そして、翌日・・・。
ホバーカーゴが一路、指定されたフィールドへと向かっていた。
「今回の相手は、ディバイソンとカノントータスが2機と砲撃力に特価したチームです。
皆さん、間合いの取り過ぎには注意して下さい。」
ジェミーがゾイドのコックピットに乗っているメンバーに軽く注意を促す。
「任せておけって。」
「砲撃力勝負なら、負けないわよ!」
「接近戦に持ち込めればなんてことない。
作戦通りにうまくいくさ。」
ビット、リノン、バラッドの順に自信満々に言う。
まぁ、ここで自信を無くしてたら、勝てる勝負も勝てないが。
「作戦通り、リノンさんが弾幕を張り、
敵がこちらを見失った隙に、
ビットさんとバラッドさんが接近戦で敵を叩いて下さい。
ディバイソンの突進に気を付ければ、後は楽なはずです。」
「リノン、頼むから俺達には当てるなよ。」
「そうそう。
同士討ちじゃ、格好悪すぎだぜ。」
「そっちこそ、当たらないように注意してよ。」
「無茶言うな」、ビットとバラッドの頭にそんな考えが過ぎった。
どこの世界に、後ろの味方を気にしながら戦うチームがいるんだか・・・。
でも、あえて口には出さない。
後が怖いから・・・。
そう言っている間に指定ポイントに到着。
「みんな、発進だ!」
どっかのアニメの隊長のように、前方を指さし、そう叫ぶトロス。
それと同時に、ホバーカーゴの前方のボックスが開き、
リノンの重武装ガンスナイパーが姿を現した。
「リノン、ガンスナイパー、行くわよ〜!」
ジャンプをして発進するガンスナイパー。
それが済んだ後、今度は上部カタパルトが展開し、
バラッドのシャドーフォックスが現れた。
「バラッド、シャドーフォックス、発進する!」
滑るように発進するフォックス。
ガンスナイパーの隣に着地した。
そして、最後はリーダーのビットの白いライガー。
「ビット、ライガーゼロ、発進!」
カタパルトを飛び出し、仲間のゾイドの間に見事に滑り込む。
「よし、いっちょ、派手に行くぜ!」
手と拳をパンと合わせ、意気込み十分に話すビット。
それに応えるように、ライガーが一声あげた。
相手はすぐ目の前にいる。
「E−53、Y−27ポイント、バトルモード0983でゾイドバトルを承認。
ジャッジカプセル、投下!」
バトルフィールドの遙か上空、
衛生軌道上に浮かぶジャッジサテライトから、ジャッジカプセルが投下、
そのまま地面に打ち込まれた。
「この地点より、半径10q以内はゾイドバトルのバトルフィールドとなります。
競技者、及びその関係者以外は立入禁止です。
危険なので直ちに退去して下さい。」
カプセルが開き、ジャッジマンが周りに注意を促す。
その頃、バトルフィールド圏外に設置された取材席では、
「先輩、弟さんの試合、そろそろ始まりますよ。」
「そうね、カメラの準備、準備!!」
愛する弟の試合で張り切っているジュジュと、
栗色の髪を三つ編みにし、丸い眼鏡をかけた女の子が取材の準備をしていた。
彼女はジュジュの助手をしているアリス・ウォーカーという女性。
ここは高台に設置されているので、ゾイドバトルの被害を受けにくい。
取材にはもってこいなのだ。
ちなみにここにいるのは彼女達だけではない。
「もぅ、カイルさん!
早くしないと、バトル、始まっちゃいますよ!!」
「ち、ちょっと待ってくれよ・・・。
そんなに急かさなくたって・・・。」
情けない声を出しながら、
金髪碧眼の背の高い男がジュースを1ケース持って、彼女達の方に来た。
彼はジュジュの同僚でカイル・ランスロー。
実は、アリスにパシリに出されていた。
しかも、ジュース代は全部彼が出している。
「人使い荒いんだから・・・。」
「男なんだから弱音を吐かない。
先輩に嫌われますよ。」
アリスがそう言った瞬間、情けない表情から急に引き締まった顔になる。
実は、彼はジュジュに惚れているのだ。
これは、せめて好きな人の前では格好良く見せようという、
惚れた男の性なのである・・・。
「ジュジュ、君のために頑張ったよ。
何たって、ここから街まで5qもあったんだから・・・。
徒歩じゃきつかったよ・・・。
でも、君のためを思い、こうしてジュースを買ってきたんだ。
さぁ、私の愛と共に・・・。」
「アリス、カイル、バトルが始まるわ。
早く準備して!」
彼の言葉は無情にも惚れている彼女自身に掻き消されてしまった。
どうも、彼女は恋愛には疎いようだ。
「は〜い!」
「・・・はい・・・。」
アリスは元気よく、カイルは意気消沈に声をあげた。
「フィールド内、スキャン終了!
バトルフィールド、セットアップ!
チーム・ブリッツVSチーム・ファイターズ、
バトルモード0983、レディー・・・、」
ジャッジマンがバトルの開始を宣言しようとしたその時、
ヒューーー・・・、ドゴーン!!
「どわあぁぁぁ!!」
突然、黒い物体がジャッジカプセルごと、ジャッジマンを潰す。
その直後、黒いジャッジカプセルが地面に打ち込まれた。
「あ、あれは!」
「まさか・・・、そんな!」
「そのまさかの様だな・・・。」
あっさり言うバラッドだったが、その顔には緊張感が浮かんでいる。
『このバトルは、デッドスコルピオ団が譲り受ける!』
両チームのちょうど間に黒いホエールキングが着地し、
その口が静かに開く。
そして、3体のレブラプターが姿を現した。
「デッドスコルピオ団、だと?」
「そうだ。
我々はバックドラフト団の意志を受け継ぎ、
闇バトルを取り仕切る闇組織、デッドスコルピオ団のチーム・シドだ。
チーム・ブリッツ並びにチーム・ファイターズにゾイドバトルを申し込む。
受けてくれるな?」
ホエールキングのスピーカーから、シドの声が響きわたる。
しばらく沈黙が続いたが、口を開いたのはチーム・ファイターズの方。
「断る。
俺達は正式なゾイドバトルしか受けないことにしている。
闇バトルなんかに興味はない!」
ファイターズのリーダーらしき人物がそう言いきった。
そして、相手の反応は・・・、
「そうか、それは残念だな。
では、大人しく観戦していてもらおう。」
シドがパチンと指を鳴らす。
すると、どこからともなく砲撃が起こった。
彼等の目の前にいるレブラプターではない。
敵を探す間もなく、彼等のゾイドは戦闘不能に陥った。
「博士・・・。」
「否応無しか・・・。」
モニターから発信される映像を見て、トロスが呟く。
ジェミーは博士の判断をあおるように、情けない目で彼を見ていた。
「その通りだ。
そのかわり、我々に勝てば賞金は通常の3倍は出る。
受けてみて損はないと思うが?」
「3倍の賞金か・・・。
悪くないかも・・・。」
『賞金に釣られるな〜〜〜!!』
“3倍の賞金”と聞いた瞬間、神妙な顔から一転、
強欲な面構えになり、バトルを受けると言い出す始末。
思わず声を重ねて突っ込むジェミーとリノン。
すると、バラッドは、
「3倍の賞金というのが気に入った!
この勝負、受けてたつ!」
守銭奴ぶりを発揮し、ゾイドギアをセットしてしまった。
そして、
「俺もいいぜ!
デッドスコルピオだか何だか知らないけど、
俺達のバトルを台無しにした罪は重いぜ!!」
彼もゾイドギアをセット。
このまま勝負から逃げるのは、ゾイドウォーリアーとしてのプライドが許さなかった。
リノンはバラッドに呆れながらも、ビットの意見に賛成する形で渋々了承。
ゾイドギアをセットした。
その頃、外野では・・・、
「先輩〜、何かとんでもないことになっちゃってますよ〜!」
「俺達・・・、逃げた方がいいんじゃ・・・。」
バトルジャックが起こり、凄く弱気なアリスとカイル。
それに引き替え・・・、
「バカ言わないで!
ビット達だって戦ってるのよ。
私達だけ逃げるわけには行かないわ。」
凄く強気なジュジュ。
彼女はゾイドを悪用する輩が大嫌いなので、
こうして記事にして戦おうとしているのだ。
「一応聞いておきますけど・・・、
いったい、どうやって取材をするんですか?」
「決まってるでしょ。
強攻策あるのみ!!
行くわよ、ヘル!!」
そう言うと彼女は、隣に止めてあった灰色のヘルキャットに乗り込み、
一目散にフィールドへと駆け出していった。
「ジュ、ジュジュ!!
こうなったら、俺も行くぞ〜!!」
カイルはその姿を見て、彼女の後を追おうとする。
だが、アリスに腰の辺りを両手で捕まれて抑えられてしまった。
「ダ〜メ〜で〜す〜!
カイルさんはゾイド、持ってないでしょう〜!
確実に死んじゃいますよ〜!!」
惚れた男の性・・・、ここまで強烈であろうか?
2人はそのまま5分間、そのやり取りを続けていたとか・・・。
ちなみに彼女がカイルを止めた理由は・・・、
“おごる人がいなくなる”だそうだ。
「バトルフィールド、セットアップ!
チーム・シドVSチーム・ブリッツ!
バトルモード、ナァシ!!
レディー・・・、FIGHT!」
ダークジャッジマンのゴングが鳴り、
レブラプターとブリッツのゾイド達が動き始めた。
「よし、いくぜ、ライガー!!」
「ビットとリノンはレブラプターを、
俺は光学迷彩で隠れた奴らを叩く!!」
「了解!」
フォックスが輪の中から離れ、明後日の方向へと走り出す。
彼の機体には、光学迷彩を見破る“マルチイヤーセンサー”があるので、
こういう場合にはもってこいなのだ。
センサーのサーチ結果で敵の場所を見つけだすと、
フォックスはガトリングレーザーをまとまっている場所に放った。
光学迷彩を張って、見つからないと高を括っていたのだろう。
2,3体のヘルキャットがレーザーガンの餌食となり、光学迷彩が解けた。
「数体、取り逃がしたか。
だが、こいつからは丸見えだぜ。」
さらに反応のある場所に愛機を走らせた。
一方、ビット達は・・・、
「ウィーゼルユニット・フルバースト!」
ガンスナイパーの全武装を発射するリノン。
やたらと撃ちまくった甲斐もあり、レブラプターを1体倒した。
「ビットさん、相手の期待は殆どが無人機です。
遠慮しないでやっちゃって下さい!」
「言われなくたって、そうする!」
ジェミーのアドバイスを耳にしながら、ライガーを走らせる。
その先にはライガーに砲撃をするレブラプターの姿があった。
弾を器用に避けながら、どんどんと接近をしていく。
すると、相手は砲撃戦を諦め、
背中の鎌を展開して、ライガーに突っ込んできた。
「やっぱり、そう来ると思ったぜ!」
その行動を読んでいたビット。
ライガーは鎌に当たる一歩手前でジャンプをし、レブラプターを飛び越える。
そして、着地と同時に身体を反転させ、2連ショックカノンを発射。
最高速で突っ込んでいったレブラプターは曲がることが出来ない。
当然、攻撃を避けることも出来ず、着弾と同時に崩れ落ちた。
「くそっ!
ビスト、そっちはどうなってる?」
最後のレブラプターに乗っている紫色の男が通信機に向かって叫ぶ。
だが、
「こっちもあと1体しかいない!
シャドーフォックスの性能は予想以上だ!!」
聞こえてきたのは、苦しい状況を知らせる仲間の声であった。
今おかれた状態に苛立ちを隠しきれない彼等。
すると、
『ビスト、オスカー、私のセイバーの周りに集合しろ。
フォーメーションγを使う。』
『了解!』
シドの声に返事をすると、
レブラプターとガトリング付のヘルキャットは、
それぞれ光学迷彩を作動させ、ホエールキングの前へと走り去った