「過剰な巡り合わせ」
〜課せられた試練〜

 

ビュビュビュン、ビュビュビュン!!

「くそっ!この赤無人レドラーめ!!
ちょこまかと…」

下にいるレプラプター、ガイサック、モルガ、コマンドウルフは、
上空を飛び回って射撃してくるレドラー一体にかなり手こずっていた。

「やばいですぜ、ボス。
向こうから自衛団のゾイドが来やした!」

「ちっ!
スカリビスの飛行部隊をこっちに回せ。
とにかくあのレドラーさえどうにかなれば上手くいく!」

「アイアイ・サー、ボス!」

盗賊は何かを呼び出そうとしていた。
それでも、この十数体からなるこの盗賊団は、
今はたった一体のレドラーにおされている状況だった。

 

一方、森の中はガサガサと物音がしていた。

「ちっ!
あいつ、姿を眩ましたか!」

ラウトはもうあのアジトらしき場所から出ていたのだ。

「まぁ、通信機器その他諸々破壊してやったから、乱れるだろ。
けどあいつ、一体どこに行ったんだ?
影も形もねぇ。」

そうぶつぶつ言いつつ、駆け足でオアシスがある…エクサやグスタフ、レドラーがいる場所へと向かう。
だが、その慌てていたのが仇となった。
ある一点で、何かが反射して光った。
その次の瞬間…

「うわっ!?」

ラウトはしりもちをつきそうになった。
樹の陰からか銃が放たれ、それは彼の顔の前を掠っていったのだ。
隣で樹が痛そうに悲鳴を上げている。

「ククク…チェックメイトだな、小僧!」

急に中年の男性が現れ、ラウトに銃を向ける。
銃を向けられれば、両手を上げるほか無い。
この少年も例外になくそうした。
だがそうした後、ふと彼は右手上空の方を見、またその男の方を見る。
それからその向けられた言葉に無表情な声で返した。

「チェックメイトっていうのは、どっちの事だ?」

「何?
…う、うわあ〜〜〜!!」

その男から見て左手から、赤い飛行ゾイドが砲撃して向かってくるのが見えた。

ダダダダ、ザザザザーーーン

「ぐああっ!!」

木々が倒れる。
それに巻き込まれ、その男性は下敷きになった。

キュイイーーーーン…

「なっ!」

空から砲撃した者の後ろから、突然青白い光が落ちてきた。
それは一直線にラウトの方へ向かってくる。

「うわっ!?」

彼はそのまま光に包み込まれ、この危険地帯から連れ出されていった。

 

 黄色い荒野に光がふわっと落ち、そして消えた。

「…ふぅ。
ありがとな、エクサ。」

『キュイ!』

目の前には水色のオーガノイド、エクサがいる。
すぐに赤いレドラーも辺りの砂を吹き飛ばしながら下り立った。

「ったく。
あんたも突拍子もない事するな、リムラ。」

『グウウゥゥゥ…』

赤いレドラーはそう唸った。
遠くで戦場の臭いがする。

「まぁ、助かったんだから礼は言うけど。」

『グウウゥゥゥ…!!』

急に、コクピットが開いた。

「分かってるよ。
言ってる間にさっさといかなきゃな。
今回も頼むぜ、リムラ!」

『キュウ…』

と、その後ろで心配そうな声がした。

「大丈夫だって。
エクサはムンベイの元へ戻っていろ。
あんたを戦場へはつれていけない。」

『キュッ…』

ラウトはすぐさま飛び乗ると、またあの戦場へと戻っていった。

『キュウウゥゥゥ…』

そこに残ったのは黄色い風と、とても不安そうなエクサだけであった。

 

 ラウトがその戦場に行くと、盗賊のレプラプター、ガイサック、モルガはもうほとんど片づいていた。
コマンドウルフも、もうあと3体しかない。

「くそっ!スカリビス、まだか!!」

盗賊の方はそんなことを呟いていた。

「悪かったな、遅くってよ。」

急に、地平線近くに複数の影が浮いていた。

「あれは…シンカー!」

ラウトはそう叫んだ。

「さっさと仕事にかかれ!」

「アイアイ・サー、ボス!」

急に、シンカーの編隊が横に広がった。

「ちっ!」

ラウトは急いでコマンドウルフに向かって砲撃を放った。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン

「なっ、わっ、うわぁ〜〜〜〜〜!!」

ドドドーーーーン

3体あったコマンドウルフも、意外にあっけなく倒された。

「自衛団は…コマンドウルフにゴドス、ガイサックか。
…全部で6体はちょっと少ないな。」

ラウトは下に構えているゾイドを数えてそう言った。

「シンカーは、12体か?
厄介な奴らだ。
仕方ないから行くぜ、リムラ!」

『ギュアアアアアアアン!!』

赤いレドラーはそう叫ぶと、シンカーが向かってくる方向に突っ込んだ。

「フン。
あれがその赤いレドラーか。
あの程度の奴にやられるなんて、落ちぶれたもんだな。」

そのシンカーのリーダーらしき人物がそう呟いた。

「悪いが、あんたごときに時間をかけるつもりはさらさらなくってね。」

シンカーの方が動いた。どうやら囲んで包囲殲滅するつもりらしい。
だが、その程度の技にかかるような彼らではない。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「ちっ、やかましい奴!」

その程度の砲撃でも、この集団を乱すのは容易だった。

キイィン…

「うっ、しまった!」

相手の編隊を通り過ぎた後、レドラーのブレードが展開され、
旋回するとそのままシンカーを後ろから斬りつけた。

「ぐああっ!」

「くそっ!」

ババババババン、ババババババン!

シンカーが一斉に砲撃を仕掛けてきた。
赤いレドラーはそれをヒラリとかわす。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「なっ、しま…うわあっ!」

「くそっ!後ろを付けられた。」

一度低空飛行したレドラーは、いきなり砲撃しながら上昇すると次々にシンカーを斬りつけた。

「くぅ…なぜ装甲の堅さが売りのこのシンカーを、あんないとも簡単に落とせるんだ!」

そう焦りながら、後ろに付ける赤いレドラーを見る。
それはさらに加速し、そのまま斬りつけてきた。

「うああっ!」

左翼を斬りつけられ、そのシンカーは煙を上げながら真っ逆様に墜ちていく。

「なっ!
あいつ、ガキのくせにブースターを寸分の狂いもなく斬りつけてきやがった!」

別の盗賊がそう叫ぶ。
もう全てのシンカーは、何らかの損傷を負っていた。

「客人だけに任せてらんねぇな!」

と、先ほどの場所から一体のコマンドウルフが走ってきた。

「ちっ!コマンドウルフまできやがったな!!」

「もろいぜ!」

コマンドウルフのパイロットはそう叫びながら突っ込んでいく。

ダダダダダダン、ダダダダダダン!

「なっ!しまった!!」

一番損傷を受けていて速度が落ちていたシンカーにそれは当たった。

ドドーーーン…

「へっ!どんなもんだい!!」

「………自信過剰…」

ラウトはそう呆れながらもすぐに次の行動に出た。

「とにかく、あと6体さっさと終わらせるぜ、リムラ!」

『ギュアアアアアアアン!!』

そう言って彼らは奮起した。

 

サアアァァァ……

黄色い砂が風によって宙を舞う。
小一時間経つ頃、辺りは幾つもの煙が上がっていた。

「…これで、終わりか?」

残りのシンカー、再び向かってきたコマンドウルフやモルガなどは完全に沈黙していた。
因みに、ゴドスやガイサックも援護に駆けつけ、だが結局ほとんどはラウトが倒していた。

「何とかなったか…ムンベイはグスタフの所にいるかな?」

彼はそう言い終わったときビクッとした。

「なんだ!?」

何かの気配が、この近くに向かっていた。ラウトは通信をつなぎ損ねた。

「なっ、あれは…レドラー!?」

いきなり森から紫色のゾイドが飛んできた。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「うわっ!」

「ぐあっ!」

「ぐああぁっ!!」

「なんだと!」

次々に自衛団のガイサックが倒れた。なおも攻撃は続く。

「あいつ、かなりの腕だ!
あそこからガイサックを狙い撃つなんて…」

ラウトは慌てて出たが、相手はもう2体のゴドスを撃ち倒していた。

「ちっ、残ったのはコマンドウルフだけかよ!!」

相手に向かい、そのまま標準を合わせようとした。
だが、

「!?」

相手は標準を合わせられないところへ降下した。
すぐにラウトも追うが、相手は更に移動する。
どうやら機銃は使わせない気らしい。
それどころか、相手は砲撃を咬まそうとする。
どうやらこの戦い、厳しいものになりそうだ。

「あの時のブラックレドラーより手強いかもな…
だが、レドラー乗りとして負けるわけにはいかない!
頼むぜリムラ!!」

『ギュアアアアアアアン!!』

リムラはその言葉に応えるかのように叫んだ。

「さっきはよくも余計なことをしてくれたわね!
おかげで出るのが遅れたじゃない!!
この借り、きっちり返してやるわ!!」

どうやら、さっきのアジトにいた誰からしい。
どこに隠していたかは知らないが、このレドラーもそこから出てきたようだ。

「ったく。
慌てすぎてどこか調べ損ねたらしいな。」

ラウトはそう悪態をついた。
いつの間にか相手の操るレドラーは後ろにぴったりと付いていた。
どうやらこのパイロット…盗賊の女はトップレベルの人物らしい。

「くそっ、どうなってるんだか!
右腕が痛くて言うことを聞かねぇ……」

ぴったりと後ろをつかれ、今はその砲撃を避けるので精一杯だ。
上へ下へ右へ左へ…どんなふうに飛んでも、しっかり付いてくる。
反転して斬りつけようとしても、簡単に避けられてしまう。

「ふん!
さっさと諦める事ね、小僧!!」

「ちっ…」

何時砲撃が当たって墜ちてもおかしくない、そんな状況になっていた。
今はまたぴったりと後ろをつかれている。
だがそのときラウトは、とんでもない行動に出た。

「えっ…きゃあっ!!」

ある程度加速を付けると、急に赤いレドラーは後ろについている紫のレドラーに背を向けて下がった。
端から見れば自殺行為だ。
だが、相手はその反応の良さが仇となり、紫のレドラーはそれを避けてしまう。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「いやあ〜〜っ!!」

避けて隙ができた相手に、砲撃を咬ます。
それは見事右翼に命中して紫色のレドラーは墜ちた。

「へん、ボウズ。
もう少しゆっくり飛んでくれれば撃ち落としてやったのにな。」

「はいはい、それはどうも。」

下で構えていたコマンドウルフは、結局何もできなかった。
そのセリフも負け惜しみにしか聞こえず、ラウトは思わず溜め息を吐いた。

「はぁ…あっ、ありがとなリムラ。
なんとか上手くいったよ。」

『グウウゥゥゥ…』

「えっ?」

ホッとしてそう言ったその返事の唸り声には、必要以上に緊張感があった。
ラウトは驚いて辺りを見渡す。

「おりゃあ!!」

「うりゃあ!!」

「なんだぁ!?」

いきなり、威勢のいい男の子の声と共に2体のゾイドが現れた。

「「いくよ!!」」

黒い機体がコマンドウルフの方へ、
黄色い機体がラウトの方へ向かってくる。

「なっ、なんだお前ら…うっ、うわああっ!!」

黒いその機体は、砲撃するコマンドウルフの真っ正面からジャンプし、その爪で押しつぶした。

「とどめだ!!」

地面に着地するとすぐに振り返り、手にしているブレードで突き刺した。

「ぐああーーーーー!!」

ゾイドの断末魔と共に、その絶叫が辺りに響き渡る。

「いっけえぇ〜〜〜!!」

黄色い機体の方は地面を一蹴りしたかと思うと、
信じられないくらいのジャンプ力で赤いレドラーに襲いかかった。
だが、その程度でやられる彼らではない。

「あっ、避けられた!!」

黄色いその機体に乗った男の子はそう言った。

「なんだ、ねーさんを倒したからもう疲れてると思ったのに、まだ元気じゃん。」

「えっ?そっちは倒れなかったの?」

その謎の2体は合流した。

「…ガンスナイパーの格闘戦専用仕様か?
手にブレードを持たせて、各部を強化してある。」

「へぇ?分かるなんてさすがじゃん!」

「やっぱりただのガキじゃなかったみたいだね。」

クスクスとそんな声が聞こえてくる。

「黒い方があそこで会った奴か…」

「あれ?ばれちゃったね。」

「不思議だね。
大抵みんな分かってくれないのに。」

二人の男の子は、ちょっと驚いた声を上げた。
どうやら双子らしい。
声がほとんど同じだった。

「でも、これだけ被害出されて、
なおかつ僕等が出てくるの邪魔したんだから、大人しくしてくれるだけじゃ、ねぇ?」

「そう。
どうやら軍の関係者じゃなさそうだけど、それなりに対応させてもらわなきゃ!」

2体は顔を見合わせて言った。

「それじゃ、」

「やりますか!」

ラウトは急いで砲撃する。
しかし彼らの回避能力が上回り、思うように狙いを定められない。

「じゃあ、早いけど本気だそっか。」

「そうだね。」

いきなり、黒い機体が駆けだした。

「いっけえっ!」

そう言って、あまり高く飛んでいなかったラウトに対して跳びかかってきた。
普通にそのまま攻撃していれば確実に倒せたがあえて旋回してそこを避けた。

「なっ!?バレた!!」

黒い機体の後ろから、急に黄色い機体が現れた。

「黄色い奴の方が能力が高いのか…」

ラウトは、そんなことを考えつつ、急いでまだ空中にあった黄色い機体に砲撃した。

「なめるな!!」

だが、その声と共にそれは外れて黄色い砂地に飲み込まれた。

「フットブースターを付けていたのか。」

もう2体とも地面に着地していた。

「ちぇっ!やっぱり一筋縄じゃいかないね!」

「久しぶりに、ホントの本気になれそうだよ!」

『ギュアアアアアア!!』

『ギュアアアアアア!!』

2体のガンスナイパー改造機が叫ぶ。

「空中で避けることができるんなら、厄介だな…黒い方もか?」

ラウトは苦々しく思い、その2つに機体を睨む。

「とにかく、上空から狙って、一つずつ片付けるしかねぇか。
だが、あの速さは…」

思わずちっと舌打ちする。

「相手のどこにも機銃はねぇ、か。
尻尾の方は多少時間がかかるから問題ねぇな。」

そう呟くと、急降下する。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「行くよ!」

「ああ!」

同時に相手も動き出す。

「「ダブルブレードアタック!!」」

息のぴったり合った2体は赤いレドラーに向かって跳びかかる。

「リムラ!!」

『ギュアアアアアアアン!!』

だが、それは彼ら、ラウトとリムラのコンビのテクニックによっていとも簡単に避けられてしまう。
そのまま彼らは攻撃に出る。

「策戦変更、TYPEU!」

「了解!!」

すると、2体のガンスナイパー改造機は離れて撹乱しようとする。

「やっぱり、ブレードで決着を付けるしかないのか?」

ラウトは歯を食いしばる。

「いい加減にしないと俺はもう限界だ。
くそっ!また右腕がズキズキする。
行くぜ、リムラ!!」

そう掛け声をかけると、まずは黒い方の機体に狙いを定める。

「なんだ、こっちから来たんだ。」

その機体は、素早い動きで砲撃をかわす。

「そう簡単に狙わさせないよ。」

キイィン…

「えっ!ブレード!?」

慌てて振り返ると、反転した赤いレドラーはもうそこまで迫っていた。

「くそっ!はめられた!!」

どうにか形勢を整えようとするが、間に合わない。

キイイイィィィィィィ…

間一髪、どうにかブレードとブレードを接触させたが、
黒いそれは、バランスを崩してそのまま倒れてしまった。

「はめたのはこっちだよ!」

いきなり、上空に黄色い機体が現れた。

「こいつの爪は硬いんだよ!!」

そう叫んで突っ込んでくる。
だが、レドラーの反応の早さに付いていけず、左脇を通り過ぎられて空振りに終わる。
そして、それだけでは終わらなかった。

「うわっ!」

赤いレドラーが起こした風で、黄色い機体がグラッと揺れたのだ。

「なっ!うわあっ!!」

「わああっ!!」

黄色い機体が、黒い機体に覆い被さるようにして衝突する。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン

「しまった!」

「わっ!!」

急いで黄色い方はフットブースターを使いその場から逃れたが、
黒い機体はそれができずに砲撃を喰らう。

「うわああああっ!!」

「くっそおぉ!やっぱりはめたのかよ!!」

黄色い機体が着地すると同時に男の子の悔しそうな叫び声が聞こえた。

ダダン、ダダダダン!

『ギャアァッ、ギュアアアアン!!』

「わああぁぁぁっ!!」

上空からではないところからの砲撃を受け、最後に残ったそれも沈んだ。

「ムンベイ!?」

ラウトは驚いてその方を見る。

「ちょっと危なかったんじゃない、ラウト?まあこれだけ倒したんだから凄いもんだけど。」

「あぁ、思いっきし危なかったよ………」

そのセリフを言ったあと、ラウトは力が抜けたのかグッタリとし、それから長い溜め息を吐いた。

「やっと、終わりか…?」

もうラウトは本当にグッタリしていた。

『グウウゥゥゥ…?』

彼の愛機が話しかけても、すぐに答えられなかった。

「…分かんねぇ。
自分じゃ、もう……何が何だか…くっ!」

思わず右腕を押さえる。
激痛で顔が歪んだ。
汗もポタポタと落ちていく。

『…グウウゥゥゥ……』

「な、何だ…リムラ……」

途切れ途切れに言うラウトに、リムラから緊張感が伝わってくる。
ビリビリと伝わってくるそれが、この戦いがまだ終わっていないことを告げる。

「くそっ…こういうのが、最悪って言うのかな?」

息を強く吐き出す。

「しゃあない!
さっさと終わらせるぜ!!」

「えっ!?どうしたのよ!!」

ムンベイがそう言うが、彼らは上空へと昇っていく。と、

ダダダダダダン、ダダダダダダン!!

「ちっ!少し出遅れた!!」

「な、何よ!!」

どこからともなく来た砲弾は、町を破壊する。

「谷だよ!!
森の近くにあっただろうが!!
多分プテラスだ!」

必要以上に大きな声で叫ぶ。
かなり苛立っているらしい。
そのまま、赤い影は森の向こうに消えた。

「全く、どうしたのよ…」

ムンベイはポツリとそう言った。

『キュウ……』

その後ろの荷台で、ちょこんと立っていたエクサの響きも悲しかった。

 

『グウウゥゥゥ…』

もう、問いかけても反応はなかった。
崖の下は迷路だ。
林立する岩山がたくさんあり、それが時に盾の役割をする。
数機あるプテラスは、これを利用して姿を現さない。
が、それを利用し尽くせていなかった。

「やはり、プテラスとレドラーでは割が合わなかったか。」

敵のプテラスに、女のものの無感情な響きが通ってきた。
通信だ。

「す、すみませ……うわあっ!!」

レドラーがプテラスを追う。
どういう理由か、そこからはレドラーの砲撃音は聞こえなかった。
赤い機体の下に何かが光った。

「なぜアンカークローがついているんだ、レドラーなんかに!!」

後ろを気にするその盗賊は叫ぶ。
そう、4本の足とは別にこのレドラーにはそれがついていた。

「…………………」

ラウトは無言のまま仕掛ける。

「ぐあっ!」

追い抜くと同時に、金属がぶつかり合う音がした。
2つのアンカークローはそれぞれプテラスの両翼に引っかかる。

「くそっ!こっちにも向かってきやがった!!」

そのまま、近くにいたプテラスにもぶつかる。
迷路の地図を把握できていないと、時にこんなことも起こる。

「がはっ!!」

ワイヤーの部分にぶつかったそのプテラスは、アンカークローに捕まえられているプテラスと衝突した。
風を切って上空を目指すと、アンカークローがはずれた。

「うあっ!」

「ぐうっ!!」

落下するそれらは崖の上、荒野に飲み込まれていった。

「残り、5機…」

冷淡としたその響きは、何も感じていなかった。
ただ無感情に次を追う。

「何て奴!
あれだけの戦闘をしてたってぇのにまだあれだけ動きやがる。」

砲撃をして逃げ、その迷路で姿をくらまそうとするが、無理だった。

「どうして動きを見切られる!」

「とにかく、今は時間を稼げ!!」

口々にそう叫ぶ。
だが、予想以上にそのレドラーの動きは敏捷だ。

「…そろそろ準備ができる。
次の用意をしろ。」

敵の方には、また女の声でそんな通信が入った。

「了解!」

敵の動きが変わった。

『グルルルルル…?』

相手に合わせてこちらも上空へ上がる。

「とにかく、あと少しだ!」

「さぁて、次だ!!」

「…!?」

敵前員が攻撃対象を変えた。
赤いレドラーから町へと……。
ラウトはそのまま特に反応もしないでそのまま攻撃を続ける。
アンカークローがまた襲いかかる。

「ちっ!こっちからか!!」

だが今度の盗賊の様子は違う。そのまま町への攻撃を続ける。

ビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュン!!

「なにっ!?」

アンカークローでプテラスを一機捕まえようとするとき、他の機体の翼に砲撃が当たった。

「ぐあっ!」

「ぐうぅっ!!」

アンカークローに一機が引っかかり、そのまま落としかけた機体も引っかけた。

「でぇ!!しまった!」

盗賊と町の間に割って入る。

そのまま、前に落としたプテラスの近くにその2機を叩き付ける。

「ちぃっ!!」

「残り、3機…」

また、無感情な声が聞こえた。

 

『キュウゥ〜』

エクサは、まだ心配そうに空を見上げていた。

「爆撃音がまだなっているわね…
あら?何だか上昇してきたみたい。
ラウトのリムラに…プテラスが3機くらいいるわね。」

ムンベイはそう呟く。
爆撃音は届いても、町から離れたここは意外に静かなものだった。

「まったく、あれからどれだけ経ったのよ?
この盗賊の所有ゾイド数、かなり多いわね。」

そう言って、キャノピーをあけたまま煙が上がる方を眺める。
と、

ダダダダーーーン!!

「きゃっ!なっ、何よ!!」

煙が上がった前方を見ると、さっきまで岩があったものが別のものに…
否、その本当の姿を現していた。

「ごっ、ゴルドス!!」

『キュイイ!!』

なにやら背びれを横に倒し、
砲撃重視で改造されているらしいそのゴルドスがこちらに向かって雄叫びをあげている。

「何だってこんなところにいきなり現れるのよぉ!!」

ムンベイはあわててキャノピーを閉じ、勢いよくバックした。
それでも相手はさらに叫び、その巨大な深緑色の機体が迫る。

『グアオオオオオン!!』

 

「…くっ!」

一機のゾイドが突然現れたのも、こちらは察知していた。

「やりぃ!」

「さぁ、お遊びはこれでおしまいだ!」

残った盗賊は、それぞれ機内にある赤い危険そうなスイッチを押した。
それによって爆風が起こる。
自爆をしたらしい。

「ぐうっ!!」

ラウトはすぐにその場を逃れる。
パラグライダーが反対方向に去っていくのが見えた。
「ちぃ!面倒なことやりやがって!!」

すぐにもといた方向に戻る。

「厳しいが、頼むぜリムラ!!」

『ギュアアァァン!!』

彼が向かったのは前ではなく、下だった。
アンカークローが下がり、プテラスを下から引っかける。
その2機を両方につけ、落下してくるもう一機をワイヤーの間に引っかける。
そのまま何とか上昇すると、3機すべてを崖の迷路の上の黄色い砂の中に放り込む。

「ぐああっ!」

『グウゥッ!?』

そのアンカークローをはなした瞬間に、ラウトが叫んだ。

「ぐうっ…くそっ!やっぱ右腕が……」

はぁはぁと息も荒い。
顔も苦痛に歪み、とても苦しそうだ。

『グウゥ…』

「そんなこといえる状況じゃねぇ!
ゴルドスの奴をどうにかしないと…」

リムラは心配するが、それに応じていられる状況ではない。

「くそっ!また厄年が来たのかよ…」

そう呟きつつも、レドラーの早さを落とさずムンベイの元に向かった。

 

「ああん、もう!」

ムンベイはそう言いつつ、必死にその攻撃を避けていた。
何とかゴルドスの後ろに回り込めたのだが、
砲弾の性能がいいらしくその軌道は弧を描いてグスタフに襲いかかる。

『キュ、キュ……キュアアアーーーーン!!』

その恐怖に耐えきれなくなったエクサは、思わずグスタフに合体する。
グスタフの各所から青白い光が放たれる。

「これで少しは速くなるけど、いくら何でも避けきれないわ!」

ムンベイはそう愚痴をこぼし、何とか砲撃を避け続ける。

ビュビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュビュン!!

『グアオオオオ!!?』

「ラウト!」

「大丈夫かムンベイ!?」

突然目の前に現れた赤いレドラーに、ゴルドスは疑問符をつけた叫び声を返す。

「ちぇっ!脱出するのが少し早すぎだよ。」

「もう、慌てん坊ばかりなんだもん!」

「!?……まさか…!!」

その声を聞いたラウトは目を丸くした。

「彼奴ら、何時の間にあのガンスナイパーから乗り換えたんだ…?」

思わずそんなことを考える。
そのとき、下の地面が微かに動いた。
それに反応したラウトは、すぐさまその陰に砲撃した。

『ギュアアン!』

『ギャアアン!』

「ガイサック!?何時の間に!」

ムンベイは思わずそう言った。

「あぁあ。やっぱり無人じゃ無理か。」

「やっぱりスリーパーって使えない。
まぁ、移動するときには役に立ったけど。」

思わずラウトは舌打ちする。

「此奴ら…」

「どっちにしたって、この目の前の赤い奴をどうにかしないとね。」

「ホント、五月蝿いんだもん。」

ピピッとそのコクピットの右側に座っている男の子がボタンを押す。

「煩わしい奴には集中砲火!」

「このゴルドスに搭載されている砲弾の30パーセントを一気に使ったらどうかな?」

またピピッという音がして、今度は攻撃の実行がされた。

「いくよ!」

「この砲弾の吹雪に耐えられるかな?」

くすっと笑って砲撃を発射する。

ダダダダダダダダダダダダダダダ………

「ちいっ!」

ラウトは後方上空に下がりながら、こちらも砲撃をして応戦する。
だが、その日にならない猛吹雪には効果がないも同然だった。

「ムンベイ聞こえるか!?
頼み事がある!」

「何よ!?」

動きを牽制するためか、グスタフの方にも放たれた砲撃を避けつつムンベイはそう答える。

「そこの近くの岩の上から3分の1とこら辺を砲撃しておいてくれ!」

「そんな事してどうするのよ?」

「今説明している時間はねぇ!」

そう言うとラウトは、できるだけ砲弾を撃ち落としながらどうにか砲撃をかわす。

「もう!しょうがないわね。」

ムンベイも遠くに離れつつ、
ラウトに言われたとおりゴルドスの近くに立っている岩に砲撃する。

「そろそろ第2弾だね。」

「それにしても、ホントに頑張り屋さんだね。
まだ落ちてないよ。」

「いいじゃん。
どっちにしたって何もしてこれないんだから。」

またくすくすと笑い声が立つ。

「時間稼ぎって、意外に簡単だね。」

「うん。それじゃ…」

「「第2弾、GO!!」」

声を合わせてそう言うと、少し晴れ始めた黄色い霧がまた発生した。

「キリがねぇ!」

そう苛立ちながら、ラウトはまた先と同じ事を繰り返す。

「もう!あのゴルドス、いったいどれだけの砲弾を積んでるのよ!!」

ムンベイもムンベイで苛立っていた。
今も尚しつこく砲弾が追ってきている。

「ちょっと、どうにかならないの!?」

そう言うが、届かない。
ラウトもラウトで手一杯なのだ。
その第2回目の砲撃が終わった頃、また何か別の陰が迫っていた。

─────────────────────────────────────────────

*アトガキモドキ*

ふぅ。やっと4話目ができました。
それにしても、戦闘が続きすぎで反省しております…
そしてまたさらに変な文になり…(爆)
次辺りで終わりたいと思っていますが、やっぱりどうなるか分かりませんι
こんなものですが、どうかよろしくお願いします。


シヴナさんから頂きました。
もう凄いです、戦闘シーンのオンパレード!
本当に久々にワクワクしてます。
うちのページだと空中戦=キースのイメージでしたが、
いまではラウトが空戦の新しいイメージになってます。
本当、キースが燃えそうな内容ですね。
なんか、このまま連載しても良いような感じです。
では、次回も期待してます。
シヴナさん、ありがとうございました。

 

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