「Zi学園劇場」

 とある日の放課後、
今日もゾイドバトル部の部員達が、
いつものように部活をしようと、部室へと集まっていた。

「よっ、全員いるか?」

入ってきたのはアーバインとキースとサンダー。

「アーバイン達、遅いぞ!」

「しょうがないだろ、職員会議とか色々あるんだから。」

「そうそう。」/「グォン、グォン(そう、そう。)」

「・・・って、お前は非常勤講師だろうが!」

すかさずツッコミを入れるバラッド。
確かに非常勤講師に職員会議も何もあったもんじゃない。
キースも「バレたか」と言った表情で平謝りする。

「さてと、みんな揃ったことだし、始めるとするか。」

ビットが部活の開始を促した時、

「ちょっと待った。」

アーバインが突然全員を呼び止めた。

「どうしたんだよ?」

「実はな・・・。」

何やら重苦しい表情で彼は一枚の紙を見せる。

「実はな・・・劇をやることになった。」

生徒達、硬直、石化、ダイアモンド化。
そして、数十秒後・・・。

『何だってーーー!』

学園中に響きわたるような大声で絶叫。
アーバインとキースは流石になれていて、
彼らが叫んだ瞬間に手で耳を塞いでいる。

「やっぱり・・・。」

「予想通りのリアクションだな・・・。」

ポツリとそう漏らし、キースが話を続けた。

「校長の命令だ。この部全体で何か芝居をしろとな。
今度小学校で見せるんだそうだ。」

「小学校で・・・見せる・・・。」

「何で・・・そうなるんだ・・・。」

トーマとハリーがそう言った瞬間、
バンとビットを先頭に一斉にバトル場へと逃げ出した生徒達。
だが、世の中そう甘くはなかった。

「物理教師をなめるなよ!」

そう言って手に持っていたリモコンのボタンを押す。
すると、窓という窓、扉という扉、全部にシャッターが降りてきて、
完全に脱出不可能となってしまった。

「いつの間にこんな仕掛けを・・・。」

「暇だったから、昼休みからずっと準備をしていた。」

リノンの質問に簡単に答えるキース。

「だから、さっき遅れてきたのか、なるほど・・・。」

「リーゼ、感心している場合か!
とにかく、こうなったら強行突破だ!」

レイヴンのかけ声と共に、
唯一開いている、教師達の後ろの扉目掛けて突っ込んだ。
しかし、

「甘い、甘い。ポチッとな。」

キースがもう一つボタンを押すと、
今度は天井からポールが飛び出し、
檻のように部員達を囲んだ。

「出せーーー!」

「出せと言われて、出すバカが何処にいる。
いい加減諦めろって。」

アーバインにそう言われても、尚も抵抗を続けるが、
キースから決定打を喰らうことになる。

「やらないと・・・退学だってさ。どうする?」

その瞬間全員の動きが止まった。

「俺達もやらないとクビなんだ。頼むよ。」

アーバインが手を合わせて頼み込んでいるのに見かねて、
結局やる羽目になった。
もっとも、退学になったら元も子もない。

「それで、何をやるんですか?」

やっと解放されて一番最初に出た質問がこれ。
まあ、これを決めなければ、文字通り話にならない。
ルドルフのこの問いに答えるアーバイン。

「それを今から決める。
あと、もう一つ。必要な人数は適当にスカウトしてこいだとよ。」

「ていうことは・・・学園全体を巻き込むって事?」

今度はナオミ。

「そうみたいだな。
なお、この事は俺達と校長と理事長以外知らない。
よってスカウトはし易いはずだ。」

一瞬全員の目が輝いたような気がしたのは、気のせいであろうか。
ともかく、こうして劇の準備が始まった。

 

   1.題名決め

「さてと、何をやるかだなぁ。」

しばらく考え込む一同。
するとフィーネが、

「『最遊記』なんてどうかな?」

『字が違うものにしなさい!』

流石にこの案は没。
こんなのやったら観客がひく。
もしやるんだったら、三蔵はキースだろうなと思いつつ、
今度はビット。

「じゃあ、『聖剣伝・・・』。」

「誰があんな服着るんだよ!」

すかさずキースのハリセン。
やっぱりこの人は三蔵である。
すると、メリーアン。

「私は『白雪姫』がいいですわ。
で、私が主役でルドルフさまと・・・。」

自分の出した意見で妄想モードに突入した彼女をよそに、
アイデアだけを頂戴する事に。

「白雪姫で決定でいいな。」

『意義なーし!』

全員声を上げて肯定、
メリーアンはルドルフに止められてやっと現実世界にカムバックした。

「さてと、次は役決めだな。」

 

   2.役決め

「じゃあ、白雪姫をやりたい人!」

キースが訪ねるが、
手を挙げたのは、フィーネ、リーゼ、メリーアン、リノン、ナオミの女子部員全員。
予想通り、主役をやりたがる女子に呆れ顔の男性陣。
みんな、なんだかんだ言っても主役はやりたいのだ。

「ちょっと、ナオミ!アニメでも私がヒロインなんだから譲りなさいよ!」

「何言ってるのよ。あなた恋人いないでしょ。
王子さまとキスするんだから、恋人がいる人じゃなきゃね〜。」

『恋人』という言葉を妙に強調しながら、バラッドを見て話す彼女。
すると、

「リノン、俺が君の王子になってやる〜!」

とハリーが突っ込んできたので、リノンの後ろ回し蹴りが炸裂。
彼は「白〜〜!」と呟きながら、敢え無くノックアウト。
その一方では、

「前のアニメのヒロインは私だし、恋人もいるから私かな〜。」

「ちょっとは僕に譲ってよ〜。僕にだって恋人ぐらい・・・。」

リーゼがフィーネに向かって言いかけたが、

「誰が恋人だ、誰が!」

とレイヴンの言葉に遮られる。
だが、そのレイヴンも、

「認めてんじゃねぇか、思いっきり。」

アーバインのこの一言に、顔を真っ赤にして撃沈。
ちなみにメリーアンは再び妄想モードに突入していた。
だが、男性陣からは決して女子教員の名前は挙がらなかった。
いや、挙げられなかったのだ。
もし、そんな事をしたら確実にハリーと同じ目に遭う。
そんな雰囲気が漂っていた。

 

 そして、数分後、結局くじ引きで決めることとなり、

「やった〜!僕が主役だ!」

リーゼが見事に白雪姫の役をゲット。
かなり残念がっている女性陣をよそに、
続いての役決めだったが、

「よし、リーゼが白雪姫だとすると、王子さま役は・・・お前だな。」

そう言ってポンとレイヴンの肩を叩くキース。
もちろん彼は硬直した。

「な、なな、何で、こ、こ、この俺が・・・。」

声が上擦っていることに彼は気付いているのだろうか。
顔を真っ赤にしながら、拒否するレイヴン。
すると、リーゼがすごい剣幕で迫ってきた。

「ちょっとレイヴン、僕の相手が嫌なの!?」

「そんな訳じゃない!ただ・・・。」

そこで言葉を詰まらす彼に痺れを切らして、彼女はある行動に出た。
突然顔を伏せて、体を震わせ始めると、

「分かった、僕とキスするのが嫌なんでしょう。酷いよ、レイヴン。」

顔に手を当てて、エンエンと鳴き始めてしまった。
その様子に完全に混乱している彼はおろおろ。
そう、白雪姫と王子は物語の最後にキスをする。
実はレイヴンはそれが恥ずかしいだけなのだが。

「お、おい、何も泣くことないだろ。」

「酷いや、酷いや。」

「わ、分かったよ。やればいいんだろ、王子役を!
ああ、キスでも何でもやってやるよ!」

完全に開き直った彼はそんなことを言ってしまう。
すると、彼女は急に笑顔になった。
そんな彼女にレイヴン呆然。

「はぁ〜、やっぱり、嘘泣きか。」

「レイヴン、お前幼なじみなんだからそのぐらい分かるだろ、普通。」

「リーゼが簡単に泣く訳無いだろ。」

ビットとバン、アーバインに言われ、完全に石化したレイヴン。
そう、さっき行動をしたといったが実は嘘泣き。
彼は完全に気が動転していたため、そんな事すら忘れていたのだ。
そして、あんな事を言ってしまい、彼は気付くと真っ赤なルビーとなっていった。

「じ、じゃあ、次は・・・。」

そんな彼を哀れに思いながらも話は進んでいく。

 

 この後、しばらく話し合って、配役が決まった。

白雪姫・・・リーゼ
王子・・・レイヴン
七人の小人・・・バン、フィーネ、トーマ、ビット、リノン、ルドルフ、メリーアン
白馬役・・・ジーク(人を乗せるのに丁度いい)
魔女役・・・ムンベイ(満場一致で決定)
鏡役(声だけ)・・・アーバイン(一番楽そうだからと本人談)
森の動物役・・・シャドー、スペキュラー、サンダー、アンビエント
(行動が動物みたいだから)
語り・・・ヒルツ(セクシーボイスの持ち主ということで)

後の輩は裏方。

監督・・・トロス校長(多分やるだろうから)
大道具・・・ハーマン、オコーネル、シュバルツ(力仕事に打ってつけ)
小道具・・・バラッド、ナオミ、ハリー(役割がこれしかなかった)
音楽担当・・・キース(ムンベイより音感が確か)
衣装・・・マリア、ローザ(家庭科教師と家庭科の成績bP)
特殊効果・・・ディ(適任者が他にいない)
台本・・・ヒルツ(一応彼は国語教師)

という具合になった。
そして、一同は早速他の教員を誘う(さらう?)ための作戦会議。

「いいか、レイヴンが・・・、そして、・・・。」

キースの作戦を熱心に聞く生徒とアーバイン。
その心は「俺達だけさせられてたまるか」という、
つまりは、自分たちだけ恥をかくのが嫌なだけだったりする。

 

 その頃、教師達は職員室でのんびりしていた。

「今日も平和ですねぇ〜。」

「ああ。天気もいいし、いう事無しだな。」

縁側にいるじいさんの様な会話をしているシュバルツとオコーネル。
そしてハーマンがそんな2人に提案。

「2人共、だったら今日は飲みに行くか?」

「『今日も』だろ。」

「昨日飲みに行ったばかりじゃないですか。」

笑い声が響く中、シュバルツは隣にいるヒルツも誘う。

「私は構いませんよ、特に用事もないし。」

すると、ムンベイ、ディ、マリアも、

「だったら、私も混ぜてよ。」

「儂も行くぞ〜!」

「だったら私も・・・」

それで結局全員で行くことになった。
だが、彼らは今日、飲みに行くことを諦める事となる。

ドタドタドタドタ・・・

3,4人走ってくる音が廊下から聞こえてきた。

ドタドタドタドタ・・・

しかも、徐々に大きくなってきている。

「誰か・・・来るのか?」

「私、また厄介事に巻き込まれそうな予感が・・・。」

長年の勘というべきものなのか、
ムンベイが即座に嫌な予感を察する。

ドタドタドタドタ・・・

彼らの危機がすぐそこまで迫っているのを感じて、
窓から逃げ出そうとする一同だが、

『ちょっと待ったーーー!』

ドッシャーン!

彼らが逃げ出す一寸前に、
キース、バン、フィーネ、リーゼが勢いよく戸を開けて入ってきた。
もっとも、勢いが強過ぎた為、戸が半壊したが。

「皆さ〜ん、窓から何処へ出かけるんですか?」

「まさか、僕たちから逃げようと思ってません?」

「まだ何も話してませんよ。」

彼らのいつもだったら絶対に使わない敬語と、
何処か殺気がこもっている笑顔に全員が顔面蒼白。

「コホン。で、何か用か?」

軽く咳払いし、ハーマンが代表して聞く。
本当に勇気がある人である。

「実は、今度ゾイドバトル部で、劇を・・・。」

バンの『劇』という言葉を聞いた瞬間、
さっきとは比べ物にならない程の勢いで、再び窓から逃げ出す教師達。
実は職員室から少し行ったところにゾイド置き場がある。
そこまで走れば、逃げ切れると思ったのだろう。
だが、彼ら相手にその考えは甘かった。
突然、教師達の前を一筋の閃光が通ったかと思うと、
地面の一部が赤くなって溶けだした。

「これって・・・荷電粒子砲!」

横にはジェノブレイカーが口を開いた状態で教師達の方を向いている。
すると、生徒達のゾイドが彼らを包囲、完全に籠の中の鳥状態となった。

「ここまでする、普通!」

「何が何でも手伝わせたいらしいな。」

「みたいじゃな・・・。」

ムンベイ、シュバルツ、ディがそれぞれ考察する。
果たして今の彼らにこんな暇があるのだろうか。

「チェックメイトだぜ、皆さん。」

キースが再びリモコンのボタンを押すと、
空から網が降ってきて、職員はあっさり捕まってしまった。

「出せーーー!」/「離せーーー!」/「やめろーーー!」

網の中で散々叫ぶ教師を無視して、
キース達はトロス校長の待つ体育館へと向かった。
ちなみに教師達を引っ張っているのは、オーガノイド5体だったりする。
(アンビエントは買収済み)

「アンビエントーーー!お前は私を裏切るつもりか?」

一番の相棒に裏切られ、必死に叫ぶヒルツ。
だが、当のアンビエントは、

「ガルルル、ギュイイ〜、ゴキュ。(だって、面白そうなんだもん。)」

「そんな理由で裏切ったのか〜!」

コクリと頷くアンビを見て、ヒルツはガックリ肩を落としてしまった。
確かにヒルツの演技は見てみたいものがあるが、
実際は、ただ物語の内容を語っているだけの役である。
ちなみにローザはたまたま学校に残っていたところを誘った。

 

果たしてこんなんで大丈夫なのだろうか?
これ以上長くなると辛いので、次のページに続きます。

 

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