「薄明の悪夢(後編)

 

「リリス…」

思わずバンは呟いた。
レイヴンもアーバインもいるとはいえ、既にボロボロの状態だ。
トーマに至っては動けるような状態ではない。

「あなた達はそこの人たちの足止めをしておいて。
まず空からやるわ。
あれだけ長い間飛んでいたのなら、大分動きも鈍っているはずだから…」

「キース、気を付けろ!」

バンはキースに注意を促す。
しかし…

「バン、レプラプターが来るぞ!!」

「ちっ…!」

アーバインが言うとおり、こちらも危険な状態だ。
レイヴンも応戦している。

「くっ、ビーク!17連突撃砲……」

『ピルル!』

トーマもできる限りのことをしようと必死である。

「ファイヤーーーー!!」

煙が上がり、相手の数が見えなくなる。

「気を付けろ!
奴ら、まだいやがるぞ!!」

『ギュアアン!』

アーバインが言うとおり、すべてが倒れたわけではなかった。
煙がはれると、きっちりとその数を減らしていたことが分かったが。

ガガガガガガガ……

レプラプターのいる位置よりも遠くから、ガトリング砲の砲撃が向かってくる。

「俺がダークホーンをやる。
ここをどうにかしてろ。」

「気を付けろ、レイヴン!」

「言われなくとも分かっている。」

ジェノブレイカーはそこを抜け出し、この闇の色と同じダークホーンに向かっていった。

 

「くそっ!」

キースは苦戦していた。何せ、ジェノザウラーに狙われているのだから。
そして…

「うっ…危ねぇ!」

先程からブラックレドラーに襲われているのだ。
キースの腕でも、それを一瞬のうちにすべて落とすことは不可能だ。
しかも相手は、低空飛行させようと襲いかかってくるのだからなおさら厄介だ。
下ではリリスがアンカークローで捕まえようと動き回っている。

「いい加減、早く終わらせないと…」

彼等が戦い始めてから、一体どれだけの時間が経ったのだろう。
日は隠れてしまっていて、それを知るすべはない。
だが、確かに想像以上の時間がこの戦いに費やされていた。

ダダダダダン、ダダダダダン!!

「くそ…」

ブラックレドラーからの攻撃を避けようとして、少し高度を下げた。
だが、その正面には…

「いただくわ!」

リリスがアンカークローを伸ばし待ちかまえていた。

「しまっ…」

すぐに上昇させようとするが、間に合うようには見えない…

ガガガガ、ガガガガガガ…!!

「何!誰?!」

だが、それはジェノザウラーの背後に飛んできた砲弾で一瞬の隙を生むことになる。
キースは何とか危機を逃れた。

「天定まって、またよく人に勝つ…」

「え…?」

キースは思わず驚いた。
まず聞こえるはずがないセリフが聞こえたのだから。

「我ら、暗黒の世を切り裂く翼の男爵アーラ・バローネ」

「誇り高き嵐の刃、ストームソーダーを怖れぬならば、かかってくるがよい!」

「3人揃っているのかよ!」

アーバインも驚いているらしい…ロイヤル仮面の正体は言わずと知れている事だ。

「…よくここまで来るな。」

レイヴンも感心して…いや、もしかしたら呆れているだけなのかも知れないが。

「それよりもバン、そっちはどれだけ倒した!?」

「あと3分の1だ。」

「すぐに倒してやるぜ!」

こちらのモルガとレプラプターも、大分その数を減らしていた。
と言っても、遠くから飛んできた砲撃で自滅したのも多いのだが。
相手がスリーパーだと言うことは、動きからもよく分かっていた。

「…仕方がないわね。」

こちらもアーラバローネの登場により、次々とブラックレドラーが撃墜されていく。
その様子を緑色のジェノザウラーが見つめた。

ガン、ガンッ!

ジェノザウラーの足場は固定された。
そのまま尾も開き、機体が一つの砲身になる。

「このまままとめてあの世に葬り去らせてあげるわ……」

光が収束しだす。
その光は辺りを照らしていった。

「あれは!
阻止しなければ…」

ヴィオーラが攻撃をしようと前にでるが、

ババババババ、ババババババ…

ブラックレドラーの砲撃だ。

「うっ!」

邪魔をされて引き返すことを余儀なくされる。
無論、3人もだ。

「ロッソ、この者達、ここから離れさせないようにするつもりです!」

「今は全力でここを離脱することを優先しろ!」

「無駄よ。」

誰かが会話に割り込んできた。
その声と同時に画面が現れ、その張本人が映る。

「お前は…」

キースは相手に心当たりがあった。

「こんばんは。
そう言えば、さっきはモニターに映させていなかったね。」

その声の主は宣戦布告をしたあの彼女と同じだった。
あのときはノイズが掛かっていたが間違いはない。
容姿、声、雰囲気…どれもあのときと一緒だ。

「悪いけど、そこから離れさせるわけにはいかないのよ。」

「く…」

ブラックレドラーだけではなく、レイノスの援護も加わった。

「…さようなら。」

「そうはさせるか!」

リリスがそう呟いた瞬間、威勢のいい声がした。
その方には、青い獅子が向かってきているのが見える。
バンだ。

「くっ…使えない奴らね!」

ジェノザウラーはすぐに振り返り、ブレードライガーに向かって荷電粒子砲を放つ。

「ジーク!」

『ゴアアァ!』

彼らは機体をやや傾かせながら地面を力強く蹴り、光の矢のすれすれを駆け抜けていく。

「いっけえええぇぇぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「ちっ!」

獅子は光の剣と共に相手に向かっていく。

ガアアァァン!!

何か、衝撃音のような音が聞こえた。

「なに?」

バンは目の前の光景を、現実を疑った。
………相手は傷を負わなかった。

「動きが鈍っているわのね。
おかげで助かったわ。」

何時の日か、レイヴンにも同じようにブレードの根本をジェノザウラーの爪で捕まれた。

そのミスをまた繰り返すこととなるとは……

「くっ…」

「逃がさないわよ!」

逃げだそうとするところを、そのまま持ち上げられて投げ飛ばされる。

「うっ!」

どうにか体勢を立て直そうとするが相手の運動性能は高く、青い機体は高く遠く飛ばされる。
その上…

ドドーーン!

「ぐああっ!」

「バン!」

投げ落とされたところに、ちょうど遠距離砲の砲弾が落ちてきた。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュビュン!!

「ライトニングサイクス…」

ジェノザウラーはその砲撃で再び横を見る。
サイクスの砲撃がジェノザウラーに当たる。
しかし、大した損傷にはならない。

「オーガノイドも持っていない賞金稼ぎが、相変わらず五月蝿いわね。」

緑色の竜は、黒い稲妻と向き合う。

「手間のかかる相手だ。」

そこにレイヴンの声が聞こえ、赤い竜が現れた。
どうやら、雨のせいで姿が隠れていたらしい。

「あら、ヘルキャットも全滅したのね……」

リリスはレイヴンの登場でそれを悟った。
大方、全滅したのであろう。

「本当に不甲斐ない奴ら…でも、まあいいわ。
やることには変わりはないから。」

だが、リリスには大分余裕がある。
向かってくるライトニングサイクスを避け、

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!

『ギュアアァァン!!』

「ぐっ…」

直後、砲撃を浴びせる。

「今度は俺が相手だ!」

そして背後から向かってくる相手のアンカークローをかわし、また砲撃する。

「なめるなぁっ!」

砲撃が直接当たらなかったらしく、起きあがったサイクスが再び襲ってくる。
が、それさえも易々と見切る。

「二人いても、カリスを呼ぶまでもないわね。
よっぽど体力がないのかしら?」

「「くっ!」」

リリスの嫌みに、レイヴンもアーバインも苦虫を噛み潰す思いをした。

 

「ヒュエインさんも大変ねぇ…
しばらくここのお客様は、私がお相手をしましょう。」

その様子を見て、レイノスの彼女はくすくすと笑っていた。

「ミラ、なるべくこっちを中心に。
向こうに行っても、邪魔になるだけみたいだから。」

「ラジャ!」

空の方も、まだまだ終わらせてくれそうにない。

「ロッソ、まずレイノスを…」

空では、ブラックレドラーに加えてレイノスの援護があり、身動きが取りづらかった。

「我々はブラックレドラーを撃破する。」

「あなたにはレイノスをお願いするわ。」

「O.K.」

ストームソーダー3体はブラックレドラーを倒そうとしている。
ブレイダーは、彼等の提案によりレイノスに向かっていく。

「そう来ると思った!」

ダダダダダダ…!!

その言葉と共に、長距離砲がこちらに集中放火してきた。

「ブラックレドラーはここから退避しな!
ここにいても邪魔なだけ…ククク……」

不気味な笑い声が聞こえた。

「うぅっ…ロッソ、このままでは追えません!」

「うっ…」

ロイヤル仮面もヴィオーラもその砲弾雨下に苦戦する。

「まずこの中を抜け出さないことには。」

「どうすれば抜け出せるんだよ!
レイノスにまで邪魔されて……」

そして、それはロッソとキースにとっても同じ事。

「さぁて、耐えられるかしら?」

「ナビガトリア様…」

急に通信が入り、なにやら済まなさそうな男の声が入った。

「ミラか…」

レイノスに乗る彼女はそれに不快そうな顔をした。
だがすぐにそれは消え、相手から目をそらした。

「このままではすぐに砲弾はなくなる、ね…まぁいいわ。
標的を一つ減らせ。
一番すばしっこいのでいいわ。
叩き落としてくれてやる……ククク」

そんな通信がされている間も、銀色の4機は翻弄されていた。

「うわっ!」

砲弾の数が多く、そこを抜け出せないのが現状だ。

「ロッソ、このままでは…」

「く…」

ヴィオーラとロッソは慌てる。
理由は前にも言った通り、言わずと知れているだろう。

「…行くぞサンダー、ブレイダー!」

その中で危機を感じたキースはサイクロンブレイダーをそこから何とか脱出させた。

「来たわね…クク。」

その脱出と同時に、レイノスが向かってきた。
どうやら、わざとおびき出すつもりだったらしい。

バババババ、ババババババ…!

すぐさま砲撃を咬まされる。
ブレイダーはそれを上手く避け、反撃しようとする。
が、どうやらそう簡単にはいかないようだ。
相手もそれなりの乗り手らしく、ブレードの攻撃もレイノスの旋回能力を使い上手くかわす。
さらに旋回し、また砲撃を仕掛ける。

「フン。
機体性能の落ちたサイクロンブレイダーなんか、敵じゃないね!」

「ゾイドは機体性能だけじゃない。
それが分からないようじゃ、俺達には勝てないぜ!」

両者、共に譲らぬ戦いだ。

「さぁ、早くここを終わらせて砲撃の主に会いに行くぜ!」

ブレイダーが応え、一鳴きした。

「ふん。どうだか…」

相手はキースのセリフを無視し、変わらず戦闘を続けた。

 

「その程度なのかしら?」

「ち…」

一方地上のジェノザウラーはジェノブレイカーを主とし、ライトニングサイクス、
ほんのわずかのところで何とか戦闘不能を免れたブレードライガーと戦っている。
だが、傷ついた彼等では相手に決定的な一打は浴びせられない。

「砲弾が来なくても、あまり変わらないか…」

バンは辛うじて戦える状態で、かなり危険な状態だ。
場所は先程から移動し空戦地帯からは離れたが、
それでも何も変わらない。

「これだけ苦戦する羽目になるとはな。」

アーバインも愚痴を漏らす。
だが、敵はまだ目の前にいる。
一番冷静なのは、シャドーを合体させている……

「無駄口を叩いている間に…来るぞ!」

レイヴンだ。

「ちぃ!」

アンカークローがサイクスに向かってくる。
何とか避けるが、そんな状態がいつまで続けられるか分からない。

「かなり負担がかかっていやがるな…」

ライトニングサイクスの動きも大分落ちてきている。

「相手の機動性は高い。
無理に近付いても返り討ちに合うだけだな。」

「どうする、トーマ。」

そしてもう一人冷静な人物は、バンが声をかけたトーマ。
動けなくなってはいたが、エネルギー消費量が少なかったためディバイソンはあの攻撃を耐えていたらしい。
そしてその隙に、なにやら分析か何かをしていたようだ。

「…相手を上手く動かさない限り無理だ。」

アーバインとバンの元に、何かの情報が送られた。
目の前にその情報が表示され、バンとアーバインに示される。

「ふん。それくらいやってやるぜ!」

「そうだな…行くぜ、ジーク!!」

『ゴアアァァッ!』

それを受け、サイクスとライガーが動く。

「性も懲りない奴らね。」

リリスはブレードライガーの動きに見切りを付けた。

「行くぜ!」

「させないわ。」

ブレードライガーにアンカークローが伸びていく。

「させるかぁ!」

サイクスが懐に飛びかかっていく。

「そんなにうまくいくと思っているのかしら?」

「くっ!」

だがリリスは冷静にジェノザウラーを操り、空いた方の爪で捕まえて投げ飛ばす。

「なっ!」

それはライガーの方に向かっていき、ライガーとサイクスがわずかのところで交差する。

「ぐあっ!」

「アーバイン!」

ライトニングサイクスが地面に叩き付けられた。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!

間髪入れずパルスレーザーガンが放たれる。

「く…」

バンはジェノザウラーに向かってライガーを駆けださせた。

『ギャアアァァ…!』

「…っ、危なかったな相棒。」

サイクスも側転して何とかパルスレーザーガンをかわし、ジェノザウラーに再び向かっていく。

「お前らの思うようにはさせないぜ!」

「気を付けろ、アーバイン!」

アンカークローがサイクスに向かって伸びる。

「ヘン!」

『ギュアアァァァァン!!』

アンカークローを見事にかわし、砲撃を仕掛ける。

「俺達も行くぜ。ジーク!」

『ゴアアァッ!』

「…小五月蝿いわね。」

ジェノザウラーは飛びかかるブレードライガーを尾で叩き落とす。

「ぐあっ!」

「今度はこっちだぜ!」

「ふん…」

砲撃と格闘、両者が入り交じる接戦だ。
それはしばらく続くが、どちらも決して譲らない。

「本当に、何時もしぶと…」

『ビビッ!』

ジェノザウラーの内部で、何かが表示された。

「…そうね、そろそろ終わらせなければならないわ。
ワイバード!」

『グアアァァァ!』

「来るぞアーバイン!」

「早いな…」

ライガーとサイクスが同じ位置に立った。
相手は荷電粒子砲を発射しようとしていた。

「喰らいなさい!」

「それはこっちのセリフだ!!」

「何!?」

荷電粒子砲が放たれると同時に、ライガーとサイクスは左右それぞれに逃げた。
そして、目の前に迫ったもの…

「荷電粒子砲ですって!?」

ジェノブレイカーの荷電粒子砲だ。
無論、先のセリフもレイヴンのものである。

「バンばかりがGFじゃない…」

「あら、それが……」

リリスはわずかながら油断していた。
相手の荷電粒子砲は、リリスのジェノザウラーで十分耐えられる程度のものだった。
が……

ゴウゥ…

「えっ?」

別な場所から、荷電粒子にも匹敵するような砲撃が向かってくるなどとは予想できていなかった。
……メガロマックスだ。

「きゃあっ!」

「やったか?」

アーバインは思わず握り拳を握った。

 

「まずいな…」

目の前には緑色の翼竜…

「今の速さじゃ、危険だ。
レイノスだと追いつかれかねない。」

この2機の接戦、先程からまだ終わっていない。

「ふぅん…まぁいいわ。
簡単に落ちるようでも面倒だしね。
でも、あんたの自由になんかさせない!!」

相変わらずレイノスの砲撃、そしてそう離れていないところで鳴り響く長距離砲の砲声。

「むやみに行っても、逆に危険なだけか…」

その長距離砲の元を絶ちたいが、レイノスがいるためにそうできない。
相手の飛行速度はサイクロンブレイダーの進化する前の姿、ストームソーダを越えられる。
油断はできない。
が、こちらでも…

「地上はまだ終わっていない、か。
……ミラ、あとどれくらい持つ?」

確認するところを見ると、どうやら長距離砲撃の弾数もそう多くはないようだ。

「このままでは、もう1分も…」

「ちっ!」

その返答にレイノスに乗る彼女は歯を食いしばった。
通信の相手の声は、強くなかった。

「やはり特殊砲弾では数が足りなさすぎたか。
…だが、まぁ仕方ないこと。
無くなり次第、あとは通常長距離用砲弾を使え。」

「ですが、それではナビガトリア様にも…」

それを聞いた瞬間、彼女の瞳がギラリと光った。

「状況を見ろ!
そう言う隙にやられるんだよ!!」

「はっ…」

今までまっすぐ前を見ていた彼女が、通信相手も睨み付けて怒鳴った。
相手の男はたじたじになり、そのまま通信回線は切れた。

「…甘い奴らなんか、嫌いだ。」

一言そう吐き捨てるように言うと、また彼女の視線は戦場に戻った。
目の前に広がるのは、灰色だけの世界だ。
まだ煙が所々で上がっており、見ているだけで異臭が感じられそうだった。
それでも戦場は相変わらず騒がしい。
そして、動きがあるのはあちらばかりではなかった。

「ロッソ!」

「分かっている。」

ヴィオーラがロッソに呼びかけた。
周りは爆発で発生する閃光で目がつぶれそうだ。

「少し危険が伴うが、どちらにしろこのままでは何もできん。」

「私たちが隙を作るわ。
その間に…」

「駄目です!」

ロイヤル仮面が叫んだ。

「それではあなた方に危険が及びます。
僕が…」

「それこそ駄目よ。」

どうやら、この3人はそれぞれこれから起こす事をお互いに分かっているらしい。

「お前なら、我々の作る隙にここを逃げ出せる。」

「それに、私たちのことなら心配いらないわ。
こんな砲弾だって、永遠に続くわけがないもの。」

「…わ、分かりました……」

遂に彼も了承した。

「必ず無事でいて下さいね。」

ロッソとヴィオーラは頷くと、ストームソーダーのソードを開いた。

「…ソードを?」

「何だって?」

その外で戦闘をしている2人はそれに目を見張った。

「砲撃開始!」

「そこでじっとしていろ。」

「分かっています。」

ヴィオーラの合図と共に2機のストームソーダーが砲撃を放つ。
残りの1機はその後ろでほぼ静止状態を保つ。

「一体何を…」

「しまった!
ミラ、砲撃コントロールを完全手動制に切り替えろ!!」

「遅い!」

するりと後ろで待機していた1機が、そこから抜け出した。

「しまった!」

すぐにレイノスに近付き、その戦闘に参加する。

「おい、一体何を…」

「簡単なことだ。」

キースの疑問にすぐに答えは返ってきた。

「相手はおそらくゴルドスで、高性能なレーダーを使用しています。
判別した敵の中で、生命力の高いものを攻撃するようにプログラムされているんです。」

「つまり、元気な奴から落としにかかるわけか。」

「そう言うこと…きゃあ〜〜〜っ!!」

キースがそう言った瞬間、ストームソーダが1機落ちた。

「ヴィオーラ!!」

「くっ!」

やはり攻撃が集中し、それを避けきれなかったのだ。

「うっ…」

ガッ!

パラシュートが開き、ふわふわと落ちていく。
無事脱出したようだ。

「ほっ…」

それを見届け、脱出していたロイヤル仮面は安堵の息をはいた。

「1分……」

それとは別に、冷たい声がした。
急に、あの嵐のような砲弾が途切れた。

「ナビガトリア様…」

案の定またあの男の声が聞こえた。

「通常砲弾の装填までに時間がかかります。」

「そんなことは分かっている!
どれだけかかる?」

その言葉に、少々いらだちが隠しきれなかったようだ。

「…最速でも、3分はかかるかと……」

それを聞いた相手は、声が小さくなっていた。

「くそっ!ブラックレドラー、3分の間だ!!
それまでにこいつらを始末しな!
最低でも2体はね。」

おそらくはリリスの部下として動いている者達だろうが、彼女は全く気にしていないようだ。

「あぁ、嫌になる!
あと3体…必ず消し去ってやる!!」

感情が抑えられず、何に対してでもなく叫ぶ。

 

…暗闇の中で火花が散るようだ。
ブラックレドラーとレイノス、ストームソーダとサイクロンブレイダー、
長期戦になり、そろそろ決着が付きそうなものだが…

「まだあと2分必要か…」

時間が経つのが異常に遅く感じられ、そして戦いには大きな変化が見いだせない。

「そろそろケリを付けるぞ!」

「ロッソ、そろそろ終わらせましょう!」

キースとロイヤル仮面がそれぞれ叫ぶ。

キャン…

ストームソーダはソードを開き、発光させる。

「鬱陶しい…」

レイノスがそれを阻止せんとして発砲する。

「うわっ…」

「させるか!」

そこをブレイダーが後ろから迫る。

「相変わらず…くっ!」

レイノスはそれを避けようと上昇。

「今の内にストームソーダーを撃破するぞ。」

「それはどうかな?」

「何?」

ブラックレドラーは少し怯んだストームソーダーに襲いかかるとしたが…

「ぐわっ!」

「ちっ!後ろに1機いたか!!」

ロッソに奇襲され、数機が撃墜。

「…グライダー?」

だが、そのパイロット達はグライダーを使い脱出。
すぐにこの場から遠ざかってしまった。

「くそっ!まだだ!!」

だが、残りのブラックレドラーがすぐに向かってきたために後は追えなかった。

「うっ…何時までもしつこい奴。
でもブレードがあるのなら、近付くと危険……」

レイノスの後ろにはブレイダーがすぐそこまで迫っている。
彼女は冷や汗を一筋流した。

「……逃げてばかりでは能無しに変わりない。
やってやろうじゃないの!!」

レイノスが急な旋回をする。

「くっ!」

キースもすぐに後を追う。

「旋回能力だけなら、負けない!」

相手は既にさらに旋回しており、ちょうど向き合う形になっていた。

ババババババ、ババババババ!!

「サンダー、ブレイダー!」

レイノスの砲撃が迫る。
避ける暇など全くない。

「消えろ!」

「そうはいかないぜ!」

ブレイダーはその砲弾の中に突っ込んだ。

「うっ…」

「ちいっ!」

ブレイダーに何発か砲撃が当たった。
しかし翼は何とか免れ、何とか飛行可能な状態だ。

「これで決めるぜ!」

「ブレードか!」

レイノスは砲撃をやめ、その場から離れようとしたがこの距離で逃げ切れるわけもない。

「うわ…」

ジャアアァァァ!!

レイノスの機体が切り裂かれる。

ババババァン!!

「やったか?」

「ん?」

「あっ…」

キースは背後の様子をモニターに映しだした。
ちょうど最後のブラックレドラーを落とし終えたロッソとロイヤル仮面もその方を見つめた。

 

ジェノザウラーとレイノスが、黒い煙の中に姿を隠した。

「どうだ…?」

それを、周りで見守る者達……

「バン、おかしいぞ!」

異常に気が付いたのはトーマだった。

「ジェノザウラーからオーガノイドとリリスが脱出していない。」

「あっ…!」

「何だって!?」

「こっちもだ!」

キースの声だ。

「レイノスが落下しない…
まだ煙の中にいる。」

辺りに再び緊張感が走る。

「くっ…」

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!

サイクスが、ストームソーダがその煙の中に砲撃する。
そこから少し煙がはれていく……

「…………」

ドドドーーーン!!

砲弾がその煙を突き抜けた。
どうやら、敵の機体には当たらなかったようだ。
さらに緊張が増し、残ったその煙の中を凝視する。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!

「ぐあぁっ!」

『ギャアアアァァァン!』

「アーバイン!?」

まだ残っていた煙の向こうから、パルスレーザーガンが放たれライトニングサイクスに命中。

 

「惜しかったわね。」

バババババン、バババババン!

「くっ!」

ロッソのストームソーダは何とかそれを避けた。
地上でも、空中でも、先の砲撃により煙ははれてしまった。

「よくも此奴をこんなにしてくれたわね。
結構気に入っているのよね、レイノス……」

先程斬りつけられた左の胴体部分から火花が散っている。

「あれで飛んでいるのか!?」

あんな状態では火を吹いて飛行能力を失いかねない。

「バチバチ五月蝿いわね。
…雨の中じゃ、ショートするかしら?」

カチッ、と何かスイッチを押してその後表示された画面を操作する。

『ピー、ピー、ピー、ピー…』

「やかましい!」

警戒音が鳴るが、無視して操作を続ける。

「え…?」

青白い火花が勢いを無くし、ついには消えてしまった。

「さぁ、勝負だ!
借りはきっちり返さないとね。
クククククク…」

 

「どうやってかわしたんだ?」

ジェノザウラーの装甲にはあちらこちらに傷が見られたが、特に大きな負傷は見られない。

「このジェノザウラーを他のジェノザウラーと同じように見ていたのかしら?
だとしたらそれは大きな間違いなのよ。」

「くっ…」

アーバインをかばおうと、バンはライトニングサイクスの前に出る。

「いい加減にしろ!」

「レイヴン!」

と、背後からかなりの勢いでレイヴンが飛び出てきた。
ジェノブレイカーがジェノザウラーに襲いかかる。

「ふぅん、あと4分ね…
それよりもそろそろ自分の限界くらい、分からないのかしら?
足下がふらついているわよ。」

「く…」

エクスブレイカーから逃れた緑色の機体は、尾を使い相手を襲う。
何とか避けアンカークローを放つが、相手に当たらない。

「まだまだだ!
頼むぞ、ジーク、ライガー!!」

『ゴアアァッ!』

『グオオオォォン!!』

そこにバンも加わる。

「言ったでしょ?
カリスを呼ぶまでもないって!」

姿勢を変え、飛びかかってきたライガーの攻撃を避ける。

「喰らえ!」

背後からジェノブレイカーがまた襲いかかる。

「本当にオーガノイドを載せているの?
動きが鈍すぎるわ。」

だが攻撃が成功することはなく、逆に相手のアンカークローに捕まってしまう。

「レイヴン!」

その背後から、またブレードライガーが飛びかかるが

ジャ…

「ぐあぁっ!」

尾で叩き落とされてしまう。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!

「ぐっ!」

そしてレイヴンもパルスレーザーガンの攻撃を受けてしまう。

「まだだ!」

ブレードライガーがブレードを開き、黄色い光が満ちていく。

「うおおおおおお!!」

ブレードライガーはまた駆け出す。

「当たったらひとたまりもないわね…」

ジェノザウラーも振り返り、それを見つめる。
次第にその距離は短くなってきた。

「いっけええぇぇぇ〜〜〜〜〜!!」

ジェノザウラーの目の前に、黄色い閃光が迫る。

ガッ

「何!?」

バンは上を見上げた。

「人の忠告には耳を貸すものなのに…」

リリスの声だ。

「運動性能が高いと言うこと、まだ分からないのかしら?」

「くそっ、あそこまで飛ぶのか…」

ブレードライガーは相手を見た。
予想以上に高く飛び上がられ、攻撃が当たらなかった。
姿勢を低くし、相手の隙を窺う。

「…あれを避けるとは……」

トーマはディバイソンの中でデータを整理していた。

「う…おいトーマ、どうにかならねぇのかよ!」

急に通信がつながった。
辛うじてアーバインも気絶することからは免れたらしい。

「すぐには立てられん!
いや、それより…」

「行くぞ、バン!」

「あぁ!」

ジェノザウラーはブレードライガーとジェノブレイカーと戦っているが、全く不利な様子を見せない。
現に今も、2人の挟み撃ち攻撃をかわして反撃に出ている。

「それより、バンやレイヴン、お前にキースの体力はとっくに限界に来ているはずだ。
このままでは…」

「そうだ、キースの奴!
高速飛行ゾイドの負荷じゃ、もう耐えられないぞ!」

 

「ふぅ…」

キースは汗だくになっていた。
相変わらず目の前にはあのレイノスがいる。

「なかなか難しいですね…」

旋回、旋回、旋回…
のらりくらりと攻撃をかわし、その合間に砲撃を繰り返している。

「気を付けなければ同士討ちになるぞ。」

「それだけはごめんだな。」

どうやら相手の狙いはそれらしい。
何度かお互いがぶつかり合いそうになった。

「侮れない、か…
一つくらい落ちるかと思ったのに。
仕方ない。
おい、そっちはどれだけ準備ができた?」

まだ何かあるのだろうか?
通信の相手にはミラの時とは別な相手が出た。

「大体98%くらい。
いつでも出られるよ。」

「そう…下の様子次第だ。
しっかり見ておけ!
……ミラ、聞こえるか?」

通信が繋ぎ変えられたようだ。

「はっ、まだ…」

「違う、ω用の砲弾の準備は!?」

相手の言葉を遮り、怒鳴るように言いつける。

「はっ、ω……既にそれについては別の機体が確保しています。」

「いいだろう……くっ!」

旋回と砲撃を繰り返しながら、さらにまた回線を繋ぎ変える。

「ダバラン・アルキオネ!」

…どうやら新手のようだ。

「配置は?
くっ、こいつら…」

その間もストームソーダのソード、ブレイダーのブレード、そして砲撃とが次々と迫る。

「完了しました。」

「指示通りにしろ。
今は待機だ。」

「御意!」

レイノスは3機の攻撃をすり抜ける。

「…近付いても逃げられる、遠くから撃っても当たらない……」

「ならば、逃げられなくするまでだ。」

「だとしても、どうやってやるのですか?」

アーラバローネの残りの2人はなにやら相談しているようだ。

「とにかく今は、容易に近付かぬ方が良いだろう…」

「怯んだところを俺がケリを付けてやる。」

それにキースも参加…どうやら、決まった様子だ。

「行くぞ!」

「くっ…」

銀色の機体が距離を取ってレイノスを囲む。

ババババババ、ババババババ!!

「うっ!」

さすがにレイノスといえども、それを避けきることはできない。

「これで終わらせるぜ!」

「ちぃ…」

動きが鈍ったそこへブレイダーのブレードが迫る。

 

前に戻る        続きを読む

コーナーTOPに戻る         プレゼントTOPに戻る         TOPに戻る