「蒼い爆撃竜」
〜強襲・ガンブラスター〜

 

 また一つ、黒い空に稲光が煌めく。
その数秒後に野太く大きい音が辺り一面に響いた。
視界も大雨で殆どなく、嵐と言っていいほどの天候になってきた。
そんな中、谷のフィールドでゾイドバトルが一組だけ行われていた。

「くそっ、なんて雨だ。」

「視界もまるで効かないわね。
は〜あ、早く油を差さないと錆びちゃうわ〜。」

アイアンコングPKを駆っている二人(2体?)がそんな会話を交わしている。
辺りを見回しても相手の姿はおらず、レーダーにも反応がない。
すると、

「こら〜、セバスチャン、ベンジャミン!
無駄口を叩いてないでとっとと相手を捜せ!!」

通信回線が開き、彼等がよく知っている声が響いてきた。
このチームのリーダー、ハリーである。
こんな天気で試合とは、ほとほと彼等もついてない・・・。

「でも、後レッドホーンが一体だけでしょ?
取り巻きはもう倒したし、こっちにはE.シールドも付いてるんだから楽勝よ。」

余裕たっぷりのベンジャミンの発言にセバスチャンもうんうんと同意。
彼等のお気楽ぶりにハリーはさらに注意を促す。

「それはそうだが、油断は禁物だぞ。
いつまでもAクラスの下位にいる訳にもいかないし・・・。」

「まぁ、今焦ってもすぐにランクが上がるわけでもない。
じっくり行こう。
・・・おっ、反応があったぞ!」

レーダーに何かが引っかかり、3人とも同じ方向を向く。
雨のせいで分かりにくいが黒い機体が動いているのが見えた。
四つ足型のゾイドのようである。

「よし、一気に叩くぞ!
今回こそ勝ちはもらった!!」

一斉に標準を合わせる。
相手はそのまま前進をしている。
どうやら彼等の存在に気が付いていないようだ。
そして、ハリーは引き金を引いた。

ズガーン、ズガーン、ズガーン

肩に付いている高出力ビーム砲を一斉に撃つ。
地形が変わるのではないかと思うぐらいだ。
実際、衝撃で岩などが崩れ落ちている。
しばらくした後、ようやく砲撃が止んだ。
辺りには砂煙が待っている。

「これで勝ちは頂きだな。」

「さぁ、早く帰って油を・・・。」

ヒュ、ズガーン

ベンジャミンの言葉を砲撃の音が掻き消した。
ビームが彼女の機体に当たり、アイアンコングはフリーズを起こした。

「ベンジャミン!!」

砲撃は先程彼等が撃った方向から。
そう、先程の攻撃ではまだ倒れていなかったのだ。
そして、時折の稲光で機体の形が判別できたが、レッドホーン系の形ではなかった。

「何だ、あのゾイドは?」

「人のバトルにちょっかい出しやがって。
ベンジャミンの仇だ!」

先程と同じくビーム砲を打ち込むが、相手のシールドに阻まれてしまう。
そして、今度はセバスチャンの機体にビームが撃ち込まれ、そのままシステムフリーズ。
ハリーはシールドを張って様子を見ることにした。

「これならそう簡単には手は出せないだろう・・・。」

しかし、彼の考えとは裏腹に相手はどんどんと撃ち込んできた。
もちろんその殆どはシールドに阻まれる。
やけになったかと思われた。
だが、残りのビームはアイアンコングにヒットしていた。
シールドをすり抜けているのだ。

「な・・・、どうなってるんだ!?
なんで、シールドが!!!」

そうこうしている間に前進にビームを浴び、システムフリーズ。
相手の機体はおどろおどろしく雄叫びを上げた。
驚くべきは彼等3体が倒れるまで30秒もかかっていないのだ。

 

「緊急事態発生!
バトル中止!バトル中止!!
サテライト、バトルフィールド内に進入した未確認ゾイドをロックオンせよ!」

ジャッジマンが慌ててバトルの中止を呼びかける。
そして、遥か上空にあるジャッジサテライトに得体の知れないゾイドの補足を促す。
サテライトはすぐさま反応し、ビームガンの標準を未確認ゾイドにロックした。

「警告!
バトルフィールドに進入した未登録ゾイドに告ぐ!
無駄な抵抗はせず、速やかに武装を解除せよ!
繰り返す、武装を解除せよ!」

ジャッジマンが相手に呼びかける。
すると、コックピットの中の男が口を開いた。

「ふふふふふ・・・、無駄な抵抗か・・・。」

それだけ言うと、そのゾイドの身体の脇にある棘が光だした。
その瞬間、ジャッジマンとサテライトはゾイドを見失ってしまう。

『フィールド内に異常な磁場を計測!
標準が定まらない!!』

「我々はデッドスコルピオ団だ。
今日はほんの挨拶代わりだ、ゾイドバトル連盟の諸君。
では、また会おう。」

その言葉を残し、未確認ゾイドは姿を消した。
後に調査隊やダークバスターが派遣されたが、痕跡すら見つからなかった。
ちなみにハリー達の相手のレッドホーンは彼等のすぐ近くで発見された。
どうやら、ハリーに向けた一斉射撃に巻き込まれたようである。

 

「・・・で、そんな格好になってるって訳か・・・。
お前もとうとう運の尽きか?」

「やかましい!
嫌味を言いに来たのか、ビット!」 

翌日、ハリーの家から程近い街にある病院での会話。
この日はビットとリノン、バラッド、ジェミーがお見舞いに来ていた。
そしてもう1人・・・。

「ちょっとハー君、病院なんだから静かにしなさい。」

「はい・・・。」

ハリーの姉、マリーである。
弟が入院したと聞いて来たようだ。
まぁ、ハリーの怪我自体、全治2週間とやや軽めのものだが。

「でも、災難ですよね。
犯人はデッドスコルピオ団みたいですし・・・。」

「そういえば、前にもこんな事があったよな。」

バラッドの一言で一同はあることを思い出す。
それはバックドラフト団が以前リノンのディバイソンを襲ったことだ。
結果、ディバイソンは再起不能、彼女はガンスナイパーに乗り換える羽目となった。
その時は新型ゾイド・エレファンダーのテストだったというが・・・。

「今回も同じケースですかね?」

「今、連盟やダークバスターが捜査してるみたいだがな。
まぁ、見たこともないゾイドって言ってたんだ。
多分そうだろ。」

「また厄介なことにならなきゃいいけどな・・・。」

「また闇バトルは勘弁してほしいわね。」

う〜んと考え込んでしまう一同。
すっかり別の話題になっているが・・・。

「お前らはいったい何しに来たんだ・・・?」

セバスチャンの当然ともいえる突っ込みを受け、やっと我に返る一同。
これでSクラスというのだから笑いを誘う。
ちなみにセバスチャンやベンジャミンも包帯をあちこちに巻いている。
痛々しく感じないのはなぜだろう。
そうこうしてると、病室のドアが開き、小柄な女の子が入ってきた。
背丈はジェミーより少し小さいくらい。
黒の瞳で銀髪のセミロングを三つ編みにしている。
服装は白いノースリーブニットと白いパンツ、白いロングスーツといったところ。
アクセサリーは左耳にはオレンジのムーンストーンのピアスに白いガントレット。
3連のシルバーブレスレットをしている手には白い花束がしっかり握られていた。

「ハリーさん、お花を買ってきました。」

「あれ、この娘は?」

リノンが問いをかける。
それに答えたのはハリーではなくビットだった。

「ほら、この間話したハリーのチームメイトだよ。」

「レミエル・クワイエットと申します。
どうぞ、レミって呼んでください。
以後、よろしくお願いします。」

律儀にお辞儀する彼女。
ビットは以前ハリーの手紙を返しに行った時に会っていた。
「ハリーにはもったいない」との声も少し出て来たのは余談だ。

「ほう、ハリーの彼女にしてはしっかりした子だな。」

バラッドの言葉に反応しベットの上でずっこける。

「だ、誰が彼女だ!!
・・・いてててて・・・。」

叫び返すが、大声が怪我に響き撃沈。
ビットたちも呆れ顔だ。
これで退院が延びなければいいが・・・。
そんな漫才(?)をしていると部屋にノック音が響いた。

「失礼します。」

入ってきたのは茶髪の女の子。
セミロングで緑色の目元に緑色の刺青がある。
歳はリノンぐらいだろうか。

「あら、セナじゃない。」

そういったのはリノンだった。
どうやら顔見知りのようだ。

「リノンさん!
どうしてここに?」

「ハリーの見舞いよ。
とはいっても、パパが行って来いってうるさいから・・・。」

うんざりといった様子で話す彼女。
それを聞いてハリーはガックリしたとか・・・。
実は彼女達が来た当初、「俺のために〜!!」と涙流して喜んでたのだ。
彼らしいといえば彼らしいが・・・。

「そうなんだ。
僕はダークバスターの仕事で。」

どうやら彼女もダークバスターのようだ。
ダークバスターとは闇バトルを防ぐために雇われたウォーリアーのこと。
以前のバックドラフト団に対して有効な手段が見出せなかった連盟が設立したもので、
正義感が強い勇敢な者からスリルを味わいたい不届き者までピンからキリまでいる。
今まで確認させているのは、ケイン・アーサー率いるチーム・バスターズを筆頭に2,30チーム。
まだ出現していないチームもいるので、相当な数であることは間違いない。

「ふ〜ん・・・。
じゃあ、邪魔しちゃ悪いからそろそろ帰るわ。」

「そうだな。
俺たちも明日は大事な試合があるし・・・。」

「次はチーム・アウトローズ。
強敵ですから、早めに作戦を練らないと・・・。」

チーム・アウトローズはビットのライバルであるベガがいるチームだ。
まだレミエルぐらいの歳だが、ビットと同じアルティメットXを操る。
他にも攻撃と防御を備えたゾイド、エレファンダーなどもいる。
かなりの強敵といっていいほどのチームなのだ。

「という訳だ。
ハリー、またな。」

「お大事にしてくださいね。」

『お大事に〜。』

バラッドとジェミー、そしてビットとリノンのハモリを残して彼らはとっとと行ってしまった。
「そんな〜・・・」と肩を落としたハリーから事情を聞くのは大変だったという・・・。

 

 その日の夜、ここは惑星Ziの某所にあるDS団の本部。
集会場みたいな薄暗い空間の中、明るいモニター画面にサングラスをした男の姿があった。

『シド、ガンブラスターの調子はどうだ?』

「コンディションレベルはグリーン、どこも異常はありません。
攻撃力、防御力とも申し分ない、完全な機体です。」

画面の前にはシドを始め、殆どの幹部が集まっていた。
彼の弟、シュダの姿も当然あった。
一人だけ気に食わなさそうな顔をしている。

『それはよかった。
それはそうと、昨日のテストはご苦労だったな。
あの機体はわが組織の科学者の英知が集結している。
それ故、高性能で扱いにくい機体になったが・・・。
やはりあれを乗りこなせるのはシドぐらいだな。』

「シド、出番が多くていいわね〜。」

「本当・・・。
ノエルにも遊ばせてよぉ。」

「済まないな、ルイネ、ノエル。
また次の機会だな。」

ルイネと呼ばれたのは、銀髪の女の子でシドの腰ぐらいの身長。
ノエルはセピア色の髪で身長はルイネよりもう少し小さめ。
両方とも幹部クラスの実力を持っている。
だが、そんな彼女達の声にもシドは一切動揺しない。
シドが幹部達のトップにいるのは実力がナンバー2なのもあるが、
この冷静さが買われているのも理由のひとつだ。
ただ、約2名ほど黙ってはいたが・・・。

「あれ〜、エリーちゃん、どうしたの?
そんな顔してると皺が増えるよ。」

エリーと呼ばれた人物は女性だった。
そんな声にもプイッとそっぽ向いてしまう。

「ルーク、やめろ。」

「はいはい、分かったよ、相棒。」

やがて注意の声が飛んできて治まった。
注意を飛ばしたのは彼と瓜二つの顔の人物。
どうやら双子らしいが、性格までそっくりとは行かないようだ。

『さて、次のバトルだが・・・、これはうちの目玉といっても過言ではない。』

「と、いうと・・・。」

『次のバトルはチーム・ブリッツとアウトローズ。
皆も知ってのとおり、アルティメットXであるライガーゼロとバーサークフューラーがあるチームだ。』

その言葉にあたりがざわめき始める。

「じゃあ、ベガのチームなんだぁ。
ノエルが行きたいなぁ。」

「私もビットに会いたいわ。」

「壊し甲斐がありそうなやつらだな。
俺達が行くぜ。」

それぞれの思いが交錯している中、サングラスの男が割って入った。

『皆がそういうのはもっともだが今回はシドに行ってもらう。
ガンブラスターの性能をフルに発揮できるいい機会だ。』

「お言葉ですが・・・、私のチームのメンバーでは流石に・・・。」

シドが率いているチームのメンバーはビスト、オスカーの2人だけ。
以前はスリーパーで数を補強したが、戦力的には何の足しにもならなかった。

『心配することはない。
次のバトルはもう1チームとのタッグマッチとする。
もう1つは・・・、チーム・ガンナーズに行ってもらおう。』

「なんだと!!!」

声を上げたのはシュダだった。
他の人物も驚いていたが一番驚いたのは彼自身である。

『兄弟同士のタッグ、これはかなりのウリになるな・・・。
賭けの指揮はビショップに執ってもらおう。』

「分かりました。」

シドのそばにいた先程の、ルークと同じ顔の男性が返事をする。
彼がビショップだ。
役割的にはシドの補佐といったところ。

『期待しているぞ、シド、シュダ。』

「・・・はっ。」

シドの返事とともにモニターが切られ、同時に部屋も明るくなった。
やはりシュダは不機嫌のようで返事もしなかった。
近寄り難い雰囲気が流れている。

「あの野郎・・・、勝手に決めやがって・・・。」

「天才シドとその弟のタッグか。
どう転ぶんだろうな?」

部屋にいた少年・ダークがそう言うと、ギロッと睨み、

「てめぇ・・・、その言葉、もう一度言って見やがれ!!」

今にも殴りかからんばかりの勢いで怒鳴りつけた。
少年はケロリとしているが、横にいた女の子は怯えていた。
シュダは「天才シドの弟」と呼ばれるのを何よりも嫌っていた。

「おや、シュダ君はお兄さんとタッグをするのが嫌なのかい?
やはり、ライバル視している者の実力を見せられるのは誰だって嫌だからね。」

「何だと・・・。」

白衣を着た藍色の長い髪の女性の言葉で怒りの対象が変わった。
そして・・・、

「けっ・・・、勝手にしやがれ・・・。
但し、俺は俺の好きなようにやらせてもらうからな。」

そう言うと部屋から出て行った。
それと同時にあたりの緊張感も解けた。

「人の扱いが上手いな・・・、フローズン。」

白衣を着た女性の名を呼ぶ。
フローズンは腕組みをしながらうんうんとうなずいた。

「まぁね。
でも、君は苦手だな。
どうも掴み所がなくてね。
何を考えているのかも判りゃしない。」

「・・・褒め言葉として受け取っておく・・・。」

眼も合わせず、無表情でそう言うと、彼もそこを後にした。

「コンビネーションもない兄弟のタッグバトルか・・・。
どうなることやら・・・。」

「どちらにしろ、ただでは済まないだろうな。」

フローズンとビショップがシドの背中を見ながらそう語っていた。
余談だが、シュダがいたところの壁がへこんでいた。

「もう、寿命が縮むかと思ったわ・・・。」

「ねぇ、ルイネ。
ノエル、もう疲れちゃったよぅ・・・。」

流石にシュダの一件で疲れたようだ。
子供にはああいう場面はきつすぎる。

「じゃあ、そろそろ休もうか。」

彼女達もそう言って部屋に戻っていった。
従姉妹同士で仲も結構いいらしい。
エリーは勝手に部屋に戻っていた。
彼女はどうも一匹狼的な傾向があり、他の団員とも馴れ合ったりはしない。
そういう点ではシュダと同じである。
こうしてデッドスコルピオ団の夜も更けていった。

 

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