「ヒルツが生きてたああぁぁぁぁ?!」

バンの一言が室内に響いた。
そのあまりの大きさに全員がシーッと指を唇に当てる。

「バン、声、でかすぎ・・・。」

「あっ、ワリィ・・・。」

まぁ、バンが驚くのも無理はない。
先程レイヴン達からヒルツのことを聞いたのだから。
あの後、レイヴン達はキースに見つかるものの、
彼が忘れていったメモを言い訳に出来たので、その場から逃れることが出来た。
そして、宿に帰り、バン達に事の次第を話し、今に至る。

「でも、何でヒルツが・・・。」

アーバインがもっともな疑問を浮かべる。

「あの時、俺は確かにデスザウラーのゾイドコアを貫いた。
そして、デスザウラーを葬ったんだ。」

「ヒルツはゾイドコアに身体を包まれていたから、
そのまま一緒に死んだと思ってたけど・・・。」

「しかし、イヴポリスは地下にへと沈んでしまい、
その場で遺体を確かめる事は出来なかった。
掘削作業により、確認する案もガーディアンフォース上層部で出たが、
あの攻撃を受け、遺体が残っている可能性はない
軍事予算が尽きかけているという意見が両軍首脳部から上がり、
そこまで深くは調べる事はなかったが・・・。」

バンの後にフィーネとトーマが続ける。
デスザウラーの荷電粒子砲による被害は、両国でも相当なもので、
共和国のルイーズ大統領と帝国のルドルフ皇帝は、
「互いに協力し合い、復興作業に両国の殆どの予算をつぎ込む」
という条約が新たに結ばれたため、
レアヘルツバレーを調べるための予算が降りなかったのだ。

「それで、ヒルツの様子は?」

「それが・・・、変なんだ。」

「変、どう言うこと?」

「・・・笑ってたんだ・・・、凄く優しい顔で・・・。
まるで別人みたいに、悪意が無い、純真無垢な笑顔で・・・。
あんな顔、僕の前で見せたことないから、ビックリしちゃった。」

ムンベイの疑問にそう答えるリーゼ。
笑ってはいるが、信じられないと言う表情と不安気に思っている表情、
戸惑い気味という表情が入り交じっていた。
スペキュラーとレイヴンも心配そうに彼女を見ている。

「レイヴンの意見はどうなんだ?」

「・・・あの顔は・・・、滅びを望んだ奴の顔じゃない。
むしろ、希望に満ちていた。」

「いったい、どう言うことなんだ?」

全員が悩み混んでしまう。
流石にこれは難問である。
すると、

「みんな〜、いるか〜?」

キースとサンダーがドアから顔を出した。
リースのところから戻ってきたみたいだ。

「あっ、キース!
ちょうどいいところに・・・。」

有無を言わさず、フィーネが彼を強引に引っ張り込んだ。
だが、あまりの勢いに彼はそのまま倒れ込んでしまう。

ドタッ

「いっつぅ・・・。
何なんだよ、いきなり!!」

鼻を押さえて叫ぶ。
今ので床に打ち付けたようだ。
サンダーはその後ろでクスクス笑っていた。
「お前なぁ・・・」と言う眼でそれを見るキース。

「ご、ごめんなさい・・・。」

「そんな事より!!」

「そんなことで済ますなよ・・・」

リーゼの一言にも律儀に突っ込む。
このままでは話が進まないので、ここら辺は省略。

 

 その頃、リバーサイドコロニーの近くの洞窟では、

「次の手筈は整ってるの?」

「ええ、いつでも出撃できます、リリス様。」

リリスがカリスの部下と思われる男と話していた。
その後ろに緑色のジェノザウラーの姿が。
このジェノザウラー、頭の形がサイコジェノと同じで、あとは通常通り。
色は緑色と紫、どこか怪しげな雰囲気が漂っている。
ちなみにワイバードの姿は見受けられなかった。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか。
今度こそ、奴らの息の根を止めるわよ。」

「了解しました。
全軍出撃!!」

男の声でモルガやレブラプター、ヘルディガンナー、ステルスバイパー、ブラックレドラーなどが動き出す。
その彼もレッドホーンに乗って、洞窟から出ていった。

「・・・やれやれ、彼等だけであいつらを倒せるんだったら、
私が来るはずないのにね、ワイバード。」

闇に向かって声を掛ける。
すると、今までいなかった彼女のオーガノイドが姿を現した。

「偵察、ご苦労様。
それで、様子はどうだった?」

彼女がそう問い掛ける。
すると、なにやら耳元でささやきだした。
その瞬間、リリスの表情が驚きに変わる。
それには喜びも若干含まれているようだ。

「本当なの!?
本当に“あの人”がここにいるの!?」

彼女がコクリと頷くと、いても立ってもいられなくなったのか、
すぐさまジェノザウラーに乗り込み、その場を後にした。

 

 そして、ヒルツの事を全て聞いたキースは、

「なるほど。
どうりであの川で見つかった訳だ。
森の中の川は、レアヘルツバレーから流れてるからな。」

しみじみとした様子で彼が語る。
そして、事のついでにヒルツが川で発見されたことを説明した。

「そう言えば、さっき一緒にいた人は誰?」

「ああ、サウラの幼なじみのリースだ。
あいつがヒルツを発見したんだよ。
・・・確かに世界を滅ぼす様には見えないけどな・・・。
まぁ、ああなっちまったら、そんなことも思いつかないか・・・。」

彼の言葉でバン達は明らかに怪訝な表情を浮かべる。
それを察してか、キースは再び話し始めた。

「実はな・・・、あいつ、“記憶喪失”なんだよ・・・。
しかも、重度のな・・・。
自分の名前ぐらいしか覚えてないんだとよ。」

それは彼等に衝撃を与えるのに十分すぎる事実だった。
驚きのあまり、誰も声が出ない。
さらに話を続けた。

「医者の話だと記憶が戻ることは、まずないとさ。
今、リースの家で厄介になってるのも、そう言う事情だからだ。
よく聞く話だろ。
行方不明者が記憶を無くして、遠くの村で静かに暮らしてるって・・・。」

「でも・・・、あんな事をしておいて、自分だけ悠々と平和に暮らしてるなんて・・・。」

突然、リーゼがそんなことを言い出した。
一番彼女がヒルツと関わりが深かった。
そして・・・、一番裏切りのショックが大きかったのも・・・。

「僕が・・・、僕達がどんな目にあったか分かる?
利用されて・・・、裏切られて・・・、挙げ句の果てに殺されかけたんだよ・・・。」

「リーゼ・・・。」

心配そうに声をかけるフィーネ。
レイヴンも思い出したらしく、沈黙を続けていた。
すると、

「ヒルツはもう死んだんだ・・・。
忘れるんだな。」

そう言ったのはキースだった。
一瞬、全員が驚いた表情をする。
彼はなおも続けた。

「お前達の知ってるヒルツはもういない・・・。
あそこにいるのは、これから新しい人生を始めようとしている、1人の男さ。
なんかよ、リースの奴、あの男にお熱みたいだからな。
俺としては、そっとしておいてやりたいんだ。
・・・悪いかな?」

窓に寄りかかった状態で話しかける。
すると、今度はアーバインが話し出した。

「いいんじゃねぇのか。
別によ、俺達はあいつを捕まえに来たんじゃないんだしな。」

「そうだな・・・。
俺達の任務は盗賊団を捕まえることだ。
ハーマン達には適当に言っておこうぜ。」

「しょうがない。
兄さんにも何とかして貰うよ。」

バンとトーマも了承。
レイヴンも黙ったまま頷く。

「リーゼもいいわよね?
そんなに辛かったら、忘れちゃえばいいのよ。」

「そうだね。
ごめん、1人で騒いじゃって・・・。」

フィーネ達もO.K.を出す。
やれやれと言った表情で彼女らを見つめた後、
カラッとした顔で、ムンベイが口を開いた。

「そうと決まったら、そろそろ昼御飯にしましょう。
なんか、お腹空いちゃった。」

その意見に全員が頷き、一階に降りようとする。
そして、キースが扉に手を掛けたとき、

バン

扉が勢いよく開き、キースの顔面に直撃。

「あっ、お兄ちゃん、大丈夫!?」

顔を押さえ込む彼に声を掛けたのは、ドアを開けたサウラであった。
他のみんなはクスクス笑っている。

「あいたたたた・・・、いったい何なんだよ・・・。」

「あっ、そうだ。
皆さん、盗賊団がこの村に近付いてくるらしいの!」

サウラの言葉に全員の表情が引き締まる。
むろん、キースもだ。

「さっき、自衛団の人達がゾイドに乗って出撃したわ。
皆さんも・・・。」

「よし、みんな、いくぜ!!」

バンを筆頭に外に向かう一行。
そして、キースが最後に出ていこうとすると・・・、

「お兄ちゃん。」

サウラが急に呼び止めた。

「どうしたんだ?」

「あの・・・、お父さんが・・・。」

「親父がどうかしたのか?
・・・まさか・・・。」

彼の顔が曇る。
どうやら予感が的中したようだ。

「うん。
サラマンダーで出撃しちゃった・・・。」

彼女がそう言った瞬間、凄く長い溜息を吐く。
明らかに「信じられない」と言う表情だ。

「何考えてるんだ、あの親父は・・・。
しょうがない、俺も久々に空戦でいくか。」

そう言って、彼は階段を駆け下りた。

「まさかこっちでテストになるとはな・・・。」

 

 バン達が外に出た頃には、もう戦闘が始まっていた。
自衛団のカノントータスが敵の群に向かって砲撃している。
だが、効果は殆どない様子。

「レブラプターにモルガ、そしてレッドホーンか。
コロニーまであと1qちょっとってところだな・・・。」

アーバインが眼帯で敵のゾイドと距離を確認。
その時、突然近くで爆撃が起こった。
空には10機ほどのゾイドが飛んでいた。

「ブラックレドラーか。
生半可な勢力じゃないな・・・。」

「バン、私達も早くゾイドに。」

「分かってるって。」

バン達も自分たちのゾイドに急いだ。
後からキースとサンダーも合流。
攻撃態勢が整いつつあった。

「よし、久々に飛ぶぜ、ブレイダー。
フォックスは留守番してろよ。」

キースの言葉に寂しそうな鳴き声をあげるフォックス。
それには全員が苦笑い。

「今度たっぷり暴れてやるから心配するな。
よし、ブレイダー、準備O.K.。」

フォックスを宥めながら、ブレイダーの調子を確かめる。
結構好調らしく、顔がご機嫌だ。
そして、バン達の準備も完了した。

「ジーク!!」

「シャドー!!」

「サンダー!!」

3体のオーガノイドがそれぞれのゾイドに合体する。
スペキュラーだけはお留守番だ。
ちなみにリーゼはレイヴンと一緒にジェノブレイカーに。
最近、やっと2シーターに変えたようだ。

「よし、いくぜ!!」

バンの声をきっかけにゾイドが一斉に走り出した。

 

 その頃、

「サウラ!」

聞き慣れた女性の声にサウラが振り返る。

「リース!
どうしたの?こんな時に。」

「ヒルツさん、森に行ったまま帰ってこないの。」

この言葉にサウラは驚いた。
何故なら、盗賊団の進行上のすぐ側に森があるからだ。
下手をしたら、そこも巻き込まれる可能性がある。

「すぐにお兄ちゃん達に知らせないと!」

言うが早いか、サウラ達は走り出した。

 

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