「過剰な巡り合わせ」
〜道標の結び目〜

 

『グウウゥゥゥ…』

近付いてくる影、それに最初に気がついたのはリムラだった。

「空から…?」

それを聞かされ、ラウトもその方に神経を研ぎ澄ます。

「何だ、この速さ…」

ラウトの表情がまた一段と厳しさを増す。
地平線からその正体が現れた。

「そろそろ終わりだよ!」

「…っ!
今度はさっきレドラーに乗ってた奴か!」

その声は、確かにレドラーに乗っていた、そしてあの通信の声の主だった。

「ちょっと待ってよ!
あれ、噂にしか聞いたことがないレイノスじゃない!!」

そう、その青緑色の機体の正体はレイノス。
ストームソーダをも凌ぐスピードを出せる驚異の機種である。

「何でそんなゾイドを此奴ら…」

状況は、何度ひっくり返してもまた悪くなる一方だった。

「くそっ………」

『グウウゥゥゥ……?』

少し、諦めの混じったその表情でそのレイノスを睨む。

「頼むぜ…」

そう、ボソッと言って彼は前に出た。

「さっきのようにはいかないわよ!」

レイノスはビームを撃ってこちらに向かってくる。
赤いレドラーは、それをギリギリで避ける。

「こっちは援護だね。」

「さっきみたいに多くはないけど、」

「「第3弾、GO!!」」

先ほどの3分の1ほどの量の砲弾が向かってくる。
これも何とか避け続けるが、レイノスも相手にしている今、もう攻撃できる状態ではなくなっていた。

「いい加減に諦めたらどうかしら?」

「時間の問題だよ!」

「そう!やるだけ無意味!!」

悪魔のような敵の声が聞こえてくる。

「どっちにしたって、…くっ……」

右腕の痛みを必死にこらえ、それでもなお避け続ける。
いつの間にか、ゴルドスから少し離れた上空に来ていた。
ちょうど、あの岩を挟んで向こう側に…

「きついが、つきあってくれリムラ…」

『グウウゥゥゥ……』

今度は、追ってきたレイノスに向かっていく。
ビームをギリギリのところでかわし、降下して地面すれすれを飛ぶ。
案の定、敵もそのまま付いてきた。

「…………」

それでも、かなりの速さが出ている。
砲撃の音は止まない。
と、ラウトは急激にリムラの速度を落とし、後ろから付いてきた相手から見て左の方へ下がった。

「ちっ!」

どうやら減速する能力は彼らの方が上だったらしい。
相手のレイノスはすぐに追ってこられなかった。

ビュビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュビュン!!

「くっ!?」

どうにか砲撃するが、やはり能力の高い敵には当たらず、煙幕を作るだけに終わった。
それでも、今はこれで十分だった。
赤いレドラーは反転して速度を上げた。
そう、ゴルドスのいる方へ…

「あれれ?じゃあ第四弾だ。」

「発射〜〜!」

凄まじい音ととともに次々と砲弾が空に向かって放たれ、
それはラウト達の方に弧を描いて向かってくる。

「…………」

何も言う余裕はなかった。
アンカークローが伸びていく。

ビュビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュビュン!!

再びレドラーの砲撃音が鳴り響いた。
敵のゴルドスではなく、その岩に向かって…

「えっ、なっ!」

「まっ、まさか!!?」

アンカークローが巨大な岩に突き刺さる。
ちょうど岩の上から3分の1のところだ。

「えぇ!?」

ムンベイもその行動には驚いた。
普通に考えれば、その岩を破壊するのは不可能なはずである。
一体、何をしようとしているのか、分かる者はいなかった。

ピシッ…

その場の空気が止まったかのような感じがした。

ガラガラガラッ…!!

「なっ!」

「ふぇっ!」

「えぇ!!?」

「ちっ!」

当然、下にいたゴルドスに向かってその岩は崩れ落ちた。

「あの岩、予想外に崩れやすかったわね。
もう少し時間を稼げるかと思ったけど…ん?」

その女操るレイノスに、ピピッと通信が入った。

「…今回は仕方がないわね。
おい!策戦変更、ωだ!」

「ちっ!」

「分かったよ!!」

答えたのはあの双子だった。
何か操作をしている。

「「策戦ω用砲弾、発射!」」

どうにか打ち上げたその砲弾は、そのまま空を昇っていき、向かってくる様子はない。

「何よ、あれ?」

「ちっ!!」

ラウトだけはそれの正体に気が付いたらしい。

「じゃ〜ね〜!」

「機会があったらまた遊ぼうね〜。」

クスクスッと男の子達の笑い声が聞こえた。

カッ

「きゃっ!」

辺り痛いが真っ白になり、何も見えなくなる。
そう、その撃った砲弾の正体は照明弾だ。

「撃つぞリムラ!」

「ちょっとラウト!!」

ムンベイが言うが、それを聞いているような彼ではない。
視界がまったく利かないこのときに、ラウトはとにかくある方向に向かって撃ち続けた。

ガサァーーーー!

「え?何!?」

ゾイドか何かが地面に落ちたような音がした。
まもなくして光は消えたが、ムンベイもラウトも目が瞑れていた。

「…何も見えないじゃない!」

「半端に見えるよりはましだ。
いくぜリムラ!!」

体の感覚に率直になり、そのまま戦い続けようとするラウト。

「レイノスは打ち落とせなかった…彼奴だけだ。」

『グウウゥゥゥ…!!』

彼に呼応して唸るリムラ。
この戦いの運命はこの赤いレドラーにかかっているといっても過言ではない。

「ちっ!まだ動くんかい!!」

女の盗賊の声がした。

「一体どうやって戦うのよ、ラウト!
あんただって何も見えないんでしょう!?」

「当たり前だ。
今はリムラに頼るしかねぇ。」

それでも、見えてないことを感じさせないで動いている。

「何て奴…私だってスコープをしていても目がチカチカするってぇのに!」

その敵はそうブツブツ言う。
少しばかり、動きが鈍っているようだ。

「いい加減に上がれ、エンドヘッド!
どうせ軽傷なんだろう?」

「あと少しだ。
双子の奴が今やっている。」

その返信が返ってきたところを見ると、やはり状況はよくなっていないようだ。

「とにかく、昇ってくる前に落とす。」

『グウアァァァ!!』

応えて、リムラの叫び声は強さを増した。

「そうはさせないよ!
このサーカス、あんたごときのヘボには負けない!」

レドラーとレイノスの一騎打ちだ。精度が劣ったビームは軽々とかわされていく。
だがレドラーはブレードで斬りつけようとしても、相手の速さに付いていけずに振り切られてしまう。
長引けば相手が有利になるだけだ。

「…くそっ!リムラ、覚悟しておけ……」

だんだん視界が見えてきて、ラウトはそう言った。

「そろそろこっちも実力を出せそうね。
これで終わりよ!!」

だんだん元の速さを取り戻していった相手もこちらに襲いかかってくる。
ビームの精度ももう元に戻っていた。

ビュビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュビュン!!

「何っ!?」

ビームとパルスレーザーとが相殺をした。
赤いレドラーの砲撃精度が異常な数値をたたき出している。

「ちっ!」

一時回避とばかりにレイノスは旋回して避ける。
だが、それでもすべての砲撃を避けることはできなかった。

「くそっ!このオンボロポンコツ整備不良のレイノスめ!!」

旋回したレイノスは、そのまま一時退こうとした。

『グウウゥゥゥ…』

だがさっきの攻撃で速度を落としたレイノスを、赤いレドラーは追い続ける。
有り得ないようだが、今はレドラーの方が優勢だ。

「くそっ、くそっ、くそっ!
くっそおぉ〜〜〜!!」

相手はどうにもできずにそう叫ぶ。
彼女には今、底知れない恐怖が襲っていた。
それでもレドラーはパルスレーザーを撃ち続け、そのほとんどがレイノスに当たっていた。

「よっしゃ!」

「準備完了!!」

ダダダダダダダダダダダダダダダ……!!

不意に、不時着していたハンマーヘッドから砲撃が放たれた。

ドドーーン!

「ラウト!!?」

砂煙が高く上がった。先に出てきたのは青緑色の機体だった。

「やったか?」

盗賊の誰かがそう言った。

ビュビュビュビュビュビュン、ビュビュビュビュビュビュン!!

「うわあっ!!」

「なっ!」

「わっ!」

どうやったかは定かではないが、
その煙の中からハンマーヘッド、レイノスと別々の方向にいる彼等に向かって砲撃は放たれた。

「ハンマーヘッド、離陸!」

「出力手動調整!!」

攻撃を受けてもなお、ハンマーヘッドは飛行不可能なほど傷ついていなかった。
赤いレドラーは青緑色のレイノスを追う。
幾度も攻撃を受けたそのレイノスは、
有り得ないようなレドラーのスピードに追いつかれそうになっていた。

「砲撃開始!!」

またハンマーヘッドから砲撃が放たれた。
だが、そのどれ一つも空で砕けて終わった。

「援護するよ!」

「出力、依然手動調整中。各部飛行に異常なし。」

空に3機の機影ができ、下にはその陰がどれも定まらずにいた。

キイィィィン…

レドラーはブレードを展開した。
斬りつけて一気に終わらせるつもりだ。

「させるか!!」

ハンマーヘッドがそれを阻止しようと砲撃する。
レドラーはそれを回避するが、そのせいで攻撃を失敗した。
この戦い、なかなか終わらない。

「いっけえ〜〜〜〜!!」

と、第三者の声が突っ込んできた。
その青い機体は黄色く光るブレードを展開し、地面を強く蹴った。

「くそっ!」

「ちぇっ!」

ねらわれたのはハンマーヘッドとレイノスだ。
だが、ほんのすれすれでその2機はそれをかわした。

「バン、後ろを振り向いてシールドを張って!」

「何!?」

赤いレドラーも一気にその場から離れていった。

ヴアアァァァァーーーーーーーーー!!

「なっ!」

「うわあっ!」

「うぅっ!」

「ぐあっ!」

突然遠くから、一本の太い光が向かってきた。
荷電粒子砲だ。
撃ったのはお分かりの通り、もちろん…

「よくそこから狙えるね、レイヴン。」

「ふっ…」

赤い魔装獣ジェノブレイカー。
悠然とそこに立っている。
その中にいるレイヴンは得意げそうだ。

『キュア!』

まもなくジェノブレイカーから出てきたシャドーを迎えるスペキュラー。

『キュウ』

そこにリーゼの乗っているプテラスも降りてきた。

「おいレイヴン!
いくら何でも荷電粒子砲を使うことはないだろっ!?」

ジェノブレイカーに通信がつながって彼の声が聞こえた。

「ちゃんと外した。
それにあれが一番手っ取り早い。」

「ったく…」

それを聞いたバンはため息をつく。
確かに、後ろにいるレイノスとハンマーヘッドは飛行不可能ではあるが、
致命的な傷は受けていなかった。

「バン、フィーネ、それにジークじゃない!」

ムンベイはキャノピーを開けて出てきた。

「ムンベイ!」

『キュア!』

何時の間に合体を解いていたのか、ジークも返事をした。
そんな彼らに影か降りてきた。見ると、それは赤い色をしていた。

「あっ、ラウトお疲れ!」

その機体の中でラウトは汗を拭いていた。
降りると同時にその布を座席の後ろの方にしまい、それから外に出てきた。

「そう言えば、あんた達会うのは初めてだね。」

ムンベイはラウトが出てきたのを見るとそう言った。

「ラウト、こっちはバンとフィーネ、それからジークよ。」

「よろしくな!」

「初めまして。」

『キュアア!』

3人(2人+1)は笑顔でそう言った。

「バン、フィーネ、ジーク、こっちはラウト。」

「あっ、初めまして。本名はラウウァートシス・シェム・デイヴィッサーです。
長いのでラウトって呼んで下さい。よろし…って、えええぇ!!」

バン達何かと思って後ろを振り向いた。
そこには…

『キュアアアアアアァ〜〜〜〜〜ッ!!』

と、勢いよく走ってくる水色のオーガノイド。

「うわっ!!」

もちろんのことだが、ザアアァァァと言う音がしてラウトはエクサに押しとばされた。

『キュアア、キュアキュアアアアァッ!!』

「いってぇ……少しは人のことを考えてくれよ、エクサ……」

ラウトはエクサに押しつぶされ、迷惑しているのだが、
じゃれついてる相手にそれが分かるはずもなかった。

「おかげで砂だらけになっただろうが…」

何とかラウトは自分の上からエクサをどかし、起きあがって体中をはたいた。

『キュ〜』

そんなことを言われても意に介さず、ラウトにすり寄っているエクサ。
バンはその光景に呆然とし、フィーネも最初は驚いたが、今ではくすくすと笑っている。

「それと、この子はエクサ。」

「水色のオーガノイド…?
あぁ、思い出した!」

バンは急に手を叩いた。

「どうかしたの、バン?」

「ほら、この間アーバインにあったとき…」

フィーネは記憶の糸を辿り寄せる。

「ああ!黄色い目で、クリーム色でバンみたいにツンツンした髪の男の子に、
それから水色のオーガノイドと赤いレドラー!!」

「あぁ。アーバインからラウトのこと聞いてたのね。」

「レスレクションシティの時か……。」

ムンベイもラウトもちょっと驚いたらしい。

「強いんだってな。
アーバインから聞いてるんだ。
何だか今回もそうみたいだな。」

「ははは…レスレクションシティの時はほとんど空中だけでしたけど。」

ラウトは苦笑いをし、それから辺りを見回した。
辺りにはまだいくつもの煙が上がっていて、それの臭いが立ち込めていた。

「…にしても、数がやけに多いな。
本当にこいつら、ただの盗賊か?
“サーカス”って名乗っていたけど……」

「サーカス!?」

ラウトの誰に問うでもない呟きに、フィーネ過敏な反応を示した。

「どうかしたの?フィーネ。」

「…サーカスは、」

フィーネの代わりにバンが話し出した。
ムンベイはえっ?と驚いたようにバンの方を見返す。

「詐欺を中心にその他窃盗、殺戮、誘拐、それからスパイまで行う規模の大きい盗賊団だ。」

「GFも軍も、何度も捕まえ損ねているわ。」

それを聞いて、ラウトは顔をしかめた。

「(じゃあ、あれは…)」

バンがまた続きを話し出す。

「捕まえても、全員下っ端で進展しない。
かなり手こずらせられた相手だ。」

「へぇ。」

ムンベイだけは、何時もと変わらずにそう言った。

「ん…!?」

と、ラウトが急に砂漠しかない方の横を振り向いた。

「どうかしたか?」

バンがそう言うと、ラウトは自分の相棒、リムラの方に向かって駆けだした。

「ちょっと見てくる。
リムラ、頼む。」

「あっ!」

ラウトは座席に乗らず、コクピットがあいたそこに乗り、それを掴んだ。

「ちょっと、見に行くったってどこへよ!?」

ムンベイがそう言うも、そのまま赤いレドラーは宙に浮き、超低空飛行で飛んでいった。
そのときに起きた砂煙で、それぞれは目を閉じなければならなかった。

「……あぁ、いっちゃったわね。」

『キュウゥ…』

エクサはまた心配そうにそう言った。

『キュイ?』

だがジークはよく分からずに、そんな様子の自分より一回り小さいエクサに向かって首を傾げた。

 

「…やっぱり当たりだ。」

ラウトはそう呟いた。
見えてきたのは、一機のガイサック。
その近くには、ガイサックから出てきたらしい一人の男がいた。

「ぐうっ…くそっ、こうなりゃ……!?」

急に、その男の上に大きな影が覆い被さった。

「ちっ!気付かれたか!!」

その男はあわてて銃を構えようとした。
だが…

ビュッ!!

「ぐあっ!」

何か黒い固まりが、その男の右手に当たり、銃を落とさせた。
もう一つ、上にある大きな影から落ちてきた。

ドスッ!

「ぐっ!?」

いや、こちらは降りてきたと言うべきだったかも知れない。
少年は左手でその男の鳩尾に一撃、

「がはっ!!」

そして、すぐさま首の後ろに一撃。
すぐにその男は崩れ落ちた。

「危ねぇ…逃がすと、面倒だからな。」

そう言うと、彼は一息ついた。

 

数分後、彼らは辺りに散らばっているゾイドの回収をしていた。

「応急処置だけど、動けるようにしたんで。
あとはまた町に帰ってからしっかりやります。」

「ありがとうございます。」

辺りに無惨にあったゾイドは、ラウトとムンベイが作業に加わったことにより
ほぼ全てが町か回収班のグスタフの荷台運び込まれた。

「ムンベイ、そっちの重傷なのはもう運び終わったか?」

ラウトはガイサックの通信機器を使い、グスタフにいるムンベイに話しかける。

「ええ、終わったわ。
そっちはどう?」

「こっちもこの自衛団のガイサックで終わり。
じゃあこれから戻るから。」

「分かったわ。」

話し終えるとラウトは町へ幾らか傷の付いたガイサックを行かせ、自分はリムラの方へ戻った。
もう日が沈むところで、辺りは真っ赤に染まっていた。

『グウウゥゥゥ…?』

「ん?ああ、無理してないかって?
ちょっと無理してるかもな。
体の方が文句言ってる。」

『グウウゥゥゥ…!!』

苦笑いでそう言うラウトに、赤いレドラーはまた唸る。

「そう言うな。
だってあれは俺がしたことなんだぜ?
きっかけはどっちだったにしろ、そう言うことは責任持たなきゃな。
犠牲者は少なくしたいし。」

そう言ってラウトはリムラに飛び乗る。

「もう終わりだ。
さっさと戻るぜ。」

こう言ってコクピットをしめると、さっさとその場から去っていった。

 

「お疲れ、ラウト!」

「ムンベイこそお疲れ。
いったい何往復したんだ?」

「そんなの数えたくないわよ。」

苦笑するムンベイ。

「あっ、どうもお疲れさまでした。」

ラウトはバン、フィーネ、ジーク、
そして合流したレイヴン、リーゼ、シャドー、スペキュラーに向かってお辞儀をした。

「ラウト、そんなに堅くならなくて良いわよ。
軍人だからって、大したことないのよ。」

「それどういう意味だよ、ムンベイ…」

ムンベイのセリフにむっとなるバン。
それを見て、フィーネはくすっと笑った。
オアシスには、夕暮れ時の涼しい風が吹いている。

「でも、意外なところで稼げたわね。」

「そんなにもらったのかよ、ムンベイ。」

バンを始め、呆れる一同。
姐さんはそう言う点では抜け目ない。

「まあね。
感謝の気持ちってヤツじゃない?
他にも何だかいろんな物をもらったけど。
まぁ、使わないヤツはどこかで売ってもいいしね。」

そう言うムンベイに皆は苦笑いをした。
その中でラウトは特に。
何せ彼の働きがそのままムンベイの収入になったのだから。
だがムンベイは、さらなる事を考えていた。

「あとは軍の方にも少し請求しちゃおうかしら?」

「…はぁ。
できるかもな。
結構手こずらされた盗賊団らしいし、その上ここでも詐欺をやってたみたいだし。」

「えぇ。
…って、えええええ!!」

そのセリフに思わず驚くムンベイ。
他の一同も驚いてラウトの方を見た。

「彼奴らのアジトらしいところに、偽造の身分証明書があった。
様子からしてこの町か、でなければどこか近隣の町でやってたんだろう。」

「そんなところまで調べたの?!
その前に、奴らにアジトなんてあったの!?」

「確かに、奴らはあちこちを転々として、なかなか捕まえられずにいたけど。」

リーゼも知っているらしく、ポツリとそう呟く。
ふぅ、と溜め息を吐きながらラウトは続ける。

「あったよ。
そこの森の中だ。
結構奥の方。」

「えええっ!ちょ、ちょっと待ってよ!」

ムンベイはまた驚いていた。

「あそこは近頃、帰らずの森とか、人さらいの森って言われてるのよ!
そんなところに行ったわけ!?」

「ちょっと気になったから行っただけだ。
それに偽造の身分証明書は、その時くまなく探したら見つかったってだけだ。
途中でちょっと抜けたら、あいつら起きかけてたから縛ってきた。
……あっ、しまった!
言っとくの忘れた!!」

簡単なことのように前半を言ってのけたラウトは、後半は慌てた様子になった。

「この森の中にいるのか?」

「あぁ、数人。」

バンの質問に、ラウトは慌てて答えた。

「…と言うことは、まだ仕事は終わってないのか。
シャドー、手伝ってくれるか?」

『キュア!』

「僕も行くよ、レイヴン。
ね、スペキュラー?」

『キュイ!』

「私は行く必要なさそうね。
ここで待ってるわ。」

ムンベイを残し、彼らは鬱蒼と生い茂った森の中に入っていった。
だが本当は、ムンベイと彼らのゾイド以外にも残った者(?)がいた。

『キュイ…』

「あら?どうしたの、エクサ?
元気ないわね。」

エクサはそう一言言ったあと、また先までと同じように押し黙ってしまった。
そのまま、いつものエクサらしくなく俯いてしまった。

 

「はぁ、やっと終わりか。」

あれからどれくらい経ったのだろうか?
もう日が落ちてしまい、星が瞬いている頃、彼らはまたオアシスにいた。
ラウトは目をこすっている。

「ふああぁぁぁ!!
なんか疲れた。
ちょっと今日は早めにねる。」

「えぇ!?夕飯がまだじゃない!
折角町の人達がごちそうしてくれるって言ってるのに。」

ムンベイが慌てて言った。

「えっ、ごちそう!?」

「そうよ。お礼にって。」

バンがそう言うと、ムンベイが付け足した。

「よっしゃ〜!!
お腹ぺこぺこだったんだよ!」

「バンったら…」

「そう言えばお腹空いたよね、レイヴン…」

「…あぁ。」

フィーネはバンの様子にくすくす笑い、レイヴンは大分お腹をすかせているらしく、
いつもなら「少し」、と言うところを、正直に言った。そんな時…

『グ〜〜〜〜〜』

誰かのお腹が鳴り、レイヴンが赤面した。

「アハハハ。
レイヴン、本当にお腹がすいているんだね。」

「さっさと行こうぜ。
ラウトも行くだろ?」

バンはラウトの方を振り向いたが、彼は乗り気ではなかった。

「悪いけど無理。
行くんだったら、整備は明日やりますって言っといてくれないか?」

そのままレドラーの座席でねようとしているラウトに、
ムンベイを始め、皆は呆れずにはいられない。

「何よ?折角今日はタダで泊まれるのよ!」

「俺、ベッドは苦手。
それじゃあ、おやすみなさい。」

ラウトは機内にあったポンチョのような物を被り、そのまま寝てしまったようだった。

『キュウウウウ…』

こればっかりには彼のパートナーであるエクサも困る。

「何だか今日はつれないわね、エクサ。」

『キュウ…』

さっきから終始無言でいたエクサは、何だか悲しそうだ。

「しょうがないわね!
こんな時には騒いで忘れるのが一番!!
さっ、行くわよエクサ!!」

『キュ、キュイイイイイ!?』

ムンベイに半ば強引に引きずられて去っていくエクサを、
皆は笑いながら、グスタフと赤いレドラーは冷や汗をかきながら見ていた。

「ほらっ、そんなに躊躇しなくても良いのよ。」

『キュウウゥゥゥ…』

フィーネにもそう言われ、エクサはずっとそのまま引きずられていった。
それにはさすがにブレードライガーとジェノブレイカーも冷や汗をかいた。

「………行ったか?」

ただ、ラウト一人だけはそんなことを気にしていられる余裕はなかった。

「ぐそっ…何時…も、……っ、と違って………
大分、堪え…た………から……………」

只ならぬ様子だった。

「ぐ…………がはっ!」

ラウトは左手で口を押さえた。
顔をリムラの外に出し、体を震わせている。

『グウウゥゥゥ…………』

「がふっ、……ゲホッゲホッゲホッ!
……………ぐっ…!!」

消えていた汗が、また噴き出した。
顔は先と比べて、苦痛で歪みが激しい。
だんだん、座っているにもかかわらずフラフラしてきた。
目眩がしているらしい。
だが、そこにはゾイド以外、誰も近くにはいなかった。

 

気が付くと、夜はもう明けていた。
いつもよりも長い夜を過ごした彼にとって、それは決して清々しいとは言えなかった。

「…っ、もう、朝になったのか……」

フラフラしながら地面に降り立った。やはり、全身に力が入らない。

「ちっ、この根性なし……」

自分に悪態を付きつつ、冷たい水を求めてオアシスのほとりまで行こうとしたときだ。
彼は、水色の陽炎を見た。

「エク、サ…」

いつものように力はないけれども、そう呼んでみた。

『キュイ…』

返事が返ってきた。
とても、心配そうな。
こちらに向かってとことこと歩いてくる。

『キュウ…』

「……お見通しってところか。」

ラウトは、ただ何となくそう呟いた。

『キュイイィィィ…』

東の空を見は、円いお日様はもう地平線から離れていた。
二つの影が向かい合う。

「……おはよう。
今日はちょっと寝過ご……っ痛!!」

『キュ、キュイイイイイ!!』

ラウトは再び歩きだそうとするといきなり叫び、右腕を押さえてしゃがみ込んだ。

「あたたた…くそっ、やっぱり昨日は無理しすぎたかな?」

『グウウゥゥゥ…!!』

心配したのか、彼の横でリムラがささやく。

「あのなぁ、リムラ。
だからって、ほっとくわけにもいかなかっただろうが…ってぇ。
やっぱり痛むな。」

エクサとリムラが心配するが、だからといってどうにかなるものではない。

「…あ〜、今日は整備やらなんやらやらなきゃな。
こんな事ばっかり言ってられない。」

ラウトはそう言うと立ち上がった。

『キュ、キュイイ!』

『……グウウゥゥゥ…』

「心配するなってエクサ。
そんなに俺はヤワなつもりはない。
あ、リムラ、ご名答…
とにかく、今日は勘弁してくれ。
やらなきゃ余計疲れそうだ。」

そう言うと、ラウトはそこから水を飲みにオアシスのほとりまで下っていった。
水音がバシャバシャと聞こえる。

「……ふぅ。やっぱり、本調子とはいかないか。
それより、昨日は何も食べなかったから腹減ったな。」

『キュイイ?』

ラウトがお腹の辺りをさすると、どこから持ってきたのかエクサは紙包みを差し出した。

「なんだ?」

ラウトはそれをエクサから受け取り中身を出す。

「…これ、昨日ムンベイが言っていた町民が用意したご馳走か?」

『キュイ!』

エクサは頷く。

「…おいおいおい。
お前はたまにとっぴょうしもなく暴れるじゃないか。
大丈夫だったのか?」

そう。エクサは何かちょっとしたことで落ち込むと、その後大暴れする癖がある。
この旅の中は、ラウトが予防処置を行っていたので何も起きはしなかったが。

『グウウゥゥゥ…』

「あ?なんだ、途中から抜けてきたのか。
よかった。
じゃないと、何が起こるか保証できないからな。」

ラウトはホッと胸を撫で下ろした。

「ありがとな、エクサ。」

『キュイ!キュイイイイ!』

エクサは嬉しそうにすり寄ってきた。ラウトはしばらくそのまま、されるがままになっていた。

 

「もう大丈夫です。
軽傷でしたから、これだけ回復すれば支障ありません。」

昼時を過ぎる頃、ラウトはとある倉庫にいた。

「へへ。
サンキューな、ボウズ!」

そこにはコマンドウルフ、ゴドス、ガイサックがいた。
つまりここはカルドレーラタウンの自衛団のゾイド待機場所、兼整備工場というわけだ。

「ラウト、終わった〜?」

「ムンベイ。」

後ろを振り返ると、入り口の所にムンベイが立っていた。

「そっちも終わったのか?」

「えぇ。
意外なところで報酬ゲットよ。」

ラウトは駆け足でそこへ向かうと、ムンベイはそんなことを言った。
ラウトはまた苦笑いをする。

「まあとにかく、これでもう仕事は終わったんだろ?」

「えぇ。
そろそろ出発するわ。」

「分かった。」

「おいボウズ!」

彼らがそこを去ろうとしたとき、あのコマンドウルフのパイロットが話しかけてきた。

「今回のことは本当に礼を言うぜ。
ありがとな!」

「いえ、どういたしまして。」

ラウトは軽く会釈すると、すぐにムンベイと共に行ってしまった。

 

「やっとこれで終わりか……
あっ、ただいま…リムラ、エクサ。
そろそろ、出発の準備をしなきゃな。」

『キュイ!』

さっきまで植物を観察していたらしいエクサが、ラウトの方にやってくる。
ふと、ムンベイが何か思い出したように言った。

「そう言えば、あんたのレドラーはまだ登録してなかったんじゃない?」

「登録?」

ラウトは首を傾げた。
横には、戻ってきたエクサがすり寄っている。

『キュアッ!』

「そうよ。
やってないと怪しまれるわ。
まぁ、レドラーくらいなら大丈夫かもしれないけど
あんたのレドラー、結構どえらいゾイドだからね。」

「そっか。
まだだけど、大丈夫かな?こいつは…」

「えっ?どういう事??」

ムンベイが驚いたのは、ラウトがとっても困った顔をしたからだった。

「え?
いや…こいつ、知っての通り我が侭だからさ。」

「あぁ、そうだったわね。」

ムンベイはいやなことを思い出して苦笑いした。
以前、触れようとしただけで暴れ出したのだ。
その時はラウトが何とか宥めたが…

「じゃあちょうど良いわ。
私たちもエクサのことを知っておかなきゃならないし。」

「GF本部に行くんでしょ?
あたしも国境を越えようとしていたところだから、ちょうど良いわ。」

フィーネとムンベイがそう言ったところで、彼の次の行き先が決まった。

「分かった。
次はそこか…あっ、別にホエールキングじゃなくて
普通にグスタフで行くんだよな?」

「ええ?」

急にラウトがそんなことを言うので、ムンベイは何かと思った。

「じゃあムンベイ、俺はリムラの方で寝るから。」

「えぇっ!?どうしたのよ?」

ムンベイは驚いてラウトの方を見た。

「グスタフの方にいるとスピーカーの音量で寝れない。
安全運転で頼むよ。」

「はあ?」

ムンベイはそう言うが、
ラウトはさっさともうグスタフの荷台にいるリムラに乗り込んだ。

「まったく、しょうがないわね。
何が起こっても知らないわよ!」

「へいへい。分かってます。」

そう言うとラウトはコクピットを閉めた。

「どうしたのかしら?」

「多分、昨日の戦闘に疲れがとれてないんだろう。
そっとしておいた方がいいな。」

「うん…」

フィーネはその行動を不思議に思ったが、バンにそう言われて納得したようだ。

「レイヴンもリーゼも行くぜ!」

「分かっている。」

「分かってるよ。」

こうして、彼らはこの町をあとにすることにした。グスタフが動き出す。
ふと、リムラがラウトに問いかけた。

『グウウゥゥゥ…』

「ん?体力のことか?
ああ平気だよリムラ。
だいぶ良くなったから。」

そう言い終えると、ラウトはすぐに眠りに落ちていった。

 

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*アトガキモドキ*

はふ…終わらない戦いがようやく終わってほっとしているところです。
でも、後半が予想以上に長引いてしまいました………そして……うぇっ予想以上に進んでいない(汗)
っていうことは、この話はまだ続くのね………へふ…。
そして最近ストレスがたまっていたのか、何だかラウトをいじめてしまったような(爆爆爆…)
やっぱり最近、変です(汗)
こんな物を送ってしまってすみませんが、何とぞ宜しくお願いします…


シヴナさんから頂きました。
とうとう登場のバン達で〜す!!
なんか、科白が登場したとき、「もしかして!」と思ってワクワクしました。
やっぱり最後は主役(レイヴン?)が決めましたね。
あと、大規模な組織の登場ですね。
サーカス・・・、今後どういう事を起こすか、注目です。
個人的には、レイヴンの腹の音が笑いました。
そして、一行はGFの本部へ・・・。
それまでお休み・・・、ラウト。
シヴナさん、どうもありがとうございました。

 

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