その翌日、ゾイドバトルのデモンストレーションが行われるとあって、
世間は朝から大騒ぎ。
マスコミもこれを競って取り上げていた。
「みなさん、新しい歴史の幕を開けるバトルがいよいよスタートします。
今回のバトルは武装制限を完全になくしたバトルロイヤル戦。
デモンストレーションと題して、6つのチームが広大なバトルフィールドを駆け巡ります。
果たして、栄冠はどこのチームに輝くのか?
10時からバトルスタートです!」
バトルフィールド近くでレポーターがこのように話している。
どこの街でも、どこの店や家でも、この放送に見入っていることだろう。
それだけゾイドバトルは人気が高い。
現在の時刻は9時半を回ったところ。
後30分もすれば、バトル開始の合図であるゴングが鳴る。
ホバーカーゴではブリッツの面々が最後の打ち合わせをしていた。
「バトルフィールドは50q四方ってところか。」
「だだっ広い荒野ね。」
ビットとリノンがそれぞれ感想を口にする。
「いいですか?
今回は今までのバトルとは訳が違います。
複数のゾイドと戦うことになり、激戦となるのは間違いありません。」
「心配するなって。
どんな相手だろうと、俺とライガーのコンビが蹴散らしてやるぜ!」
「腕が鳴るわね。」
「勝って賞金を頂く。
それだけだ。」
ジェミーが注意をしているのにも関わらず、
ビット達はこの有様。
まぁ、毎度のことなのだが・・・。
「ジェミーもレイノスで頑張ってくれよ。
相手は2機のストームソーダーだぜ。」
「分かってますよ。
上が片付いたら、そっちの援護に回りますから。」
もっとも、高性能ゾイド相手にそう簡単に行くはずもないが。
そのことは胸の中にしまっておいた。
「みんな、荷電粒子砲には十分注意してくれ。
では、健闘を祈る。」
トロスの言葉で会議は終了、
全員がゾイドのもとに向かった。
その頃、ラオンのホエールキングでは、
「ベガ、バーサークフューラーに乗るって本当なの?」
ピアスがベガにそんなことを尋ねていた。
「うん。
ビットとバトルをするんだから、こいつに乗らないと。
それにジェノブレイカーまで出てくるんだ。
セイバーじゃ追いつかないよ。」
頷きながらそう言う彼。
彼がラオン達のチームに加わった頃に、
危険だからという理由で自らフューラーの封印を申し出たベガ。
今、それを紐解こうとしている。
「張り切るのは結構だが、あまりやりすぎるなよ。
昨日、慌てて調整したから、本来の力を出せるとは限らん。
下手したら、フューラーの方がシステムフリーズを起こし兼ねんぞ。」
ラオンが注意を促す。
実はベガがバーサークフューラーに乗ると言ったのは昨日、
ビット達のところに顔を出す前である。
彼自身、ビットとのバトルが決まったときから、それを決めていたみたいだ。
「大丈夫だよ。
調整の方はフューラーがバトル中に何とかするだろうし。
それに、僕も確かめたいんだ。
自分がどこまで成長したのか、ビットにどれくらい近づいたのか、を。」
いやに大人びた発言に他のメンバーは苦笑いを隠しきれなかった。
「まぁ、私もベガに後れをとらないように頑張るよ。
しかし・・・、」
ストラがベガを見ながら一言。
「いったい、誰に感化されたんだろうな。
あのお気楽ぶりは。」
そう言った頃、その当人がホバーカーゴの中で大きなくしゃみをしたとか、しないとか。
そして、時刻は10時5分前となった。
マスコミもフィールド近くから撤退する。
「よし、みんな、発進だ!」
トロスのかけ声とともにホバーカーゴ上部のカタパルトが開く。
「リノン、行っきま〜す!」
「バラッド、シャドーフォックス、発進する!」
「レイノス、発進します!」
ガンスナイパー、シャドーフォックス、レイノスが滑るように発進する。
そして、
「ライガーゼロ、セッティングデッキに固定。」
ビットのライガーがホバーカーゴ内でパーツの換装。
「ライガー、インストレーション・システム・コール、イエーガー。」
ロボットアームがゼロの白いパーツを外し、
代わりに大型ブースターを搭載した青いパーツを取り付ける。
「ライガーゼロ・イエーガー、C.A.S、コンプリーテッド!」
「ゴー、イエーガー!」
カタパルトから颯爽と発進するイエーガー。
そのまま地面に着地し、仲間と合流する。
他のチームもフィールドに展開していた。
赤いブレードライガーと同じく赤いガンスナイパーが印象的なチーム・フリューゲル。
豪華な武装を施したダークホーン、ヘルディガンナー、ステルスバイパーのチーム・チャンプ。
3体の超高速ゾイド、ライトニングサイクスを駆るチーム・ライトニング。
エレファンダー・コマンダータイプ、バーサークフューラー、
コマンドウルフACに赤いストームソーダーで構成されたチーム・アウトローズ。
そして、ジェノブレイカー、セイバータイガーAT、
橙目のライトニングサイクス、ストームソーダーSTという機動力重視のチーム・バスターズ。
それぞれがバトルフィールドの隅に配置を完了していた。
「広大なフィールドにゾイドが出現しました。
今回は4体のジャッジマンによって監視される形となります。
まもなく、レディーファイトです!」
レポーターがそう言い終わると同時に、4つの落下音が響く。
ジャッジカプセルが投下されたのだ。
すると、
「ああ!
愛しのジャッジマン37号様〜!!」
そう叫んだのはベンジャミン。
実は彼女達の近くに落ちたジャッジマンは、
彼女が付き合っている(?)ジャッジマンだったのだ。
愛しの人が審判をするだけあって、ベンジャミンは大はしゃぎ。
「フィールド内、スキャン終了!
バトルフィールド、セットアップ!
バトルモード0980、サバイバルバトル、
レディー・・・、ファイト!!」
ゴングが鳴り、それぞれのチームが一斉スタート。
だが、まだ動き出さないチームが1つだけ。
バスターズだ。
「兄さん、発進しないのか?」
リッドが兄に質問をぶつける。
「まぁ、そう慌てるな。
あいつらがバトルフィールド中央に集まるまで待つんだ。」
「どういうことだ?」
今度はレイス。
「なぜジャッジマンを4体も、
しかも、フィールドの4隅に落としたと思う?
答は簡単さ。
バトルロイヤル戦というのは、相手チームをつぶしにかかろうとしない限り、
非常に高い確率で中央が激戦区となる。
よって、俺達はあいつらが中央に集まったところに、
それを囲む形で3方向から奇襲する。
あれだけ、チームがいるんだ。
1チームぐらい、いなくたって気が付かないだろう。」
「さすが、お兄ちゃん。
アッタマ、いい!」
「さて、シエラにはそろそろ発進してもらうぞ。
飛行ゾイドにこちらの動きを感づかれたらまずいからな。」
「了解よ。」
返事をすると、黒いストームソーダーが大空へと飛び立った。
「リッドとレイスはうまく後ろから回り込んでくれ。
俺はその間、奴らの気を引く。」
『了解。』
ライトニングサイクスとセイバータイガーが、
フィールド圏内ギリギリのところを走り出した。
「さて、俺達もそろそろ行こうか。
ジェノブレイカー。」
ケインの言葉に応えるかのように、魔装竜が咆吼する。
そして、足のブースターを起動させて、フィールド中央へと向かった。
そうとは露知らず、ビット達は戦闘を始めていた。
「うりゃ、うりゃ、うりゃ、うりゃー!!」
リノンのガンスナイパーが弾を乱射する。
だが、それは外れてしまった。
それもそのはず、彼らの最初の相手は・・・、
「いきなりライトニングか。
イエーガーでよかったぜ。」
ビットがバラッドと共にサイクスの後を追走しながらそう漏らす。
ライトニングは縦一直線に並んで走っている。
彼らが得意なドラフティングだ。
だが、彼らの相手はそれだけではない。
突然、イエーガーのすぐ側に弾が飛来した。
「何だ、いったい?」
「ビット、貴様に勝って、今度こそリノンはもらう!」
この科白はもちろんハリーのもの。
「不意打ちとはやってくれるじゃねぇか!」
ビットはイオンブースターを作動させて、ダークホーンに向かって突進した。
フォックスはそのままサイクスを追っている。
ちなみにリノンはもうチャンプの方に標準を合わせていた。
「ウィーゼルユニット・フルバースト!」
ガンスナイパーが一斉に弾という弾を撃つ。
それはヘルディガンナーとステルスバイパーに見事ヒット。
「いや〜ん、ジャッジマン様〜!」
「そんなぁ〜。」
そして、
「ストライクレーザークロー!!!」
イエーガーの光の爪がダークホーンの右足をとらえた。
ダークホーンやゴルドスのような機動力の低い4つ足のゾイドは、
体のバランスを4本の足すべてで支えているため、足がウィークポイントとなっている。
ビットはそこに目を付けたのだ。
「そんなぁ〜、もう終わりだなんて〜。」
「チーム・チャンプ、リタイア!」
無情にもジャッジマンがチャンプのリタイアを勧告。
早くも1チームが消えた。
ハリーは折角装備したE.シールドを使えなくて残念そう。
やはり、それなりのチームはそれなりに終わるものだ。
そして、彼らと入れ替わるかのように入ってきたチームがいた。
チーム・フリューゲルだ。
「は〜い、バラッド。
調子はどう?」
「これがいいように見えるか!?
忙しいときに話しかけてくるなよ。」
話しかけてきたナオミにバラッドは渋い顔。
今、彼はライトニングサイクスにレーザーバルカンを当てようと必死になっていた。
だが、ライトニングのコンビネーションプレーは完璧で簡単に弾をすり抜ける。
その時、サイクスが1体、その輪から抜け出し、フリューゲルの方に向かって加速した。
タスカー姉妹の姉、ケリーの機体である。
「ナオミ、来るぞ!」
レオンの声でその事に気づくと、彼女はサイクスに向かってマシンガンを連射する。
だか、サイクスお得意の高速平行移動で、弾は残像をすり抜けるばかり。
突進を避けるために横に飛ぶが、脇を通る際に発生する風に捕まってしまう。
「くっ!」
ナオミはとっさに背中のバーニアを点火して何とか体勢を立て直した。
「よく持ちこたえたわね。
さすがはナオミ・フリューゲル。」
「そちらこそ!」
互いに賞賛の言葉を掛け合う2人。
そして、ナオミはアンカークローで足を固定した。
彼女お得意の射撃だ。
「マシンガンは避けたようだけど、こっちはどう!」
ケリーのサイクスに向かってスナイパーライフルを発射しようとする彼女。
だが、彼女は気づいていなかった。
ケリーの妹、クリスのサイクスが後ろに近づいていることに。
「このときを待ってたのよ。
バイバイ、赤き閃光。」
そう言って、標準をガンスナイパーに合わせる。
すると、突然視界を黒い煙が覆い、標準ロックを解除されてしまう。
「な、何!?」
「ナオミをやらせる訳にはいかないんでね。」
バラッドのシャドーフォックスがスモークデスチャージャーを使ったのだ。
奇しくも彼女はロイヤルカップと同じ術中にはまってしまう。
その時、煙の間から赤い機体が飛び出した。
レオンのブレードライガーだ。
すかさずブレードでサイクスの砲塔を切り捨てた。
「クリス!!」
姉の叫びも空しく、クリスの機体は崩れ、
ブレードライガーが咆吼をあげる。
その姉も突然の砲撃に倒れた。
「何だ!?」
砲撃した先を見ると、そこにはバーサークフューラーが。
そして、その後ろにはエレファンダーとコマンドウルフACの姿も。
「やっときたな、ベガ、ストラ!」
「やっぱりビットは凄いや。
もうこんなに倒してるんだもん。」
「やはり、Sクラスウォーリアーは違うな。」
「俺のことは無視かよ・・・。」
ビットの言葉に三者三様の返事をするアウトローズ。
そして、
「いくぜ、ライガー!!」
「フューラー、行くよ!」
ロイヤルカップ決勝のカードが今、実現する。
その頃、その上空では、
「随分、腕を上げたようね、荒鷲さん。」
「そっちこそ。」
既に荒鷲モードになっているジェミーとピアスが劇的な空中戦闘を繰り広げていた。
レイノスのレーザーをかわしながら、ストームソーダーがソードで斬り付けようとする。
だが、それも外れてしまう。
2人ともこの1年でかなりの腕前になっていた。
そして、ここにもう1人、バトルに参戦している飛行ゾイド乗りがいた。
「派手にやってるわね。
私も混ぜてもらうわよ!」
その声が届くと同時に黒い機体が彼らのすぐ側を通り抜けた。
「あれはバスターズの・・・。
ステルスで接近に気づかなかったわ。」
「SSSか。
相手にとって不足はない!!」
ジェミーだけはやる気満々であった。
この人はただ強い相手と戦いたいだけだったりする。
彼はSSSの後ろに付くと、レーザーを一斉掃射。
だが、相手の機動力は並外れていて、下降されて避けられる。
彼女は素早く反転し、下からソードで一気に斬り付けようとするが、
彼も荒鷲と呼ばれる男、そう簡単にはやられなかった。
とっさの機転で機体を上昇させる要領で180°反転させ、ソードをうまく避けた。
「なかなかやるな。」
「そっちこそ結構な腕ね。
いつもだったら今ので決まってたんだけどな〜。」
そう言うシエラもなんだか嬉しそう。
そして、次はピアスのソーダーにマシンガンを放つ。
「こっちもそう簡単にやられないわよ!」
うまく機体を捻らせて弾を避けるピアス。
大空での戦いはますますヒートアップした。
そして、地上では戦いが激しくなっていた。
ライガーゼロ・イエーガー、ライトニングサイクス、バーサークフューラーが横一列に並んで走っている。
そのスピードは既に320q/hを超えていた。
フューラーのビームを避けながら、サイクスとイエーガーがぶつかり合う。
激突する度に散る火花が激しさを物語っていた。
「流石に高速戦闘は体にきついぜ。」
「だが、こうじゃないと面白くない!」
「その通り!」
先ほどから円を描いて走り回っている3体。
だが、円と言ってもその半径は5qとかなり巨大な物である。
そして、その中央ではエレファンダーとブレードライガー、リノンのガンスナイパーが競り合っていた。
エレファンダーが鼻先のサーベルを振り回し、ブレードライガーを近付けなくしている。
レオンも距離をとって砲撃戦を仕掛けるが、シールドに弾かれてしまう。
リノンもこれと同じ結果に終わっていた。
ストラの判断スピードが一級品である証だ。
だが、そのストラもライガーのシールドと、
ガンスナイパーのパーツをゴチャ付けしている物とは思えない俊敏性に苦汁を飲んでいた。
「なかなかやるな。
さすがは名機ブレードライガーといったところか。」
「そっちこそ、デカいくせに大した反応だ。
シュナイダーを破っただけはあるな。」
男同士が互いを誉め合う。
ちなみにリノンは弾を撃ち尽くしたので、ホバーカーゴに補給しに戻っていた。
一方、バラッドはサンダース、ナオミと交戦中。
「ストライクレーザークロー!」
シャドーフォックスが光の爪でコマンドウルフを捕らえようとする。
だが、それはコマンドウルフらしからぬ動きで避けた。
「何なの、あのウルフは?
まるで動きが違うわ。」
「全くだ。
まっ、だいたい見当はついてるがな。」
確かにそれはコマンドウルフとは言えなかった。
俊敏性はフォックスに引けを取らず、砲撃力は違わないものの、
格闘能力が並外れていて、バイトファングで岩を噛み砕いてしまう程だ。
「見たか、私が改造したコマンドウルフを。
運動性能を強化し、牙と顎の力もゴジュラス並に強化した。
名付けて、『コマンドウルフ・ザ・グレネード』だ!」
ラオンが通信回線を開いて、大々的に自慢をする。
相変わらずのネーミングセンスのなさに全員が呆れていた。
そして、それは結果的に油断を誘ってしまうこととなる。
突然、それぞれのバトルに砲弾という名の水が差された。
それに全員が驚いて動きを止めてしまう。
「何だ、いったい!」
ビットが慌ててあたりを見渡す。
すると、視界に黒い影が飛び込んできた。
「ジャック・シスコ、いつぞやの勝負をつけてやるぜ!」
「レイス・クリスナー!」
その影はレイスのライトニングサイクスであった。
まるでジャックを誘うかのように橙色の目で睨み付けている。
「しょうがないな。
相手してやるよ!」
声が発せられるのと、サイクスが走り出すのはほぼ同時。
ついてこいと言わんばかりにレイスも走り出した。
彼らがその場から見えなくなるまで10秒もかかっていない。
もうトップスピードにはいっているのだ。
「あいつがいるって事は・・・。」
ビットが遙か彼方のエレファンダー達のいる地点を見据える。
そこには紅い機体がそれらと対峙してい光景があった。
「間違いない、ジェノブレイカー・・・、ケインだ!」
「ビット、よく見えるね・・・。」
5q先のゾイドを肉眼で確認するビット。
ベガの声にはそんな彼に対する感心と驚きが入り交じっていた。
「ビット、どうするの?」
「決まってんだろ。
まずはゲームの借りを返してからだ!」
「そうこなくっちゃ!」
ベガがフューラーを発進させようとする。
すると、ビットが突然大声を出した。
「あっ、そうだ!
ベガ、悪いけど先に行っててくれないか。」
「どうしたの?」
「シュナイダーに換装しないと。
荷電粒子砲を食らったらまずい。」
そう言って、ビットはホバーカーゴの方に戻っていった。
ベガはそのままエレファンダーのヘルプに向かった。
そして、バラッド達のところにはリッドのセイバーが。
辺りには爆発で舞い上がった土埃がまだ漂っている。
「また派手にやってくれたな。」
「本当に。
おかげで大事な愛機が誇りだらけよ。」
バラッドとナオミがそれぞれ愚痴をこぼす。
ちなみにサンダースは先程の攻撃でとっくにフリーズしていた。
「これぐらいやらないと、気付いてもらえそうに無かったんでね。」
至って冷静な声でリッドが返す。
そして、それっきり会話はなくなり、
荒野を駆ける風の音だけがその場に響いていた。