翌日、ホバーカーゴは荒地を走っていた。
目的地は山岳地帯のバトルフィールド。
山に囲まれた盆地でゾイドバトルが行われる。

「ベガ・・・、バトルロイヤルのときはろくに戦えなかったからな・・・。
やっとやれると思うと、ぞくぞくするぜ!」

「あの時はケインが乱入して、フューラーを倒しちまったからな。
リノン、あのコマンドウルフの奴が片付いたらすぐに応援に行ってやるからな。」

意気揚々と話すビットに落ち着いてサポートを考えるバラッド。
ちなみにまだサンダースの名前を覚えてないらしい・・・。

「その前に終わってなければお願いするわ。
まぁ、相手がストラのエレファンダーじゃ、そうもいかないか・・・。」

強気な発言の裏に若干の不安の色を残す。
相手は重武装の上に防御も完璧なストラのエレファンダーだ。
下手をしたら瞬殺を食らう。

「今回は攻撃力があるアウトローズが相手です。
皆さん、十分に気をつけてください。」

「いわれなくても気をつける。」

「大丈夫だって、ベガには一回勝ってるんだし。」

「まぁ、大丈夫でしょ。」

「本当に大丈夫だろうか・・・。」と、ジェミーは若干の不安を覚えた。
今回は彼も出るのだが、荒鷲状態になることは確実なのでサポートができない。
最近、胃に穴が開きそうなくらい苦労している彼である。
オーナーはオーナーで、のほほんとしているのも原因の1つなのだが・・・。

 

 やがて、ホバーカーゴは目的地に到着。
そこにはラオンのホエールキングがすでに到着していた。

「ようやく来たな〜。
トロス、そしてビット、今度こそ決着をつけてやる!」

「本当、元気なおっさんだな・・・。」

うざったいというような目でモニターの中の鯨を見ていた。
あれだけしつこければ誰だってうんざりする。
トロスにいたってはもう無視を決め込んでいた。

「さぁ、発進だ!!」

博士の掛け声とともにホバーカーゴの上部パネルが展開する。
最初に飛び出したのはビットのライガーゼロだ。

「ビット、ライガーゼロ、発進!!」

白い機体が滑るように発進、そのまま緑の地面に着地した。
続いてシャドーフォックス、ガンスナイパー、レイノスが飛び出した。

「こっちも負けずに発進するぞ!」

「はいはい・・・。」

何でも張り合うラオンにあきれ返るベガ。
ホエールキングの口が開くと同時にバーサークフューラーが飛び出す。
続けざまにコマンドウルフAC、ストームソーダーSTも発進した。
ストラのエレファンダーは腹部のリフトから降りてきた。

「悔いの残らないバトルにしよう。」

「当然!!」

それぞれの士気が高まってきたところでジャッジカプセルが落ちてきた。
今回のバトルはアルティメットX同士の対戦ということで、
他のウォーリアーやバトルファン、マスコミ関係者も注目している。
というわけで近くにはこの人たちも・・・。

 

「ビット〜、負けたら承知しないわよ〜〜〜!!!」

「こんなところじゃ聞こえませんって・・・。」

バトルフィールドからかなり離れた山のふもとに、毎度お馴染みのビットの姉、ジュジュの姿が。
もちろん、アリスやカイルも一緒。

「でも、ここからじゃよく見えませんね。」

「飛行タイプのゾイドがいるから、わざと広く取ってるんだろ。
じゃないと危ないから・・・。」

「それもそうですね・・・。
先輩、お願いですから飛び出さないでくださいね。」

一応、ジュジュには注意を促しておく。
この日、取材に行くときにも編集長にも再三言われてきた。
釘どころか杭を刺すぐらいしないと大人しくしてないのだ。

「分かってるって。
さぁ、取り捲るわよーー!!」

「本当に分かっているのだろうか・・・。」と先程のジェミーと同じような不安を覚えるアリス。
カイルはカイルで、ジュジュに夢中なので全然頼りにならない。
はぁ、とため息をついて一言。

「頼れるのは自分だけですね・・・。」

 

やがて天空を突き抜け、ジャッジカプセルが落ちてきた。
いよいよバトルの開始である。
両チームともボルテージは最高潮に達していた。

「これより半径30km以内はゾイドバトルのバトルフィールドとなります。
競技者および関係者以外は立ち入り禁止区域です。
危険ですので直ちに退去してください。」

カプセルが開き、ジャッジマンがいつもどおり注意を促す。
空に巨大な鯨が飛んでいると知らずに・・・。
そして、そこから何かが打ち上げられた。

「チーム・ブリッツVSチーム・アウトローズ。
バトルモード0982、レディー・・・。」

ジャッジマンが開始を宣言する、まさにそのときだった。
突然、ジャッジマンの真上で爆発がおき、槍のようなものが無数に降ってきた。
それらはカプセルの周りに突き刺さると、先端が青く点滅し始めた。

「な・・・、いったい、なんだ?」

ビット達も訳が分からずに見ている。
そして、2,3回光り、赤い光に変わった瞬間、ジャッジマンを巻き込んで爆発を起こした。

「どわあああぁぁぁ!!!」

ジャッジマンの断末魔の叫びが響く中、黒いカプセルが落ちてきた。
それとともに、柱のようなものが4本、カプセルを中心にして約10km四方に突き刺さる。

「このバトルはデッドスコルピオ団が譲り受ける。」

その言葉とともにホエールキングが降りて来た。
ビットはこの声を聞き、ある人物を思い浮かべる。
そう、彼は前に会っているのだ。

「お前は・・・、シド!」

「覚えていてくれて光栄だ、と、言いたいところだが、
実際は君とは初対面なのだよ。」

「いったいどういうことだ?」

バラッドが質問を投げかけると、別の人物が答えた。
その人物も彼らがよく知っている人物だ。
そして、一番会いたくない人物だったのかもしれない・・・。

「この間貴様等と戦ったのは、兄貴の影武者なんだよ。」

声とともにホエールキングから現れたのはジェノザウラーだ。
その後に、ガンスナイパー2体、ヘルキャット、レブラプターが続く。

「毒蛇のシュダ・・・。」

「影武者だって!」

「というか、兄貴って言うことは・・・、弟なわけ?
ぜんぜん似てない〜!」

リノンの一言に若干カチンと来るシュダ。
まぁ、この兄弟、雰囲気が似ている程度であまり似てないのだが・・・。
それはともかく、シドが静かに話し始めた。

「先日は君達の力試しと、DS団の宣戦布告を兼ねて影武者を使わせてもらった。
だが、今回の私は本物だ。」

「へっ、誰が来ても同じ目に遭わせてやるぜ。」

ビットが自身満々に言う。
すると、突然ストラが言葉を発した。

「ちょっと待て。
もしやお前は、シド・ウインディッツ?」

「ほう、私のことを知っているのか?
さすがはストラ大尉。
かつてBD団で名を馳せていただけはあるな。」

「ストラ、知ってるの?」

「ああ・・・。
かつて『天才シド』と謳われたほどのウォーリアーだ。
だが、突如3年前に引退、行方が知れずにいたが、まさかDS団に身を置いていたとはな。」

ベガの質問に簡潔に答える。
競技人口がとてつもなく多いゾイドバトルの世界で、天才と呼ばれるものはそうはいない。
知られているところでは、先程のシドに加え、
BD団でキングと呼ばれ、アルティメットXを駆るベガ、
伝説の魔装竜をほぼ完全に乗りこなし、未だに1敗しかしていないケイン、
そして、BD団を壊滅に追い込み、先の2人に勝っているビットである。

「さて、昔話はそれぐらいにしよう。」

そう言うと、ホエールキングの腹部にあるリフトが静かに降りてきた。
その上に、あのハリーのアイアンコングを倒した、あの機体を乗せて・・・。

「何だ、あのゾイドは?」

ビットを始め、その場にいた全員が驚きに満ちていた。
蒼いボディの背中に無数の砲塔を有しており、重砲撃型のゾイドであることが分かる。
更に体の脇には十数対の棘が生えていた。

「このゾイドこそ、我がDS団が総力を結集させて作った、
攻撃、防御ともエレファンダーをも上回るゾイド、ガンブラスターだ。」

「ガン・・・ブラスター・・・。」

ガンブラスターが咆哮をあげる。
ゴルドスみたいな鳴き声だが、どこか攻撃性が感じられる。
背中の砲塔が全部前を向いているあたりはディバイソンのようだ。
だが動きはそれほど機敏そうではない。

「改めて、チーム・ブリッツ及びチーム・アウトローズに闇バトルを申し込む。
受けてくれるな?」

「どうせ否応無しなんだろ。
受けてやるとも。
いいな、みんな。」

『もちろん。』

アウトローズの方は全員が一致。
流石に全員がBD団出身だけあり、闇バトルのルールは心得ているようだ。
そして、ブリッツのほうは・・・。

「・・・で、賞金は何倍だ?」

トロスの言葉に全員が呆れ顔。
実は、まだ借金が残ってたりする。
それも彼が無駄遣いしたりするからである。

「賞金は普段の5倍だ。
それで文句は無かろう。」

『よし、乗った!!!』

声を荒げたのは言い出しっぺのトロス、守銭奴のバラッド、そしてリノンであった。
まぁ、ビットは「バトルを台無しにした罪は重い」という理由で。
ジェミーに至っては・・・、決定権が無いので無理やりである。

「挑戦に感謝する。
だが、このバトルでは飛行ゾイドは禁止だ。
よって、即刻退場を願おう。
・・・シュダ!!」

「けっ、いちいち指図するなよ・・・。」

掛け声を合図にジェノザウラーが動いた。
レイノスに向けて腕を伸ばすと、電流を流して一気にフリーズさせた。

「うわあああ!!!」

「ジェミー!!!」

ビットの声が空しく響く。
そして、それとほぼ同時にガンブラスターがビームを発射。

「きゃっ!!」

「ピアス!」

度肝を抜かれていたピアスのストームソーダーもリタイヤしてしまった。
この仕打ちには全員が怒りを感じていた。
だが、相手の方は冷静である。

「それでは始めるとしよう。」

「バトルフィールド、セットアップゥ!!」

ダークジャッジマンの掛け声と共に、先程打ち込まれた柱が互いに光を放ち始め、
あっという間に10km四方のリングが出来上がった。

「言っておくが、この光の壁に触れればゾイドがフリーズしないギリギリの電流が流れる。
注意するんだな。」

シュダが簡単に説明を促す。
ちなみにとある人物がバトルフィールド進入を果たそうとしたが、
この壁に阻まれて断念し、後輩に引きずられて帰っていったという。

「チーム・ガイスト&ガンナーズVSチーム・ブリッツ&アウトローズ!!
バトルモード0999、レディー・・・FIGHT!!」

そして、闇バトル史上最高のカードがそろったバトルのゴングが鳴った。

 

前に戻る     次を読む