「次のバトルはどこ?」

「ちょっと待って下さい・・・。」

移動中の車の中で手帳をめくるアリス。
その中に今週いっぱいのバトルの日程が書かれている。
1週間分と言っても、彼女達が取材しているときにも別の場所で行われているのだから、
その数は軽く80は行くであろう。
込み合っているときには3桁を超えることもある。

「次はライトニングさんと・・・、バスターズさんです。」

「じゃあケインの所ね。
ジェノの写真、取りまくるわよ!
さて、どっちが勝つからしら?」

「私はバスターズの方ですね。
やっぱりジェノブレイカーの戦力は圧倒的ですから。
それにケインさんは“Sクラスに一番近い男”って言われてますし。
そういえば、この間のバトルロイヤルでは戦ってませんでしたよね。」

バトルロイヤルではタスカー姉妹はバスターズが来る前にリタイヤ、
リーダーのジャックはバスターズのメンバーの1人であるレイスと戦って勝っている。
だが、ケインやリッドと直接バトルをしていないので、勝敗はまだ分からない。

「僕はライトニングの方だな。
チームワークで勝ち進んできてる3人だし、Sクラス入りもそろそろのはずだからね。」

「じゃあ、バスターズが買ったらお昼ご飯を奢ると言うことで・・・。」

目つきが怪しい彼女にカイルは引き気味・・・。
それでも運転できているのはさすがである。

「な、なんで、私が・・・。」

うわずった声の彼を、悪魔の囁きは逃してくれそうになかった。

「あれ〜、自分の予想に自信がないんですか〜?
そんなんだと、先輩はどんどん遠退いていきますね〜。」

最後の方を極小さな声で言った後、「ねぇ、先輩」とジュジュに振る。
さすがのカイルもこれには勝てず、渋々了承したとか・・・。
当のジュジュと言えば、外の景色を見ながらなので、昼食の話しか聞いてない・・・。

 

今回のバトルフィールドは砂漠。
辺りは砂と岩しかない。
それらも照りつける太陽光で相当の熱を持っており、揺らめく陽炎がそれを物語っている。

「・・・熱いですね・・・。
流石、砂漠です・・・。」

「ゾイドの中は・・・涼しいんだろうな〜・・・。」

「私もヘルを連れてくれば良かったかなぁ・・・。」

後悔先に立たずとはよく言ったもの。
今日はすぐ済むだろうからとヘルを会社に置いてきてしまったのだ。
今度は絶対、何がなんでもヘルを連れてこようと心に決めたジュジュであった。

 

『バトルフィールド、セットアップ!
チーム・バスターズVSチーム・ライトニング、
バトルモード0983、レディー・・・FIGHT!』

ゴングが鳴った途端、ライトニングは1列になって走り出した。

「ドラフティングで一気に片を付けるぞ。」

「了解。」

「O.K.」

それぞれが返事をしてバスターズのゾイドに一直線。
彼等が得意とするドラフティング。
以前ブリッツのリーダー、ビットもこれで初の敗北を期したことがある。

「予想通りだな。
リッド、レイス、俺達も行くぞ!」

「了解!」

「言われなくとも・・・。」

リッドだけが気の抜けた返事をすると、
ジェノブレイカーだけが相手に向かい、その他の2機は回り込むように走り出した。

「よっしゃ、ノリノリでいくぜ!」

急激な方向転換で砂煙を巻き上げながら、
レイスは先頭にいるジャックのサイクスに向かって走り出す。

ズガーン!

それ程距離がなかったため、ジャックは体当たりを避けることが出来ず、列からはみ出てしまった。

「なに!」

「悪いな。
俺はお前に借りがあるから、この手で仕留めたいんだよ。」

こうしてバトルロイヤルでの組み合わせが再び行われることとなった。
そして、残ったタスカー姉妹は、

「ドラフティングは後方の機体が前に抜けないと、先頭のサイクスは加速できない。
だったら先頭から叩けばいい。
喰らえ!!」

説明じみた口調のリッド。
ご自慢のセイバーの重武装で砲撃を仕掛けていた。
最近、ガトリングガンを搭載したとか・・・。

ドドドドドド・・・

「くっ!」

「あっ、クリス!」

リッドの砲撃を何とかかわすものの、ものの見事に弾幕が張られ、
互いを見失ったサイクスは、そのまま離ればなれに。
立ち止まってしまったケリーに、煙の中から巨大なハサミが迫ってきた。

ブォン!

「ちっ!」

サイクスお得意の高速平行移動で巨大バサミ−エクスブレイカーは空をつかんだ。
周りに注意を張っていたためと、ただの砂煙のため計器が反応したためだ。
そして、煙が落ち着き、魔装竜の顔を拝む。

「流石に反応はいいな。」

「だてにサイクスには乗ってないわよ。
今度はこっちの番だわ。」

ブレイカーに向かってレーザーを打ち込む。

ズキューン、ズキューン!

だがケインもただでやられる訳にいかず、E.シールドを展開してそれを弾いた。
これにはケリーの顔にも悔しさと反応の良さに対する敬意が出ている。
ケインはフッと笑みを浮かべると、そのままの状態でブースターを稼働し、彼女達に向かい飛んだ。
意表をつかれたケリーはかわしきれず、サイクスは後ろ足に強烈な体当たりを喰らった。

ズガーン!・・・ズササササ・・・

衝撃に耐えられなかった機体は前足を軸に180度回転。
その僅かの隙にケインは空中からミサイルを放ってこれを仕留めた。

ドゴーン!

「きゃっ!」

ケリー・タスカー、無念のリタイヤである。
そして、その妹は・・・。

ヒュン、ズガーン

「見つけた!」

リッドのセイバーに向かってクリスのサイクスが走り込む。
また弾幕を張って姿を眩ましていたが、先程の砲撃でその居場所が分かったのだ。
加速に任して煙の向こうに爪を伸ばす。

ガッシャーン

「ちっ!」

サイクスの爪はガトリング砲を吹っ飛ばした。
軽く舌打ちをすると、現れた相手に向かって一斉砲撃。
だが、彼女もAクラスウォーリアー。
そんな簡単にはやられなかった。

「甘いわね。」

高速平行移動で避け、レーザーを打ち込む。
改造マニアだけあって装甲も強化しているが、これは流石にきつかった。
だが動じる様子もなく、彼は座席横のボタンを押した。

「甘い物好きだからね・・・。
でも、もういいや。」

ガッシャーン、ガラガラガラ・・・

セイバーの全武装が外れ、音を立ててその場に落ちた。
身軽になったセイバーはブルブルと身震いをし、思いっきり遠吠えをする。
そして次の瞬間、セイバータイガーとは思えないスピードでサイクスに襲いかかった。

「えっ!」

とっさの出来事だったので避けられず、セイバーの鋭い牙がサイクスの砲塔を食いちぎった。
リッドが格闘戦をするのはかなり珍しい。
実のところ、あまり得意とはしていない様子だ。
しかし、セイバーの改造に加え、リッドの才能とも言うべき力があの一撃を繰り出したのだ。

「まだまだだね。」

勝ち誇った顔でそう言うリッドだった。
そして、因縁の対決の方は・・・。

ガシャーン、ガシャーン、ガシャーン・・・

高速状態のまま互いに体当たりを加え続けている2人。
その激しさのため、ぶつかる度に火花が散っている。

「一段と腕を上げたみたいだな。」

「そう毎度毎度、負けてられないって。」

やがて体力が限界に近付いてきたのか、
2人は反対方向に向かい始める。
決着を付ける合図だ。
一定の距離になった瞬間、急激に反転し、先程と別の行動をする。
そして、ぶつかる手前で跳び、互いにストライククローを浴びせる。
まるで、バトルロイヤルの再現のようだ。

ガッシャーン!

その場に倒れ込む2体のライトニングサイクス。
少しした後、双方とも何とか起きあがった。
以前はレイスが足をやられたが、今回は違った。

「なっ、足が!」

ジャックのサイクスはなんと後ろ足から火花を散らしていた。
レイスは少しだけタイミングを遅らせ、最初から後ろ足を狙っていたのだ。

「悪いな。
これ以上負けると、兄貴に申し訳が立たなくって。」

そう言って標準を合わせるレイス。
だが、彼が打つ前にジャックのサイクスから煙が上がった。

ズガーン!

「へっ!」

よくよく見てみると・・・、なんとリッドのセイバーが。
流石のセイバーも腹部にある3連衝撃砲はそのままだったのだ。

『ウィナー、チーム・バスターズ!』

レイスが呆気にとられている間に、無情にも勝ち名乗りが上がった。

「おい、リッド!
俺のポイント、俺の決着、全部持って行くなよーーー!!」

「とっととトドメを刺さない方が悪い・・・。
お前もまだまだだね。」

「酷い奴・・・。」

彼がこの兄弟にポイントを持って行かれるのは今に始まったことではない。
今回、ケインはレイスの決着を考え、控えていたが・・・。
こうして、レイスが怒鳴りっぱなしのまま、バトルは幕を閉じた。

 

「リッド、えぐいわね・・・。」

「あ〜あ、なんか意地汚いですよね〜。
根性腐ってると言うか、何というか・・・。」

「アリス、言い過ぎだって」と思ったカイルだったが口に出すのは止めておいた。
倍返しを喰らいそうだからだ。
何故かリッドとアリスは仲が悪い。
どうも、相手と自分が重ねられるのが嫌な様子。
どっちも似たようなタイプだと思うのだが・・・。

「でも、今回はリッドの格闘戦が見られて良かったわ。
結構貴重よ、この写真。」

「・・・まぁ、いいですけど。
さてと、お昼ご飯でも食べに行きましょうか。
カイルさんの奢りで。」

「・・・はい。」

今の今まですっかり賭けのことを忘れていた彼。
この後、ジュジュが「ケイン達も誘おう」と言いだし、2重のショックを受けることとなった。
何故、ケイン達が誘われたのか?
それは、ジュジュが騒ぎすぎて、ケインに場所が分かり、この数分後に現れたからである・・・。

 

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