「湖の伝説」

 

 晴れ渡った青空の中、黒い髪の青年がとある湖で釣りをしていた。
だが、なかなか釣れないのでかなり苛立っている。

「お〜い、レイヴン、釣れたか?」

「キュイイ。(調子はどう?)」

「そう簡単に釣れるんだったら苦労はしない。」

後ろから近付いてきた特徴のある髪型の青年に、彼はやや不機嫌な調子で答える。
釣りをしている青年はレイヴン。
今は賞金稼ぎを生業としている。
話しかけてきた青年の名はバン・フライハイト。
現在、ガーディアンフォースに所属していて、レイヴンが唯一ライバルと認めるゾイド乗りである。
その隣が白のオーガノイド、ジークである。

「グルル、ゴキュ。(そんなに焦らない。)」

「分かっている。」

黒のオーガノイド、シャドーに言われて少しムッとしながらも、また釣りに集中するレイヴン。
そして、バンも彼から少し離れたところで釣りを始めた。
その彼のまた少し離れたところで、麦わら帽子をかぶった髪の長い少年が、同じように釣りをしている。
こちらのバケツには2,3匹の魚が入っている。

「どう、釣れた?」

「まあまあですけど。」

口ではそう言いながらも、女の人に嬉しそうに答える少年。
彼の名はルドルフ。
こう見えてもガイロス帝国の皇帝である。
そして、話しかけてきた女性はフィーネ・エレシーヌ・リネ。
バンの恋人の古代ゾイド人である。

「こっちは釣れてるみたいだね。
レイヴンはまだみたいだけど・・・。」

ケラケラ笑いながら、青い髪の女性がルドルフ達に話しかけてきた。
彼女はリーゼ。
フィーネと同じ古代ゾイド人でこちらはレイヴンの恋人。

「ゴキュ、ゴキュ。(シャドーも慰めるのが大変だね。)」

リーゼの隣にいる青いオーガノイド、スペキュラーも、クスクス笑いながらそう言った。

 

今日、バン達はルドルフを誘って、2泊3日のキャンプに来ていた。
今、惑星Zi全体で帝国と共和国、2国の総力を挙げて大規模な復興作業が行われている。
その為、ルドルフは日夜働き詰めでも、ろくに休みもしなかった。
彼の性格上、「人民のために」と言って無理をしすぎてしまうのだ。
そこで、バンが「たまにはルドルフを休ませよう」という事で、
レイヴン達を巻き込んで、キャンプに誘ったという訳だ。
最も、レイヴン達はたまたまガイガロスに買い物に来ていたところを、バンに誘われただけなのだが。
もちろん、キャンプに来ているのは彼らだけではない。

「バン、釣れてるか?」

「俺は今始めたばっかりだよ。」

バンに話しかけてきたのは、眼帯が特徴的な賞金稼ぎ、アーバインである。

「レイヴンはどうなんだ?」

今度はレイヴンに歩み寄って、バケツを覗き込む。
だが、すんでの所でバケツがスライド。

「もう、ほっといてくれ。」

アーバインに目も合わせずにそう言うと、レイヴンは更に奥へと移動した。
どうやら、そこのポイントは諦めたらしい。
シャドーもその後に続く。
そして、リーゼも彼のいるところへ向かった。

「やれやれ。」

アーバインはそう言って、テントのある森へと歩いていった。
ちなみにテントではムンベイが夕食の支度をしている。
その後、レイヴンは1匹も釣れなかったという。
一方、ルドルフの方には2人ほど客が来ていた。

「ルドルフ陛下〜!」

「フィーネさ〜ん!」

妙に甲高い声とデレェ〜っとした声で名前を呼ばれたので、2人は森の方を振り向いた。
だいたい分かると思いますが、ルドルフの婚約者、メリーアンと、
ガーディアンフォース所属のトーマ・リヒャルト・シュバルツ中尉のお騒がせコンビである。

「あっ、メリーアンにシュバルツ中尉!
どうしてここが・・・。」

「あらっ、2人共いらっしゃい。」

かなり驚いているルドルフと明るく答えるフィーネ。

「もちろん、愛の力ですぅ〜!」

ほんのり頬を赤らめながらそう言う彼女を見て、少々返答に困るルドルフ。

「ところで・・・バンは?」

「バンならあそこよ。」

トーマの質問にフィーネが指さす。
すると、猛スピードでバンに向かって走り出した。

「バン、貴様〜!俺をのけ者にするとは許さ〜ん!」

先程とはうって変わって、ものすごい形相で迫るトーマ。
そして、もう少しでバンに掴みかかるという時、トーマの体が宙に浮いた。

「へっ?」

彼が後ろを見ると、ジークがトーマの襟袖を銜えていた。

「キュイ、ゴキュ〜。(トーマさんはこっち。)」

「ち、ちょっと〜、ジークさん?」

ジークに襟袖を捕まえられて、あっさり連行されるトーマであった。

「何だったんだ、一体・・・?」

バンはただ呆気にとられているばかり。
その後、レイヴンと同じぐらい粘ったが、バンも全然釣れなかった。
そのかわりルドルフが大量に釣ってきた。
結局、この日の夕食はルドルフの釣った魚と、女性陣(メリーアンを除く)が作ったカレーとなった。

 

 辺りはすっかり真っ暗となり、バン達は楽しい夕飯タイム。

「うわ〜、うまそ〜!」

「バン、まだ食べちゃダメよ。
みんなの分がまだなんだから。」

「そうだぞ。」

早速カレーを食べようとしているバンに、フィーネとトーマが注意を促す。
レイヴンとリーゼはそんな光景を呆れた様子で見ている。
アーバインはもう食べているのだが・・・。

「こら、アーバイン!
勝手に食べるんじゃないわよ!」

それに気付いたムンベイが怒鳴りつける。

「いいじゃねえかよ、別に。
減るモンじゃ・・・。」

『減るよ!』

今度は全員に言われ、流石の彼もタジタジである。
やがてルドルフとメリーアンもカレーを受け取り、ようやく食事にありつけた。

 

「そういえばさぁ、知ってる?
この湖の言い伝えを。」

「言い伝え?」

ムンベイがそんなことを言いだしたので、バンが聞き返した。

「なんでも、この湖のほとりで、しかも2人っきりの時に、
愛の告白をした男女は幸せになるって。」

「愛の・・・。」

「告白・・・。」

そう言ったのはレイヴンとリーゼの2人。
しかも、顔を真っ赤にして。
だが、

「なんだか在り来たりな話だなぁ。」

アーバインがポツリとそう言う。
折角のムードがぶち壊しである。

「あら、素敵じゃないですか。
アーバインさんって、夢がないですのね。」

彼の言葉にメリーアンがきつい一言。
アーバイン、またもやタジタジ。
そしてもう2人、顔を真っ赤にしている人達が。
バンとトーマである。

(俺もフィーネに・・・。)

(私もフィーネさんに・・・)

2人がこんな事を思っているとは露知らず、ムンベイが話を続けた。

「そうそう、こんな話もあったわね。
なんか『出る』らしいわよ、ここ。」

その言葉にレイヴン以外の一同硬直。

「出るって・・・。」

「まさか・・・。」

そして、ムンベイの口調が急におどろおどろしくなった。

「昔、この湖である殺人鬼が自殺したんですって。
その理由はこの湖で告白をして、フラれちゃったのよ。
そして、逆上した殺人鬼はその女性も殺して自分も死んだんですって。
そして、満月の夜になると・・・、チェーンソーの音と共に・・・、
その悪霊が姿を現すんですって!」

最後の言葉を異様に大きな声で話したムンベイ。
その話を聞いて、みんなの顔が真っ青になった。

「ふん、くだらんな。」

強気でそう言ったのはレイヴン。

「どっちにしろ、信憑性がないな。
愛の告白も、その殺人鬼も。」

すると、ムンベイが、

「あら、殺人鬼の方が信憑性があるのよ。
実はこの森の入り口でね、バラバラになった死体が見つかったんですって。
しかも、その遺体、チェーンソーで切られたって・・・。」

その時、レイヴンの後ろの方の森でガサゴソと物音がした。
その瞬間、全員に緊張が走った。
だがそれは、

「な〜んだ、リスじゃないか。」

バンの言葉にみんなが胸を撫で下ろす。
もちろんレイヴンも。

「と、とにかく、・・・ほら、なんだ。
とっとと寝ちまおうぜ。」

アーバインの提案に全員が頷いた。
だがその彼の言葉は少々震えていた。
案外恐がりは彼なのかも知れない。
こうして、バン達の長〜い夜が始まった。

続く


短編なのに続き物・・・。
まあ、これで連載やるわけにも行かないし、・・・良いよね。(爆)
これもさゆきさんに送らせていただきました。
向こうでも続きを書くつもりです。
では。

 

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