「過剰な巡り合わせ」
〜噛み合わされた歯車〜

 

ガタゴトゴトゴト、ガタゴトゴトゴト…

例外になく、今日も砂漠は晴れ渡っている。
その広大な大地に数体のゾイドが一直線に歩いていた。
先頭にブレードライガー、その後にジェノブレイカー、グスタフが続いている。
そしてグスタフのトレーラーには赤いレドラー、プテラスがそれぞれ乗っていた。
オーガノイドの姿もある。

「おい、そろそろ到着だぜ。」

遠くに建物が見えてきた。
バンがそれを拡大して見る。
大きな基地だ。
側には海もある。
ムンベイも手をかざして荒野の向こうを見やると、2体のゾイドの先にようやく目的地が浮かんできたのを確認した。

「ああ本当だ、見えてきた。
ラウト、起きてる?」

「…っ……」

ラウトは今の今までぐっすり眠っていたようだ。
ぼやけた視界を正すため目をこすると、彼も前方にあるそれを見た。

「これが基地か?
大きい…」

初めて見ての感想はそれだった。
国境にある、おそらく大陸中で一番高度な基地……
あまりに壮大すぎて、単純な言葉以外出なかった。

「GFの本部だからね。」

「できたのはごく最近なのよ。
昼夜問わずに大陸の動きを監視しているわ。」

「小さな盗賊から軍の最優先事項の事件まで
いろいろ対応できるのさ。」

「へぇ。」

ムンベイ、フィーネ、バンの説明にラウトは感心したように短くそう答えた。
そうしている内にその基地入り口までついていた。
先頭のブレードライガーがキャノピーを開ける。

「ちいっす。」

バンがそう言うと、兵士は敬礼をしてからブレードライガーに近付いてきた。

「身分を証明するものを見せて下さい。」

「OK」

バンはGFの紋章が入ったペンダントを取り出し兵士に見せた。

「確認しました。
では、これらのゾイドの識別コードを提示して下さい。」

「はいはい。」

今度はフィーネが兵士にIDカードを提示した。
ジェノブレイカーからもレイヴンとリーゼが降りてきてカードを出す。
その後ろのグスタフでもムンベイがカードを手にキャノピーを開けていた。
が、一機だけ問題があった。
赤いレドラーのキャノピーが開いた。

「なぁ、俺はどうするんだ?
IDカードなんか持ってねぇし、身分を証明するものとかも、何も持ってないんだけど…」

ラウトは今まで軍事施設に顔を出すようなこともなかったし、
メンテナンスも全部自分でやってきていてそんなことからは全く縁がなかったのだ。

「ああ、そうか。
ラウトは初めてだったな。
ちょっと待ってろ。」

身分証明はともかく、識別コードが分からないようではGF本部のあるこんな場所に入るのは普通無理だろう。
しかし調べるにも一手間かかる。
バンは降りて兵士と話をするとしばらくしてからこちらに戻ってきた。

「大丈夫だぜ、ラウト。」

「通行を許可します。」

「どうもありがとうございます。」

ラウトは下でもう一人の兵士から通行証を渡された。
バンもコクピットに戻り、ブレードライガーが歩き出した。
ジェノブレイカーも続く。
グスタフもキャノピーを閉じ、基地へと入っていった。

「ん…どうかしたか、エクサ?」

ラウトはまた赤いレドラーのコクピットに戻ったが、
キャノピーを閉める前に下を見下ろした。

「どうかしたの、ラウト?」

グスタフの方からムンベイの声が聞こえる。
ラウトは身を乗り出してよく確かめると、エクサはシートを被ってがたがたと震えていた。

「エクサ、大丈夫かい?」

「いや、こういうところにちょっと慣れてないせいで臆病になってるだけだ。
……いつも町へは俺一人で行って、置いてきてたからな。
悪いな…」

後ろのプテラスの乗ったトレーラーでは、ジークやスペキュラーがエクサのことを気にしてくれていたが、
行こうとしてもリムラが唸るので近付くことができなかった。

「……どうしてそう無意味に警戒心出すんだよ…」

ラウトはそうぼやいたが、結局またグスタフが止まるまで誰も側に寄れなかった。

 

倉庫にそれぞれのゾイドを置くと、彼らは司令室へ向かう。
10人(6人+4)もいるので、特に何もしなくても
歩くだけで目立っている。

『キュウウゥゥ……』

そのほぼ真ん中に元々小さいのにもっと縮こまっている水色のオーガノイド、エクサがいた。
シートから出てくるのでさえ大仕事でもの凄く不安そうに歩いている。

『キュイ?』

『キュア』

『キュ』

スペキュラーもジークもシャドーも話しかけてくれているが、一向に良くなる気配がなかった。

「そんなに緊張することないわよ、エクサ。」

「そんなにおどおどしないで。
大丈夫よ、恐いものなんかないもの。」

『……キュアァ…』

ムンベイとフィーネに辛うじて顔を上げる。
だがしばらくすると、どうしても俯いてしまうのだった。

「そのうち慣れるって。
心配することないだろ?」

後ろからラウトも声を掛けるが効果がない。
ラウトはだめかとばかりに溜め息をついた。

「ほら、入り口に着いたぜ。
エクサももっとシャキッとしろよ。」

扉がスライドすると、バンが先に入っていった。
司令室には4人の軍人が待っていた。

「おっ、来たか。」

「よっ、ただいまハーマン。」

『キュア!』

入ってきたことに気付いたハーマンにバンが手を振った。
隣でジークも一鳴きしてしっぽを振っている。

「バン、フィーネ、ジーク、それにレイヴン、リーゼ、シャドー、スペキュラー、
任務ご苦労だった。
それと久しぶりだな、ムンベイ。」

「そうね。
ちょっと仕事が立て込んだからこっちには顔を出してなかったし。」

さすがに14人となるとこの司令室でもいつもより狭く感じる。
やっと後ろのドアが閉まった。

「ハーマン大佐、通信で話していた
ラウトとエクサです。」

「初めまして。
ラウウァートシス・シェム・デイヴィッサーと申します。
こちらはオーガノイドのエクサ。」

『…キュイ』

一番最後に入ってきたのはラウトだった。
フィーネに紹介されたので数歩前に出てきた。
エクサはといえば相変わらず……。

「俺は共和国大佐、ロブ・ハーマンだ。
そして俺の部下…」

「共和国大尉、オコーネルだ。」

「私は帝国軍大佐、カール・リヒテン・シュバルツ。」

「同じく帝国軍中佐、レックス・ハーティリーだ。」

自己紹介の間もいやに落ち着かないでいるエクサにラウトのほうも落ち着けないようだ。
しまいには肘で突いていた。

「だからそんなに緊張しなくっていいんだってば。」

だが効果はなし。
どうにもならないと諦めたのか、それ以後はラウトもちょっかいを出さなかった。

「あぁそうだ、バン。
次の仕事があるんだが…」

「また?今回はやけに早いな。」

「もちろん、レイヴン達…も……」

そう言えば、リーゼすらこちらの会話に全く参加していない。
少し奇妙に思ってみれば、まぁ予想通りというわけだった。

「やれやれ、ここの空調が壊れたのか?
やけに熱いな。」

「!?」

ここぞとばかりに、シュバルツが大きな声で言う。
さすがにこれで二人も強制的に現実へと引き戻されたようだ。

「シュバルツ…」

「ははは、冗談だよレイヴン。」

リーゼはというと、聞かれていたと思ったのか顔を真っ赤にして黙りこくっていた。

「やれやれ、まだ昼間だぜ。」

「あら、それ前にどこかで聞いたわ。」

「…………」

フィーネの言葉が何故かグサッと来たバンだった。
そんなバンの気を知ってか知らずか、フィーネはバンがハーマンからもらった
書類を横からのぞき見ている。

「まったく、こいつらときたら。」

『キュア…』

その様子をムンベイが面白そうに見ている。
そのすぐ後ろでは、スペキュラーがやれやれとばかりに右手で頭を押さえていた。

「トンボーロタウン……そう遠くないわ。
ライガーもブレイカーも、それにプテラスにも問題ないし、」

「盗賊を回収しただけのようなもんだからな。
さっさと終わらせようぜ。」

「そ、そうだね。
行こうか、スペキュラー。」

「行こう、シャドー。」

何度もからかわれているせいなのか、立ち直りは早かった。
……と言うよりは、これ以上からかわれたくないせいかもしれない。
リーゼとレイヴンはそれぞれのオーガノイドを呼んですぐにドアへと歩いていった。

「じゃあ行こうぜ、ジーク。」

『キュア』

「あっ、待ってよバン。」

バンも回れ右をしてレイヴン達の後に続く。
バンから書類をもらって見ていたフィーネは慌ててバンのあとを少し駆け足で追いかけた。

「いそがしいもんだね。
がんばりなよ、みんな。」

「おう!」

「行ってきます。」

バンとフィーネが手を振ると、すぐに扉は閉まった。
彼らを見送ったムンベイの隣では、
挙動不審になっているエクサがあっちを見たりこっちを見たりを繰り返している。

「大丈夫、エクサ?
なぁに、しばらくすれば慣れるわよ。」

『……キュイ…?』

エクサはムンベイにトントン、と頭を叩かれる。
それで少しは落ち着いたのか、そこまで奇妙な動きは見せなくなった。

「あぁ、そうだ。
それで色々と確認のために聞きたいことがあるのだが。」

「はい。」

ハーマンにそう言われてから、ラウトはオコーネルがまた別な書類を持っているのに気が付いた。
そこへムンベイが茶々を入れた。

「ここで喋るのも何だし、食堂に行かない?
何だか喉が渇いちゃったわ。」

「……おぃおぃ。」

急にそんなことを言い出したので、
ラウトの方はそのいい加減さに驚くを超えて呆れていた。

「それに、エクサだってだいぶ疲れてるのよ。
こんなところに長いこといさせて、さらに疲れさせるつもり?」

「それもそうだな。」

ハーマンもエクサの様子を見て賛成する。
ずっと縮こまったままなのだ。
確かにこのままでは気の毒である。

「じゃあ決まりね!
早く行きましょ。」

「おぃ、いいのかよそんなんで…」

慣れないラウトは意味もなく焦っていたが、

「いいからっ。」

次のムンベイの言葉で黙らされてしまった。

「ぼっ…いや、私もか!?」

「そうよ。」

そしてさらにハーマンとオコーネルだけでなくレックスやシュバルツも巻き込んで
その場所へ向かったのだった。

 

「一体、何故私たちまで…」

コーヒーをすすりながら、そう愚痴ったのはオコーネルだった。
窓際の席で日もよく入ってきていたが、その光さえ少し鬱陶しいようだった。

「ん、何か言った?」

「いや、何でも……」

そんなぼやきもほぼ向かいにいるムンベイの耳まで届いていた。
ムンベイにそう問われたオコーネルはただ首を横に向けるだけだった。

「ところで、ラウトに質問って何?」

そんなオコーネルの様子は無視して、軽食を食べかけのムンベイがハーマンに話しかけた。
横でコーヒーでなく紅茶を飲んでいたラウトもふと顔を上げてハーマンの方を見た。
因みにエクサはというとテーブルのそばにある観葉植物の隣で丸くなっていた。

「あぁ、まずはオーガノイドのことだな。
どうしても敵がいる都合上、いくつか聞いておかなければならない。」

「エクサのことを…?」

『…キュ……!?』

窓側にいるハーマンが手で合図をすると、隣のオコーネルがさっきの紙をテーブルの上に出した。
エクサは自分の名前を言われたせいか、ビクッとして首を持ち上げていた。

「簡単な質問だ、すぐに終わる。
ハーティリー中佐…」

「はっ。
まずそのオーガノイド、エクサのいた遺跡を聞きたいのだが?」

シュバルツがレックスに合図をし、レックスがそれに応えて質問が始まった。
シュバルツの横ではオコーネルがメモを取る用意をしている。

「共和国の辺境地帯にある、山林に囲まれた遺跡にいました。」

ムンベイはしばらく口を挟むことがないと思ったのか、残っていたサンドイッチを食べ始めた。
ハーマンは話を聞きながら少し首を傾げていた。

「辺境地帯の山林…
…そこに遺跡があるという話は聞いたことがないな。
場合によっては調べる必要があるか。」

「あの、すみませんが……」

ハーマンの言葉を、ラウトは途中で遮った。
ハーマンは何かと、天井に移動していた視線を、またラウトの方に向ける。

「その遺跡は3年前に地震で倒壊しています。
原形をとどめないほど損傷は激しかったですし、
近くの村の人々が後片づけをしたので、おそらく何も残っていないかと……」

「何もない?」

シュバルツが聞き返した。
天災で破壊される遺跡の話は聞くことがあるが、
それで完全に消え去ることはあまり耳にしたことがない。

「はい。
元々その遺跡には石版はなかったようですし、他にも特に…。
今はその場所を特定することすら難しくなっていると思います。」

「そうか。」

ハーマンが頷くと、シュバルツは次の質問に移ろうと、レックスに合図をした。

「それでは、そのオーガノイドの対の存…」

ガタッと、静寂の中に物音が響く。
一緒にラウトも体をビクッと反応させた。

『キュ〜、キュウウゥゥ…キュアアァァァ………』

オーガノイドのもの悲しい声がする。
ラウトが慌てた様子で横にいるエクサをさすってやった。
皆が動揺していると、ラウトが重苦しそうに口を開いた。

「今は、もういません。
…亡くなっています。3年前に。
それで、今は私がパートナーなんです。」

「そうだったの?
初めて聞いたわよ、そんなの…」

もうとっくに皿もカップも空にしていたムンベイが驚いた表情でその場に固まっていた。
そう言えば、ラウトは昔のことを殆ど喋ったことがなかった。
特に今思い返してみれば、自分から何か言ったことはない。

「すまない…悪いことを訊いたな。」

「構わないです。
もう昔のことですから。」

少しの間、辺りを沈黙が支配した。
何か考えている様子だったラウトが、またやや重そうに口を開いた。

「頼まれたんです。
その人に…まだ見つけなければならないものがあるはずだからと。
あても何もないのですが、約束してしまった以上破るわけにはいかないので色々なところへと旅をしているんです。」

「そうか…」

重苦しい空気はまだ晴れなかった。
だがもうそろそろ次の質問に移らなければならない。
オコーネルがペンを持ち直すと、またレックスも質問を再開した。

「…できれば、その方の名前を知りたいのだが?」

「エレイド…エレイド・レテリーク・シュレ・プリムラ」

だがそう言ったところでラウトはビクッと反応し、その場で固まった。

「どうかしたかい、ラウト?」

ムンベイが驚いて話しかけるが、意識の焦点がこちらにはないらしく微動だりしなかった。
また辺りに静寂が戻ってきた。

『ビービービービー…』

「何だ!?」

「やっぱり!」

その静寂を警報が切り裂いた。
驚くハーマン達をよそに、ラウトが急に席を立る。
その慌てた様子に、他の皆も何事かと神経をとぎすませた。

「ちょっと失礼します。
なんだか相棒が暴れているようなので。」

「あぁ、ちょっと!」

『キュイッ!?』

ムンベイとエクサが声を掛けて止めに入ったが、ラウトは構わず走って食堂をあとにした。
その様子にムンベイは全く、と呟く。

「また我が侭リムラが騒いだわけ?」

「ムンベイ、何か事情を知っているのか?」

立ち上がったムンベイを見て、ハーマンが声を掛ける。

「ま、ね。とにかくあたし達も行きましょ。
行きがてらに話すわ。
ほら、エクサも一緒に。」

『キュ!』

ムンベイに誘われて
寝そべっていたエクサも起きあがった。

「とにかく、後を追おう。」

ハーマン達も席を立つ。
彼らは話をしながら事件が起きたであろう場所へ向かった。

 

それからしばらく経った頃、あの騒音も何とか鎮まったようだ。
のだが、その頃……

『キュオ?』

何故かエクサは1人(?)で基地の中を歩き回っていた。
どうやら、5人が話をしながら歩いているうちに抜け出してしまったらしいが…一体いつ抜け出したのだろう?
トコトコとコンクリートでできた地面を歩いている。

『キュ、キュアアァッ!!?』

盛大な音共に、前のめりで倒れているオーガノイドができあがった。
足下には別に何があるわけでもない。
ただ平坦なだけの地面だ。
どういう訳だか、何もないところでばかり躓いている。
もうこけたのも今日で7回目…

『キュオオ…』

こうやって起きあがるのも7回目。
エクサは辺りを、特に上の方をきょろきょろと見渡している。
あっちこっちに四角い建物が建ち並んで、
エクサのところにもその大きな影の一つが覆い被さっていた。
いつもより四角くな狭い空が見える意外、ここが一体どんなところなのか、
エクサにとって見当の付くものは何もない。
みんな見知らぬようなものばかりだ。

『キュイ♪』

エクサはまた歩き出した。
兵士の何人かとも擦れ違ったが誰も特に気にしていないようだった。
オーガノイド自体、彼らにはさほど珍しいゾイドでもなかったこと、
彼らも水色のオーガノイドがここに来ていることを知っていたこと、
それに、それよりもさっきの騒ぎの方に注意が向けられていた。
それをいいことに、大して注目されていないエクサは割と自由に動き回っていた。

『キュア?』

体が大して大きくないことも災いしたらしい。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり…
本人は考えていないようだが、絶対に自分が離れた方へと歩いていることに気が付いていない。
だがそれも巡り合わせというものだったらしい。

『キュアアァァァ…』

エクサはポカンとそれを見ていた。
ここに辿り着いたと言うことは、よほど運がよかったらしい。
目の前には見たことも聞いたこともないぐらい、常識の定義を逸脱したゾイドが生きていた。

「まさか途中でいなくなるだなんて!」

「ったく、エクサの奴離れるなよな。
こんなところだと迷子になりかねないぞ…」

エクサの知らないところでは、こんな風に時間の進むスピードがだいぶ違っていた。
情報収集に少し時間を割き、集めた情報を頼りにある場所へと向かっている最中だ。

「話に夢中になりすぎましたね、ハーマン大佐。」

「そうだなオコーネル。
まさかいなくなるとは…」

ちょっとした不注意だった。
あのオーガノイドが、自分から別行動を取るだろうとは予測できる範囲を超えていた。
しかもとんだところへ行ったときたものだ。

「ウルトラザウルスの方へ行くとは…」

「とにかく、急ぐぞ。」

レックスとシュバルツも一緒に走っている。
いくつかのブロックを通り過ぎ、だんだんとその“場所”が見えてきた。
光が反射し、その白い姿が目に飛び込んでくる。

「あれが、ウルトラ…ザウルス?
これが、ゾイド……?」

ラウトがあっけにとられたような声を上げた。
目の前にその巨体の全体が現れる。

「久しぶり〜、あたしのウルトラザウルス。」

「…本当は俺のなんだがなぁ。」

ムンベイのセリフにハーマンが小声で突っ込む。
が、聞こえていないのか無視されたようだ。
ここにもしアーバインがいれば「いつからお前のもんになった?」と言ったか、
もしくは溜め息をついていただろう。

「ここのどこにいるんだよ…」

呆れ顔でラウトが呟く。
エクサがいなくなったと思ったらこんな場所にいた。
ここまででもだいぶ走ってきたというのに、見るからに探し出すのが困難そうなところにいるとなれば、
意気消沈してしまうのも当たり前のことなのかも知れない。
もっとも、ムンベイにはそんな様子はないが。

「確か、飛行ゾイドが離発着する場所よね。
あたしが案内するわ!」

「飛行甲板だろう…」

オコーネルが小声でそう突っ込んだが、
聞いていないのか何なのか、誰も相手にしなかった。

「とにかく、早く行こう。」

レックスがそう言ったところで、皆はウルトラザウルスの中へ入っていった。

 

エレベーター、通路…それらを使って、上を目指した。

「…小さい基地並みなんだろうな、これは。」

ゾイドの中にいる気がしないのか、ラウトは周りを見ながらそう呟いた。
その通り、ウルトラザウルスは類を見ないほどの大きさを誇っている。

「えぇっと、確かここの上。」

「急ぐぞ。」

皆の先を歩いていたムンベイがそう言った。
ハーマンも皆を急がせる。
そこから飛行甲板まではすぐだった。
出ると急に視界は開け、目に飛び込んできた青空がまぶしい。
甲板のまっすぐな直線が空へ向かって伸びている。
その先に、いくつかの影があった。
そこに紛れている水色の金属を目にしてラウトは反射的に叫んだ。

「エクサ!」

『キュイィ?』

「うわぁっ!」

ラウトがそう言った拍子に、兵士が一人しりもちをついた。
紫の軍服を着ている。
帝国軍人だ。

「大丈夫か?」

「あ、はっ!シュバルツ大佐!!」

カールが近付いて声を掛けるとその兵士は慌てて起きあがり敬礼した。
その後ろにも兵士達が何人か見える。

『キュイイッ♪』

「キュイイ、じゃないだろ…」

エクサに話しかけられたラウトは呆れた風な顔でそう言ったが、
どうやら真意は伝わらなかったようだ。
そんな様子をムンベイが笑って見ている。

「すみません、大丈夫でしたか?
このエクサが何かしたようで……」

理解していないエクサに代わり、ラウトがそう言って謝った。

「…他人にじゃれつくのはやめろよ……」

『キュイ?』

「そんながみがみ言うことないじゃない、ラウト?
別にわざとやった訳じゃないんだし。
ねぇ、エクサ。」

『キュッ!』

ラウトが小声でエクサに忠告したのだが、その隣にいたムンベイにも聞こえてしまった。
エクサがムンベイに嬉しそうに返事をしたのを見て、ラウトはその場で次の言葉を飲み込んだ。
だいたい、じゃれつかれた方はたまったものではないのだ。

「…はぁ、だから心配だったんだけど…
…意外になれるの早かったな。」

『キュイ?』

代わりに言った言葉を、エクサはよく分かっていなかった。
ラウトはその様子にがっくりときていた。

「さっきまでビクビクしていたエクサはどこへ行ったやらって感じね。
よかったじゃない、いつまでもあんな調子じゃなくて。」

『キュイ、キュ〜〜〜イッ!』

ムンベイはまた笑った。
エクサも楽しそうにはしゃいでいる。
そしていつも以上に元気そう……

「どうしたんだ?」

エクサがウルトラザウルスの頭部の方に向かって目を輝かせているのを、
レックスが不思議そうに見ている。
ムンベイもさぁ?と肩をすくめた。

「こんな巨大なゾイドに出会ったので興奮しているらしいです。」

ラウトはもういいやとばかりにエクサが見ているところとは全く別な方を向いていた。

「自分が小さいからって、大きいゾイドに憧れたわけ?」

「…多分、な……」

ムンベイの質問に答えると、ラウトは目を落としながら浮かない様子で溜め息をついた。

「どうしたのよ?
さっきから溜め息ばっかりついて。」

「いや…、悪い方に転がりそうな気がして……」

「悪い方?」

ムンベイが問い返したがラウトはそれ以上答えなかった。
それだけ気力を失っているらしい。

「お前達はもう仕事に戻れるか?」

「はっ、大丈夫です。」

もうこれ以上ここにいる必要がないと判断したレックスがエクサから先の兵士達に視線を移した。

「では頑張ってくれ。」

「了解しました、シュバルツ大佐!」

カールがそう言うと、一際大きな返事が来た。
指示も出し終えたところで彼らはそこをあとにした。
余談だが、先のことをまだ気にしているらしいラウトをムンベイが襟を引っ張って行ったとか。

 

一団はもと来た道を戻った。
もっとも、エクサだけはそこを通ったかどうか定かではないのだが……

「離れるなよ…」

『キュイ?』

またあんな事はご免だとばかりにラウトはエクサに釘を刺していた。
効果があるかどうかは……おそらく、ないだろう。
擦れ違った兵士をまた物珍しそうに目で追っているくらいだ。
基地の中は整然としている。
兵士達もあっちへこっちへと移動してせわしない。
と、歩いているとむこうから皆に馴染みの深い人物がやってきた。
基地内では珍しい一般人の服装、銀色の六芒星のペンダントが一瞬光に反射した。

「キース、サンダー!」

「おっ、いたな!」

『キュイ!』

前方からやってきたキースとサンダーにムンベイが驚いた声を上げた。

「確か、シャドーフォックスでまた賞金稼ぎに出ていましたね。」

「ちょうど今着いたってところか。」

「まあな。」

オコーネルとハーマンがキースに話しかける。
彼らが会話を続けようとしたちょうどその時、あっけにとられたような声が聞こえた。

「キース…」

「えっ!?」

前にいたムンベイが驚いてラウトの方を見る。
ラウトがキースのことを知っている?
話題こそ出はしたがここまで来る間、キースとは一度も会っていない。

「え…あ?
って、ラウトか!?」

『キュイイ!?』

キースはそれで気が付いて、5人の後ろにいるラウトが目に入った。
サンダーもラウトのことを知っているようだが、エクサは首を傾げて、不思議そうにこの様子を眺めている。

「前に会ったことが会ったのか?」

不思議に思ったのはムンベイやエクサだけではなかった。
シュバルツも不思議がっている。
ハーマンやオコーネル、レックスもだ。

「まあ、そんなとこだな。」

「ちょっと、タチの悪いヤツらに絡まれてしまって…そのときにお世話になりました。
……まさか同じ人だとは思わなかった。」

キースは普通そうに答えたが、ラウトはちょっとだけ困ったような顔をして答えた。
無知だったり、よくある名前だと思ったせいなのか、ラウトは同一人物だとは思っていなかったようだ。

「まぁそれが賞金首の奴らだったから、色々とゴタゴタしたけどな。
ところで、その水色のオーガノイドは?」

エクサはまた首を傾げて自分?とでも言いたげな顔をした。
サンダーも見知らぬオーガノイドに興味を示しているようだ。

「こいつはエクサ。
俺のパートナーなんだ。
あの時は忙しくて紹介できなかったから。」

「ふぅん。
あんた達、前にあったことがあったのね。」

ムンベイが興味ありげに会話に加わってきた。
だが次の言葉を聞いて、ラウトだけは思わず苦笑してしまった。

「でも、ラウトならそう簡単にやられるなんて事はないんじゃないの?」

「まぁ、“グッドタイミング”とかって言うヤツ…逃げられねぇな、と思った瞬間ちょうどよく。
おかげで早くすんだけど。」

ラウトは自分が強いと思われることに関してどうも苦手らしい素振りだった。

「あの時は俺もそいつらが狙ってた奴らだったから驚いたけどな。
ところで、何でラウトがこんなところにいるんだ?」

今度はキースから疑問が出された。
まあそう考えるのも自然だろう。
ここは普通、15の子どもがいるような場所ではない。

「ムンベイの事情に巻き込まれたというか…」

「ちょっと、それはあんたのせいなんじゃないの?
大体、せっかく……」

「まぁまぁ。」

すぐにハーマンが止めにはいる。
これだけでもどういう事なのか、キースにも楽に察することができた。
ムンベイの性格なら始めに会ったときによく分かっている。
キースは言いそびれていた話題に切り替えた。

「そういやハーマン、ブレイダーはまだ本調子とはいかないよな。」

「現在全力で修理中だ。
もう少し待っていろ。」

「あの様子だと、もうしばらくかかりそうですね。」

ハーマンとオコーネルが答える。
今の状態ではちょっと動かせない。
全快まではまだ遠そうだ。

「そうか…心配だな。
できるだけ早く回復するといいんだけど。
最近、空戦の腕がなまり気味なんだよ。
早く飛び回りたいぜ。」

『キュイ!』

やはり“空の覇者”の異名を持つ男。
キースが真の実力を発揮するとなれば、なんと言っても空戦でだろう。
無論、陸戦でもシャドーフォックスなら何の障害もないわけだが。

「ところで何かあったのか?
やけに清々しい顔をしているが。」

いつもとの微妙な違いに気が付くシュバルツ。
なかなかというべきなのだろうか。
他の一同は「え?」という顔をした。

「まあ、ちょっとな。」

「まさか、また……」

大方の予想が付いて、オコーネルが閉口した。
キースの特技、場所、状況を考えれば
すぐに思い当たることができる。

「確かにハルフォード中佐は先までこの基地にいたはずだ。
時間からして、少し前に出た頃だと思うが。」

ハーマンは苦笑いをした。
後ろでサンダーがその通りですといわんばかりの仕草を見せている。
口で争えば、まずキースの右に出る者はいない。

「今更言うこともないだろ?」

「分かってるわよ。」

ムンベイもそんなことを言う。
軍の中ではかなり有名な話である。
とは言うが、今までそんな関わりもなければ分かるはずもない。
話の内容を掴めていないラウトに、見かねたムンベイが耳元で囁いた。

「キースは口喧嘩が得意なのよ。
気を付けないと…」

「ムンベイ、何か言ったか?」

キースの声を聞いて、ムンベイはギクッとした。
ハーマンが振り返って様子を見てみるとムンベイの顔は引きつっていた。

「いっいいえ、何も言ってないわ。」

どうやら、その恐ろしさは十分に知っているようだ。
ハーマンも少しそれに同情していた。
ハーマンだってキースの元同僚だ。
どの程度のことだかは知っている。
…よくハルフォードとの口喧嘩は目にしていた。

「口が上手いって事か…。
俺、そういうの苦手分野だから羨ましいな。」

ラウトはその後ろで小声でそう言った。
実はラウト、口喧嘩ではよく負ける…。
…元々その手の争いごとは得意でないのだ。
だから今ムンベイと一緒にいるとも言える。

「それより、ここで立ち話をするのもなんだ。
移動した方がいいだろう。」

「そうね。早く行きましょ。」

シュバルツがそう提案し、一団はそこからまた歩き始めた。
賛成したムンベイには、上手く話題を変えたいという狙いもあったようだが。
その時もまだ、ムンベイの頬には確かに冷や汗が伝っていた。

 

それからも、偶然アーバインに会ってムンベイとアーバインがけんか腰になったり、
それから雑談をして賞金だとか相棒の話などが話題に出たりした。
今はハーマン達は仕事に戻り、アーバインともまた分かれた。
そしてムンベイ、キース、ラウト、それからサンダーとエクサは、
ゾイドが置かれている倉庫へと向かってしばらく通路を歩いているところだった。

「そういやムンベイ、グスタフはさっきのところを左に曲がったところじゃなかったか?」

ふと気が付いてキースがそう言った。
アーバイン達と分かれたとき、ムンベイはグスタフのところに行くから、と言っていたのだ。

『キュッ!?』

「あ、おい…またかよ。」

『キュア?』

その時またエクサがこけたりしてサンダーとラウトに助け起こされていた。

「あたしのグスタフは調子がいいから、大してすることもないのよ。
暇つぶしにあんた達につきあってるわ。」

立ち上がったエクサはサンダーにお礼を言って、その後もなにやら楽しそうにおしゃべりをしていた。
人間の方もその後雑談が続き、すぐにサイクロンブレイダーがいる場所に着いた。

「あっ、悪い。
俺はちょっと先にリムラのとこ見てくるから。」

今ちょうど思いだした事かのようにラウトはそう言った。

「何でだ?」

「ちょっと…また暴れられると困るから、早く行かねぇと。
エクサはムンベイやサンダーと一緒にいればいい。
じゃっ!」

『キュイ!』

キースにそう言い、エクサの返事を確認するとラウトは足早に去っていった。
それを見送って、キースとムンベイはその中へ入っていった。

「ま、確かにまた暴れられてもはた迷惑だわ。」

「暴れるって、レドラーがか?」

先程のリムラの様子を詳しく知らないキースはムンベイにそう尋ねた。

「そう、さっきだって大暴れしたんだから。
あんただってそれ、聞いたんじゃない?」

キースは数時間前までのことを思い返してみる。
そうすると一つ思い当たる節があった。

「ああ。
ゾイドが叫んでるような声は聞こえたけど…まさか、それが?」

「そうなのよ。
何でレドラーなのに、あそこまで利かん坊なんだか。」

ムンベイは不満そうな口調で話す。
しばらくそんな性格の奴と一緒にいれば、文句の一つや二つは出てくる。

「まぁ嘘だと思うんなら、後から行ってみればいいわ。
ずっと一緒にいたあたしにさえ手を触れさせようともしないんだから!」

「…そうか。」

わりとゾイドに懐かれやすいムンベイなのだが、珍しいこともあるものである。
そうこういいながら歩いているうちに、ブレイダーの前まで来ていた。

「やっぱり、まだ動かせる状態じゃないか。」

『キュウ…』

キースと共に、サンダーもブレイダーを見上げた。
ブレイダーは機材を取り付けられていたり、
とにかく色々な機械に囲まれて、どことなく居心地が悪そうな感じだった。

『…キュイ?』

「そうよ、これがキースのサイクロンブレイダー。」

首を傾げてこちらを見たエクサに、ムンベイはそう説明する。
ストームソーダーさえ見たことのないエクサにとっては、その銀色のサイクロンブレイダーは全く未知のゾイドだった。

「それにしてもまぁ、どえらいゾイドよね。
あのストームソーダーよりも、ずっと高い能力を持ってるなんてさ。
やっぱりオーガノイドの力なのかしら?」

『キュイ!』

それは私が進化させたゾイドだから、とでも言いたげにサンダーが胸を張る。

『キュウ?』

その様子を、エクサは不思議そうに眺めている。
…エクサにはオーガノイド進化など、縁がなさそうな話だ。

「そういや、ラウトがレドラーに乗るって聞いたけど…」

「ん、何?」

ふとそんなことを思いだし、キースはムンベイに尋ねた。

「あいつ、そんなに腕がいいのか?
飛行ゾイドは地上のゾイドと比べるとはるかに難しいぞ。
…まあ、俺は別なんだけどな。」

訳あってキースはシャドーフォックス以外の陸戦ゾイドに乗れない。
それでもあれだけの腕があるのだからすごいものだが。

「強いよ。
下手したら、昔のバンなんかよりも強いかもね。
まぁ、それは我が侭リムラのおかげなのかも知れないけど。
でも、ねぇ…」

ムンベイは肩を落として続けた。

「あいつ、かなりと無茶もするわよ。
この間のサーカスだとかの時も…その前の時もそうだけど、
一体どれだけ寿命が縮んだやら。」

「サーカス?」

聞き覚えのある言葉に、キースは反応した。
あいつらのことはそう簡単には忘れないだろう。

「ん?盗賊団よ。
カルドレーラタウンであっちゃってね。
レイノスなんかが出てきたときには、どうなるかと思ったわよ。」

ムンベイは両手を広げて困ったときの動作をした。

「でもま、何だか故障してたみたいだし、相手がラウトだから子どもだって油断してたのね。
それに運良くバン達が来てくれたから、レイヴンの奴の荷電粒子砲でおしまいよ!」

ムンベイは最後に左の手のひらに右手の握り拳をぶつけて見せた。

「レイノス…」

そんなムンベイの様子をよそにキースは間違いないと確信した。

「そのレイノスに乗ってたのは女だったよな?」

「え?う〜ん…確かに女の人の声だったわ。
それがどうかしたの?」

「ちょっとな…」

ふと、もう一度ブレイダーの方を見つめ直した。

「捕まったのか…」

ポツリと、そう呟いた。

 

「これは、こっちと。」

一方ラウトはなにやらレドラーの内部にある配線をいじっていた。

「よし、今はこれまでだな。」

ラウトは配線が覗いていたところのふたを閉め、ふぅ、と額の汗を袖で拭って相棒を見上げる。

「まだちょっと傷が残んな…。
しばらくはかかりそうだ。」

『グルルルル…』

それを聞いて、赤いレドラーが唸る。
ゾイドに視線というものがあるかどうかは分からないが、
あるとすれば明らかにラウトを直視していた。

「分かってるって。
さて、もう工具はしまわねぇと。
調子狂ってるところはもうねぇだろ?」

「ラウト。」

ラウトは後ろを振り返った。
少し離れた場所に、4つの影が見える。

「ムンベイ、キース…」

「調子はどう?」

ムンベイにそう言われ、ラウトはまた相棒を見上げた。

「まぁまぁなんじゃないか?」

そう返事をすると、再び工具をしまいだした。

「こいつがラウトの相棒か?」

「あぁ。俺はリムラって呼んでる。」

ラウトは年期の入った工具箱をレドラーにしまい込んだ。
キースはそのまま何気なく近付いた。

「一見、赤い以外普通のレドラーだな。」

「あっ、それ以上近付くと…」

…遅かった。

グルルルルル!!

「おわっ!」

いきなり、赤いレドラーは大きな唸り声をあげた。

「うっ…くそ。
いい加減にしろ、リムラ。」

ラウトは耳を押さえてそう言う。
だがリムラの方は低く小さい唸り声を上げ続けている。

「ね、言ったでしょ?
かなり我が侭なのよ。」

拍子抜けしているキースに、ムンベイがそう言った。
ムンベイは何度この声を聞いたか分からない。

「…変わったレドラーだな。」

「そうね。」

プチカーチス(コモスス)が及ぼした作用だとは聞いたが、この性格はレドラー自身のものらしい。
だからエクサの意図に従わせることもできず、厄介だったりするのだ。

『キュイイ…』

『キュ?』

そのエクサといえば、頭をガンとでも殴られたようにしびれている様子だった。
隣にいるサンダーはその様子を不思議がっている。

「そう言えばムンベイ、今日はここで泊まるんだよな?
明日はもう出るのか?」

ラウトの方はすぐに取り直したようで、今後の予定を聞いていた。

「そうね、…」

『キュイ!?』

エクサが過剰反応を示した。
先程までしびれて動けなさそうだったが、変わり身が早い。

「どうかしたの、エクサ?」

『キュイ…』

エクサはムンベイの方でなく、ラウトの方に近寄った。
何を聞きたいか察したラウトはその返事をする。

「さっきって…ここから出るって、」

『キュイ!』

抗議でもするかのようにエクサは強い声を出した。
だが、突然の行動で…

「何だ?」

『キュイ?』

「さぁ?」

キースもサンダーもムンベイも、いまいち状況を掴めていない。
サンダーは「話すの!」と言っているのは分かるのだが、主語が抜けているので何のことだかさっぱり分からない。

『キュイ、キュイ!』

『グルルルルル…』

今度はリムラが割って入った。
が、見ているこっちにとっては余計にかき乱されたようなものだ。

『キュ、キュイ!』

エクサがリムラの顔に近寄る。
恐いことからは割と逃げてしまうエクサだが、
相手がリムラだと別なのか、状況によっては別なのか、逆に向かっていく始末だ。
両者とも必死になっているところを見ると、どうやらエクサにとってもリムラにとっても一大事なことらしい。
が、全く元が見えてこない。

『キュ、キュ〜イ!』

『グルル…』

「なんなんだ、いったい?」

人間には何を喋っているのか言葉も違うため全く分からない。
もっともラウトの方は予想が付いているため顔を引きつらせたりしているが。

「意訳すれば、ここを出るとか、出ないとか…
出たくないだとか、出るだのとか……
エクサの我が侭の原因、やっぱりウルトラザウルスだな。」

「ああ、悪い方に転がりそうって
これのこと?」

「ウルトラザウルス?」

『キュ?』

その場にいなかったキースとサンダーにはこれだけでは意味が通じない。
彼らが会ったのは、あの事件のあとだ。

「さっきエクサが迷子になって…
それで、その時たまたま出会ったウルトラザウルスに憧れちゃったみたいなのよ。
ほら、小さいから大きいのが羨ましいのよ、きっと。」

「それで出たくないってか。」

相変わらず、2人(2体?)は言い争いを続けている。
どうやらさっきから同じ言葉の繰り返しらしい。
やかましく、その怒鳴り声が延々と続いている。
ラウトは一つ溜め息をつくとその間に歩いていった。

『キュ!』

『グルル…!』

「いい加減にしろ。」

突然割って入られたので、ラウトの方に注意が向く。

「こっちの神経がもたないだろうが。
平行線の言い争いをしたって、何にもなんないだろ…」

『キュウ…』

『グゥ…』

両者はまだ言い足りなさそうだ。
その様子にラウトはまた溜め息をついた。

「…なるようになるんだから、そんな無意味なことするなって…。
だいたい、場所をわきまえろよ……」

それを聞いて、リムラはピタリと唸るのをやめた。

「ほら、エクサも。」

『…キュ』

エクサは不機嫌そうにそっぽを向いた。
その時、ふとムンベイにはあることが頭に浮かんだのだが、それが何かは…まぁ後ほど。

「ところで、ラウトは寝るときどうするの?
私は自分の部屋があるからいいけど。」

「いつも通りにするつもりだから。
別にいいだろ?」

「倉庫で寝ようって気?」

呆れたようにムンベイが言い返すのを聞いてキースは少し引っかかった。

「倉庫で寝るって…」

「このレドラーの中でね。
何でベッドだと寝れないのか理解できないわよ。」

ムンベイがぐちぐちと言う。
短い旅の中でムンベイは何度か宿に泊まったがラウトが宿に泊まったことは一度もない。

「…どうもそう言う人間なんで……」

その後ろでラウトは苦笑していた。

「とにかくそろそろここを出ようぜ。」

『キュイ』

「そうね。」

「そうだな。」

またあの2人(2体?)の方を見てみるとどう考えても…
特にリムラは明らかに不機嫌そうな様子だった。

「…リムラ、大人しくしててくれよ。
頼むから……
行くぞ、エクサ。」

『キュイ!』

エクサは明るく返事をした。
いつまでも同じ事を考えているような性格ではないらしい。
もう気分を切り替えていた。
結局不機嫌なリムラだけを残し、倉庫を出て行った彼らにはすぐに笑い声が起こった。

 

このあとも、なんだかんだとあって色々と忙しかった。

「は〜。…それにしても
何でこんなに疲れたのかしらね、エクサ。」

『キュイ?』

ムンベイがのびをしながらエクサに話しかけている。
ここはムンベイの部屋なのだが、何故かエクサも一緒にいた。
倉庫で寝させるのがかわいそうだと思ったのか、
はたまた他の狙いがあったのか…ここに連れてきたらしかった。
ムンベイはちょうど窓から外の様子を眺めていた。
もう日は沈み、空はすっかり暗くなっていたがさすが基地の中だ。
あちらこちらに灯りがともっている。
それでも、やはり昼ほどの明るさまではなかった。

「さ〜て、明日は気合いをいれなきゃね。
あそことあっちを組み合わせれば、結構いい額になりそうよ。」

『キュ…』

それを聞いて、エクサはとたんに元気をなくした。
エクサにしてみればここから離れることはなんとしてでも避けなければいけないことだった。
だがここに着いた時点で明日ここを発つことは決まっていたようなものだし、
エクサにもそれは何となく分かっていた。

『キュウウウゥ…』

「別に不安にならなくていいわよ、エクサ。」

そんな悲しげな声を聞いてもムンベイは驚いたり慌てたりしなかった。
振り向くと、しょげ返っているエクサを励ますようにもう一度声を掛けた。

「大丈夫、ちゃんと考えてあるんだから。
何も心配することなんかないわよ。」

『…キュイ?』

エクサはムンベイの言葉に念を押すようにして返した。
ムンベイは自信ありげにウィンクしたが、エクサにはそれがどういう事なのかさっぱり分からなかった。
そんなエクサを見て、ムンベイはなお笑う。

「本当よ。
さっ、今日はもう寝ましょ。」

ムンベイはカーテンを閉めると、部屋の電気を消した。
カーテンが遮光したせいで、殆ど真っ暗闇になってしまった。

「おやすみ、エクサ。」

『キュッ!』

エクサはそれを聞くとその場で丸くなり、すぐに眠ってしまった。
…ムンベイはどうするつもりなのだろう?
その結果が誰かにとって悪夢になることは、この時点では誰も知る余地がないのだった。

 

その次の日、朝食を済ませた彼らは司令室にやってきていた。

「おはようハーマン、オコーネル。
今日も早いわね。」

「おはよう、ムンベイ。」

「おはようございます。」

シュバルツやレックスの姿は見えない。
どうやら今はハーマンとオコーネルしかいないようだ。

「おはようございます。」

『キュイ!』

ムンベイの後ろにはラウトとエクサもついてきている。

「ラウトもおはよう。
ところでムンベイ、今日はもう出掛けるのか?」

「まぁね。でもさ、」

さて、ここからがムンベイの例の計略だ。
昨日思いついた作戦が開始される。

「ラウトをここで働かせやってくれない?
整備士の腕は私のお墨付きよ。
それに、エクサに仕事中にぐれられても困るし。」

「は…っておい!」

聞いていないぞと言わんばかりに、ラウトが叫ぶ。
最後のセリフは何となく分かるが、ムンベイがそんなことを考えていたとは全く知らなかった。

「そう言えば、今朝整備士を手伝っていましたね。」

「げっ…墓穴を掘ったか、まさか……」

ラウトの額に、たらりと冷や汗が流れる。
カルドレーラタウンでの戦闘で回収されたゾイドの一部がGF本部にも運び込まれていたのだ。
ラウトの性分上、自分が傷つけたゾイドを放ってはおけない。

「あたし流のあんなやり方も知っているんだからけっこう使えるわよ。
記憶力もいいから、知らないことだってすぐに覚えられるわ。」

「あのなぁ〜…」

やめてくれよとでも言いたげだ。
完全に拒否することを殆どしないラウトにとっては今はかなり不利な状況だ。
反論しようにも、言葉が全然浮かんでこない。

「ところでオコーネル、その話の出所は?」

「私が今朝見かけたのですが。」

「じゃあ昨日の話も本当だな。」

ラウトがまたぎくりとした。当然、覚えがあるからだ。
これがまたいっそう事を悪い方へ運ばせる。

「昨日の?」

ムンベイは知らないので驚いて尋ねた。
寝る前まではラウトと一緒にいたのだが、整備という単語には心当たりがなかった。

「あぁ、ちょっと小耳に挟んだ話なんだが…
何でも、昨晩ゾイドの整備を手伝ってくれたと。」

「…………」

「2つも墓穴を掘っていたのね。」

言い返す言葉もないらしい。
眠った後の話だから、当然ムンベイは知らなかったがラウトの性格ならあり得そうなことだなとは思った。

「…別にいいだろ、眠れなかったんだし。
それに早起きは俺の癖だ。」

「どおりで廊下で会えた訳よね。
普段なら絶対あんたが先に食事を済ませているもの。」

ラウトはもうどうにでもなれ、といった様子で何もない方に目をやっていた。
ムンベイと…もう一人にとっては好都合だ。

「まぁ確かに、ヒルツの攻撃で整備兵もだいぶ失ったがな。」

「それに、あれくらいの実力があればある程度通用しますからね。」

最終的にどう転がるのかラウトにはいまいち分かりかねていたが、もうどうなっても諦めようと思っていた。
ただ、できる限り避けたいことは避けようと努力する。

「…今は戦闘は勘弁して下さい。
右腕が痛くてかないません…この間の無理がたたっています。」

「別にいいじゃない、整備士なら。
それにバン達が居る限り、そんな仕事なんてまず無いわよ。」

何だか、場の雰囲気は成立しそうな勢いである。

「全く、何を話しているかと思えば…」

と、後ろから声が聞こえた。
振り返ると壁に寄り掛かった黒い服の人がいる。
こちらに顔を向けると、左目に眼帯をしているのが見えた。

「アーバイン!?」

「よっ!」

「アーバイン、あんたいつからそこにいたのよ?」

ムンベイが目を丸くしている。

「さっきからここにいたが?」

「意外に気付かないものですね。」

オコーネルの言うとおり、普通は扉が開いた音で分かる。
それだけ色々と話をしていたのだ。

「ところで、また何かたくらんでるようじゃねぇか、ムンベイ。」

「何よ。あんたには関係ないじゃない。」

「あんまり言い争いとかしないで下さいよ…」

ラウトがヒヤヒヤしながらアーバインとムンベイの会話を聞いている。
前回も前々回も喧嘩気味な会話をしていた二人だ。
今回もどんな風になるのか分かったものではない。

「大体、15の奴がこんなところで働いていいのかよ?」

「何よ。だったら昔のレイヴンはどうなるのさ?」

「あれは例外中の例外だ!」

「人のことで口喧嘩はよして下さいよ…」

ムンベイとアーバインに言い争いをさせておくときりがない。
しかし、それを止めるとなるとやや難しい問題だ。
解決できそうな人間はここにはいない。

「大体、その判断はハーマンがするもんじゃないのか?」

アーバインはいきなりハーマンにふる。

「上手くすれば問題ないと思うが…」

「ほら!大体、ルドルフだって皇帝の地位についてるじゃない!」

「あれも例外中の例外だ!」

口喧嘩はますます白熱してくる。
先程まででもひと騒動になると見えていたが、こちらの方がその何倍もすごい。

『キュイ?』

「結局は、どうなるんだろうな…」

自分のことを喧嘩の材料にされてはかなわない。
いい加減にして欲しいと思うが、その手段も彼にはない。

「だいたい、疫病神なのよ。
おかげでどれだけ寿命が縮んだ事やら…」

「…人のことを勝手に疫病神扱いするなよ……」

何だか無茶苦茶な方向へヒートアップ…

「それにこっちの方が確実で安全だわ。
だいたい、これまでの損害を考えたらまだ足りないわ!」

「勝手なことをぬかしやがるんじゃねぇよ、
このごうつくばり女!」

「…あれだけもうけてただろうに。」

ラウトは既に耳を塞いでいた。
それでもしっかりと聞こえてくる…
外にも響いているかも知れない。
これを聞いた兵士は、どう思っただろうか…?

『キュイ!』

突然エクサがムンベイとアーバインの間に入る。

『キュイ、キュ〜…キュウウゥ、キュア!』

「は?」

「何て言ってるのよ、ラウト?」

何を言っているのか、二人にはさっぱり分からなかったようだ。

「…別にここにいることになったんだからどうでもいいじゃない!だってさ。
……勝手に決めつけるなよ、エクサ。」

『キュウ?』

何のことを?とエクサがラウトを見ている。
ラウトはうんざりした様子で、答えは返さなかった。

「朝から騒々しいな。」

『キュ!』

別な方からもう一人(?)のオーガノイドの声が聞こえた。
皆が入り口の方を見てみると、そこにはキースとサンダーがいた。

「今日はまだ出て行ってなかったんだな、キース。」

「あっ、おはようキース、サンダー。」

ハーマンとラウトがそれぞれ挨拶をする。

「いったい、何の話をしてるんだ?」

「ラウトをここで働かせるとか、働かせないとか…」

「アーバインは余計な首突っ込まないでよ。」

アーバインとムンベイがまた喧嘩の続きを始める。
まだまだ続くのであろうか?

「……は?」

「なに、ムンベイがここでラウトを働かせたらどうだと。」

「まんまと計略にはまって…」

何の騒ぎだか分からないキースにハーマンとラウトが状況を説明する。
ラウトは特に心萎えた状態で、子どもらしい元気はなかった。

「ムンベイとのつきあいはほどほどにしておいた方がいいぞ。」

「どうやらそうみたいだな。」

ムンベイとアーバインといえば、まだあの言い争いを続けている。

「どうするんだ?」

「…………」

キースにそう聞かれたラウトは、一つの言葉も出ないらしい。

「ここで勝手に口喧嘩をしていてもらっても困るんだがな。」

「終わりそうにないですね…」

ハーマンとオコーネルが目の前の状況を見ながら呟く。
下手に入ればしっぺ返しを喰らうか、巻き込まれるかのどちらかである。
しばらくギャラリーからは言葉が消えたが、その後ラウトが一つ強い息をついてハーマンに話しかけた。

「…私がここで働いても、何の問題も起きませんよね?」

「別に特に大きな問題は起きないと思うが。」

「そうですか。」

それだけハーマンから聞くと、ラウトはムンベイとアーバインの間に割って入った。

「だから…」

「いい加減にしろ!!」

いきなりラウトが怒鳴ったので、さすがにアーバインもムンベイも動きが止まった。
目をぱちくりとしてラウトの方を見ている。

「人のことを種に勝手に言い争いすんじゃねぇ!
はっきり言って気分が悪い。
別に俺がここで働くことは決まっちまったんだから、そんなにぐちぐち言ったって意味ねぇだろ!
それより、こんな事に時間を使っててもいいのか?
今日は仕事ねぇのかよ!?」

早口で一気にそこまで言うと、ラウトは二人を睨むように見つめた。
ムンベイとアーバインの方は、いきなり思いも寄らないようなところから攻撃を受けてまだそのまま止まっている。

「おい、それでいいのかよラウト?」

「別に…エクサのことで、ここにいた方が
色々分かることも多いだろうし。」

キースにそう言われ、ラウトは溜め息をついた。
結局、ここにいても損だらけにはならないと言うことでラウトの中では何とか落ち着いたらしい。

「じゃあ決まりね。」

結果が分かったムンベイは嬉しそうに言った。
隣のアーバインは一瞬白い目でムンベイを見たが、呆れたように溜め息をついた。

「…あのレドラーはどうするんだ?」

『キュ!』

「どうにかするさ。
それしかなさそうだし…」

ラウトの相棒のことを知っているキースとサンダーはリムラのことを心配したが、ラウトはもう覚悟を決めていた。
無理にでも我慢してもらうことになりそうだ。

「それじゃ、決まりね。
じゃあ、あたしはそろそろ行くわ。
頑張ってね。」

「おぃ、ムンベイ!」

ムンベイはそれを聞くと、アーバインが止めるのも無視してさっさと行ってしまった。
扉が開くと、ムンベイは思いだしたように振り返った。

「おいしいもうけ話は、早く行かなきゃ間に合わないのよ。」

最後に決めゼリフとばかりにそう言ってムンベイはさっさと去って行った。
キィー、と戸の閉まる音が聞こえるとムンベイの姿は完全に見えなくなってしまった。

「全く、いつでもあの調子だよな…。
さて、そろそろ俺も行くかな。
とんだとこで時間を喰っちまった。」

「そろそろ俺達も行こうぜ、サンダー。」

『キュイ!』

アーバインは一言ぼやくとムンベイのあとを追った。
キースとサンダーもすぐにでるようだ。

「じゃあ、アーバインもキースもサンダーも頑張って…」

『キュ!』

そろそろ、この場もお開きのようだ。
それにこれでエクサとリムラの喧嘩もケリが付いてしまった。

「じゃあ頑張れよ、アーバイン、キース、サンダー。」

「頑張ってきて下さい。」

いつもの仕事に彼らは戻り、ここに残ったのはハーマンとオコーネル、ラウトとエクサだけになった。
そうなると、さっきまでの騒ぎも夢だったように静かになってしまった。

『キュイ♪』

「決定、か…」

嬉しそうなエクサとは裏腹に、ラウトは単調に呟いた。
彼らの旅は、思わぬところで一時中断を余儀なくされた。
だが、ここはGF……彼らが探しているものも、こことは無関係ではない。
過剰な巡り合わせの、ここもまたその一つだ。

 

……それから、しばらく経った。
彼らはGFでの生活にもうなれていた。
たまに休みを取ったりして、基地の外へ出歩くこともあった。
もっとも、これはリムラのストレスを減少させるのが主な狙いだが。
行き先は、人気のないオアシスであることが多かった。

 

…木の上に影がある。
物音がして、その影は起きあがったが、その音の正体を確認するとまた寝てしまった。
その方には煙が上がっているのが見えた。

「バン、3時方向からヘルディガンナーが!」

「おっしゃ!」

砲撃をけしかけるが、相手は予想以上に素早い。

「へん。
この特別仕様のヘルディガンナーがそう簡単にやられるかっ!」

「バン、今度は真後ろからガイサックが!」

「何!?」

いきなり、砂の中からガイサックが飛びかかってきた。

「シールド!」

突っ込んできたガイサックをシールドで弾き飛ばし、そのままコンバットシステムをフリーズさせた。

「バン、今度は左!!」

「いくぜぇっ!」

またヘルディガンナーが向かってくる。

「ブレード、オープン!」

バンはブレードを展開した。
一気に片づけるつもりだ。

「行くぜ、ジーク、ライガー!!
しっかり捕まっていろ、フィーネ!」

「分かったわ!」

ブレードライガーが駆け出す。

「うおおおお〜〜〜〜りゃあ〜〜っ!!」

「しまっ…うあああっ!」

ヘルディガンナーに装着されていた砲身が落ちた。

「トドメだ!」

「ぐはああっ!」

ヘルディガンナーはブレードライガーに踏みつけられ、そのまま動かなくなった。

『ゴアアアァッ!!』

「ふぃ〜、これで終わりか。」

ライガーが雄叫びをあげる。

「相手の方が先に出てきたから楽だったわね。
早く報告しましょ。」

「そうだな。お疲れ、ジーク!」

『キュアッ!』

こうして、今日の彼らの仕事は終わった。
…かに思えたが、まだ続きがあった。

 

「え〜と、確かここの辺りにアーバインがよく行くところがあるのよね。」

「そこにいるとは限らないだろ、フィーネ。」

仕事が終わり、彼らは近くの町に来ていた。

「でも、もしかしたらいるかも…」

フィーネはそこの戸を開ける。
中はレストランになっているらしく、たくさんテーブルが並んでいる。
ちょうど昼と夕方の込む時間の間なので、人はほとんどいない。
と、奥のカウンターで、なにやら見覚えのある影が…

「あ〜〜〜〜!」

思わずバンは叫んだ。
彼らも振り返る。

「げっ、バン!?」

「フィーネ!」

「…おまえらもか。」

『キュイ!』

『キュアッ!』

『キュッ!』

そこには、よく知った人物と、よく知っている3体のオーガノイドが…

「キース!」

「それにリーゼにレイヴンじゃない!!
一体どうしてここへ?」

「それはこっちのセリフだ…」

思わずお互いの顔を見合わせた彼らだった。
まさかここで合うとは、思いもしなかった。

「なんだ、レイヴンもちょうど任務の帰りか?」

「そう。
トーマはディバイソンが負傷しちゃってさ。
最寄りの基地に運ばれていったんだよ。」

くすくすと笑いながら言うリーゼ。

「本当はすぐに帰る予定だったんだが、
リーゼがお腹がすいたのだの、のどが渇いたのだの言うから…」

「え〜、良いじゃん別に。」

むくれたリーゼを見て、思わずフィーネがくすくすと笑う。

「でも、まさかキースに会うとは思わなかった。」

「俺もだよ…
まさかレイヴンやリーゼだけじゃなく、バンやフィーネとも会うとはな。
腐れ縁だな、本当に。」

そう言ってがっくりとするキース。

「ところで、キースはまた賞金稼ぎの帰りか?」

「まぁ、そんなところだ。
最近はいいのが少なくて苦労してるんだよ、ホント。」

「お疲れさま。」

しばらく、彼らは談笑していた。
だがキースも含め、彼らは夕暮れ時になる前にGFに戻っていなければいけなかったので、しばらくすると勘定を済ませた。

「多分、トーマさんはホエールキングで戻っていると思うから、早く行きましょ。」

「そうだな。」

彼らはその町を出て、自分たちのゾイドにそれぞれ乗り込んだ。

 

「…あれ?」

十数分ゾイドを走らせたときだった。
バンが何事かとある方向を見た。

「どうかしたの、バン?」

「フィーネ、ほらあれ…」

バンが指を指した方角には、緑色の茂みが見えた。

「ただのオアシスだろ?」

「いや、この間ここを通ったときにはなかったはずだ。」

レイヴンにそう言われても、バンはまだ怪訝そうな顔をしている。

「そう言えば、確かこの辺りに盗賊が出るって聞いたが…」

「それなら、私たちが今日倒した盗賊のことだわ。」

フィーネが先に答えるが、キースはまだ終わっていなかったらしく続ける。

「その盗賊なんだけど、
そいつらのアジトらしいところが近くのオアシスにあるらしい。」

「…って事は、バン?」

「何だよ、まだ終わっていなかったのかよ…」

バンはがっくりとうなだれた。

「なぁ、頼むから手伝ってくれないか?」

日が暮れるまでそう長い時間は無い。
だが何とか仕事は終わらせたい。

「まぁ、物足りなかったしな。
練習くらいにはなるかな?」

「…退屈しのぎぐらいにはなるだろう。」

「サンキューな、みんな!」

こうして、彼らは少し寄り道をすることになった。
そこに何があるのかも知らずに…

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*アトガキモドキ*

さてはてやっとこさ……意外にここまでたどり着くのに時間がかかってしまいました。
……なんかもう、中編の域を超えようとしているような(汗)
それにしても第2話を完成していた時点で存在はしていたのに、完成までがもの凄く長くなってしまいました。
ああ、どんどん筆が遅くなってるι
と、そう言うことはひとまず置いておいて、第一目標だったGF本部到着がやっと叶いました。
で、たまには彼らにも…
ラウト「待てよ、話すって何を?」
……とにかく後書きらしく。
ラウト「普通は俺らが喋るもんじゃねぇだろ。」
はいはい、つっこみはいいから。
ラウト「…ったく。だいたい、バン達や皆様のオリキャラに会わせたり、
GFの本部に俺らを行かせるのが目的だったはずなのに、どうしてこんな長くなるんだ?」
さぁ?バトルが書きたかったから??
ラウト「……。で、きりがいいのにまだ続くんだよな?」
エクサ『キュイ、キュイ??』
そう、紫色のオーガノイドにエクサを会わせたいし……
2話か3話は続くかな。(番外編もあと1話)
予定では次だったのだけれど、都合が合わなくなったし。
実は一通り、やることは殆ど終わったんだけれどね。
補足する可能性はあるし。
エクサ『キュア?』
ラウト「……まぁ、その中でもう少しエクサに基地のこと分からせた方がいいような……
遺跡と勝手が違うんだぞ。」
ああ、扉だ一方通行だ、なんだかんだね。
街や遺跡で迷わなくても、基地では迷うかな。
さて、何だか後書きまで長くなったところであの人が現れないうちに次回に。
エクサ『キュ、キュ……』
ラウト「って、また固まるなよ。」
……かの中佐が現れないうちに退散。では。
ラウト「おぃ、ややこしいだろうが。
次々回かその後だろその話は。……はぁ。」


シヴナさん、修正作業ご苦労様です。
なんかだんだんに私よりも上手くなっている・・・。
このまま連載してくれれば、私も助かるんですが・・・。(他力本願はやめろ!!)
さて、問題は私の第3部ですね。
では、早々にあげさせていただきます。
でも、キースとハルフォード、相変わらずですね。
後はブレイダーの復活ですね。
当分後になること間違い無しですけど。
ではこの辺で。
シヴナさん、どうもありがとうございました。

 

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