
表情は左右を青いストレートの髪で覆われていて、上手く見ることが出来ない。
だが、察することは出来た。
彼女の膝に涙が落ちていたから・・・。
そして、

「ごめん・・・。
しばらく・・・、この子と2人っきりにしてもらえない?」

少々涙声になっている。
バラッドはそんな彼女の苦しみと悲しみを痛いほど感じていた。
彼と彼女は幼なじみだから、小さい頃から一緒にいるから、
必要以上に分かってしまうのだ。

「・・・わかった。」

「みんなは2階に上がってくれ。
コーヒーでも入れるよ。」

ビットとケインがそう言うと、
シエラを先頭にして2階に導いた。
彼女とその相棒を残して・・・。

 

   PM 1:30 ディーリングショップ2階 居間

シエラがそれぞれにコーヒーを差し出す。
店の玄関には「CLOSED」の立て札が掛けてある。
余計な客を入れないためだ。
これ自体、彼等は初めての経験である。

「それで、いったいどうして、ああなったんだ。
ゾイドバトルでの出来事とは思えないぜ、あれは。」

ケインが一口啜った後、単刀直入に聞く。
有名なウォーリアーがああなれば、当然マスコミも黙ってはいない。
すぐにニュースになるだろうし、取材陣がここに押し寄せてもいい。
だが、昼のニュースは別段と騒いではいないし、外は静まり返っていた。
それに、ゾイドバトルでああなるとは到底思えないのだ。

「俺が話すよ。」

声をあげたのはレオンだった。
先程、アスカはレオンのブレードライガーの後部座席に乗っていた。
彼がおそらく一番詳しいだろう。
そして、レオンは静かに話し出した。

 

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