「過剰な巡り合わせ」
〜時の語り〜

 

「何だか暑いな。
カンカン照りだ。」

昼下がりの午後、キャンプの片付けをしていた彼ら。
だが、陽射しは容赦なく降り注ぐ。

『キュオオォン…』

最初にトテトテと遺跡に入っていったのはエクサだった。
あまりの暑さにオーバーヒートしそうになったのだろうか?

「…遺跡か。中は少しくらい涼しいかもな。」

「少し休んでから行きましょ。
もうヘトヘトだわ。
まさか片付けだけでこんなに汗をかくなんて。」

体中の水分を奪うこの気候に耐えられず、皆はその遺跡に入った。

「…暗いな。
入り口がここしかないのか?
お〜い!どこ行ったエクサ!!」

内部は確かに涼しかった。
だが、そこには昼間とは思えないほどの闇が広がっていた。

「近くにいないのか?
目も慣れ始めたし、ちょっと奥の方に行ってみるか。
ムンベイは待っていてくれ!」

「あぁ、ちょっと!
待ってよラウト!」

タンタンタンと走っていく音がして、ムンベイはそこに取り残された。

 

「ホント、好奇心旺盛なんだから。
あいつ…どこ行ったんだ?」

いくらか経った頃、まだラウトはあっちこっちを歩いていた。
足音はしても反響するために相手の位置を特定できないでいたのだ。

「どこ行ったんだよ、本当に。
あれ…?」

微かに、カシャッという音が聞こえた。

「ここか?
あっ、いた!
おい、エクサ!!」

『キュアオン?』

エクサは、積み上がった瓦礫の前できょとんとした顔(声)をして突っ立っていた。

「全く、すぐ姿をくらますんだから…。
ムンベイが待っているから早く戻るぞ、エクサ。」

『キュアッ!
……キュウ、キュアアッ?』

返事をしたかと思えば、今度は急に首を傾けた。

「ん?足音…
…ムンベイか?」

その足音は、どうやらこっちに向かっているようだった。
と、懐中電灯のモノらしい光が見えた。

「あっ、ムンベ…」

「わっ!!」

そう言ってムンベイは角を曲がってこちらに顔を見せる瞬間、驚かせようとした。
肝試しの時などにやるように、懐中電灯の光を自分の顔の下の方から当てて…

『キュククアァッ!!』

「うわっ!!?」

いきなり辺りは青白い光で照らされた。
そうなったかと思うと、今度は急にドーーーンと言う音がした。

「なっ、何すんだよエクサ!!」

「きゃっ!」

地が揺れる。
とっさに二人は頭を抱えた。

 

パラパラパラ…

「…とにかく、震動は治まったか。
ったく、ムンベイもエクサを驚かせるなよ。
あいつ、臆病者なんだから…」

「だってあそこまで驚くなんて…」

ムンベイはドキドキしながら辺りを見渡す。

「あ?
エクサの奴、瓦礫の隙間にはまったな。」

『キュオォォォ……』

ラウトは「はぁ、またかよ」と言いつつ、
そこからエクサを引っ張り出すためにそこへ歩いていき、その瓦礫の山によじ登った。

「もう、どうしてこんな散々な目に遭うのよ!」

ムンベイはそう言いつつ、体中の埃をはたき落としていた。

「全く、ガスコンロにすれば良かったわ!
懐中電灯じゃ、辺りを明るくできないもの。」

そうぶつぶつ文句が聞こえる頃、
ラウトはどうにかエクサをその隙間から引っ張り出そうと試みていた。

「うっ、くっ…ちっ!
自分からはまるなよ。
結構大変だぞ、これ……」

『キュウゥ……』

カチャカチャという音だけが起きて、他は何も変化がない。

「くっ…踏ん張るしか…
…いくぞ!せぇのっっ……………!!」

『キュッ、…キュオォアアァッ!!?』

ガラガラガラっと、瓦礫が落ちる音がして、彼らはそこから投げ出された。
ドンッ、とじめんに叩きつけられる。

「っつ、たっ…痛っ!!」

「ちょっと!大丈夫!?」

ムンベイが慌てて駆け寄る。

「うっ、…エクサは?」

「エクサ?」

ふと、別の所にとばされた水色のオーガノイドの方に懐中電灯の光を当てた。
『キュアアアァ?キュオオォン??』

エクサは、仰向けの姿勢になったまま、そんな語尾が疑問系の言葉を発していた。

「…平気そうだな。」

「は?」

ムンベイはその根拠が分からずに、思わず口を開けた。

「“ここはどこ?
何で景色が逆さまなの??”だってさ。
呑気な奴。」

「あぁ、なるほどね。」

それを聞いてムンベイは少しばかり呆れた。
もしかしたらジークよりもずっと子供っぽいのではないだろうか?

「相変わらず自分のペースで生きてるな、あいつは…
…ん?」

「えっ、どうかしたの?ラウト。」

ラウトがじっと一点を見つめるので、ムンベイはその方に懐中電灯の光を向けた。

「隙間…穴か?
何だか風がながれているような気が。」

「えっ、風…?」

ムンベイは訳が分からず困惑した。
ラウトは先ほどの瓦礫の山にまたよじ登り、その隙間に近づく。

ヒュウウゥゥゥーーー…………

微かな風が、頬に当たる。

「…やっぱり風がながれている。
この先に空間があるのか?」

『キュアアアアァ?』

さっき自力で起きあがったらしいエクサも近づいてきた。

「上手くいけばこのでっかいのを倒せるか…
ちょっと危険だから離れてろ。」

「ちょ、ちょっと!なに言ってるのよ!
あんたさっき打ったばっかりじゃない!!」

ムンベイの声に耳を貸さず、そのままその隙間を広げようとその瓦礫を押し上げた。

「……………くっ、上がれ〜〜〜〜!!」

パラパラと音がする。
どうやら、それは確実に持ち上がっているらしい。

「ここにいたら危険じゃない!
さがるわよ、エクサ。」

『キュイ!』

ムンベイとエクサは、急いでその場からさがった。
その次の瞬間、その大きな瓦礫がグラッと揺らいだ。

ドドーーーーーーーン!!

「きゃっ!」

また土煙が立った。今度はタンッと言う音がして、ラウトが無事に着地したのが分かった。

「やっぱり、あったな。」

さらに下へと続く階段を見て、右腕を押さえながらラウトはそう呟いた。

『キュアァ?』

エクサも興味深そうにそこを覗き込む。

「もう、今日はやめ!!」

と、後ろからムンベイの大きな声が聞こえた。

「一体今何時だと思っているのよ!?
とにかく、もう夕方にはなっているわね。
今日は仕方ないからここでテントを張るわ!
暗くなる前に張らないと大変だから、手伝ってちょうだい!
そこを降りるのは明日の朝!」

「あぁ、分かった。」

ラウトはすぐにそう言った。
いや、そう言わざるを得なかったのかもしれない。
とにかく、ムンベイのその表情は険しかった。
エクサは、こっそりラウトの後ろに隠れるようにしていた。

『キュウゥゥゥ……』

「…本当に臆病者だな、エクサ。」

背後でぶるぶる震えているエクサを見て、ラウトはそう呟いた。

 

光を感じ、ラウトは瞼を開けた。
東の地平線には、まだ太陽がかかっていた。

「…朝か。
ふあぁ〜、おはようリムラ。」

『グウウゥゥ…』

起きあがってリムラに話しかけるラウト。
彼はいつもレドラーのコクピットで寝ている。
何でも、ふかふかした布団やシュラフでは眠れないのだとか。

『キュオオ…』

「エクサもおはよう。」

くすっと笑ってそう言う。
昨日、エクサは結局ビクビクしたままで眠ってしまったのだった。

『キュアオオ〜〜〜〜〜ン!』

「やっぱり、昨日のことは忘れてそうだな。
まぁ、あいつらしいけど。」

その様子を見て大体のことを察する。
結構長い間一緒にいるので、そこら辺のことは分かりきっている。

『キュウゥ?
キュオオオオォォ?』

エクサはちょっと首を傾げてそう言うと、カシャカシャ音を立てて歩き出した。

「ん?
おい、どうしたんだ?
…一体どこ行く気だよ。」

ラウトもヒラリとレドラーから降り、エクサを追いかけた。

 

「って、昨日の遺跡かよ。
どうしても気になるのか?
まぁ、いつものことか…
遺跡を見つけると、お前はくまなく内部を調べるからな…
一体、何を探しているんだよ?」

『キュアアァァ?』

ラウトの問いに対して、首を傾けるエクサ。

「…ま、いいけどさ。
俺もあんたのおかげで暗いところには慣れたから。
つきあうぜ。」

『キュアァッ!』

エクサが嬉しそうにそう言うと、彼らはその遺跡の内部に入っていった。

 

「って、またここなのかよ。」

ラウトは呆れてそう言った。
目の前に見えているのは、昨日発見した下への階段。

「しょうがない。
とにかく降りるぞ。
足元に気を付けろ!」

『キュアァッ!』

足音がその空間に響く。
階段の下には小さな部屋があったが、そのひとつしかなかった。

「何だ、ここは…?
でも、どうやら調査済みらしいな。
壁から石版が外されたみたいだ。
やっぱり今回もハズレみたいだな、エクサ。」

『キュオオオォン…』

エクサは少し寂しそうにそう呟いた。

 

 その後しばらく共同で辺りを隈無く探した。
だが、やはり全て持ち帰られたのか石版の破片一つも見つからなかった。

「やっぱりなんにも見つからないな。
とにかく、戻ろうぜ。
ここ以外の場所を探…
…ん?
またムンベイが来たのか?」

さっきよりもほんの微かに辺りが明るくなった。

「ガスコンロだな。
足音が小さいのに光がある。
それに青白い。」

『キュアァ?』

エクサも首を傾げる。
足音はこちらに近づいてきた。

「おい、ムンベイ!
あんたまでここに来る必要はなかったんだぜ?」

「いいじゃない。
気になったんだから。」

てっきりまだ眠っていると思っていたムンベイが、彼らの前に現れた。

「おはよう、エクサ!
昨日は驚かせて悪かったわね。
何か手伝えることがあったら私も手伝うわ。」

そう言って、ムンベイは階段を下りきろうとした。

カーン…

『キュアッ!?』

その階段の最後の段の足音にエクサは反応した。

「どうかしたか?エクサ。」

「ん?どうかしたの?」

辺りをきょろきょろするエクサ。
二人は顔を見合わせた。

「何だ?」

「さぁ?
きっと何か見つけ…」

『キュアアッ!!』

奥の壁の前で、エクサは急に立ち止まった。
そしてその壁を睨みつけた。

『キュアアアッ!!!』

ダダーーーーーーーン!!

「きゃあっ!」

「なっ、何すんだよエクサ!!」

いきなりエクサは尻尾を壁に打ち付けた。
だが、それでも効果がないと見ると、
今度は少し離れ、そこから飛んで頭突きをした。

ドドドドーーーーーーーーン!!!

「くっ、何だ?」

「殺す気!?」

ものすごい轟音と共に、辺りは一瞬にして視界がきかなくなった。

 

ガラガラッ…ドドドドーーーン
パラパラパラ……

ようやく震動が止み、二人は顔を上げた。
土煙の向こうにぽっかりと空いた穴ができていた。

「ったく。
よくこの遺跡が崩れなかったな。」

「ちょっと待てよ。
エクサは?」

ムンベイは辺りを見回した。
だが、灯りを消したので土煙以外他には何も見えなかった。

「これに当たらないですんで良かったわ。
でも、今は役に立たないわね。」

ムンベイは腰に手を当て、「はぁ」と溜め息をついた。
ラウトも相槌をうつ。

「……もしかすると、あの先に空間があったのか?」

「と言うか、それしか考えられないわね。
先に行ってみましょ。」

「あぁ。」

二人はその先へと行くことにした。
壁伝いに穴を探し出すと、また青白い炎が上がった。

 

 古より、それは“古代ゾイド人”と言われる者の所有物だった。
この時代に次々と目覚めている、彼らの…

「げほっげほっげほっ!
ああん、もう!
埃を吸い込んじゃったわ!!」

「…ムンベイ、無理してついてこなくてもいいんだぜ?」

ラウトがそんなことを心配する。
彼らはどうにか穴を通り抜け、通路らしいところを歩いていた。

「足跡からして、こっちに来たんだろうけど…
一体どうやってここに気付いたんだか。
あの壁、結構分厚かったぞ。
それに、隠し通路があったわけでもなかったのに。」

「ここは、軍の調査団だって気が付いてなさそうね。」

しばらく歩いていると、広い空間に出た。

「あっ、いたいた。エク、サ………?」

ラウトはそれを見た瞬間、固まってしまった。
それほど、いつもの様子と違ったのだ。

「どうした…?」

「ちょっとそれ!!」

ラウトが重々しい雰囲気を感じているのとは対照的に、
ムンベイは実に楽しそうな声を上げた。

「それって、お宝じゃない?
銀の剣!!」

ムンベイは目を輝かせた。
この人、お金やお宝には目がない。
エクサがくわえている銀色をした剣に、目を奪われていた。

「それ、見せてちょうだい!!」

『キュアアアアアッ!!!!』

エクサはいきなり姿勢を低くして、攻撃態勢に入った。
その剣をくわえまま……

「えっ、ちょちょっと…エクサ?」

『キュウウウウウ…!』

やっぱり、いつもと様子が違っていた。
いつもはとても友好的なのに、今はかなり非友好的…
とにかく、敵意をあらわにしている。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!
あたしが何したっていうの!?」

さすがにこれにはムンベイもひいた。

「…ムンベイ、さがれ。
ただ事じゃないぞ。」

「そんなの分かってるわよ!」

ムンベイが声を荒げる。
無理もないだろう。この状況なのだから。
とにかくムンベイは、通路の方まで下がり、
それを確認したラウトは、ジリジリとエクサに迫った。

『キュウゥ…キュアアァーーーーーーー!!』

「あっ!!」

エクサは光を噴射しながらラウトに向かってきた。

タッ…

だが、ラウトは攻撃をかわすのが得意だ。

『キュウウゥゥゥ…』

攻撃を避けられたため、急に止まったエクサは自分の右の方にいるラウトをじっと見た。
ラウトも身構える。

「ちょっと!正気なの!?
ああんもう、見てらんない!」

一方、ただ見ているだけのムンベイも異常なまでにハラハラしている。

「………………………」

ラウトは何も言わないで、ただじっとエクサを見つめている。
先に動いたのはエクサだ。

『キュアアッ!!!!』

先ほどと同じように跳びかかる。
もちろん、ラウトはそれを避ける。
だが、その後が先ほどと違った。

『キュアアン!!』

ビュウウゥン!

ラウトが避けたすぐ後、エクサはすぐに尻尾で襲いかかった。

「!?」

次の瞬間、ラウトの体は宙にあった。
かわしきれずに吹っ飛ばされたのだ。

ババンッ!!

「…った、くそっ!!」

勢いよく壁に叩きつけられ、そこから床に落ちた。

「ちっ、昨日打ったところに…」

ラウトは痛みをこらえながら右腕をさする。
それでもまだ、エクサの様子は変わらない。

『キュアアアッ!キュアアッ!!』

もう一度尻尾で攻撃しようとしてビュンと風を切る音がした。

ダダーーーーーーーン!!

だが、その攻撃はすんでではずれ、壁に痕ができた。

「尋常じゃねぇ、か。
ま、そうじゃなくても変わらねぇけど。」

ラウトは形勢を立て直し、もう一度エクサを睨んだ。
視線と視線の間に、冷たい空気が流れる。
今度動いたのはラウトの方だった。

ダッ……

エクサに向かって一直線に走っていく。
急に向かってこられた方は、理解できずに戸惑った。
だが、彼のねらいはこれなのだ。
この、相手の動きが鈍る一瞬。

『キュアアッ!!!!』

だが、剣に手が伸びた瞬間、エクサはとっさの判断をした。

ビュッ!!

タンッ!

風を切る音と地面を蹴る音がしたのは、ほぼ同時だった。
ラウトはその剣を引き抜き損ねた。

「なるほど、な。
やっと分かった。」

ラウトは息を吐いてそう言うと、またジリジリと向かっていった。

『キュウゥ…キュアアアァァ!!』

一瞬、エクサは判断を迷ったが、
ラウトの方に突っ込み、そのまま尻尾で攻撃しようとした。
だが…

タン、タンッ!

『キュアアッ!?』

ラウトはそのどちらの攻撃もかわし、
エクサが気が付いたときには、顔の真ん前にいた。
慌てるが、とっさに次の行動が出なかった。
彼の右手が伸びてくる。
自分がくわえている剣の、その方には鍔は…ない。
何が何だか分からず、しどろもどろになる。
と、彼の手が、剣ではなく、自分の顎の部分に触れた。

『キュ、キュウウゥゥゥ?』

その手は、自分を優しく撫でている。
ますます訳が分からなくなるエクサ。
と、彼の表情から緊張感が消え失せた。
細く長い溜め息が聞こえる。

「ふうぅ。
…あのなぁ、俺はあんたの大切なもんなんか取らないって。
全く、臆病者め。」

ゲンコツで頭をコンとたたかれ、エクサは首を傾げた。

『キュウゥ?』

「ったく、おかげでこっちは慣れないことをさせられて疲れたよ。
全く、らしくない行動なんか取るんだから。
…うっ」

そのまま、ラウトは右腕を押さえてムンベイの方を振り向いた。

「ムンベイ!もう戻るぞ。
ここにはもう用がなさそうだしな。
それに右腕が痛くて敵わない。」

ラウトにそう言われたムンベイは、ただただ唖然とするだけだった。
それから、やっと我に返ってこう言った。

「何しているのよ、全く!
おかげで寿命が縮んだじゃない!
…もう。早く地上に出るわよ!!」

「はいはい、悪かったな…
俺はこういう性格なんだよ。
とにかく、戻ろうぜエクサ。
用は済んだんだろ?」

ラウトが振り返ると、「キュアッ!」と言っていつものような顔(声)をしているエクサがいた。
それを見て安心し、この部屋から出ようとした。
だがふと、足を止めてこう呟いた。

「そういや、石版の現物を間近で見たのは初めてだったな…」

先ほどまで自分のいた部屋を振り返る。
壁にはびっしりと古代文字が浮き出ていた。

「こうなるんだって分かってたら、あれの文字の勉強をしておいたんだけどな。」

「ちょっとラウト!
何してるのよ!?」

「あぁ、悪い!」

ゆらゆら揺れる、ガスの青い炎を追いかける。
エクサもラウトの後を追いかけてくる。
そして彼らは、この遺跡に再び立ち入ることはなかった。

 

「あたっしは〜(キュアッ♪)
荒野の〜(キュアッ♪)
運び屋さ〜〜〜(キュ〜キュアッキュ、キャッキュオ〜〜♪)」

運び屋の一団は、それから怪我の手当をした後、朝食を取った。

「楽しけりゃ〜(キュア♪)
それで、いいのよ〜(キュア、キュキュキュ、キュアッ♪)」

それからすぐに荷物をまとめ、再び荒野に繰り出していた。
なお、あのエクサの大事な剣は、ラウトによって黒い布に包まれ、リムラの中に隠してある。
リムラは、未だにムンベイに心を許していなかった。
多分、この先もリムラが心を許すのはラウトだけであろう。

 

カーン、カーン、カーン、カーン…

時計台で鐘が時を告げている。
あの遺跡から去った一行は、物資の輸送先であるカルドレーラタウンという場所にに来ていた。
ここの一番の特徴は、古くからある迷路のようになっている町並みだ。

「おい、ムンベイ。
どこに行くんだ?」

「え?」

地図を見て歩いていたムンベイは、ラウトにそう言われて振り返った。

「そっちは行き止まりだぞ。
遠回りだけどこっちから行かなきゃ戻れない。」

「え?
あっ、そうなの?」

ムンベイは慌ててラウトが歩く方の道へ行った。

「………はぁ。
あんたの記憶力にはホント参ったわ。
どうやったら一度でこんな入り組んだ道を覚えられるのよ?」

そう言ってムンベイは呆れた。

「同じようで違う道があるから覚えられないわ。
地図も頼りにならないし。」

彼女が片手にしている地図がクシャッとなる。

「そんなこと言ってる場合か?
運び屋さんが。」

「分かってるわよ、ラウト。」

そう言うとムンベイはラウトの後ろを歩いた。

 

 程なくして、彼らは狭い道を抜けた。
と同時に、一つ溜め息が聞こえた。

「ホント、あんたの記憶力はたいしたモンね。
一度歩いただけなんでしょ?」

ムンベイはまたそう言って呆れる。
ラウトはなんでもない事だというように答える。

「昨日一通り歩いたけど?
レスレクションシティの時もそうだっていっただろ?
あれは二日間だったけどさ。」

「・・・ふぅ、どうやったらそんな風になるのか不思議ね。
まあいいわ。
ラウトは先に戻っててちょうだい。
ちょっと情報を集めてこれからどこに行くのか決めるから。」

「分かった。」

そう言ってムンベイは人混みの中に消えた。
ラウトはそれを見送って反対方向に歩き出した。

「さて、エクサの所に戻るか。
…なんか胸騒ぎもするし、早く帰った方が良さそうだな。」

が、彼は縁があるのかそれともただ単に運が悪いのか…
とにかく、こんな光景に出くわす。
それは彼が小高いところに来たときだった。

「…へ?」

ラウトは思わず手をかざす。
地平線近くに、何やらゾイドのようなものが見える。
なんでもない光景のはずだが、そうではなかった。
それらの数が異様に多いのだから。

「なんか、とことんだな…レスレクションシティの時から。」

彼は「はぁ」溜め息を吐いた。

「分かんないけど、とにかくそれなりの心構えはしておいた方が良さそうだな。」

そう言うと彼は駆けだした。

 

 今日、ムンベイのグスタフとラウトのリムラ、それにエクサがいる場所はオアシスのほとりだった。
水の豊富なそこの近くには、森林が鬱蒼と生い茂っている。

「…なんだ?」

その森の所まで来たとき、彼のカンが騒いだ。

「何か、いる……」

ラウトには妙な胸騒ぎと共に、なぜか行くべきだという考えが起こった。

「しゃあないか。
武装は普通にしたから、よっぽどのことがない限り問題ねぇだろ。」

もう既に彼は戦闘モードに入っていた。
何がいるのか分からないその森に一歩踏み出す。

ガサッ

 

『キュッ!?』

その頃、エクサもその向かってくる集団の気配に気が付いた。

『キュ、キュ…?』

『グウウゥゥゥ…』

その隣で赤いレドラー、リムラも唸り声を上げた。

『キュ、キュ、キュウウウウ〜〜〜〜!!』

エクサは慌ててグスタフの荷台にあったシートの下に逃げ込み、隠れてしまった。

『グウウゥゥゥ…』

リムラは、忌々しそうにまた唸り声を上げ、それからズシン、ズシンと地を踏み鳴らした。

 

「やっぱり、いるのか。」

ラウトはもう、その森の奥の方まで来ていた。
辺りは沢山の木々に覆われて視界がきかない。
「上手くカモフラージュしているらしいが、気配がする。
あれは…レプラプターか。
他にもまだいそうだな。」

ちょうど彼がそう言ったとき、木々の影から突如として深緑色のレプラプターが姿を見せた。
カシン、カシンと足音を立てながら、どうやら砂漠に向かうらしい。
複数のその影は、すぐにそこから去っていった。

「…そろそろ行くか。」

足元で幾度も枝が折れる音がした。
だがラウトは気にせず、先ほどレプラプターが出現したところに近付く。

「迷彩か。よくやるモンだ。
だが、ゾイドがでるんなら意味無いな。
こんだけ木を切り倒しゃあ、見つけるのは容易だ。」

先ほどレプラプターが出ていったらしいその場所は、緑と茶の迷彩色に身を包んでいた。
そしてその建物の入り口の前は木を切り倒されており、ゾイドが出やすいようにしてあった。
奥にはまだガイサックが見える。
他にも何人かがそこの辺りをうろついている。

「ガイサックも出るのか…ご苦労なことだ。
しばらくは息を潜めていないといけないらしいな。」

しばらく待っていると、やはりガイサックもそこから出ていった。

「今、行くしかないか…」

樹の陰から出たラウトは、そのままゾイドの格納庫らしいそこに入り込んだ。
物陰に隠れつつ、人の目を見てタイミングを見計らい、上手く内部に入り込んだ。

「…精鋭はもう出ていったのか?
しゃあない、さっさとここを片付けて出た方が良さそうだな。」

そのまま、ラウトは通路を駆けていった。

 

「(…いた!)」

通路の途中にあった入り口からは、灯りが漏れていた。
壁に背を当てて耳を澄ますと、人の話し声が聞こえてくる。

「…やるか。」

先ほど別な部屋で盗んできたと思われる物の山を確認していた。盗賊以外何者でもなさそうだ。

カツン!

「なんだ!?」

ラウトが通路で物音を立てると、見事に中にいた彼らは振り向いた。
すぐにビュッ、と風を切って黒い塊が彼ら目掛けて飛んでいく。
そう、飛礫を投げたのだ。

「なっ!?」

「うわっ!!」

相手が目を瞑った瞬間、ラウトは中に駆け込んだ。

ドスッ!

「ぐっ?!」

まずは手前の相手の鳩尾に一発。
相手が気を失ったところでもう一人の方に針を投げつける。

「わっ!!」

先ほど攻撃を受けて倒れ込もうとしている相手にトドメの一発を首の後ろに食らわすと、
続いてもう一人の方にも…

「ぐはっ!」

その男も先ほどの男と同じようにして床に倒れ込んだ。

「やっぱり精鋭は出ていったか。
呆気なさすぎる。」

ラウトはそう呟くと、落ちた飛礫と針を拾った。

 

乾いた音がリズムよく辺りに響く。
もう数分時間が経っていた。
だが、あれからどこへ行っても人っ子一人見かけない。

「ここも何もなしか…」

今彼は何もない部屋を調べていた。
だが、やはりなんの痕跡もない。

「まさか、罠……」

あまりの不自然さにそう呟いた、その瞬間だった。
ビュッと音がして、ガカカカーーーンと壁にナイフが刺さった。
右手を見ると、五芒星が刺繍された手袋にナイフが掠った痕があった。

「まずったか。」

そう言ってラウトはナイフが飛んできた方、真後ろの部屋の入り口を振り返った。
やはり人影は見えない。
が、気配はあった。
ガチャン、と銃を構えたらしい音がした。

ダダダン!

銃が放った弾が当たったのは壁だった。
ラウトは宙を飛び攻撃をかわしたのだ。

「なっ!?」

その音と同時に男の子の声も聞こえた。
それが銃を使った者の正体だった。

「うわあっ!!」

さっき弾を放っていた銃は、ラウトの飛礫によって床に叩きつけられていた。
その男の子が銃を拾う暇もなく、またビュッ、という音がして、
そこを跳ね回っていた銃に針が突き刺さった。

「ちぇっ!
ただのガキかと思ったら、かなりのやり手のようだね。
油断したよ!!」

ラウトよりも年下に見える男の子の手には、また別のものが握られていた。

「命があるだけ、運がいいと思いな!」

ガンッと床を一跳ねしたそれは、プシューと白い煙を吐き出した。

「ちっ!煙幕か!!」

辺りは霧に包まれた。

 

「ええええええ!!
ちょっとちょっと、こんなのってありなのォ〜〜〜!!!」

ラウトがそんな目に遭ってる頃、ムンベイはそんなことを叫んでいた。

「どうしてこうあたしが何度も何度も盗賊に襲われなきゃいけないわけェ〜〜〜!!」

町のあちこちが被弾する。
爆撃の音は止まない。

「あ〜ん、もう!
今日は積み荷がないからまだマシだけど、いちいち盗賊の相手なんかしてられないわよ!」

ムンベイはグスタフの待つところへ急ぐ。
だが、そこの方向から盗賊がやって来たので、思うようにいかない。

「一体これをどうしろって言うのよ!
あ〜、こんな時にラウトはいないし…」

ビューーーン

「え?」

上空を一機、何か派手な色をした機体が通り過ぎていった。

「あれ、リムラ!」

そう、それは赤いレドラーのリムラ。

「良かった、ラウトが来てくれたのね!!」

だが、実際はそうではなかった。

──────────────────────────────────────────────

*アトガキモドキ*

結局前後に分けることになりました。
エクサの性格、古代じゃあり得ないだろうなと思っていたら浮かんできた話。
う〜、なんだか変な話。
またパクリだし(爆)
こんな変な文になりましたが、よろしくお願いします。


シヴナさんから頂きました。
本格的に連載開始ですね。
エクサは本当に臆病ですね・・・。
うちのサンダーと大違い・・・。
ラウトも結構強い。
そして、物語はいよいよ架橋へ・・・。
これからも頑張って下さい。
シヴナさん、ありがとうございました。

 

前に戻る     続きを読む
コーナーTOPに戻る         プレゼントTOPに戻る         TOPに戻る