バン達が宿屋に着いた頃、
キースはサンダーと共に懐かしい風景を楽しんでいた。

「あんまり変わってないな・・・。
まぁ、1年で大きく変わったら恐いか。」

コロニーの広場では子供達が鬼ごっこをして遊んでいる。
そのすぐ側では行商人が野菜を売っていた。
平和な光景がどこまでも続いている。
しかし、それはあくまで一部分だけ。
その他の部分は盗賊が暴れたらしく、焼け跡がポツポツと残っている。
それを目にした時、彼の心に言い知れない怒りがこみ上げて来た。

「盗賊か・・・。
コロニーをこんなにしやがって・・・。」

そう吐き捨て、彼が再び市に目をやると、彼の動きが止まる。
彼の目線の先には碧色の髪をした女性が野菜を厳選している姿が。
そして、徐にそこに向かって歩き始めた。

「よう、リースじゃねぇか。」

「あっ、キースさん!!
いつ帰ってきたの?」

彼女はキースの妹、サウラの幼なじみのリースという女性。
キースによると、
彼とサウラ、親友のアレンにその妹のライナ、そして彼女と一緒によく遊んだのだという。
キースやアレンにとっては妹も同然の娘でもあった。
そして、彼女の胸に光っているサウラとお揃いの十字架のペンダントは、
彼が初任給で買った彼女達への贈り物であるという。

「今さっきさ。
ちょっと仕事でな。
で、どうしたんだよ、その荷物?
1人じゃ多いんじゃないのか?」

ふと見ると、リースが持っている袋には2人分ぐらいの食材が入っていた。
彼は彼女が1人暮らしだというのを知っているため、
そんな質問をぶつけたのだ。

「今、家にお客さんが来てるの。
だから、ちょっと多めに。」

「お客さん?」

「ちょっと訳あって、うちにいるの。
キースよりちょっと年下ぐらいの人なんだけど。」

「ふ〜ん。
まぁ、今日はもう遅いし、明日辺りにでも寄るよ。
いろいろと積もる話もあるだろうからな。」

「ええ、楽しみにしてるわ。
じゃあ。」

そう言って彼女は重そうに荷物を持って家路についた。
流石に気の毒と思ったのか、
彼とサンダーが荷物を持ってあげたのは余談である。
何かと気が利く男である。

 

 そして、宿屋では、

「あ〜、疲れた・・・。」

「アーバイン、オヤジ臭いな・・・。」

ベッドに倒れ込むアーバインを見て、バンが一言。
その姿は彼が言うようにかなり年期が入っている。
ちなみにその部屋に一緒にいるのは彼等だけではない。

「バン、アーバイン、休んでる場合じゃないぞ。
いつ盗賊団が来るのか、分からないからな。」

「いいじゃねぇかよ・・・。
俺はお前らが休んでる間も、賞金首を探し回ってたんだぞ。
・・・結局、いなかったけどよ・・・。」

彼等に声をかけたのはトーマ。
その隣にはふてくされてるレイヴンの姿も・・・。

「まったく、何でお前らと一緒なんだか・・・。」

「そんなに彼女と一緒にいたいのかよ、レイヴン。」

レイヴンがポツリと言った言葉に、
魚の如く食いついたのは、疲れていたはずのアーバイン。
上体を起こして、彼がニヤニヤしながら放った一言に、
レイヴンは思わず赤くして否定した。

「そ、そう言う訳じゃない!
俺は、1人でいいって言ってるんだ!」

「はいはい、そう言うことにしておくよ。」

アーバインはやっぱり疲れていたのか、
絡みも程々に再びベットに寝転がった。
その光景にクスクス笑うのはバンとトーマの2人。
そんなことを彼等がしていると、

トン、トン

「入るぞ。」

ノックの音と共に入ってきたのは、散歩に出ていたキース。
今、やっと戻ってきたところだ。
サンダーは他のオーガノイドと共に隣の部屋へ。
そして、彼を出迎えたのはこの一言だ。

「キース、最初に言っておいてくれ・・・。」

「えっ、何のことだ?」

バンの言葉に彼はキョトンとしてそう言う。
はぁ、と溜息を吐きながら、アーバインが付け加えた。

「この宿屋のことだよ・・・。
ここ、お前のうちじゃねーか・・・。」

そう、キースの実家は村で一件しかないこの宿屋であった。
彼等はその事を後になってサウラから聞かされたのだ。

「ああ、聞かれなかったからな。」

そう言って部屋においてあるアーバインの賞金首リストを見始める彼。
バン達は呆れた目でキースを見ている・・・。
この時、心底溜息を吐きたくなったとか・・・。

 

 そして、バン達の右隣の部屋では、

「はい、コーヒー、持ってきましたよ。」

サウラがフィーネ達に自家製のコーヒーを持ってきた。
このコーヒーの豆はここで育てているのだという。
彼等の父親、カルタスの趣味らしい。

「あっ、ありがとう。」

部屋でくつろいでいた3人がそれを受け取る。
ムンベイはブラック好みなのでそのまま飲んだ。

「うん、美味しい〜。
やっぱり凝ってるところは違うわね〜。」

「ありがとうございます。」

サウラに感想を述べる。
そして、フィーネ達にもそれを聞こうと振り返ったとき、
2人の表情が固まった。
お分かりだと思いますが、彼女等は塩を入れていた。
しかもたっぷりと。

「うん、美味しい。」

「本当。
ねぇ、豆をもらって帰ってもいいかな?」

「え、ええ、いいわよ・・・。
後で、お兄ちゃんに持たせるから・・・。」

驚きのあまり、やや引きつりながら答えるサウラ。
この時、ムンベイと彼女は、

(全く・・・、相変わらずねぇ、この2人・・・。)

(お兄ちゃんが言ってた通りだったわ・・・。)

2人がそんなことを思っているとは露知らず、
フィーネとリーゼは塩入コーヒーを飲み続けた・・・。

 

 やがて、夜、
夕食を済ました一同は男性陣の部屋で気晴らしのトランプ。
ちなみにフィーネとリーゼは夕食のスープにまで塩を入れたとか。

「それで、盗賊団の情報は?」

バンがカードを山札から引きながら尋ねる。
ちなみに彼等がやっているのはポーカー。
そして、トランプはキースのものだ。

「親父の話によると、奴らが出たのはつい2日前。
それからは出てないんだとよ。」

「だからいつ現れるかは分からない、か。」

キースの言葉にトーマが反応する。

「でもよ、何でこんなところを襲うんだ?
見たところ、取れそうなのは市場の野菜ぐらいだぜ。」

アーバインがカードを引いてそんなことを口にする。
するとキースは、

「それはこっちが聞きてぇよ・・・。
やりぃ、ストレートフラッシュ!」

答えながら手札をオープン。
そこにはスペードの4から8が見事に揃っていた。
それにはみんなもガックリ。

「またキースの勝ち?」

「これで3回連続よ。
如何様してるんじゃないの?」

「カードを配ったの、キース出しね。」

女性陣のブーイングに彼はやや呆れ顔で、
「そんなことするかよ・・・。」と一言いうと、
カードを纏めて、切り始めた。

「で、今夜はどうするんだ?」

「村の自衛団が見張ってる。
何かあったら起こすから、今夜は休んでくれってさ。」

レイヴンの質問に答えると、彼は再びカードを全員に配る。

「まぁ、いい。
とりあえず今夜はゆっくり休もう。」

トーマの言葉を最後に全員が黙り込む。
そして、1,2分後・・・、

「よし、スリーカード!」

「俺はブタだ・・・、けっ。」

「ワンペア・・・。」

「私は・・・、フルハウス!」

「あたしもフルハウスよ。
フィーネと同じか・・・。」

「僕はストレート。」

「ワンペア・・・。」

上からバン、アーバイン、トーマ、フィーネ、ムンベイ。リーゼ、レイヴンの順。
残ったキースは、やれやれと言った表情でカードをオープン。
その瞬間、全員がガクッと肩を落とした。
それもそうだ、ダイヤの10から13、そしてAが並んでいるのだから。

「ロイヤルストレートフラッシュだ。
もうちょっと修行して来るんだな。」

そう言ってキースはトランプを片づけると、自分の部屋に戻っていった。
気をよくした彼の背中を見て、全員は一言・・・。

『絶対、インチキだ・・・。』

こうして夜は何事もなく更けていった・・・。

 

 翌日・・・、キースは妹と共にあるところへ向かっていた。
先日、寄ると約束した彼女の幼なじみであるリースのところだ。

「なぁ、リースの言ってた客人って、どんな奴か知らないか?」

彼の質問にサウラは明らかに“意外”と言う顔をする。

「客人、って言ったの?リースは・・・。」

「そうだけど・・・、違うのか?」

怪訝に思い、彼が尋ねると、
サウラは静かに話し出した。

「5日ぐらい前かな。
リースが森で散歩していたの。
ほら、私達がよく遊んでた川よ。
その途中、森の奥に川があるでしょう?
そこで・・・、人が倒れてたのよ。」

「人が?!」

「ええ、赤い髪でお兄ちゃんよりちょっと年下ぐらいの・・・、
アーバインさんぐらいの年齢かな。
リースが村の人達を呼んで、急いでその人を助け出したの。
頭を強く打っていたんだけど・・・、幸い命に別状がなくって、
2,3日したら、目が覚めたわ。
今、リースの家にいるんだけど・・・。」

彼女がそこまで話したとき、彼等はちょうどリースの家に着いた。

「まぁ、後のことはリースから聞くさ。
当人の方が詳しいからな。」

キースはそう言いながら、呼び鈴を鳴らす。
待つ間もなく、扉が開いき、リースが顔を出す。

「あっ、いらっしゃい。
ふふっ、貴方達兄妹が揃うのって久しぶりね。」

「1年ぶりだからな。
出稼ぎも楽じゃねぇよ。」

笑ってそう言うと、彼は家の中を覗き見る。
そこにはテーブルがあって、奥の方には若い男性の姿が。
そして、2人は中へと入っていった。

 

 ちょうどその頃、、同じ道を1組のカップルが歩いていた。
レイヴンとリーゼである。

「もう、キース、どこ行ったんだろう?」

「全く、肝心な物を忘れるとは、
これだから年寄りは・・・。」

レイヴンが文句を口にしながら、辺りを見回す。
しかし、彼の姿は一向に見当たらない。
実はキース、彼の母親から買い物を頼まれていたのだが、そのメモを忘れてしまったのだ。
何とも間抜けな話である。
ちなみにレイヴン達が彼を“年寄り”というのは影でだけ。
本人の前で言ったら、間違いなく強烈な蹴りか、
ハルフォードも真っ青の皮肉を言われるかのどっちかである。
皮肉が得意というせいもあってか、結構シュバルツと仲がいいとか。
この2人を敵に回したら・・・、
いや、誰もそんなことを考えもしないであろう。

「それ、キースに聞かれたも知らないよ。」

「う゛っ・・・。」

流石のレイヴンも言葉を詰まらす。
彼を年寄り扱いして、1日で回復したら奇跡だ、と言われているのだから。
ちなみに、これは精神的と肉体的との両方の意味で、である

「やれやれ・・・。」

深く溜息を吐き、再びキースを探す。
すると、リーゼが声をあげた。

「あっ、見つけた。」

彼女の指さす先には、
キースとサウラが碧の髪をした女性と楽しそうに話している光景が。
だが、レイヴン達が声をかけようとした時、彼等は中に入っていってしまった。

「あっ、入っちゃった。」

「仕方がない。
とりあえず行ってみるか。」

リーゼが頷き、2人はリースの家へと歩を進めた。

 

 家の前に着き、レイヴンがノックしようとする。
すると、

「レイヴン・・・。」

リーゼが彼の名を呼んだ。
その声は震えている。
彼が見てみると、彼女は玄関の脇の窓から中を凝視している。
彼女の声の具合が気に掛かり、
彼が「どうしたんだ?」と声をかける。
それに反応して、リーゼはそっと中を指し示した。

「あ、あれは・・・、まさか・・・。」

彼の顔も驚愕した。
リーゼ達が見た先には・・・、信じられない光景が広がっていたのだ。

「・・・ヒル・・・ツ・・・、なんで・・・、あいつが・・・。」

かつてデスザウラーでこの世の全てを破壊しようとし、
英雄・バンフライハイトとレイヴンの手で倒された、
あのヒルツが彼等の目の前にいたのだ。
驚きと恐怖のあまり、リーゼは彼の腕にしがみついて、
オオカミを前にした子猫のようにブルブルと震えていた。
そして、レイヴンもまた、言葉が出なかった。

 

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