「湖の伝説」〜その2〜
男女に別れてそれぞれ別々のテントに寝る事となった一行。
だが、そうそう寝られるものではない。
2つの月は嫌って程明るく、
しかも、あんな話を聞いてしまった後では。
「眠れない。」
起きたのはレイヴン。
他の男性陣は寝袋に入って寝ているかのように思えたが・・・。
「おっ、レイヴンも起きたか。」
「なんだかんだ言っても、寝られないものですね。」
アーバインとルドルフがトランプでポーカーをしている。
バンとトーマの寝袋は空っぽ。
レイヴンがその事に気付くのにさほど時間はかからなかった。
「あいつらはどうした?」
「バンだったら、フィーネを誘って散歩、トーマはそれを追っかけてる。」
「そうか。
ちょっと出てくる。」
そう言うと彼も外に出ていった。
「何処に行ったんでしょうか?」
「俺が思うに用を足しに行ったか、ゾイドの所。
後は・・・、彼女の所だな。」
カードを引きながら話すアーバイン。
そして、
「よし、フルハウスだ!」
「僕は・・・フォーカードです。
これで3対2ですね。」
喜んでいるルドルフに、もう一回と勝負を頼む情けないアーバインがそこにいた。
その頃、バンとフィーネは畔で肩を並べ、月明かりが映える湖を仲良く見ていた。
「ねぇ、バン。
さっきの伝説って本当かなぁ?」
「えっ、・・・さ、さぁ?」
突然の彼女の一言にバンはドキリ。
そんな彼の様子に気付かずに、フィーネは話を進める。
「もし本当だったら・・・。」
「本当・・・だったら・・・。」
バン、同様のあまりに何故か復唱。
すると、
「リーゼもレイヴンに告白すればいいのに。」
「そ、そうだよな。
はは、ははははは・・・。」
彼女の言葉にバンはただ笑うしかなかった。
しかし、心の中ではガックリしていたりする。
そして、彼らの後ろにある草むらでは、
(くぅ〜、バンの奴、羨ましすぎる〜!)
トーマが覗いていた。
ただ、流石に遠すぎて話の内容までは分からなかったが。
(一体、なんなんだ?
俺と奴との違いって。
英雄だからか?いやいや、フィーネさんに限ってそんなことは・・・。
だったら・・・、奴のゾイド乗りとしての腕がいいからか?
そういえば、あのレイヴンだってリーゼという彼女が・・・。
やはり、立派なゾイド乗りはモテるのか?)
そうしてあれこれ考えていると、
「いいえ、違いますわね。」
突然、背後から声がしたので彼は飛び上がった。
本当は声を出したかったのだが、そんな事をしたら、
『フィーネに覗いていたことがばれる→ますます嫌われてしまう』
という方程式が成り立ってしまうため、出せなかったのだ。
変なところが器用なトーマである。
「ちょっと声を掛けたくらいで、それはないんじゃありませんの?
まったく、情けないんですのね。」
「メ、メリーアンお嬢様。
どうしてここに・・・。」
そう、声を掛けたのはトーマの相方・・・バコッ!(ジークで殴られた。)
じゃ、なくてルドルフの恋人、メリーアンである。
そして、その後ろにはちゃっかりムンベイもいたりする。
「眠れなかったから、男性陣のテントに行ったの。
そしたら、バンとあんたとレイヴンはお出かけ。」
「ルドルフさまとアーバインさんも、
トランプに夢中で相手にしてくれませんでしたの。」
「だから、こうしてあんたの様子を見に来たって訳。」
まるで双子のように息がピッタリの2人に、彼は唖然としていた。
だが、何より気にかかったのは、
「し、しかし、な、何で私の、か、考えていることが・・・。」
完全にドギマギしているトーマにムンベイは呆れながら答える。
「あんたねぇ、しっかり口に出してたわよ。」
ムンベイの言葉を聞いた瞬間、トーマは顔を真っ赤にして撃沈。
そう、彼は心の中で呟いているつもりだったのだが、
実際は口に出していっていたのだ。
そして、話を元に戻すことに、
「で、いったい私とバンとの違いって・・・。」
「そんな事決まってるでしょ。
付き合いの長さよ。」
トーマにとってはかなりきつい事を、サラッと言ってしまうムンベイ。
そんな事は彼だって自覚している。
だが、改めて言われると結構グサリとくるものである。
「そうですよね。
バンとフィーネさんって長いですもんね。」
地面に「の」の字を書きながら、落ち込んでしまうトーマ。
流石に哀れに思ったのか、メリーアン思わず、
「シュ、シュバルツ中尉、そんなに気を落とさないで。
きっといい出会いがありますわ。」
「メリーアン、フォローになってない・・・。」
彼女の言葉でますます落ち込んでしまったトーマ。
「の」の字を書くスピードも心なしか速くなっている。
その光景に今度は彼女たちが唖然とした。
だか、その時、
ギュイイイイイン!!!
森の奥の方からそんな音が聞こえてきた。
それには3人ビックリ。
「いまのって・・・。」
「電動ノコギリの・・・。」
「音・・・よね・・・。」
メリーアン、トーマ、ムンベイが怖々言う。
それらの顔は完全に血の気が引いていた。
そして、
『ギャアアアアア!!!』
誰が合図を出したのだろう。
3人は叫びながらテントの方へと一目散に戻っていった。
「んっ、何の音だ?」
バンがそう言って後ろを振り向く。
だが、森はいつもと変わっていなかった。
「気のせいじゃないの?」
「そうだな。」
そう言って再び湖を見つめ直すバンとフィーネ。
今、この2人には、
トーマ達が慌てふためいて逃げている事など知る由もなかった。
2人に湖での告白など必要もない、そう思える瞬間である。
レイヴン達の話は次回へ続く。
ふい〜。やっと書き上がった。
1日目の夜の前半でこんなにかかるとは思ってもみませんでした。
当初は3話で終わる予定だったのでしたが、
この分だともっとかかりますね。
多分、5〜6話ぐらいいくんじゃないでしょうか?
なんか短編と言うより、中編に近くなってますね。
では。