「過剰な巡り合わせ」
〜偶然の気配〜

 

周りの荒野から浮き立っている場所に、3体のゾイドが止まった。
そこで5名の人間と4匹のオーガノイドがそこを見上げている。

「それにしても本当にここにいるのか?」

目の前に鬱蒼と生い茂った木々を見上げながらバンが呟いた。
蜃気楼でなかったまでは良かったのだがオアシスとは思えないほどの木々の成長ぶりだ。
おかげで見通しがかなり悪い。
盗賊探しも難航しそうだ。

「本当にこの間はなかったのか?」

「すっご〜い、どこかの山奥みたいだよ。」

「う〜ん、こんなのがあったら気付いているはずだけどなぁ…」

レイヴンの問いにバンは頭をかく。
自分の記憶は確かなはずなのに、こんなものを目の当たりにして自信がなくなっていた。

「入って探すしかねえな。
ここからじゃ何も見つからねえし、これだとレプラプターが通るのでも苦労しそうだぜ。」

「いつだかみたいな事がなければいいがな。」

状況を分析しているキースに対し、レイヴンの方は少し嫌そうな顔をしている。
いつか、とはアルフの森遺跡のことだ。
あの時は完全な森で、さらに特異なものがあったおかげでバンやレイヴン達は散々な目にあった。

「大きさが知れてるから大丈夫だよ。
じゃあスペキュラーはそこで待っててね。
何か起きたらすぐ知らせてよ。」

「そうだな。シャドー、頼むぞ。」

『キュア!』

『キュウ!』

ジェノブレイカーの隣に立つ黒と青のオーガノイドがそれぞれ返事をする。
彼らが残れば、何か起きてもすぐに応戦はできる。

「そうだな。
木が密集しているけど、そんなに広くねえし。」

「じゃあジークも待っていて。
何かあったときは、ライガーをよろしくね。」

『キュッ!』

「そう言う手もあるな。
サンダーはどうする、こっちに残るか?」

『キュイ!』

サンダーも元気よく返事をする。
彼女がちらりとジークの方を見た気もしたが…まあ、気のせいだろう。

「じゃあよろしく頼んだぞ。」

『キュアッ!』

オーガノイドが元気にそれぞれの主人を見送る。
その後、この中の誰かが大声を上げたという話があるが人間は真相を知る中にいなかったりする…らしい。

 

森の中を歩くと、予想以上に雑音が伴った。
そのせいか、一行はなかなか前へと進んでいけない。
思わずリーゼは愚痴を漏らした。

「ここって、草原じゃないよね。」

「どう見たって木の下だぜ。」

少し気の抜けた調子のキースの声が返ってくる。
ちょうど彼らの頭上にある枝で光は殆ど遮られていた。
だが彼らが動くたびにガサガサという音がする。

「じゃあなんでこんなに草の背丈が高いんだ?」

「知るか……」

バンの疑問にレイヴンがそんな答えを返す。
草の茂みは彼らの腰の位置まであるのだから、誰だって疑問に思うわけである。
簡単に踏み倒せるのが幸いだが、そのせいで余計な時間を食う結果になっている。

「人の気配もゾイドの気配もしないわね。」

「しかたない、手分けして探そう。」

「そうだな。まとまっていたら効率が悪いぜ。」

辺りを見回しても緑、緑、緑……
いい加減他のものを目にしてみたいものだが結局ここまでそれらしいものは見ていない。

「気を付けろよ。俺はこっちの方を探す。」

「僕も一緒に行くよ、レイヴン。」

「じゃあ俺はフィーネと。」

「うん。」

「やれやれ、夕方になったのに急に温度が上がったな。」

カキン、と一瞬のうちに凍り着けられたようにそれぞれの方向に歩き出した彼らが固まった。
特に、男性2人が。

「な、おまえなぁ…」

「い、今は任務…」

「じゃあ気を付けるんだな。先行くぜ。」

そんな彼らをよそにキースはさっさと行ってしまう。
バンとレイヴンはキースが行ったあともしばらくそこに固まっていた。

 

「やっぱり、人気(ひとけ)がないな。」

数分後、やっと気を取り直したバンは草をかき分け踏み倒しつつ、周囲の様子に気を配っていた。

「本当にここにいるのかしら?」

一向に何の気配も現れない。
盗賊がアジトにしていたらしい、というのは場所から考えるとここくらいしかないのだが。
バンとフィーネは、辺りにさらに注意を配りながら、奥へと進んでいく。

「痛っ…」

「おぃ!大丈夫か、フィーネ?!」

後ろを歩いていたフィーネが悲鳴を上げた。
バンが振り返ると、フィーネは少し表情をゆがめながら右手を押さえている。

「いたたたたた…手を切っちゃったわ。」

「血が出てるじゃないか。
いったん戻って…」

「待ってバン!」

フィーネが顔を上げて、バンの後ろの方を見ている。
遠くを見つめるようにしてしきりに何かを探しているようだ。

「どうしたんだ、フィーネ?」

「水の、匂いがするわ。」

「え?」

バンも振り返り、じっと耳を澄ませてみる。
確かに水かさざめくような音がする。

「近いわ。もうちょっと先へ行ってみましょう。」

「あぁ。」

ガサガサ、とさらに草の海をかき分けていくとまもなく開けた場所に出た。
水がわき出ているそこの周りは今までとはうってかわってよく日の当たる開けた世界だ。

「レイヴン!?」

「バンか。」

少し身構えていたレイヴンが緊張を解く。
反射的にバンはレイヴンに疑問をぶつける。

「どうしてお前がこんなとこにいるんだ?」

「リーゼが怪我をした。」

「あら、リーゼもなの?」

フィーネがリーゼの方を見る。
水辺に座り込んでいた彼女もまた片手をかばうような格好をしていた。

「フィーネもなのかい?
本当に酷いよあの草は…」

リーゼは何とも嫌そうな顔をしながら一度左手で水をさわって立ち上がった。

「俺は戻って消毒薬とか持ってくるから、その間レイヴンはフィーネを頼むぜ。」

「分かった。」

「あっ、別に大した傷じゃないからいいわよ、バン。」

森の方へ走って行くバンをフィーネが呼び止めるとバンはフィーネのを方へ振り向いた。

「何かあったとき困るだろ?
ここは野外だぜ。」

「あ、うん。」

バンはまた駆け出していく。
フィーネもそれ以上止めることはせずその後ろ姿をただ見送った。

 

「にしても、何で森の中なのにこんなに草の背丈が高いんだ?」

日のあまり差さない草原をバンがかき分けながら進む。
本当に進みにくいな、と思いつつ先を急いた。

ガサッ!

突然、バンのいるところとは別の場所から物音がした。
ふと立ち止まって辺りを見回すが、特に変わった様子はない。

「何だ?
おーい!キースか?!」

心当たりのある名前を呼んでみる。
だが返事はなく、物音もそれ以上聞こえてこなかった。

「気のせいだったのか?」

バンはもう一度辺りを見回したあと、また戻るべき道を辿り始めた。

「……」

どこからか視線が向けられているのには気付かなかったのだ。
その後の「何か」の変化にも勘付かず、森の外へと急いだ。

「なんか、迷いそうだな。
気をつけないと道が…」

キュン!!

「なにっ!?」

いきなり目の前の細い木が不自然の揺れた。
後ろを振り返ると、さっきまでなかった不自然な影がいた。

「へへへ。
悪いがGFなら逃がすわけにはいかないんでな。」

「くそっ!やっぱりいたのか!!」

父の形見を手に身構える。
だが長距離の相手には使えない。
それに敵が一人だけだとは思えない。
ここで煙幕を張れば、自らの存在をはっきりと教えることになる可能性もあるし、自分が道を見失うこともあり得る。
バンはどうしようか一瞬判断を迷った。
相手の卑しい笑みで冷や汗が一筋頬を伝う。

「覚悟するん…」

ガサガサガサッ!

「何っ!?」

音と共に、その男に大きな木の枝が落ちて…いや、突っ込んできた。
物音で頭上を見上げた男は、その不意打ちで完全に怯んだ。

「うわっ、ぐっ…がはっ!!」

続いて白いものが襲いかかってきて男はあっけなく気絶した。
あまりの速さに、バンは事態を理解できないでいた。

「らっ、ラウト!?」

「よっ、バン。怪我はねぇか?
…にしてもこいつ、全然防御できてねぇじゃねぇか。」

そう言って少年は気絶した相手の顔を覗き込んだ。

「何でおまえがここに?」

バンは叫ぶように言った。
盗賊がいるような場所で会うのだから余計に疑問となる。
対してラウトは落ち着き払った様子で辺りを見回している。

「休暇もらって来たんだけど…隠れろ!」

その言葉とほぼ同時に銃声がして近くの樹が悲鳴を上げて枝をざわつかせた。

「くそっ!」

バンとラウトはすぐさま樹の陰に隠れて銃弾が来た方を窺った。
人が一人いる。

「…距離的に微妙なとこだな、バン。」

「ああ、ここじゃ応戦できねえ。」

樹の陰から銃を構えている男を確認しながら相手の様子を窺う。
なんにしろ、一度動かなければどうしようもなさそうだ。

「隠れたって無駄だぜ!
燻りだしてとどめを刺してやる!!」

「そうは問屋がおろさないぜ!!」

「へ!?」

間抜けな声を上げてその盗賊は後ろを振り向いた。
とたんにその男の手から銃が消えた。

「うわっ!」

辺りにまた火薬の臭いが広がった。
思わず手を押さえた男にラウトが素早く走って近付いた。

「くっ…この!」

だが直前で振り向いて構えられ、上手く攻撃することはできなかった。
ラウトは数歩引き下がって距離を取る。
男は歯ぎしりを立てて睨み付けている。

「後ろがお留守になってるぜ。」

「何っ!?」

後ろからの声に、男はキースのことを思い出し後ろをとっさに振り向く…

スパーーン!

「出た…」

「………(…ハリセン)……」

バンは巨大なハリセンを見て思わず呟いた。
盗賊の方は顔面を思いっきり叩かれて怯んでいる。

「残念だったな。
ちょっと寝ててもらうぜ!」

「ーっ!!?」

時間を置かずにキースの蹴りが繰り出される。
喰らったらひとたまりもない代物だ。
もう既にその男の意識は飛んでいた。

「レイヴンから聞いてたけど、ホントにつっこみ以外にもハリセン使うんだな。」

「いろんなもん使うな…」

バンとラウトはキースの戦法にやられたな、というような顔をしながらそう言っていた。

「ああ、ホルスヤード研究所の時だな。
それよりまだ他に隠れてるんだろ?」

「そうだな。
ちょっと遠くに7人いる。」

見えざる相手を捜しながら辺りを見回しているキースにラウトは辺りを一通り見渡してそう言った。
バンも辺りを見回すが、見えるところに人影はない。

「いるって言ったって、どこに?」

「向こう、それからあっちと、そっちに…2、3、2だ。」

茂みを指差しながらラウトは答える。
確かに人が隠れられそうだが、肝心の人影を見ることはできない。

「ちょっと囮を投げてみるか…キース、頼む。」

「ん、ああ、任せな。」

ラウトは風の流れに沿って移動していく。
バンとキースはもう一度辺りをよく見回したがどこに敵が潜んでいるのか見当が付かない。
だがそれからまもなく、敵のいる場所は判明した。

ビュッ!

「何っ!?」

「そこか!!」

黒い何かに反応した盗賊は、とっさにそれを撃ち落としたが、身を動かしたためすぐにキースの標的となった。

「げっ!?」

「おいキース、あっちもだ!」

バンが指差す方にも様子を見ようとした盗賊が姿を現していた。

「くっ、あいつらぁっ!!」

「ちっ…」

向こうも銃で応戦してくる。
ひとまず樹の陰に身を隠してやり過ごし、隙を窺って反撃する。

「うわっ!」

「ぐあっ!」

「わっ!」

普通に撃ったのでは効果が少ないと見たキースは彼らの真上にある木の枝を撃ち落とし怯ませる。

「ちっ!」

慌てて別なところにいる盗賊が構えて銃口を向ける。

ビュ、ビュッ!!

「うわっ!」

だがそれは無意味な行動だった。
今度はキースの方に気を取られていて接近されているのに気付かなかった。
腕と銃それぞれに飛礫が当たり、その二人も怯んだ。

「くそっ…」

キースによって銃を振り落とされた方は、再びその銃を掴もうと腕を伸ばす。
が、その銃は第三者によって蹴飛ばされそれを取ることはできなかった。

「ったく。往生際が悪いな?」

「ちっ……」

もう一人の盗賊は額に銃を当てつけられていて逃げようがなくなっていた。

「まあ、俺はGFじゃねえけどな。
逮捕させてもらうぜ。」

「くっ…」

目の前でそう言われれば、もうおしまいも当然だった。
銃を持たない盗賊のどこにも勝機は見えなかった。

「お前らもだ。
どうせここで振り切ったとしても、あの二人と、それからまだ他にもいるようだし。」

「い、何時の間に…」

先程の飛礫で銃を振り落とされた盗賊はすぐ横にいるラウトに一瞬凍りでもしたかのような顔を見せた。
次の瞬間、ふっと首筋に当てつけられていた冷たいものが離れ彼らは気絶していた。

「ま、血を見るのも苦手だしな。」

ラウトはそう言いながら自分が手にしている2本の匕首をちらっと見た。
一方、その頃には3人いたところももう片付くところだった。

「くそっ…」

目の前にはバンがいる。

「GFだ。
お前達を逮捕する。」

父の形見を使い、ター○ンのごとくそこにやってきたため、その盗賊共に反撃する機会はなかった。

 

「バン、キース、大丈夫かい?」

「リーゼ!?」

盗賊を文字通り縛り上げている最中だったバンは驚いて辺りを見回した。

「リーゼ…ってことは、あの虫だな?」

「ああ、そうか。」

キースの答えにバンが納得する。
「虫」ならば遠距離の相手とも会話が可能だ。

「盗賊のことならもう終わったから大丈夫だぜ。
どうやらこれで全部だったみたいだな。
とっとと終わらせちまおうぜ。」

「あっ、悪いけど俺はちょっとフィーネのとこに行ってくる。
怪我をしてるんだ。」

「なぁ……」

バンが踏み倒されてできた草原の道を行こうとしたとき、ラウトが微妙に沈んだ感じの声を出して引き留めた。

「何か変な感じがしねぇか?」

「何が?」

キースが少し警戒したような顔つきになったのでラウトは慌てて手を振った。

「いや、盗賊とかじゃなくて。
何となく、何か起こりそうな気配がすんだけど…」

「起こるって、…」

ドドドーーン!

樹が壮大な音を立てながら辺りの木を巻き込んで派手に根本からぶっ倒れた。

「おわっ!?」

土と枯れ葉が辺りを舞う。
バンはとっさに腕で顔を覆った。

「さっきの銃撃戦の影響か?って、何だ?
妙な穴が空いてるみたいだな。」

キースは倒れた樹木を確認すると、
その根本にぽっかりと大きくて深そうな穴が空いているのに気が付いた。

「何でここまで妙なんだ?
樹がこんな簡単に倒れるなんて。」

「確かに嫌な感じはしてくるぜ。
いったい何なんだよこの草といい、樹といい…」

バンとキースが穴を確認する。
湿っていて、影が消えて太陽の光が当たっているのに底が見えない。
突如ぽっかりと空に大口を開けた穴は平然としていてそれ以上のことは教えてくれなかった。

「一体何が起きたんだい!?」

背後からリーゼの声が聞こえた。
今度は振り向かないでも分かる。
人間の気配がないのだ。

「心配ない。木が一本倒れただけだ。」

「それだけじゃないだろ?
僕の虫の様子が一時おかしくなったんだ。」

リーゼの言葉に、バンは一瞬にして顔色を変えた。

「何だって?」

「多分その樹が倒れる直前から直後まで虫が動けなくなってたんだと思う。」

今度はノイズ混じりにリーゼの声が聞こえた。
妙なことが起きているのは確からしい。

「いったい何なんだよ、この陥没?」

「遺跡かもな。
レアヘルツみたいなことがあるんだから他に似たような仕組みを持ったのがあっても不思議はねえぜ。」

木の根の大きさよりさらに深くできた穴は、
微かに起きる風によって周りのものを吸ったり、たまに吐いたりしている。

「地下遺跡……また何か起こるかな?」

「ん、どうかしたか?」

ラウトがポツリと呟いたのを、バンは聞いていた。

「いや、エクサがいたのもこれと似たような感じの気配がする遺跡だったから……」

「何にしても、そっちは専門の人間に任せようぜ。
あいつらを引き渡すついでに伝えときゃいいんだから。」

「それもそうだな。」

バンはそう言うとフィーネ達のいる方へ走っていく。
キースとラウトも片付けのため、また作業に戻った。

 

「大したものは残ってなかったな。」

とある建物の中にある山積みにされた箱を確認しながらキースは呟いた。
盗んできたと思われる物品があったのだが、残っているのは使わない薬や服くらいだった。

「そろそろ戻るぜ、サンダー。
ゾイドはバンやレイヴン達がみんな運び出しちまったみたいだしな。
ここにはもう用ないぜ。」

『キュア!』

そのアジトだった建物を出るとまた薄暗い奇妙な森の中に戻った。
踏みつぶしたおかげで、来たときほど苦労せずに帰れるがやはりあの草は邪魔だった。

「それにしても、どうやったらこんな森になるんだろうな?」

『キュア?』

アルフの森とは違った不気味さだ。
木は細く、それほど高くない。
そして小型ゾイドでも進むことが困難なほど密集している。
しかも有り得ないことに草は草原のようにぼうぼうと……なのに日は殆ど当たらない。

「ん、あれは……エクサか?」

『キュッ!』

その細い木々の影に、一瞬水色のものが見えた。
一瞬日に反射したのから推測してオーガノイドであろう。
だがそれは密集した木々の前に瞬く間に消えてしまった。

「それに、こっちの方は……あった。
穴があるじゃないか。」

周りを見渡しても、やはり水色のものは何も見えなかった。

「この中に入っていったんだよな?」

『キュ?』

問いかけられたサンダーは首を傾げた。
実際に見ていないのだから、本当のことは分からない。

「お〜い、エクサ?
ったく、こんな時は勝手にいなくなんだから……」

「ラウト?」

足音が人間の作った獣道に沿ってやってきた。
少年が辺りをきょろきょろしながら歩いているのが見える。

「あ、キース……って、もしかしてエクサそん中に入ってったのか?」

「この辺りにいたのは見たんだけどな。
入るところは見てないぜ。」

キースの言葉に、ラウトはやっぱりと小さな声で呟いた。

「でも、他に行くところないよな……」

「そう……ん?何だ、樹の下に。」

さっき見たときとは違う様子にキースは気付いた。
まっすぐ下の方にしかなかった穴とは別に、木の根の元に横穴が空いている。

「エクサがあけたのか、これは?」

「多分……しゃあない。
今日はともかく明日は仕事があるんだし、また今度にしてもらわねぇと。
そんな小さくもねぇだろうし。」

ラウトは木の根の丈夫そうなところに捕まると、そのまま横穴に足をかけて中に潜り込んだ。

「大丈夫なのかよ?」

「エクサが入って行ったくらいだし、問題ねぇだろ。」

キースの心配をよそに、ラウトはさっさと遺跡の闇の中に消えていった。

「おいおい、灯りも持たないで行くか、普通?」

どうやら下っていっているらしいその穴の奥は本当になにも見えない闇だった。
だがキースの声はラウトの耳に届いてないらしい。
足音は遠ざかるだけで、戻ってくる気配がなかった。

『キュイ?』

「どうするって……ほっといて崩れたらどうするんだよ。
どうやら全部埋没しちまってる遺跡みたいだし、アジトの方とは関係ないようだしな。」

遺跡は戦時中砦として使われたり、また、盗賊がアジトとして利用することもよくある。
どうやら今回は関係なかったようだが。

「一度戻るぜ。
全く装備がないまんまじゃ危なっかしいからな。」

『キュイ!』

見るに見かね、キースはやや駆け足で道を走り出した。
辺りは、また不可思議な草が微かな風にあおられ不気味に音を立てていた。

 

暗い中に、足音が複数響き渡っている。
2人3人ではない。おそらく、10人分くらいの音だ。

「おーい!」

「エクサ〜?」

太くよく通る声と、高くよく響く声と共に濃い茶色の壁が光を受ける。
その光はだんだん大きく濃くなったが、次にはふいっと右にずれていく。
足音もその後ろから去っていった。

『キュ〜イ?』

たまに人の影と恐竜の形をした影も壁に当たったが、それもやはりすぐに移動していった。

「あっ、フィーネ。」

「バン、そっちにはいなかったのか?」

「そっちもいないのか?」

十字になった通路に7つの影ができている。
バン、フィーネ、ジーク、レイヴン、リーゼ、シャドー、スペキュラーのそれぞれの影だ。

「見かけてない。」

バンの問いにレイヴンが短く答える。
そんな時、また他の足音が聞こえてきた。

「あ、やっぱりここに戻ってきたな。」

『キュア。』

「だいぶ奥まで行ったな、こりゃ。」

キースとサンダー、ラウトである。

「あっ、キース。」

「そっちにもいないのか。
案外広いな、ここは…。」

バンがそうぼやく。
おそらく地上のオアシスの大きさよりは広いだろう。
その上光から切り離されたこの場所は、実物大よりも大きく見えているらしかった。

「でも何だか変だよ、この遺跡。
壁の色が場所によって違う。」

だが地上と相似する点もある。奇妙さだ。
地上に全く姿を現していない遺跡は数少ないし、壁の色が極端に違うのも不可思議だった。

「何かを剥がし取ったようだな。」

レイヴンがそう言い、リーゼが顔を頷かせて納得する。
壁をさわると、色の濃い壁の方が湿り気があった。

「でも一体いつとったのかしら?
出入り口はあそこしか見つかってないわ。」

「他にもあるのかもな。
まだエクサも見つかってないんだぜ。」

フィーネが不思議そうに壁を眺める。
削り落とされたような痕が濃く影を作っている。

「ここにはいるようなんだけど……。
なんか、もっと下の方のような感じがする。」

「下に降りるところなんかあったか?」

ラウトの呟きにバンが疑問を投げかける。
大体の場所は見て回ったが、
下に降りるような場所も、上に登るような場所も
見つかっていない。

「もう一度探してみようぜ。
どこか見落としてるかもしれない。」

「そうだな、早いとこ見つけないと本当に迷子になってそうだしな。」

『キュア!』

また影が動き出す。
散らばると先程まで明るかった場所はまた暗闇に包まれた。
しばらくすると、明かりはまた別な場所に集まってきていた。

「もしかして、あれなんじゃない?」

『キュア?』

それの第一発見者はリーゼ…ではなく、スペキュラーだった。
背の高さが幸いしたのか、壁の上の方にある大きな穴を見つけていた。

「崩れたせいで、おかしな構造になってるな。」

「そうみたいだな。」

キースのセリフを聞きながらも、
バンはさっそくとばかりによじ登って
奥の様子を探り出している。

「少し進んだら縦穴になってるぞ、ここ。」

フィーネ達からも光が揺らいでいるのが分かる。
バンが穴を覗き込んでいるためだった。

「降りられそう、バン?」

「よく分からねえ。
先に降りるぞ。」

バンは背中に手をやり、父の形見を取り出す。
壁などにくっつけられれば、それで降りるのは容易だった。

「大きいからオーガノイドを使えば降りられるな。」

「そうだね。
僕たちも行こうか?」

ちょうどその時、着地した音が聞こえてきた。
どうやら少々深そうだ。

「お願いね、ジーク。」

『キュア!』

フィーネがジークの背中にまたがると、ジークは地面を一蹴りして穴に入っていった。

「そろそろ良いだろう。
行くぞ、シャドー。」

『キュア!』

「僕もすぐに行くよ、レイヴン。」

『キュ!』

レイヴンとリーゼも間をおきながら後に続く。
下では既にバン達が探索を開始していた。

「バン、何だかここ湿っぽいわ。」

「そうだな。
水脈のせいだろう。」

どこかで水の滴る音も聞こえる。
足下の土も上の階と違って柔らかく滑りやすい。

『キュア?』

『キュ』

突然、今さっき降りてきたばかりのシャドーとスペキュラーがある方向を向いた。
首を傾げているところを見ると、何があるのかまでは分からないようだ。

『キュイ!』

「あっ、どこ行くんだジーク?」

『キュアッ!』

「あ、おい先に行くなサンダー。」

突然ジークが走り出した。
よく蝶々を追いかけているくらいだ。
シャドーやスペキュラーよりこの手の行動は早い。
ちょうど今降りてきたサンダーはそのジークのあとを付いて走っていった。
慌ててその後をみんなも追う。

 

数分後、湿った風に導かれ彼らはとある場所に来ていた。

「鍾乳洞だな、これは。」

「わっ、冷たい。」

キースは入り口をくぐるとそう言った。
一歩足を踏み入れたリーゼは、上から急に落ちてきた冷たい雫に声を上げた。

「何だか、変な感じがするわ。」

「嫌だなあ、ここ。
ダークカイザーを思い出すよ。」

フィーネとリーゼがそう言う。
レイヴンも、どことなく居心地の悪そうな顔をしていた。
無理もないだろう。
「自分の運命をもてあそんだ相手」を思い出すのだから。

『キュイ!』

「どうした、ジーク?」

場所が場所なので慎重に歩かなければすぐにでも転びそうだった。
それに、すぐ向こうには水が溜まってできた地底湖が見える。

『キュ!』

「ん?石版の欠片か。」

ジークのすぐ側にあった下から伸びた鍾乳石に、違う色の石がくっついているのが見えた。
裏側を覗いてみると古代文字が見える。

「だから何なんだよ、エクサ…」

「あれ?」

彼らが入ってきた向こうから、小さく少年の声が聞こえる。
オーガノイドの足音と共にこちらに向かってきていた。

「ラウト、エクサはどこにいたんだ?」

「分かんねぇんだよ。
いきなり現れたら引っ張ってかれるし、連絡する間もくれねぇんだから。」

『キュアッ』

右腕の袖口をエクサに噛まれて引っ張られ、ラウトが鍾乳洞に入ってきた。

「ラウト、それ何だ?」

「あ、これか?」

キースに聞かれて、ラウトが左手に持った長い物を少し持ち上げる。
黒い布が巻き付けられているのが分かるが、そのせいで何だかが分からない。

「剣。詳しいことは後で。
第一詳しいことは俺も知らないし。」

エクサはまだラウトのことを引っ張り続けていた。
おかげでろくな答えも返せずにいる。

「……で、何かするのか?」

やっとエクサが立ち止まった。
ラウトはやっと右手が自由になって溜め息をついている。
怪訝そうな顔をしているラウトにエクサは頷いた。
それから、自分の手で何かを必死に教えようとしている。

「どうしたんだ?」

バシャバシャと水の音がする。
入ってすぐの辺りはそうでもないのだが、少し進むと地面には無数に水たまりがあった。

「…これがあった場所で見た、文字の一つか?」

ラウトが様子を察してそう言うと、エクサはコクコクと頷く。
そして、ラウトの持っている、黒い布に包まれた剣を頭で指さした。

「古代文字って?」

「俺も一回見かけただけなんだけどな。」

そう言っている内に、意を介したと判断したエクサは一人で別な場所に走っていった。

「おい待てよ!
大体言っていることは分かったけど…それでどうしろと?
それだけか?」

『キュア!』

一度振り返って頷くと、また走っていく。
方向は……地底湖の方だ。

「おい、どうしたんだ?」

「何か始めるらしい。
とりあえず注意していてくれないか?」

『キュア?』

バンの後を追ってきたジークも不思議そうに首を傾げた。

「気を付けるったって、何に?」

バンの言葉には構わず、ラウトは細長いものを覆っている黒い布を取り払った。
銀の剣がその姿をあらわにする。

キィィ…

それを抜くと、蒼いその姿が見えた。

「ゾイマグナイト…?」

揺れる光を反射して、その存在を強調している。
遠くでリーゼが呟いたとおり、それはゾイマグナイトに間違いないだろう。

「どうしたんだ、その剣?」

「…エクサしか詳しいこと知らないからなぁ。」

後ろからのキースの声にラウトは小さな声で答えた。
エクサは水に2、3歩入ったところでラウトの方を振り返っている。
ラウトがそちらの方を見ると、急かすように頷く。

「急げだとさ。」

ラウトは一つ溜め息をついたあと深呼吸をし直し、その剣の先を垂れ下がった鍾乳石の側面に押し当てた。
そのままそれを動かし、何かを彫っていく。

「文字…?」

彫っていったのは、どうやら古代文字の一つらしい。
見覚えのあるそれに、近くに来ていた
バン、ジーク、キース、サンダーが目をこらす。
まだ入り口の辺りにいるフィーネ、リーゼ、スペキュラー、レイヴン、シャドーもじっと様子を窺っていた。

バシャッ……

一度水が跳ねる音が地底湖の方から聞こえた。
青白い光が広がっていく。
だんだんと、真っ暗だった辺りが涼しげな光に覆われ始める。

『キュアァーーーーーー……』

エクサは、上を向いて謡いだした。
それはオーガノイドのものらしくなく、異様に高い音程だった。
その響きが、途切れることなく続く。
さらに鍾乳石は自ら光り出すように明るくなり、音は辺りを微かに震わせ始めた。

「何だ?」

キースが呟いた。
彫ったあの文字が虹色に輝き始めた。
青白い光の上を、その色が徐々に染み渡っていく。
だがまんべんなくではなく、それぞれが文字の形を作り出していた。

「広いわ。」

「…………」

フィーネの隣で、リーゼは言葉を失っていた。
地底湖を中心にこの辺り一帯はほのかに明るくなっていた。

「…フィーネ。」

「え?」

「どうした、リーゼ?」

黙りこくっていたリーゼが一点を見つめながら声を殺して囁いた。

「あの文字、浮かんできてる。」

「浮かんで…あっ。」

『キュ…』

『キュウ…』

虹色の文字が、揺れ動きながら回り始めていた。
だんだん鍾乳石を離れていきながら、さらに速さを増していく。

「剣が…」

「光り始めた?」

バンとキースが口々にそう言った。
ちょうど文字が浮き始めた時からだ。
それはゆっくりと力を増していくようだった。

「あっ、体をすり抜けた!?」

「何だ?」

文字は鍾乳石を離れるほど動きが早くなっていく。
ラウト、バン、ジーク、サンダー、キースの体を順に通り抜けながら遠ざかっていく。

「こっちに来る?」

「えっ?」

「…………」

『キュ?』

『キュウ…』

フィーネが言ったとおり、
全部の文字は彼女たちの近くで渦巻くように動いたり、不規則に上下したりしながら集まってきている。

「フィーネ?」

突如として、フィーネは足を二歩進めた。
辺りを動き回っている虹色の文字の様子を眺めながらじっとしてそこに立ち続けた。

「(何だろう、この感じ……)」

『キュイ?』

リーゼの気持ちを感じたためなのか、スペキュラーも数歩前に進み出た。
だがフィーネは文字の方に気を取られているのか全く反応がない。

「フィーネ?」

「おい、フィーネ…」

『キュア?』

フィーネの右手が持ち上がり、前へと出た。
まるでドアをそっと押し開けるときのようにその指先が虹色のそれに触れた。

「うっ…」

「…!?」

『キュッ』

『キュ…!』

「なにっ?」

『キュア!?』

「光?」

『キュイ?』

光が辺りに広がっていく。
鍾乳石の色は徐々に消え失せ、その光に染まった。

「何だ、この景色?」

グラサン越しにキースは光の濃淡でできた風景を見た。
どうやら他の遺跡のようだったが、
隅々を確認するまもなくオーガノイドの謡とともに水に溶けていくようにして消えた。

「うっ…」

「フィーネ?」

「フィーネっ!?」

『キュア!?』

膝をついたフィーネをリーゼが肩を支えた。
バンが急いで駆け寄っていく。

「大丈夫よ、バン。少し目眩がしただけだから。」

やってきたジークとバンの手を借りてフィーネは立ち上がった。
左手を頭にやりながら、目を細めている。

ドサッ…

「な、ラウト?」

再びできた暗がりの中、キースはバン達の元へ駆けつけようとした。
そう思った直後、後ろで人の倒れる音を聞いた。
手元の光で照らし出してみると、鍾乳石の前でうつぶせに倒れているラウトが見えた。

「おい、大丈夫か?」

「…たたた……」

近付くと、手をついて何とか起きあがろうとしていた。
フラフラと立ち上がりながら今度は鍾乳石にもたれかかった。

「平気だ。何か急に感覚が変わったもんだから、ついうっかり。
……結構濡れたな、こりゃ。」

キースの足音と共に水の跳ねる音がする。
下に水たまりができているのだ。倒れれば当然、服は濡れる。

「にしても奇妙なこともあるもんだな。
っと、エクサが来たみたいだぜ。」

『キュア』

キースとサンダーが振り向いた方から、水色のオーガノイドがやってきていた。
…と言っても、色ははっきりと分からないのだが。

「一体なにやったんだ?」

『キュッ』

『…キュイ?』

まず先にキースとサンダーがエクサに話しかけたが、
どう答えればいいのか分からないらしく首を傾げられてしまった。

「……エクサ?」

『キュア』

エクサの顔がラウトの方に向いた。
ちょうどあの剣を鞘にしまっているところで手元には布がひらひらしていた。

「って、おいまたかよ!?」

「どこ行くんだ?」

エクサはすぐにまたここへ来たときのように半ば強引にラウトの袖口を銜えると、ほぼ強制的に引っ張り出した。

「悪い、とにかく用事が終わったらすぐ戻るから!」

「待てよ、…サンダー?」

キースが振り返ると、サンダーは真上を見上げていた。

『キュウ…』

「なんだ、これは?」

残った光が、少し弱々しく頭上の鍾乳石を浮かび上がらせていた。
全ての鍾乳石ではない。
ボンヤリと見ていれば、何かの絵のようにも見えた。

「何だろう、この絵?」

「フィーネ?」

『キュア?』

リーゼもそれに気が付き頭上を見渡していた。
フィーネはまだ頭を押さえている。
心配そうにバンとジークが顔を覗き込んだ。

「だめ、思い出せない。
知っている場所なのに。
誰だったのかしら?」

静かになった辺りには雫の落ちる音が何回も聞こえた。
反響して辺りに響いている。
残っていた鍾乳石の光もみんなが持ってきた灯りの光と影と闇の中にひっそりと静まりかえっていった。

 

「ったく、一体どういうことだか……」

ラウトは呟きながら空を仰いだ。
今までとギャップがありすぎるのか、日差しに目を細めている。
外の光を感じて出てみれば、そこは木々の中ではなくその端の方だった。

「まさかこんなところにも入り口があったなんてな。
迷路みたいで複雑だな、この遺跡…」

言いながら、ラウトはリムラに黒い布で覆われた剣をしまう。
どうしてもいつまでも持っていたい気がしなくて、手早くすませてエクサのところに戻った。

『キュウ……』

エクサは申し訳なさそうに首を低くしていた。
その様子にラウトが怪訝そうな顔をする。
そんな様子をされるような覚えはない。

「どうかしたか、エクサ?
おまえが俺に何かしたって言うのかよ?」

エクサは様子を変えず、ラウトの隣に近寄ってきた。

「だっ…!」

急にラウトは声を上げた。慌ててエクサがつついた右腕を押さえる。

「痛みはもう引いてたのに…まさか……」

再びエクサの方を見てみると、エクサはすまなさそうに頷いていた。
ラウトも納得して頷き返す。

「なるほどな。
確かに普通の人じゃ、耐えられない。
どおりで体が怠くなったわけだ。
その前に感覚という感覚が全部狂っちまったらな。」

そう言うと、ラウトは右腕を回した。
それからふとさっき出てきた遺跡の出入り口を見た。

「要するに、よっぽどのことがないと使いたくないんだな。
崩れるぞここ……」

ラウトがそう言うと、エクサはビクッとした。
どうやら当たりというわけらしい。またしゅんとしてうなだれる。

「ここにいる場合じゃない。
俺はちょっと戻るからな。」

ラウトはそう言うとエクサがどんな顔をしているかも見ずに再び遺跡の中へ入っていった。

『キュッ…!』

『グウウゥゥゥ…』

エクサは慌てていたが、隣にいたリムラはエクサを宥めるようにそう呟いた。

 

「危なかった、ね……」

「ああ。」

『キュア』

『キュウ…』

「まさに危機一髪って感じだったな。」

『キュイ』

木々が、中心になだれ込むようにして倒れている。
遺跡の柱が崩れ落ちたのだ。
その前にバン達は何とか脱出していた。

「いきなりだったな、フィーネ。」

「ええ……全くそんな気配なんてなかったのに。」

『キュア…………キュイ、キュアッ!』

一匹の蝶がジークの目前をひらひらと飛んでいった。
ジークがつられて追いかけていく。

「また元の砂漠に戻るのか、ここは?」

「どうやら遺跡自体に何か力があったみたいだな。
それにしても、ド派手に壊れたな……」

『キュア』

キースの隣でサンダーも倒れた木々を見ている。
今ではその向こうの地平線も見えていた。

「って、待てよ。
俺ら日暮れまでには帰らなきゃならなかったはずだよな。」

「「「あっ!!」」」

キースのセリフに、見事三人の声が被った。

「今から戻ればまだ何とか間に合いそうだな。」

「レイヴン、そんな冷静なことを言ってる前に早く行かなきゃ!」

「おーい、ジーク!」

慌ただしく彼らはそれぞれのゾイドに戻る。

「あっ!」

「どうかしたか、リーゼ?」

ジェノブレイカーに向かっていたリーゼが急に声を上げた。
レイヴンは何事かと後ろのリーゼに振り向いた。

ドタッ、ドタバタバタバタッ…!!

「危ない、危ない。
うっかり見過ごすところだったよ。」

「盗賊が目を覚ましていたか……」

盛大な音がした少し遠くを見てみれば、男が7人、みっともない格好で折り重なって倒れていた。
リーゼが彼らの意識を飛ばしたせいだが……。
急だったのか、こんな光景になってしまった。

「あ、悪い。
用事あったのか?」

『キュ、キュア……』

「ああ。ハーマンに呼び出されたのさ。
じゃあまたあとでな。」

ラウトの後ろではやけに小さくなっているエクサがキースの方を見ていた。
だがそうこうしている間に辺りに砂煙が立つ。
3体のゾイドはあっという間に地平線のかなた向こうへ行ってしまった。

 

「……で、」

『キュイ!』

「絶対駄目という訳か?」

『キュア!』

『グウウゥゥゥ……』

五月蝿い、とリムラが唸る。
その近くで、意志強固そうに立つエクサと困った顔をしながら腕を組んでるラウトがいた。
ここはGFの基地の中……リムラが嫌悪する倉庫の中だ。

「……やっぱりな、予想はしてたけど。
別に何も起きなきゃこのまんまでよかったんだが……」

『キュ!!』

「…………話を付けてくるしかない訳か…」

思わず溜め息をつくラウト。
先の遺跡の一件で色々と話を聞き出され……は、別に問題ないのだが。

「永遠にどういう剣だか分からなさそうだな。」

『キュイ?』

頑固として剣を渡そうとしないエクサにラウトは毎度同じく振り回されているのである。
因みにDr.ディからの相談なので別段問題もないはずなのだが……
どうしてもエクサはこの剣のこととなると我を忘れかけるのだった。

「あの時みたいに襲われても困るしな……。
どうしようもねぇか。
エクサも来いよ。
ディじいさんに謝ってこねぇとな。」

『キュア♪』

ラウトが誘うと、エクサが喜んでついてきた…が。

『キュイ!?』

ドテッ

「……だから、何でこけるんだよ?」

どうやら連絡は遅くなりそうである。

「あっ、そうだリムラ。」

『グウゥ…?』

エクサを助け起こしながら、ラウトがリムラに話しかけた。
のだが、エクサはまた足をもつれさせてまた転んでいた。

『キュイィ……』

「しっかりしろって。
多分10日かそれくらいあとに帝国の方へ行くから、よろしくな。
あっ、リムラは昔、帝国にいたことがあるんだよな?」

『…グウゥゥ……?』

記憶…もとい、記録には残っていないという風にリムラは返事を返した。
実際、ラウトと共に行動してからは帝国の地に入ったことはない。
去っていくラウトとエクサに、赤いレドラーはまた意味のなさない小さな唸り声を上げていた。

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*アトガキモドキ*

さてさて前半を見てみると、
どうも恋愛やらギャグやらその手のものが上手く書けないなぁ、思いつかないなぁという感じです。
う〜ん、もう少し考えられるようにしておかないと……。
因みにラウトはこの手のフィールドが得意です(出身が森の中の田舎村)。
そういう訳か何なのかどうもラウトの出番が多かったような……
まあ、バンがどうやって戦うか思いつかなかったせいもあります。
やっぱりバンはゾイドで動き回ってもらわないと(考えられないだけだろ)。
それにしても今回は危険なことでも平気で顔突っ込むラウトの性格が……ι
しっかりはしているけど、大丈夫かこんなんで……
後半は……う〜ん、色々と不本意。
当初予定していた人物が出られなくなったのに、無理に同じストーリーを使った結果かなι
今回はエクサの都合に皆さんを振り回してしまいましたι
最近、本当に思いつかなくて……やばいかも。
さて、ずっと舞台が共和国だったので、今度は帝国にも行ってもらいたいなと思います。
……個人的には、そろそろエクサとシオンを会わせたいのですが、
まだ設定がどうなっているのか知らないので無理かな。
それよりいつまで続くんだ!?
時勢が順番になるので書きやすい為、短編でなくしばらくこのまま続きそうです。
それ以外はもう特に意味がないのですが(爆)
そんなこんなでこれからもよろしくお願いします(おぃ)


シヴナさんからいただきました。
遺跡に眠る謎、ますます深まっていく物語。
どうやらもう一騒動ありそうですね。
あと、キース、まさかこんなところでハリセンが出てくるとは・・・。
相手の意表をつくぐらいの効果ですけどね。
結局最後は格闘技に頼らざるを得ないんです。
もしくは銃で肩口や足を撃つぐらい。
キースはあまり人殺しは好かない方です。
それと、一応キースの故郷にも森がありましたが幼馴染5人で遊ぶぐらいでしたからね。
戦闘は苦手かも。
さて、これからがどうなるか・・・。
サーカスもまだまだ出てきそうですしね。
シヴナさん、どうもありがとうございました。

 

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